ホタルイ Schoenoplectiella hotarui  (Ohwi) J.D.Jung et H.K.Choi カヤツリグサ科 ホソガタホタルイ属
湿生〜抽水植物
Fig.1 (西宮市・砂防ダム内湿地 2007.8/2)

Fig.2 (京都府亀山市・溜池土堤直下 2013.8/14)

平地〜低山の溜池畔や湿地に生える1年草、または多年草。
多数の茎が叢生して株となり、茎は高さ20〜60cm、径0.7〜1mm、細い円柱形で、濃緑色、平滑で稜や条線は不明瞭。
基部の鞘は長さ6cmにもおよび、膜質で、口部は斜め切形。
小穂は広卵形で1〜5個、長さ8〜16mm、幅5〜6mm、やや鋭頭、または鈍頭。苞葉は円柱状で、正面に浅い溝があり、長さ3〜7cm。
雌蕊柱頭は3岐し、近似種の雌蕊柱頭が2岐するイヌホタルイS. juncoides)と区別できる。
鱗片は卵円形で、中央は緑色でその両側は褐色を帯び、円頭。
痩果は広倒卵形で、黒褐色、長さ約2mm、横断面は3稜形。刺針状花被片は5〜6個付き、痩果とほぼ同長で、下向きの小刺がある。2n=35,44。

ホタルイはイヌホタルイ同所的に見られることもあるが、イヌホタルイと比べて、どちらかというと貧栄養な環境を好むようで、
水田や休耕田で見かけることは少ない。あるいは、除草剤に対する抵抗力が、イヌホタルイよりも劣るのかもしれない。

イヌホタルイS. juncoides)はほとんどの柱頭は2岐し、痩果の横断面は凸レンズ形、小穂はふつう長卵形となるが変異が多い。
タイワンヤマイS. wallichii)はホタルイに似るが、花序の上方に伸びる苞葉が長く、6〜16cmあり、小穂は披針形で長い。
小穂は熟しても緑色を保ち、雌蕊柱頭は2岐、痩果につく刺針状花被片は、痩果の1.5〜1.7倍長。
コホタルイS. komarovii)は花序に小穂が多数つき、小穂の長さ5〜8mm。痩果は長さ1.2〜1.5mm。柱頭は2岐する。
ミヤマホタルイS. hondoensis)は匍匐根茎があり、花序の小穂は2〜4個。小穂の長さ4〜8mm。痩果の長さ1.5〜1.8mm。柱頭は3岐。
カンガレイとの種間雑種はサンカクホタルイS. hotarui×triangulata)とされ、茎の高さ70cm以内、径1〜5mm。
小穂はやや鋭頭で細く、3〜5個つき、痩果の長さ約2.3mm。ホタルイのように密に叢生する。シカクホタルイはこれのシノニムである。
イヌホタルイとの混生地域では稀に雑種であるホタルイモドキS. ×juncohotarui)が生じることがある。
雌蕊柱頭は2岐のものと3岐のものが混じり、ほとんど結実しないという。
ハタベカンガレイとの混生地では推定雑種イヌサンカクホタルイS. hotarui×gemmifera)が生じることがある。2n=56,60。
ツクシカンガレイとの混生地では推定雑種ネヒキサンカクホタルイS. hotarui×multiseta)が生じることがある。2n=48,58。
近似種 : イヌホタルイタイワンヤマイサンカクホタルイイヌホタルイ x カンガレイコホタルイ、 ミヤマホタルイ、 シズイ
ヒメホタルイコツブヒメホタルイカンガレイヒメカンガレイツクシカンガレイハタベカンガレイアイノコカンガレイ

■分布:北海道、本州、四国、九州、沖縄
■生育環境:溜池畔や湿地など。
■花期:7〜9月
■西宮市内での分布:中部から北部にかけて普通に見られる。

Fig.3 全草標本。(西宮市・溜池 2009.9/22)
  根茎は短く、叢生して株となる。画像のものは溜池で抽水状態で生育していたもので、クローン株の抽出が著しい。

Fig.4 小穂。(西宮市・砂防ダム内湿地 2007.8/5)
  小穂は仮側生し、3〜5個つく。小穂上部の茎に見えるものは、茎ではなく苞葉。
  小穂は広卵形で、先端はやや鋭頭か鈍頭。

Fig.5 小穂の形状。(神戸市・湿地/休耕田 2013.10/22)
  左の2個は典型的なホタルイの花序。右の2個は休耕田に生育していた生育状態のよいものの花序。
  生育の良いものはイヌホタルイの花序に似る。

Fig.6 近縁2種との花序比較。(神戸市・休耕田 2013.10/22)
  全て同じ休耕田に生育しているもの。タイワンヤマイは小穂に対する苞葉の長さや、緑色を保った細長い小穂が特徴的。
  生育の良いホタルイの小穂とイヌホタルイの小穂の形状による区別は難しい。
  ホタルイとイヌホタルイの苞葉の長さは変異が多く、その長さで両種を区別するのは難しい。

