ミズハコベ Callitriche palustris  L. アワゴケ科 アワゴケ属
湿生植物〜抽水〜沈水植物
Fig.1 (兵庫県三田市・用水路 2007.3/22)

Fig.2 (滋賀県・水路 2011.9/27)

Fig.3 (西宮市・農地の溝 2016.7/7)

湿田や用水路、湛水状態の休耕田、湧水のある河川や湿地などに生育する小型の多年草、または1年草。
茎は地表を這いながら分枝、節から発根して定着しながら四方に広がる。
葉は対生してつき、沈水葉、浮葉、気中葉とそれぞれの中間の形があり、線形〜披針形〜広披針形〜広倒卵形と多様。
葉身の長さは沈水葉で1〜2.5cm、気中葉で5〜13mm、浮葉は気中葉よりやや小さい。
沈水状態のものは緑白色で質は薄く、浮葉〜湿生状態のものは厚味と光沢があり、3脈が目立つ。
花は葉腋に1個づつつくが目立たず、雌雄異花で、雄花は1個の雄蕊からなり、雌花は1個の雌蕊からなる。
果実は扁平な軍配形の倒卵状楕円形で、水中でもよく結実する。

ミズハコベに似て、ヨーロッパ原産で外来種のイケノミズハコベ(C. stagnalis)がある。
まだ関西では見かけないが、関東では各所で帰化しているようで、関西で発見されるのも時間の問題かと思う。
イケノミズハコベは、ミズハコベよりもやや大型で、沈水葉と気中葉がほぼ同型である点で区別される。
関西で見られるミズハコベに似た外来種ではアメリカアワゴケ(C. terrestris)がある。
アメリカアワゴケの葉身は3〜4mmと、ごく小さく、葉脈が不明瞭な点で区別がつく。
他に水田や休耕田で見られるごく小型の水田雑草にミゾハコベスズメノハコベがあるが、いずれも花は両性花で、花や果実のつくりが大きく異なる。
近似種 : アメリカアワゴケスズメノハコベミゾハコベアワゴケ、 イケノミズハコベ

■分布:北海道、本州、四国、九州、沖縄 ・ アジア、ヨーロッパ、南米
■生育環境:湿田、用水路、休耕田、河川、湿地など。
■花期:通年
■西宮市内での分布:市内では稀で、北部の湿地1ヶ所で確認できたのみで、個体数も少ない。

Fig.4 沈水葉の個体。(兵庫県三田市・用水路 2007.3/22)
  沈水葉は線形で長く、緑白色で質は薄く、1脈あり、先端が凹頭となる。

Fig.5 湿生状態で気中葉をつけているもの。(兵庫県三田市・湿地林内 2007.3/22)
  葉には厚味と光沢があり、3脈が目立つ。

Fig.6 浮葉を広げた個体。(西宮市・溜池畔の湿地 2007.5/27)
  浮葉は広倒卵形で、浮くために効率のよい形態になっている。

Fig.7 流水中に浮葉を広げた個体。(兵庫県篠山市・池干しされた溜池底 2009.2/11)
  Fig.6 のように止水域での浮葉は広倒卵形となるが、多少とも水の動きがある流水中で見られる浮葉は長倒卵形で、気中葉よりかなり大きくなる。

Fig.8 浮葉と気中葉の中間的な草体。(愛知県長久手町・湿田中 2005.5/25)

Fig.9 ときに茎が匍匐せず、斜上し葉が細い個体が見られることがある。(兵庫県加西市・減水した溜池畔 2008.11/2)
  おそらく、沈水状態で生育していたものが急激な減水のため、急いで陸生状態に対応したものではないかと思う。
  葉腋には果実が形成されていて、ミズハコベであることが解った。画像右上のカヤツリグサ科の草体は矮小化したオオシロガヤツリ。

Fig.10 春先に湿田脇の水路に現れたミズハコベ。(兵庫県三木市・湿田 2007.2/22)

Fig.11 湧水河川中のミズハコベ。(滋賀県・湧水河川 2011.8/28)
  溶存する気体の量が多いためか、気中葉と沈水葉が入り混じる。

Fig.12 雌花の拡大。(兵庫県加西市・溜池畔 2008.11/2)
  葉腋につくが、撮影のため葉は取り除いてある。
  雌蕊は2室の子房からなり、2個の対生する苞の間にはさまれてつく。子房上端には乳頭状の柱頭がつく。

