ヤリハリイ Eleocharis congesta D. Don. var. subvivipara  (Boeck.) T. Koyama
Eleocharis nipponica  Makino
カヤツリグサ科 ハリイ属
湿生〜抽水〜沈水植物  兵庫県RDB Cランク種
Fig.1 (兵庫県丹波市・溜池畔 2010.10/7)

溜池畔、湿地に生える1年草、または多年草。沈水状態でも生育し、その場合は水中で越冬する。
草体は叢生し、匍匐枝はない。基部は赤褐色で光沢があり、茎は径0.6mm前後、直立するも充分に生育したものでは弓なりに倒伏するものが多い。
小穂は線状披針形〜線状円筒形で、小花はやや密につき、長さ6〜10mm、幅1.5〜2mm。小穂基部から盛んにクローン株を芽生する。
鱗片は卵形で、円頭または鈍頭。結実は稀だが、結実した痩果は黄緑色で、長さ約1mmになるという。柱頭は3岐。
沈水状態のものは、茎が細く長く伸びて、小穂基部から盛んに芽生し、小穂基部で発根して茎を叢生する。

本種は海外にも分布するE. congesta var. subviviparaとする説と、エゾハリイとオオハリイ(またはハリイ)との種間雑種E. nipponicaとする説がある。
今回発見した自生地ではハリイは見られたが、オオハリイやエゾハリイは確認できなかった。
ヤリハリイが出現する場所では同所的に現れる他のハリイ属のものに注意する必要があるようだ。

【メモ】 兵庫県レッドデータブック2010 で新たにCランク種とされた。標本数が少なく、自生地ではハリイなどと混同されている可能性があり注意を喚起するためでもある。
以下の近似のハリイ属草本のほとんどの種は沈水状態では結実せず、茎は細長く伸びて、小穂基部からの芽生が見られ、区別がほとんどできなくなる。
ハリイE. congesta var. japonica)は小穂の長さ4〜6mm、幅1.5〜2mmで、ヤリハリイよりも小型である。
オオハリイE. congesta var. dolichochaeta)は高さ20〜50cm、痩果が1〜1.2mm、刺針状花被片が痩果の2倍長。
エゾハリイE. congesta var. thermalis)は高さ5〜10cm、鱗片は濃赤褐色〜紫褐色で、痩果は1〜1.2mmで濃いオリーブ色。
セイタカハリイE. attenuata)は高さ20〜50cm、痩果は約1mm、柱基は圧扁された3角状で、刺針状花被片は痩果と同長かやや長い。
ヒメシカクイE. ×yezoensis)はハリイとシカクイとの種間雑種で、捻性は低く、小穂は線形または線状披針形でややよじれ、よく芽生する。
近似種 : ハリイエゾハリイオオハリイセイタカハリイ、 クロミノハリイ、オオヌマハリイ、 シカクイマシカクイイヌシカクイ×オオハリイイヌシカクイマツバイ

■分布:本州、九州 ・ 台湾、インド、南洋諸島
■生育環境:溜池畔、湿地など。
■果実期:7〜10月
■西宮市内での分布:市内では確認できていない。県内でも比較的稀だと推定される。

Fig.2 全草標本。(兵庫県丹波市・溜池畔 2009.7/10)
  叢生し、匍匐枝はない。長く伸びた茎は倒伏する傾向が強く、小穂基部から盛んに芽生する。

Fig.3 基部。(兵庫県丹波市・溜池畔 2009.7/10)
  基部は赤紫色を帯び、光沢がある。赤紫色を帯びる部分の長さはハリイよりも長く、オオハリイに近い。

Fig.4 茎の径は0.6mm前後。頂端に小穂を単生する。(兵庫県丹波市・溜池畔 2009.7/10)

Fig.5 小穂基部からは盛んに芽生する。(兵庫県丹波市・溜池畔 2009.7/10)
  この個体は溜池畔で陸生状態のものだったが、全ての小穂の基部からクローン株が生じていた。

Fig.6 小穂。(兵庫県丹波市・溜池畔 2009.7/10)
  線状披針形〜線状円筒形で、小花はやや密につき、長さ6〜10mm、幅1.5〜2mm。基部には不定芽を生じている。
  花はやや密につき、鱗片は卵形で円頭または鈍頭。

Fig.7 果実はほぼ不稔。(兵庫県丹波市・溜池畔 2009.7/10)
  今回、採取したもののうちから2個体全ての小穂を調べてみたが、正常に結実した痩果は見られなかった。

生育環境と生態
Fig.8 溜池排水路内に群生するヤリハリイ。(兵庫県丹波市・溜池 2010.10/7)
溜池からの排水路内の土砂の溜まった部分に群生している。群生内にはノチドメ、ニッポンイヌノヒゲ、ヤナギタデなどが見られる。
溜池畔にもヒメホタルイ、ニッポンイヌノヒゲ、ヒメヒラテンツキなどと生育が見られたが干上がるのが遅く、小さな個体が多かった。

Fig.9 やや富栄養な溜池畔に生育するヤリハリイ。(兵庫県丹波市・溜池 2010.9/5)
温帯スイレンが開花し、ヒシが群落をつくる、やや富栄養な溜池畔で見られた。
ヤリハリイはあまり生育場所が見られないため、どのような栄養状態を好むのかまだ解らない。
この溜池畔では画像右に見えるヒメジソ、チゴザサ、イボクサのほか、キシュウスズメノヒエ、キショウブ(おそらく植栽)などが見られた。

【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。)
小山鐡夫, 2004 カヤツリグサ科ハリイ属. 北村四郎・村田源・小山鐡夫 『原色日本植物図鑑 草本編(3) 単子葉類』 p.224〜231. pl.57. 保育社
角野康郎, 1994 カヤツリグサ科ハリイ属. 『日本水草図鑑』 89〜95. 文一統合出版
堀内洋. 2001. カヤツリグサ科ハリイ属. 神奈川県植物誌調査会(編)『神奈川県植物誌 2001』 423〜430. 神奈川県立生命の星・地球博物館
星野卓二・正木智美, 2011 ハリイ属. 星野卓二・正木智美・西本眞理子『日本カヤツリグサ科植物図譜』 610〜637. 平凡社
小林禧樹・黒崎史平・三宅慎也. 1998. ヤリハリイ. 『六甲山地の植物誌』 250. (財)神戸市公園緑化協会
村田源. 2004. ハリイ. 『近畿地方植物誌』 163. 大阪自然史センター
黒崎史平・松岡成久・高橋晃・高野温子・山本伸子・芳澤俊之 2009. ヤリハリイ. 兵庫県産維管束植物11 カヤツリグサ科. 人と自然20:168.
       兵庫県立・人と自然の博物館

最終更新日:6th.Oct.2010

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