ロッカクイ Schoenoplectus mucronata  (L.) Palla
  var. ishizawae  K.Kohno, Iokawa & Daigobo
カヤツリグサ科 ホソガタホタルイ属
湿生〜抽水植物  環境省絶滅危惧TA類(CR)・兵庫県RDB Aランク種

Fig.1 (兵庫県但馬・湿地 2009.10/10)

日当たりのよい湿地に生育する中〜大型の多年草。山地性のように思われ、自然度の高い湿地に見られる。
根茎は短く叢生する。茎は高さ40〜100cm、横断面は3稜形であるが、稜上に逆3角状の翼がつく。
花序は仮側生、無柄の小穂が頭状に集合してつく。苞葉は茎に続き同形。
小穂は卵形、長さ6〜15mm、鋭頭。鱗片は広卵形。
痩果は3稜形で、広倒卵形、長さ約2mm、表面には明瞭な横じわがある。
刺針状花被片はほぼ同長か短い。柱頭は3岐する。

同様に稜に翼を持つタタラカンガレイ(var. tataranus)に似る。刺針状花被片は痩果よりも長く、下向きの小刺があり、攪乱された環境に生じる。

近似種 : タタラカンガレイ、 ヒメカンガレイカンガレイハタベカンガレイツクシカンガレイ

■分布:本州(新潟・福井・兵庫)、九州(福岡・熊本・鹿児島)
■生育環境:日当たりよい湿地。
■果実期:8〜10月
■西宮市内での分布:市内には分布しない。県下では但馬地方の山間の湿地に稀に見られる。

Fig.2 全草標本。(兵庫県但馬・湿地 2009.10/10)
  茎は母種ヒメカンガレイよりも高く約1m程度に伸び、茎の質はヒメカンガレイ同様やや柔らかく、折れ曲がりやすい。
  (注:画像のものは兵庫県RDB再検討のために採集したもので、標本は大学または博物館の標本庫に収蔵されます。)

Fig.3 基部と根茎。(兵庫県但馬・湿地 2009.10/10)
  基部の鞘はふつう2個あって、膜質、淡色または褐色を帯び、葉身は無い。
  根茎は短く叢生するが、やや伸びた先に新芽を生じるものもあった。
  (注:画像のものは兵庫県RDB再検討のために採集したもので、標本は大学または博物館の標本庫に収蔵されます。)

Fig.4 茎には翼がつく。(兵庫県但馬・湿地 2009.10/10)
  茎は3稜形であるが、稜上には逆3角状の翼がつく。

Fig.5 茎とその断面。(兵庫県但馬・湿地 2009.10/10)
  生育条件にもよるだろうが、茎は翼の部分を除くと約3mmと細い。長い茎では捩れる傾向が見られる。
  逆3角状の翼は大きく、大きな面は1.5mmにもおよぶ。

Fig.6 茎の横断面拡大。(兵庫県但馬・湿地 2009.10/10)
  茎は多管質で、隔壁を繋ぐ部分に維管束組織が見られ、縦の気室は目の粗いスポンジ状の横隔壁で仕切られている。

Fig.7 仮側生する小穂。(兵庫県但馬・湿地 2009.10/10)
  小穂は頭状に数個あつまって茎に仮側生する。

Fig.8 小穂。(兵庫県但馬・湿地 2009.9/21)
  小穂は卵形で鋭頭。ヒメカンガレイより少し大きい。鱗片は広卵形。
  基部近くの鱗片は剥離し、痩果が1個むき出しになっている。鱗片の間からは3岐した柱頭が出ている。

Fig.9 痩果。(兵庫県但馬・湿地 2009.9/21)
  痩果は3稜あり、広倒卵形で濃褐色、長さ約2mm、表面には明瞭な横じわがある。
  刺針状花被片は痩果と同長か短かく、下向きの小刺がまばらにあって、下向きにざらつく。
  よく似たタタラカンガレイの刺針状花被片は、痩果と同長か長い点で区別される。

Fig.10 痩果の拡大。(兵庫県但馬・湿地 2009.9/21)
  表面の横じわと、刺針状花被片の下向きの小刺が明瞭である。

生育環境と生態
Fig.11 湿原に生育するロッカクイ。(兵庫県但馬・湿地 2009.10/10)
やや標高の高い山間の湧水によって生じた湿原に生育している。
多少泥炭が発達した湿原で、高層湿原で見られるミズバショウとともに、中間湿原に生育するシカクイ、アカバナなども群生している。
ロッカクイは湿原中の浅い表水が流れるような場所で、十数株が生育している。

【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。)
星野卓二・正木智美, 2003 ホタルイ属. 星野卓二・正木智美・西本眞理子『岡山県カヤツリグサ科植物図譜(U)』 108〜137. 山陽新聞社
谷城勝弘, 2007 フトイ属. 『カヤツリグサ科入門図鑑』 152〜164. 全国農村教育協会
村田源. 2004. カンガレイ,ヒメカンガレイ. 『近畿地方植物誌』 167. 
河野和博・五百川裕芳・大悟法滋, 2001 日本産ヒメカンガレイの1新変種と1新組み合わせ. 植物研究雑誌 76(4):227〜230.
堀内洋, 2001 タタラカンガレイ(カヤツリグサ科)の1品種. 植物研究雑誌 78(4):225.
堀内洋.2002. 神奈川県植物誌2001カヤツリグサ科への補遺及び正誤.FLORA KANAGAWA 52:613-620.
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       植物研究雑誌 79(1):29〜42.
五百川裕・河野和博・大悟法滋, 2004 日本産ヒメカンガレイの1新変種. 植物研究雑誌 79(1):1〜3.
佐藤千芳・前田哲弥・内野明徳, 2004 日本産フトイ属(カヤツリグサ科)の1新種. 植物研究雑誌 79(1):23〜28.
堀内洋. 2004 ロッカクイとハタベカンガレイの新産地. すげの会ニュース 2:1〜2.
堀内洋. 2004 入会のきっかけとなった兵庫県産と思われるロッカクイ(カヤツリグサ科). 兵庫県植物誌研究会会報 58:2.
松岡成久. 2010 但馬地方に生育していたロッカクイとヒメカンガレイ. 兵庫県植物誌研究会会報 82:2.
黒崎史平・松岡成久・高橋晃・高野温子・山本伸子・芳澤俊之 2009. ロッカクイ. 兵庫県産維管束植物11 カヤツリグサ科. 人と自然20:177.
       兵庫県立・人と自然の博物館
松岡成久 2010. 兵庫県産カヤツリグサ科フトイ属カンガレイ類の形態的特徴と分布. 兵庫の植物 20:1〜14. 兵庫県植物誌研究会.

最終更新日:15th.Jun.2010

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