オオハリイ Eleocharis congesta  D. Don
 f. dolichochaeta  (Boecklr.) T.Koyama
カヤツリグサ科 ハリイ属
湿生〜抽水〜沈水植物
Fig.1 (兵庫県三田市・溜池畔 2007.6/21)

溜池畔や湿地に生える1年草、または多年草。
叢生し、匐枝はない。基部の鞘は赤褐色で、茎の下部はハリイよりも赤褐色を帯びる部分が多い。
茎は斜上して弓なりに先が垂れることが多く、画像のように、どことなくまとまりのないような印象を受けるものが多い。
小穂は狭長卵形で、長さ5〜8mm、時に10mm近くなるものもある。
鱗片は卵形、長さ2〜2.5mm、鈍頭〜円頭、赤紫色の部分がある。
痩果は倒卵形で、長さ1〜1.2mm、黄緑色、断面は鈍3稜形。
刺針状花被片は6本、痩果の1.5〜2倍で、下向きの小刺がある。
柱基は3角錐形で、幅は痩果の1/3〜1/2、長さは幅のおよそ1.5倍。雌蕊柱頭は3岐し、雄蕊1〜2個。染色体数2n=20。

シカクイとの種間雑種はコシカクイ(谷城仮称2003)(E. wichurae ×congesta f.dolichochaeta )とされ、 両種の混生地に稀に生じる。
ハリイE. congesta var. japonica)はふつう高さ10〜20cm。小穂は4〜6mm。痩果は長さ0.7〜0.8mm。刺針状花披片は痩果の1.2〜1.5倍長。
エゾハリイE. congesta var. thermalis)は高さ5〜10cm。小穂は細く、長さ3〜5mm。痩果は濃オリーブ色で長さ約1mm。
セイタカハリイE. attenuata)は高さ20〜50cm。小穂は広卵形で長さ4〜12mm。刺針状花披片は痩果と同長かやや長い点で区別できる。
ヤリハリイE. congesta var. subvivipara)は高さ20〜50cm。小穂は不稔で、長さ6〜10mm、小穂基部からの芽生が著しい。
本種を含む近似種は陸生形では区別が可能だが、沈水状態のもは茎は細長く伸びて、上記の種とほとんど区別できない。
近似種 : ハリイエゾハリイヤリハリイセイタカハリイ、 クロミノハリイ、オオヌマハリイ、 イヌシカクイ×オオハリイ

■分布:本州、四国、九州、沖縄
■生育環境:溜池畔や湿地など。
■果実期:6〜9月
■西宮市内での分布:北部の1ヶ所の溜池のみで確認できた。

Fig.2 全草標本。(兵庫県篠山市・溜池畔 2009.6/14)
  抽水状態で生育していたもので、長く伸びたクローン株がよく目立つ。叢生して匍匐枝はない。茎は多少とも反る。

Fig.3 基部。(兵庫県篠山市・溜池畔 2009.6/14)
  根茎はハリイよりも発達する。茎の下部はハリイよりも赤褐色を帯びる部分が多い。

Fig.4 小穂。(兵庫県三田市・溜池畔 2007.6/23)
  小穂は鈍頭またはやや鋭頭、長さは5mm以上でときに1cm程にもなり、ハリイよりも明らかに大きい。

Fig.5 オオハリイの痩果。(兵庫県三田市・溜池畔 2007.6/21)
  痩果は長さ1〜1.2mm。ハリイよりも少し大きい。
  刺針状花被片は痩果の1.5〜2倍で、下向きの小刺がまばらにある。

Fig.6 小穂基部から芽生するオオハリイ。(兵庫県三田市・溜池畔 2007.6/6)
  ハリイと同様に、小穂の脇や茎の頂端にクローン株をよくつくる。

生育環境と生態
Fig.7 溜池畔に群生するオオハリイ。(兵庫県三田市・溜池畔 2007.6/23)
画像手前側に抽水状態で群生するのがオオハリイ。
その奥にはミヤマシラスゲが生育しており、ほかにミズニラ、アゼスゲ、ムツオレグサ、ミズユキノシタ、フサモ陸生形などが見られた。
溜池内にはオグラコウホネ、イトモ、フサモ、イヌタヌキモが群生する。
オオハリイが見られる溜池では、他にもノハナショウブやナガエミクリなどが見られるような場所が多く、自然度の高い溜池によく見られる。

Fig.8 刈り取り後の湿田で群生するオオハリイ。(兵庫県加西市・水田 2008.11/2)
オオハリイが水田で見られることは珍しい。

Fig.9 溜池の水際裸地に生育するオオハリイ。(兵庫県丹波市・溜池畔 2009.6/18)
水際にクローン株が流れ着いて定着するのだろうか、このような水際に群生することが多いようだ。

【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。)
大井次三郎, 1982. カヤツリグサ科ハリイ属. 佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎・旦理俊次・冨成忠夫 (編)
       『日本の野生植物 草本T 単子葉類』 p.171〜173. pls.154〜155. 平凡社
北村四郎・村田源・小山鐡夫, 2004 オオハリイ. 『原色日本植物図鑑 草本編(3) 単子葉類』 225,227. 保育社
角野康郎, 1994 カヤツリグサ科ハリイ属. 『日本水草図鑑』 89〜95. 文一統合出版
堀内洋. 2001. カヤツリグサ科ハリイ属. 神奈川県植物誌調査会(編)『神奈川県植物誌 2001』 423〜430. 神奈川県立生命の星・地球博物館
星野卓二・正木智美, 2003. オオハリイ. 星野卓二・正木智美・西本眞理子『岡山県カヤツリグサ科植物図譜(U)』 182〜183. 山陽新聞社
谷城勝弘, 2007. ハリイ属. 『カヤツリグサ科入門図鑑』 140〜151. 全国農村教育協会
小林禧樹・黒崎史平・三宅慎也. 1998. オオハリイ. 『六甲山地の植物誌』 250. (財)神戸市公園緑化協会
村田源. 2004. オオハリイ. 『近畿地方植物誌』 163. 大阪自然史センター
黒崎史平・松岡成久・高橋晃・高野温子・山本伸子・芳澤俊之 2009. オオハリイ. 兵庫県産維管束植物11 カヤツリグサ科. 人と自然20:169.
       兵庫県立・人と自然の博物館

最終更新日:6th.Oct.2010

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