ミヤマチドメ
 (ヒメチドメグサ・ヒメチドメ?)
Hydrocotyle japonica  Makino
  (Hydrocotyle yabei  Makino)
セリ科 チドメグサ属
湿生植物
Fig.1 (兵庫県篠山市・溜池土堤 2010.7/31)

林床、渓流畔、山間の溜池畔などの日当たりのよい湿った場所に生育する多年草。
茎はふつう無毛で、細長く地表をはって、節からひげ根を生じて定着し、根の上部はときに肥厚する。
葉は茎にまばらに互生し、長い柄があり、円形で小さく、径6〜15mm、掌状に浅5〜7裂し、縁に数個の鋸歯があり、表面は無毛で、基部は狭く切れ込む。
花は小さく、白色または緑白色で、腋生する柄の先に小さな頭状となって集合するが、花数は2〜5個と少ない。花序は対生する葉柄と同長か短い。
花弁は5個で卵形。雄蕊5個は短く、花柱2個。果実は扁平な円形。

ヒメチドメグサ(ヒメチドメ)H. yabei)と同一種であるとする見解がある(北川 1982、河済 2001など)。
ミヤマチドメとヒメチドメグサの区別点は葉身基部の切れ込みの開き加減によるが、この開き具合は変異が多く、同一集団内でも開いたものや
閉じているものが混じることがあり、変異は連続的であることから、ヒメチドメグサとするべきなのかもしれない。
ここでは暫定的に『兵庫県産維管束植物』で採用された名称、学名を採用している。
チドメグサH. sibthorpioides)に似るが、ミヤマチドメの葉身はより深く切れ込み、花序につく花数は少ない。
近似種 : チドメグサ、 ノチドメ、 オオチドメオオバチドメツボクサ

■分布:本州、四国、九州 ・ 済州島
■生育環境:林床、渓流畔、溜池畔などの湿った場所。
■果実期:7〜10月
■西宮市内での分布:市内北部の渓流畔の林下に見られる。本種は山地性であり、兵庫県東部で溜池畔に出現するのは三田市以北となる。

Fig.2 全草標本。(兵庫県篠山市・溜池畔 2010.7/18)
  茎は細く分枝して長くはい、節からひげ根を生じる。主茎の根の上部は白色で肥厚している。
  長くはう茎にはまばらに葉が互生してつく。

Fig.3 ミヤマチドメの葉。(兵庫県篠山市・溜池畔 2010.7/18)
  長い葉柄がある。葉身は径6〜15mmと小型で、掌状に浅5〜7裂、裂片には少数の鋸歯があり、表面は無毛、あまり光沢はない。
  チドメグサの葉身はあまり切れ込まず、強い光沢がある。

Fig.4 葉裏の拡大。(兵庫県篠山市・溜池畔 2010.7/18)
  葉裏も無毛だが、葉脈分岐部に濃緑色の瘤状の突起が見られた。

Fig.5 葉身基部の切れ込み。(兵庫県篠山市・溜池土堤 2010.7/31)
  切れ込みの開き具合は同一個体中でも様々である。ミヤマチドメとヒメチドメグサとの区別は困難かと考えられる。

Fig.6 葉腋につく花序。(兵庫県篠山市・溜池土堤 2010.7/31)
  花序は葉腋に1〜数個つき、葉柄と同長または短い。花序は単散形花序で、小花の花柄はごく短く、2〜5個の小花がつく。

Fig.7 小花。(兵庫県篠山市・溜池土堤 2010.7/31)
  花は白色〜緑白色または淡紫色を帯びる。花弁は5個で卵形。雄蕊は5個。花柱は2個あるが、短く、画像ではぼけた柱頭がわずかに見え認識しがたい。

Fig.8 果実期の花序。(兵庫県篠山市・溜池土堤 2010.7/18)
  花数は少ないため果実も少ない。画像では3個の果実が成熟中であった。2個の花柱は宿存し、少し斜外する。

Fig.8 果実。(兵庫県篠山市・溜池土堤 2010.7/18)
  果実は扁平な円形、平滑で、数条の条線があり、径1.5〜1.8mm、ごく短い柄がある。

Fig.9 初夏の新葉を展開した個体。(兵庫県篠山市・林道脇 2008.5/16)
  展葉したばかりの葉は光沢がかなりある。

西宮市内での生育環境と生態
現在、画像はありません。 

他地域での生育環境と生態
Fig.10 溜池土堤でオオバチドメと混生するミヤマチドメ。(兵庫県篠山市・溜池土堤 2010.7/31)
ミヤマチドメは山地性で同じような環境を好むオオバチドメと混生していることも多い。
ここではシカの食害が多いため、シカの不嗜好植物や、シカの食べにくい匍匐性の草本が生育している。
匍匐性のもので他に目立つのはシカの不嗜好種であるクラマゴケと、コナスビ、ヤマサギゴケ、ヘビイチゴ、トウバナ、コハコベなどであった。
画像ではシカがあまり好まないミヤマカンスゲなどのスゲ類も見られる。

Fig.11 溜池畔に生育するミヤマチドメ。(兵庫県三田市・溜池畔 2010.6/20)
シカの食害のある溜池畔に生育しているもので、匍匐して生長するためにあまり食害を受けずに残っている。
画像では右上のアブラガヤが食害を受けている。赤い果実を稔らせているのはヘビイチゴで、これも匍匐性であるため食害から免れている。
この他コナスビ、ヒメアギスミレ、ヒメオトギリ、ハシカグサ、ヒメジソ、トウバナ、ハリイなどが見られた。

【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。)
北川政夫, 1982. セリ科チドメグサ属. 佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎・旦理俊次・冨成忠夫 (編)
       『日本の野生植物 草本2 離弁花類』 p.277〜278. pls.250. 平凡社
村田源, 2004 セリ科チドメグサ属. 北村四郎・村田源 『原色日本植物図鑑 草本編(2) 離弁花類』 p.4〜6. pls.1. 保育社
牧野富太郎, 1961 ミヤマチドメ. 前川文夫・原寛・津山尚(補遺・編) 『牧野 新日本植物図鑑』 433. 北隆館
河済秀子. 2001. セリ科チドメグサ属. 神奈川県植物誌調査会(編)『神奈川県植物誌 2001』 1063〜1066. 神奈川県立生命の星・地球博物館
村田源. 2004. ミヤマチドメ、ヒメチドメグサ. 『近畿地方植物誌』 60,61. 大阪自然史センター
小林禧樹・黒崎史平・三宅慎也. 1998.ミヤマチドメ. 『六甲山地の植物誌』 167. (財)神戸市公園緑化協会
黒崎史平 2003. ミヤマチドメ. 兵庫県産維管束植物5 セリ科. 人と自然14:157. 兵庫県立・人と自然の博物館

最終更新日:18th.Dec.2010

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