イヌシカクイ x オオハリイ Eleocharis wichurae var.teres ×E. congesta f.dolichochaeta カヤツリグサ科 ハリイ属
湿生植物
Fig.1 (兵庫県三田市・湿地 2014.11/7)

Fig.2 (兵庫県三田市・湿地 2007.8/23)

低地の湿地に生える多年草で両種の混生地に稀に生じる。
根茎は短く、叢生する。茎は高さ40〜60cm、稜は不明瞭となり、数個の肋状となる。
小穂は多くが不稔で、線形で痩せており、長さ10〜15mm、幅約3mm、やや湾曲したり多少捩れたりするものが多く、茶褐色、小穂基部から盛んに芽生して栄養繁殖を行う。
結実した痩果はイヌシカクイに似て、長さ1〜1.5mm、柱基は痩果と同長か少し長く、刺針状花被片は羽毛状で、痩果の1.8〜2倍長。
この草本の自生地を詳しく調べたところ、周辺部を含めハリイは見出せずオオハリイが発見された。

ハリイとシカクイの雑種にヒメシカクイE. x yezoensis)があり、両種の混生地に稀に生じる。高さ20〜30cm。
オオハリイとシカクイの雑種にコシカクイ(谷城仮称)(E. wichurae x E. congesta f.dolichochaeta)があり、高さ30〜60cmとなる。

近似種 : イヌシカクイシカクイマシカクイミツカドシカクイハリイクログワイオオハリイヤリハリイエゾハリイセイタカハリイ

■分布:不詳
■生育環境:湿地など。
■果実期:8〜9月
■西宮市内での分布:西宮市内では見かけない。今のところ三田市の小湿地で見ているだけである。
          篠山市にも類似する雑種があるが、片親がイヌシカクイであるが、ハリイ類は3種が混生するため特定できない。

Fig.3 全草標本。(兵庫県三田市・湿地 2009.7/26)
  植物体は叢生し、匍匐枝はない。高さは50cm弱。

Fig.4 基部。(兵庫県三田市・湿地 2009.7/26)
  基部の鞘は葉身がなく、2段あり、下方の鞘は短い。赤紫褐色を帯び、光沢がある。

Fig.5 茎の横断面。(兵庫県三田市・湿地 2009.7/26)
  左1個は茎中部の、右2個は茎上部の横断面。数個の不明瞭で肋状となった稜があり、断面は4角形ではない。

Fig.6 小穂。(兵庫県三田市・湿地 2007.8/23)
  小穂は多くの痩果が不稔であるため痩せており、不均等な結実のためいびつな形状のものが多い。

Fig.7 小穂の一部拡大。(兵庫県三田市・湿地 2014.11/7)
  鱗片は卵形で、鈍頭または円頭。柱頭は3岐する。

Fig.8 葯。(兵庫県三田市・湿地 2014.11/7)
  葯は線形で、長さ0.9〜1.2mm。

Fig.9 花粉は正常なものと、不定形のものが混じる。(兵庫県三田市・湿地 2014.11/7)

Fig.10 痩果。(兵庫県三田市・湿地 2014.11/7)
  痩果の多くは不稔で、結実しているものは1個の小穂にせいぜい3個程度であった。

Fig.11 結実した痩果。(兵庫県三田市・湿地 2014.11/7)
  痩果は倒卵形、長さ1〜1.5mm。柱基は長三角形で、痩果と同長か少し長く、幅は痩果と同幅〜3/4。
  刺針状花被片は羽毛状で、痩果の1.8〜2倍。

Fig.12 痩果の拡大。(兵庫県三田市・湿地 2014.11/7)
  痩果表面には少し縦に長い微細な格子模様がある。

Fig.13 小穂の基部から芽生し、栄養繁殖を盛んに行う。(兵庫県三田市・湿地 2007.8/23)
  オオハリイの形質を引き継いだのだろうか。

Fig.14 基部に生じた越冬芽。(兵庫県三田市・湿地 2009.10/15)
  秋になると基部に多数の越冬芽をつくるが、根茎を伸ばすことはない。

生育環境と生態
Fig.15 小湿地に群生するイヌシカクイ×オオハリイ。(兵庫県三田市・湿地 2009.10/15)
作業用林道によって小さな流れが堰き止められ、小さな池を伴った湿地が形成されており、その一画に生育している。
イヌシカクイ×オオハリイは大株となって約4uの範囲で密生しており、個体数を調べることは難しかった。
この場所では一方の母種であるオオハリイは見つかったが、シカクイの仲間は見つけることができず、全てイヌシカクイ×オオハリイだった。
この湿地から流れをかなり遡った山中に溜池があるが、そこでも見出されたのはオオハリイのみであった。
しかしながら、この周辺地域ではシカクイやマシカクイは見られず、イヌシカクイのみが見られるためイヌシカクイ×オオハリイと考えられる。
この湿地上部ではタニガワスゲ、アイバソウが群生し、表水の多い場所では大型の草本は見られずチゴザサ群落が発達し、
アゼスゲ、タチスゲ、オニスゲ、オオハリイ、コアゼガヤツリ、コウガイゼキショウ、アオコウガイゼキショウ、コブナグサ、イグサ、
ニョイスミレ、コケオトギリ、アカバナ、ケキツネノボタン、ネコノメソウ、ヤノネグサ、ボントクタデなどが見られ、
隣接する池にはフトヒルムシロ、ヒメフラスコモが生育し、初夏には周囲の木々に多数のモリアオガエルの卵塊が見られる。

【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。)
谷城勝弘, 2003 ハリイ属. 千葉県資料研究財団(編)『千葉県の自然誌 別編4.千葉県植物誌』 866〜878. 千葉県資料研究財団
谷城勝弘, 2007 ハリイ属. 『カヤツリグサ科入門図鑑』 140〜151. 全国農村教育協会


最終更新日:16th.Nov.2014

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