Fig.13 葉腋に形成された果実。(兵庫県加西市・溜池畔 2008.11/2)
  画像の茎の最上部のものは未熟な果実。真ん中の葉腋についているものは分裂して1個だけ種子が残っている。最下のものが熟した完全な果実。
  子房は2真皮からなり、ひとつの果実は4個の種子からなる。果実は軍配状で柄はなく、中央が凹み、周囲には狭い翼がある。


Fig.14 種子。(兵庫県加西市・溜池畔 2008.11/2)
  種子は褐色で倒卵状披針形、長さ0.8mm。2稜あり、一方の稜と上端は翼状となる。
  表面にはやや不整な四角〜六角形の網目模様がある。

西宮市内での生育環境と生態
Fig.15 市内の湿地で確認できたミズハコベ。(西宮市・溜池畔の湿地 2007.5/27)
イノシシによる攪乱によってできた裸地でかろうじて生育している。
個体数も少なく、生育状況もあまり良くない。

Fig.16 溜池直下の素掘り水路内に生育するミズハコベ。(西宮市・溜池直下の水路 2010.7/9)
宅地化予定の溜池直下にある廃田となった素掘り水路内に抽水〜浮葉状に多数の個体が生育している。
水路内には溜池からの浸透水が湧出しているが、土中を長く通ってくるので水温は低く、夏場でも生育が見られる。
水路内や周辺にはタガラシ、キツネノボタン、コモチマンネングサ、トキンソウ、ムツオレグサ、コウガイゼキショウ、クサイ、イグサなどの
水田雑草が豊富に見られる。

他地域での生育環境と生態
Fig.17 流水中に沈水状態で見られたミズハコベ。(滋賀県・小河川 2008.9/8)
湧水の流入のある河川で見られることが多い。
このような場所で生育するものは、水温が比較的一定しているため、1年中枯れることなく生育している。

Fig.18 深山中の湧水の水溜りに群生するミズハコベ。(兵庫県篠山市・湧水の水溜り 2009.4/17)
人がほとんど入った形跡のない山中のスギ植林地のギャップに湧水の水溜りがあり、そこに群生していた。
おそらく野生動物が種子を人里から持ち込んだものだろう。水溜り周辺は湿地状となり、ネコノメソウ、コウガイゼキショウなどが見られた。

Fig.19 池干しされた溜池底の湧水中に生育するミズハコベ。(兵庫県篠山市・溜池 2009.2/11)
溜池土堤の改修工事のために池干しされた溜池で、底からは湧水が常時噴出している。
ミズハコベは湧水の噴出口付近や、湧水の流れの中に元気に生育していた。

Fig.20 溜池の水中に群生するミズハコベ。(京都府福知山市・溜池 2015.4/24)
丘陵が氾濫原に接する場所に浅い溜池があり、その水中にミズハコベが群生していた。
おそらく水底から湧水が供給されているのだが、他に沈水植物は見られず、ショウブ、ガマ、クサヨシ、ムシクサが生育する程度。
溜池畔には高さ80cmほどに大きく成長したノニガナが1個体のみ生育していた。

【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。)
山崎敬, 1981. アワゴケ科アワゴケ属. 佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎・旦理俊次・冨成忠夫 (編)
       『日本の野生植物 草本3 合弁花類』 p.70. pl.57. 平凡社
角野康郎, 1994. アワゴケ科. 『日本水草図鑑』 p.144. pl.146. 文一統合出版
大滝末男, 1980. ミズハコベ. 大滝末男・石戸忠 『日本水生植物図鑑』 72〜73. 北隆館
北村四郎・村田源, 2004. アワゴケ科. 『原色日本植物図鑑 草本編(2) 離弁花編』 p.74〜75. pl.18. 保育社
長田武正・長田喜美子, 1984. アワゴケ科. 『野草図鑑 8 はこべの巻』 pl.99. p.101. 保育社
勝山輝男. 2001. アワゴケ科アワゴケ属. 神奈川県植物誌調査会(編)『神奈川県植物誌 2001』 1190〜1191. 神奈川県立生命の星・地球博物館
勝山輝男. 2001. アワゴケ科アワゴケ属. 清水建美(編)『日本の帰化植物』 p.169〜170. pl.80. 平凡社
小林禧樹・黒崎史平・三宅慎也. 1998. ミズハコベ. 『六甲山地の植物誌』 183. (財)神戸市公園緑化協会
村田源. 2004. ミズハコベ. 『近畿地方植物誌』 77. 大阪自然史センター
布施静香・角野康郎・黒崎史平 2005. ミズハコベ. 兵庫県産維管束植物6 アワゴケ科. 人と自然15:130. 兵庫県立・人と自然の博物館

最終更新日:8th.Dec.2016

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