ツクシカンガレイ Schoenoplectiella multiseta  (Hayas. et C.Sato) Hayas. カヤツリグサ科 ホタルイ属
湿生〜抽水植物
Fig.1 (京都府・溜池畔 2013.10/2)

Fig.2 (滋賀県・湿原 2014.8/31)

日当たりのよい溜池、沼地、湿地などに抽水〜陸生する大型の多年草。
2004年に記載された種であり、愛知県以西の西日本に稀に見られ、環境省の絶滅危惧種にはまだ指定されていない。
長い横走根茎を持ち、1.5〜5cmの間隔で有花茎を立ち上げる。
茎(有花茎)は高さ50〜130cmになり、直立し、横断面は鋭3稜形、平滑、カンガレイよりも柔らかい。
苞は有花茎に続き、長さ1〜3.5cmでカンガレイの苞よりも明らかに短く、斜上または直立する。
花序は仮側生し、無柄の5〜16個の小穂が、放射状に1つの基部に密着して頭状につく。
小穂は卵形で、長さ7〜14mm、鋭頭で淡緑色。鱗片は密に圧着し、広楕円形、長さ1.6〜2.4mmで、上縁はほとんど平滑。
葯は線形で長さ1.5〜2.3mm。雌蕊柱頭はふつう3岐まれに2岐する。
痩果は広倒卵形で、長さ2〜2.5mm、低い横皺があり、横断面は扁3稜形〜レンズ形。
刺針状花被片は3〜10個(6個が多い)つき、長さは痩果と同長または少し短いか稀に長く、下向きの小刺がある。

本種は叢生せず、地下に横走根茎を持つことにより、近似種との区別は容易である。
カンガレイとの種間雑種にチクホウカンガレイ(仮称)S. multiseta ×S. triangulata)がある。
根茎の節間は詰まり、苞葉の長さ1.3〜4.0cmでツクシカンガレイより長く、痩果の結実率は悪く不完全で、結実果の刺針状花被片の長さは痩果の約1.5倍長。

近似種 : カンガレイハタベカンガレイヒメカンガレイロッカクイ、 イヌヒメカンガレイ、 タタラカンガレイ、 チクホウカンガレイ、
サンカクホタルイイヌホタルイ×カンガレイアイノコカンガレイ

■分布:本州、九州、沖縄 ・ 東アジア?
■生育環境:溜池、湖沼、湿地など。
■花期:7〜10月
■西宮市内での分布:西宮市内では見られず、兵庫県内からも今のところ記録はない。関西では京都、滋賀、和歌山、奈良に生育する。

Fig.3 全草標本。(京都府・溜池畔 2013.10/2)
  長い横走根茎を持ち、節からまばらに有花茎を立ち上げ、高さ50〜130cmになり、直立する。
  カンガレイの仲間では雑種を除けば、このような明瞭な横走根茎を持つものは本種だけである。

Fig.4 横走根茎から出た長い節根。(京都府・溜池畔 2013.10/2)
  横走根茎の各節からやや太くて長くやわらかい節根と、細くて短く硬いひげ根状の節根が出ており、長い節根は60cmにもおよんだ。

Fig.5 横走根茎と基部の鞘。(京都府・溜池畔 2013.10/2)
  横走根茎は赤味を帯び、生時には光沢があり、幅4〜7mm(乾燥時では3.5〜5mm)、1.5〜5cmの間隔で茎を立ち上げる。
  有花茎の基部は2個の葉身のない鞘に包まれる。

Fig.6 横走根茎先端部と越冬芽。(京都府・溜池畔 2013.10/2)
  根茎の先端部は越冬芽となり、また当年茎の基部脇にもところどころに越冬芽ができていた。
  当年茎脇の越冬芽はその基部が肥厚しており、ここから新たな根茎が分枝すると考えられる。
  横走根茎の節にはやや厚みのある半透明の鱗片が付いている。

Fig.7 有花茎。(京都府・溜池畔 2013.10/2)
  有花茎は3稜形で、平滑で、稜上に翼や小突起はなく、質はカンガレイよりもやわらかい。

Fig.8 有花茎の横断面。(京都府・溜池畔 2013.10/2)
  左は根茎から10cm上、右は50cm上の横断面。3稜形である。

Fig.9 花序と苞。(京都府・溜池畔 2013.10/2)
  花序は無柄の小穂が頭状に集まり、有花茎の上部に仮側生(偽側生)する。
  花序より上部の有花茎は苞となり、その長さ1〜3.5cmでカンガレイの苞よりも明らかに短い(カンガレイでは3〜12cm)。
  小穂は卵形で、長さ7〜14mm(カンガレイでは12〜34mm)。
  今回調査したかなり大きな規模の集団では、ハタベカンガレイやカンガレイに見られるような苞基部からの芽生は確認できなかった。