Fig.7 幅の広い鱗片から3岐する雌蕊柱頭がのぞく。(西宮市・溜池畔 2007.8/19)
  同属のイヌホタルイでは雌蕊柱頭のほとんどが2岐する。

Fig.8 鱗片の上縁は微鋸歯が並び、ややざらつく。(兵庫県加東市・溜池畔 2014.10/11)

Fig.9 柱頭は3岐する。(神戸市・休耕田 2013.10/22)
  ごく稀に2岐するものも混じるが、安定して3本であることがほとんどである。


Fig.10,11 痩果。(神戸市・休耕田 2013.10/22)
  痩果は広倒卵形で、黒褐色、長さ幅ともに約2mm、横断面は3稜形。
  刺針状花被片は5〜6個付き、痩果とほぼ同長で、下向きの小刺がある。

Fig.12 痩果表面には横しわがある。(兵庫県加東市・溜池畔 2014.10/11)

Fig.13 イヌホタルイとの痩果比較。(兵庫県加東市・溜池畔 2014.10/11)
  ホタルイの痩果の横断面は扁3稜形で中央稜が盛り上がるが、イヌホタルイは片側が少しふくらんだ凸レンズ形となる。

Fig.14 小穂基部から多数芽生したホタルイ。(西宮市・溜池畔 2007.8/31)
  抽水状態、特に溜池で生育する個体には、小穂からクローン株を芽生する傾向が強い。
  不定芽の基部には、すでに親株同様の鞘があり、苞葉の基部には小穂を生じている。
  近似種のイヌホタルイやタイワンヤマイでは、まだこのような芽生する例を観察していない。

西宮市内での生育環境と生態
Fig.15 貧栄養な溜池で抽水状態で生育するホタルイ。(西宮市・溜池畔 2007.8/31)
貧栄養下、抽水状態で生育するものは、多少茎が細身を帯びる。
この個体は多数の芽生が見られ、苞葉基部から小穂をつけずに、そのままクローン株を付けている茎もある。
これほど多数生産されたクローンが、翌年にはどうなるのか興味深いところだ。
このように芽生する個体は他の場所でも観察しているが、比較的早期に抽出した茎から生じていることが多いように思われる。
今年はそのあたりを意識しながら観察してゆきたい。

他地域での生育環境と生態
Fig.16 湛水休耕田でイヌホタルイと混生するホタルイ。(神戸市・休耕田 2013.9/8)
自然公園として親水施設として残された湛水休耕田にイヌホタルイ、タイワンヤマイとともに混生している。
休耕田内にはイヌホタルイが最も多く、ホタルイの個体数は半分以下、タイワンヤマイは1個体のみだった。
相対的な差ではあるが、ホタルイの草体は緑色のものが多く、イヌホタルイは黄緑色のものが多く、混生地ではある程度の指標となる。
同じ休耕田内ではタイヌビエ、タマガヤツリ、コゴメガヤツリ、ヒデリコ、コウガイゼキショウ、ヤナギタデ、ボントクタデ、コナギ、コケオトギリ、
アメリカセンダングサ、トキンソウなどの一般的な水田雑草とともにエゾアブラガヤが生育している。

【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。)
大井次三郎, 1982. カヤツリグサ科ホタルイ属. 佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎・旦理俊次・冨成忠夫 (編)
       『日本の野生植物 草本1 単子葉類』 p.176〜179. pls.160〜162. 平凡社
小山鐡夫, 2004 カヤツリグサ科ホタルイ属. 北村四郎・村田源・小山鐡夫 『原色日本植物図鑑 草本編(3) 単子葉類』 p.212〜217. pls.54〜55. 保育社
大滝末男, 1980 ホタルイ. 大滝末男・石戸忠 『日本水生植物図鑑』 158,159. 北隆館
角野康郎, 1994. カヤツリグサ科ホタルイ属. 『日本水草図鑑』 96〜102. 文一統合出版
堀内洋. 2001. カヤツリグサ科ホタルイ属(狭義). 神奈川県植物誌調査会(編)『神奈川県植物誌 2001』 435〜439. 神奈川県立生命の星・地球博物館
星野卓二・正木智美, 2003. ホタルイ属. 星野卓二・正木智美・西本眞理子『岡山県カヤツリグサ科植物図譜(U)』 120〜137. 山陽新聞社
谷城勝弘, 2007. フトイ属. 『カヤツリグサ科入門図鑑』 152〜164. 全国農村教育協会
小林禧樹・黒崎史平・三宅慎也. 1998. ホタルイ. 『六甲山地の植物誌』 252. (財)神戸市公園緑化協会
村田源. 2004. ホタルイ. 『近畿地方植物誌』 166. 大阪自然史センター
黒崎史平・松岡成久・高橋晃・高野温子・山本伸子・芳澤俊之 2009. ホタルイ. 兵庫県産維管束植物11 カヤツリグサ科. 人と自然20:176.
       兵庫県立・人と自然の博物館
矢野悟道・竹中則夫. 1978. 甲山湿原(仁川地区)の植生調査並びに保全に関する報告書. 西宮市自然保護課
内野明徳 1999. 多変量解析・分子遺伝学的手法によるホタルイ属植物の系統分類学的解析. 熊本大学

最終更新日:4th.Nov.2014

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