イヌシカクイ Eleocharis wichurae  Boeck.   form.teres  Ohwi カヤツリグサ科 ハリイ属
湿生植物
Fig.1 (西宮市・水田の畦 2007.7/1)

日当たりのよい湿地や水田の畦、休耕田などに生育する多年草。
シカクイに似るが、茎は円柱形で明瞭な稜は持たない。匍匐枝はほとんど生じない。
鱗片は鈍頭〜やや鋭頭で、シカクイよりやや幅が広く、痩果の刺針状花被片はシカクイよりも短い。
画像の小穂基部から生じているのは苞葉ではなく、芽生したクローン株。
近似種 : シカクイマシカクイミツカドシカクイイヌシカクイ×オオハリイハリイオオハリイエゾハリイヤリハリイセイタカハリイクログワイ

■分布:本州、九州、沖縄
■生育環境:日当たりのよい湿地、水田の畦、休耕田など。
■花期:7〜9月
■西宮市内での分布:中部の湿地、北部の水田周辺で見られる。

Fig.2 全草標本。(西宮市・池畔の湿地 2009.7/14)
  植物体は叢生する。匍匐枝は見られないが、ごく稀に匍匐枝らしきものも見かける。

Fig.3 基部。(西宮市・池畔の湿地 2009.7/14)
  花茎基部は葉身のない膜質の鞘に包まれる。鞘は2段になっていることが多く、下部の鞘は短い。
  基部の色は濃茶褐色〜淡褐色。画像のものは最下部が黒味を帯びているが、これは土壌の影響により着色していると思われる。

Fig.4 茎断面。(西宮市・貧栄養な湿地 2009.7/14)
  茎は細く円柱形で、断面は円形〜楕円形。肋に近いものはあるが、明瞭な稜角はない。

Fig.5 Fig.1 の花序部分の拡大。(西宮市・水田の畦 2007.7/1)

Fig.6 果実期の小穂。(西宮市・水田の畦 2007.10/14)
  鱗片はやや鋭頭であることが多い。

Fig.7 イヌシカクイの痩果。(西宮市・水田の畦 2007.10/14)
  柱基は痩果と同長かやや長く、幅は1/2〜4/5。

Fig.8 不定芽を生じたイヌシカクイ。(西宮市・水田の畦 2007.10/14)
  シカクイよりも不定芽を生じる傾向が高いように思われる。

Fig.9 イヌシカクイ(上)とシカクイ(下)の小穂比較。(兵庫県篠山市・休耕田 2009.7/31)
  シカクイのほうが若干長くなるものが多い傾向が見られる。

Fig.10 シカクイ(左)とイヌシカクイ(右)の痩果比較。(兵庫県篠山市・休耕田 2009.7/31)
  刺針状花被片は明らかにシカクイのほうが長い。また痩果の形はシカクイでは広倒卵形だが、イヌシカクイでは円形に近い。

西宮市内での生育環境と生態
Fig.11 溜池直下にある湿田の、水路に浸かってしまいそうな低い畦で、シカクイと混生して見られた。(西宮市・水田の畦 2007.7/1)
水路内にはヒツジグサが、水路周辺や畦にはオオミズゴケ、モウセンゴケ、ミズギボウシ、ヌマトラノオ、ゴウソ、タチスゲ、ヤチカワズスゲ、
アブラガヤ、ショウジョウバカマ、チゴザサ、キセルアザミ、イボクサ、ノミノフスマ、コケオトギリなどの多種多様な湿生植物が見られる。
この水路では、春季にはカスミサンショウウオの卵塊も確認できた。

他地域での生育環境と生態
Fig.12 溜池畔に群生するイヌシカクイ。(兵庫県三田市市・溜池畔 2011.8/15)
砂防ダムによって堰き止められた溜池畔に、湧水による湿地が成立しており、イヌシカクイの群生が見られた。
湿地には他にヒメシロネとイヌヌノハナヒゲが顕著な群落をつくり、コマツカサススキ、アブラガヤ、ゴウソ、タチスゲ、オタルスゲ、
コアゼガヤツリ、イグサ、アオコウガイゼキショウ、ヒメカリマタガヤ、モウセンゴケなどが生育していた。

【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。)
小山鐡夫, 2004 カヤツリグサ科ハリイ属. 北村四郎・村田源・小山鐡夫 『原色日本植物図鑑 草本編(3) 単子葉類』 p.224〜231. pl.57. 保育社
星野卓二・正木智美, 2003 ハリイ属. 星野卓二・正木智美・西本眞理子『岡山県カヤツリグサ科植物図譜(U)』 166〜191. 山陽新聞社
谷城勝弘, 2007 ハリイ属. 『カヤツリグサ科入門図鑑』 140〜151. 全国農村教育協会
村田源. 2004. イヌシカクイ. 『近畿地方植物誌』 164. 大阪自然史センター

最終更新日:27th.Feb.2014

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