アイノコカンガレイ Schoenoplectiella x uzenensis  (Ohwi ex T.Koyama) Hayas. カヤツリグサ科 ホソガタホタルイ属
抽水〜湿性植物 (雑種)
Fig.2 (兵庫県小野市・溜池 2014.10/11)

溜池の浅水域、湿地などに生育する多年草。ヒメホタルイとカンガレイの雑種で、両種の混生地に稀に見られる。
地下に短い根茎があり、茎を叢生する。有花茎は鈍3稜形で、平滑、高さ30〜50cm、幅1〜1.5mm。
花序は仮側生し、無柄の小穂を1〜3個つける。小穂は長楕円形、長さ約1cm、鋭頭、鱗片がらせん状につく。
鱗片は卵形、長さ3〜3.5mm、鋭頭または短芒があり、上部の辺縁はややざらつく。
葯は長さ2〜2.3mm。不稔の集団と捻性のある集団とがあり、痩果は捻性のあるものでは倒卵形で、長さ2〜2.2mm、横断面は扁3稜形。
刺針状花被片は6本、長さは痩果の2倍長、下向きの小刺がまばらに生える。柱頭はおおむね3岐する。染色多数は2n=58。

カンガレイS. triangulata)は池沼や湿地などにふつうに見られ、叢生し、高さ50〜120cm。痩果は広倒卵形で長さ2〜2.5mm。
刺針状花披片は痩果の1.5〜2倍長。葯の長さ1.7〜3.8mm。柱頭はふつう3岐。
ヒメホタルイS. lineolata)は溜池の浅水域に生育し、長い匍匐根茎を持ち、高さ10〜20cm。痩果は広倒卵形で長さ約2mmで扁平。
刺針状花披片は痕跡的か、または痩果の約2倍長。柱頭は2岐する。
近似種 : カンガレイヒメホタルイツクシカンガレイハタベカンガレイヒメカンガレイイヌホタルイホタルイタイワンヤマイ
サンカクイフトイオオフトイシズイ

■分布:本州、九州
■生育環境:溜池、湿地など。
■果期:8〜11月
■西宮市内での分布:市内ではヒメホタルイとカンガレイの混生地はなく、自生地はない。兵庫県内でも稀。

Fig.3 全草標本。(兵庫県小野市・溜池 2014.10/11)
  地下に短い根茎があり、茎を叢生する。有花茎は高さ30〜50cm。

Fig.4 根茎と基部。(兵庫県小野市・溜池 2014.10/11)
  根茎は径3〜4mmで、よく分枝する。ヒメホタルイの匍匐根茎よりも太く、節間は短く詰まる。
  有花茎の基部には2個の厚膜質でやや硬質の鞘がある。

Fig.5 有花茎。(兵庫県小野市・溜池 2014.10/11)
  有花茎は平滑で、径1〜1.5mm。

Fig.6 有花茎の横断面。(兵庫県小野市・溜池 2014.10/11)
  左は花序直下、右は根茎から10cm上の横断面。横断面は鈍3稜形で、下方ほど丸みを帯びる。

Fig.7 苞葉、花序と小穂。(兵庫県小野市・溜池 2014.10/11)
  苞の葉身は有花茎に続き、長さ3〜10cm、斜上する。
  花序は仮側生し、無柄の小穂を1〜3個つける。小穂は長楕円形、長さ約1cm、鋭頭、鱗片がらせん状につく。

Fig.8 鱗片。(兵庫県小野市・溜池 2014.10/11)
  鱗片は卵形、長さ3〜3.5mm、鋭頭または短芒があり、上部の辺縁はややざらつく。

Fig.9 不稔の痩果。(兵庫県小野市・溜池 2014.10/11)
  この集団は不稔の集団で、正常に結実したものは見られなかった。

Fig.10 不稔痩果の拡大。(兵庫県小野市・溜池 2014.10/11)
  下向きの小刺がある長い刺針状花披片が5本見える。

Fig.11 葯。(兵庫県小野市・溜池 2014.10/11)
  葯は長さ2〜2.3mm。不稔ではあるが、葯室は開いて花粉を放出していた。

Fig.12 花粉。(兵庫県小野市・溜池 2014.10/11)
  花粉は内部が充実しておらず、不稔だった。

生育環境と生態
Fig.13 溜池の浅水域に生育するアイノコカンガレイ。(兵庫県小野市・溜池 2014.10/11)
ヒメホタルイは以前から生育していたが、カンガレイはここ2、3年のうちに現れたもので、アイノコカンガレイは昨年か今年現れたものだろう。
ヒメホタルイは溜池の浅瀬に点在し、カンガレイはあまり年を経ていない小さな数株が、アイノコカンガレイの廻りに見られる。
画像には周囲にコアゼガヤツリやコウガイゼキショウが見られるが、これらの種もかつては見られなかったものだ。
これら多くの種が出現したのは2014年の夏に降雨が多かったためなのだろう。
この溜池では広大な面積をアゼスゲが優占し、チゴザサ、ヌマカゼクサ、スズメノコビエ、イヌノハナヒゲ、メアゼテンツキ、クロテンツキ、
ホソバノウナギツカミ、キクモ、アゼトウガラシ、アゼナ、サワトウガラシ、フタバムグラなどの湿性植物が見られる。


【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。)
大井次三郎, 1982. カヤツリグサ科ホタルイ属. 佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎・旦理俊次・冨成忠夫 (編)
       『日本の野生植物 草本1 単子葉類』 p.176〜179. pl.160〜162. 平凡社
小山鐡夫, 2004 カヤツリグサ科ホタルイ属. 北村四郎・村田源・小山鐡夫 『原色日本植物図鑑 草本編(3) 単子葉類』 p.212〜217. pl.54〜55. 保育社
谷城勝弘, 2007. フトイ属. 『カヤツリグサ科入門図鑑』 152〜164. 全国農村教育協会
星野卓二・正木智美・西原真理子. 2011. ホタルイ属. 『日本カヤツリグサ科植物図譜』 670〜687. 平凡社
黒崎史平・松岡成久・高橋晃・高野温子・山本伸子・芳澤俊之 2009. アイノコカンガレイ. 兵庫県産維管束植物11 カヤツリグサ科. 人と自然20:178.
       兵庫県立・人と自然の博物館

最終更新日:15th.Oct.2014

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