Fig.10 鱗片。(京都府・溜池畔 2013.10/2)
  鱗片は広楕円形、長さ1.6〜2.4mmで、上縁はほとんど平滑。
  カンガレイやハタベカンガレイの鱗片上縁は歯牙状の突起が並び、多少ともざらつく。

Fig.11 葯。(京都府・溜池畔 2013.10/2)
  葯は線形で長さ1.5〜2.3mm(カンガレイでは1.7〜3.8mm)。


Fig.12,13 痩果。(京都府・溜池畔 2013.10/2)
  痩果は広倒卵形で、長さ2〜2.5mm、横断面は扁3稜形またはややレンズ形。
  刺針状花被片は3〜10個(6個が多い)つき、長さは痩果と同長または少し短いか稀に長く、下向きの小刺がある。

Fig.14 痩果表面の拡大。(滋賀県・湿原 2014.8/31)
  痩果表面にはやや不明瞭な横しわがある。

Fig.15 雌蕊。(京都府・溜池畔 2013.10/2)
  雌蕊の柱頭はふつう3岐まれに2岐する。画像では右端の花柱の柱頭のみが2岐しており、他はみな3岐している。

Fig.16 幼個体。(滋賀県・湿原 2014.8/31)
  中央と左上がツクシカンガレイの幼個体。発芽すると2〜3枚の扁平な葉を出し、その後3稜ある茎を上げる。

生育環境と生態
Fig.17 溜池の湿原で群生するツクシカンガレイ。(京都府・溜池 2013.10/2)
横走根茎を持つツクシカンガレイは面的に広がりを持った群落を形成するようだ。
ここでは泥中に横走根茎を張り巡らし、密な群落を形成しており、見る者を圧倒する。
湿原には酸性土壌が堆積し、オオミズゴケ、イヌノハナヒゲ、ミカヅキグサ、イヌノヒゲ、シロイヌノヒゲ、ヒメカリマタガヤ、ミミカキグサ、
ホザキノミミカキグサ、ミズオトギリなどが見られ、ツクシカンガレイ群落の周囲ではイヌノハナヒゲ群落が発達していた。
ツクシカンガレイ群落の密な部分ではほとんど純群落となり、随伴種がほぼ見られなかった。

Fig.18 湿原でコマツカサススキと混生するツクシカンガレイ。(滋賀県・湿原 2014.8/31)
もとは広大な湿原だったと思われる放置された造成地跡に、ツクシカンガレイの大きな群落が見られた。
湿原は分水界に位置しており、表層には泥炭が見られるため、かつてはかなり面白い湿原が広がっていたはずである。
撹乱された痕を示すようにイグサ、ヤマイ、アゼスゲ、シカクイ、コアゼガヤツリが多く、かつての植生の一端を思わせるイヌノハナヒゲとともに、
ツクシカンガレイがコマツカサススキを伴って群生している。
湿原内に見られるヒロハイヌノヒゲ、イボクサ、アゼトウガラシ、サワトウガラシ、マルバノサワトウガラシ、アゼナ、ヤノネグサ、ミソハギなどの
本来は水田とその周辺に出現する草本は、イノシシやシカなどの野生動物によって山麓の棚田から持ち込まれたものだろう。

【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。)
星野卓二・正木智美, 2011.ホタルイ属. 星野卓二・正木智美・西本眞理子『日本カヤツリグサ科植物図譜』 670〜687. 平凡社
筒井貞雄. 1983. 福岡県のカヤツリグサ科植物予報(1). 福岡の植物 8:69〜78. 福岡植物研究会
筒井貞雄. 1983. ツクシカンガレイ続報. 福岡の植物 9:105〜112. 福岡植物研究会
筒井貞雄. 1984. ツクシカンガレイの新産地. 福岡の植物 10:213〜216. 福岡植物研究会
早坂英介・佐藤千芳. 2004. カヤツリグサ科フトイ属の1新種、ツクシカンガレイ. 植物研究雑誌 79(5):322-325.
松岡成久 2010. 兵庫県産カヤツリグサ科フトイ属カンガレイ類の形態的特徴と分布. 兵庫の植物 20:1〜14. 兵庫県植物誌研究会.

最終更新日:13th.Oct.2014

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