シカクイ Eleocharis wichurae  Boeck. カヤツリグサ科
湿生植物
Fig.1 (兵庫県丹波市・休耕田 2010.8/25)

Fig.2 (滋賀県高島市・用水路脇 2012.9/7)

水田の畦、用水路脇、休耕田、溜池畔、湿地などに生える多年草。
茎は密に叢生し、高さ30〜50cm、ふつう4稜あり、基部には赤紫色〜赤褐色の鞘がある。
小穂は広披針形で、淡茶褐色、やや密に鱗片をつけ、長さ8〜25mmで、鋭頭。
鱗片は卵形鈍頭で、長さ4〜6mm。痩果は倒卵形で、長さ1.5〜2mm、横断面は扁3稜形。
痩果につく柱基の長さは痩果とほぼ同長で、幅は痩果のおよそ2/3。
刺針状花被片は6個つき、柔らかいリボン状の小刺が密に羽毛状につく。雌蕊柱頭は3岐する。

ふつうシカクイは小穂から芽生しないが、稀に小穂の鱗片から芽生するものがあり、コモチシカクイ(f. vivipara)とされることがある。
ハリイとの種間雑種にヒメシカクイE. ×yezoensis)があり、捻性は低く、 小穂は線形または線状披針形でややよじれ、小穂基部からよく芽生する。
また、オオハリイとの種間雑種をコシカクイ(谷城新称)(E.wichurae ×congesta f. dolichochaeta)といい、 ヒメシカクイと同様の形質を持ち、ヒメシカクイよりやや大型となる。
近似種 : イヌシカクイマシカクイミツカドシカクイイヌシカクイ×オオハリイハリイクログワイオオハリイセイタカハリイ

■分布:北海道、本州、四国、九州、沖縄 ・ 朝鮮半島、中国、ウスリー、南千島
■生育環境:水田の畦、用水路脇、休耕田、溜池畔、湿地など。
■果実期:8〜10月
■西宮市内での分布:中部の休耕田に見られるが、西宮市内のものは建設用土とともに移入された可能性が高い。
              近隣市域では狭義シカクイの見られる場所は稀で、特に自然度の高い場所ではイヌシカクイが見られることが多い。
              兵庫県東部では丹波・但馬地方にはイヌシカクイにかわってシカクイがふつうとなるが、東南部ではイヌシカクイが分布する。
              また、マシカクイは県内に隔離的に自生地が点在し、ミツカドシカクイは標高800m以上の中部以北の中間湿地に生育する。

Fig.3 茎は密に叢生する。(西宮市・休耕田 2007.6/27)
  茎の先端部に花序が付く。苞葉などは見られない。

Fig.4 全草標本。(兵庫県篠山市・休耕田 2009.7/31)
  叢生し匍匐枝は見られないが、1〜2cmの古い根茎が宿存していることが多い。
  ごく稀に匍匐枝を生じることがあるという。

Fig.5 基部。(兵庫県篠山市・休耕田 2009.7/31)
  基部にはふつう2段からなる葉身のない膜質の鞘があり、赤紫色〜赤褐色を帯びていることが多い。

Fig.6 宿存した古い根茎。(兵庫県篠山市・休耕田 2009.7/31)
  前年と一昨年の根茎は堅く、宿存し、褐色〜赤褐色の5mm前後の鱗片状の鞘を残す。

Fig.7 越冬芽を生じた個体。(兵庫県香美町・用水路脇 2009.10/10)
  秋になると基部にツノ状の越冬芽を多数生じる。ミツカドシクイのように根茎を伸ばすことはほとんどない。

Fig.8 茎の横断面。(兵庫県篠山市・休耕田 2009.7/31)
  左は茎中部の、右は茎上部の断面。茎には明瞭な4稜があり、そのうちの1個は他の稜に比べで低い。
  マシカクイのように、稜が著しく張り出したりはしない。

Fig.9 シカクイの小穂。(兵庫県篠山市・休耕田 2009.7/31)
  長さは8〜25mmと変異に富む。

Fig.10 柱頭は3岐する。(神戸市・休耕田 2014.9/27)

Fig.11 痩果。(神戸市・休耕田 2014.9/27)
  柱基の長さは痩果とほぼ同長で、幅は痩果のおよそ2/3。刺針状花被片につく羽毛状の小刺は長い。

Fig.12 痩果の拡大。(神戸市・休耕田 2014.9/27)

Fig.13 葯の長さ0.8〜1mm。(神戸市・休耕田 2014.9/27)

Fig.14 小穂基部から芽生した個体。(兵庫県香美町・用水路脇 2009.10/10)
  シカクイでは小穂からの芽生は比較的稀であり、このような個体はコモチシカクイ(f. vivipara)とされることがある。
  この個体ではほとんどの小穂基部からクローン株を生じていた。

他地域での生育環境と生態
Fig.15 棚田の用水路脇で生育するシカクイ。(滋賀県高島市・用水路脇 2012.9/7)
棚田の用水路脇の畦で刈り取りをまぬがれたものが列をなして生育していた。
同じ畦にはヒデリコ、テンツキ、ヒメヒラテンツキ、キツネノマゴ、ノコンギク、ムラサキサギゴケなどが見られ、用水路内では
サンカクイ、ミズタガラシ、セリ、ヒメミズワラビ、アゾラsp.などが見られた。

【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。)
大井次三郎, 1982 カヤツリグサ科ハリイ属. 佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎・旦理俊次・冨成忠夫 (編)
       『日本の野生植物 草本1 単子葉類』 p.171〜173. pls.154〜155. 平凡社
小山鐡夫, 2004 カヤツリグサ科ハリイ属. 北村四郎・村田源・小山鐡夫 『原色日本植物図鑑 草本編(3) 単子葉類』 p.224〜231. pl.57. 保育社
牧野富太郎, 1961 シカクイ. 前川文夫・原寛・津山尚(補遺・編) 『牧野 新日本植物図鑑』 767. 北隆館
堀内洋. 2001. カヤツリグサ科ハリイ属. 神奈川県植物誌調査会(編)『神奈川県植物誌 2001』 423〜430. 神奈川県立生命の星・地球博物館
谷城勝弘, 2003 ハリイ属. 千葉県資料研究財団(編)『千葉県の自然誌 別編4.千葉県植物誌』 866〜878. 千葉県資料研究財団
星野卓二・正木智美, 2003 ハリイ属. 星野卓二・正木智美・西本眞理子『岡山県カヤツリグサ科植物図譜(U)』 166〜191. 山陽新聞社
谷城勝弘, 2007 ハリイ属. 『カヤツリグサ科入門図鑑』 140〜151. 全国農村教育協会
小林禧樹・黒崎史平・三宅慎也. 1998. シカクイ. 『六甲山地の植物誌』 250. (財)神戸市公園緑化協会
村田源. 2004. シカクイ. 『近畿地方植物誌』 164. 大阪自然史センター
黒崎史平・松岡成久・高橋晃・高野温子・山本伸子・芳澤俊之 2009. シカクイ. 兵庫県産維管束植物11 カヤツリグサ科. 人と自然20:170.
       兵庫県立・人と自然の博物館

最終更新日:4th.Nov.2014

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