タイワンヤマイ Schoenoplectiella wallichii  (Nees) Lye カヤツリグサ科 ホソガタホタルイ属
湿生植物
Fig.1 (兵庫県三田市・休耕田 2007.10/7)

Fig.2 (神戸市・休耕田 2013.9/8)

水田や休耕田、日当たりのよい湿地に生育する1〜多年草。
東北地方では水田に大発生して強害草とされるが、西日本の低地では自生地は比較的少ない。
株は叢生し、高さ15〜40cm。稈は細い円筒形で、径1.5mm未満、やや明瞭な稜が4〜5個ある。
花序が無柄で、小穂が1〜3個仮側生する点はホタルイやイヌホタルイに似るが、小穂は長楕円状の披針形で長く、熟しても緑色を保ち、
苞葉は6〜16cmと長い点で区別できる。
痩果を包む鱗片には短い芒があり、雌蕊柱頭は2岐する。

【メモ】 過去に溜池からの記録があり、その場所を訪れたが自生する池は打ちっぱなしのゴルフ場となり絶滅した。
     タイワンヤマイはこれまで水田や休耕田でしか確認したことがなく、溜池に出現するのは稀なことではないだろうか。
カンガレイとの種間雑種にオグライ(オグラカンガレイ)S. ×oguraensis)がある。小穂は赤褐色で、茎は太く3稜形となる。
また、イヌホタルイとの種間雑種にイヌタイワンヤマイモドキS. wallichii ×S. juncoides)があるようだが、詳細は不明。
近似種 : イヌホタルイホタルイシズイヒメホタルイコツブヒメホタルイアイノコカンガレイヤマイ

■分布:北海道、本州、四国、九州 ・ 朝鮮半島、台湾、中国、インドネシア、インド
■生育環境:水田、休耕田、明るい湿地など。
■花期:8〜10月
■西宮市内での分布:北部棚田の休耕田で生育を確認した。
              県下での標本数は少ないが、丹波・北播地域には比較的普通に見られる。
              ホタルイやイヌホタルイと混同されて標本が採られていないだけだろう。

Fig.3 全草の様子。(兵庫県三田市・休耕田 2007.10/7)
  茎は叢生する。
  茎と苞葉のうち、苞葉の占める割合は、ホタルイやイヌホタルイと較べて、タイワンヤマイのほうがはるかに長い。
  採取したものは果実期も終わりちかく、鱗片が剥落し、周囲には痩果が散らばっている。
  背景の四角いマス目は1辺が5cm。

Fig.4 花序は小穂が1〜3個、仮側生する。(兵庫県三田市・休耕田 2007.10/7)
  茎には明瞭な稜があるのが見える。稜は4〜5個ある。

Fig.5 果実期のタイワンヤマイの小穂。(兵庫県三田市・休耕田 2007.10/7)
  種子は熟しきって、すでに鱗片とともに剥落するような状態だが、鱗片は緑色を保っている。
  鱗片の中肋は突出して短い芒となる。
  画像ではやや不鮮明だが、鱗片の先端からは2岐する雌蕊柱頭がのぞく。

Fig.6 痩果は長さ約1.5mm。広倒卵形で濃褐色で光沢がある。(兵庫県三田市・休耕田 2007.10/7)
  刺針状花被片は4個付き、痩果よりも長く1.5〜1.7倍。下向きの小刺がある。
  痩果の横断面は鱗片に接する外側に凸出し、中軸に接する内側はやや扁平気味。

Fig.7 茎の横断面。(兵庫県三田市・休耕田 2007.10/7)
  断面は5稜あるが、かなりいびつな形をしており、径1.5mm未満。
  稜となる部分には維管束の集合組織があるのが解る。

西宮市内での生育環境と生態
Fig.8 休耕田に生育するタイワンヤマイ。(西宮市・休耕田 2010.9/20)
イノシシによる害によって中途耕作放棄された休耕田内に数個体が生育していた。
よく訪れる場所だが、耕作されている時にはタイワンヤマイの生育には気付かなかった。おそらく畦近くには生育していなかったのだろう。
同所的にタイヌビエ、イボクサ、ハリイ、イヌシカクイ、イグサ、イヌホタルイ、ウシクグ、アゼナ、ノミノフスマなどが生育している。

他地域での生育環境と生態
Fig.9 水田内に生育するタイワンヤマイ。(兵庫県三田市・水田 2008.8/17)
数多くのイヌホタルイの中に、1株だけタイワンヤマイが生育していた。
水田内にはアメリカアゼナ、コナギが多く、畦にはヒデリコとクロテンツキが見られた。

Fig.10 刈取り後の水田に生育するタイワンヤマイ。(兵庫県加古川市・水田 2011.10/29)
夏期に成長した長い有花茎は倒れ込んで枯れかかり、その後新たに生じた丈の低い有花茎が花序をつけて結実していた。
水田内にはチョウジタデ、ホソバヒメミソハギ、キカシグサ、アゼナ、アゼトウガラシ、ヌカキビ、タネツケバナ、コオニタビラコが見られた。
ここでの個体数はわずか5株と少なく、兵庫県南部ではやや稀な種のようである。

【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。)
大井次三郎, 1982. カヤツリグサ科ホタルイ属. 佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎・旦理俊次・冨成忠夫 (編)
       『日本の野生植物 草本1 単子葉類』 p.176〜179. pls.160〜162. 平凡社
小山鐡夫, 2004 カヤツリグサ科ホタルイ属. 北村四郎・村田源・小山鐡夫 『原色日本植物図鑑 草本編(3) 単子葉類』 p.212〜217. pls.54〜55. 保育社
角野康郎, 1994. カヤツリグサ科ホタルイ属. 『日本水草図鑑』 96〜102. 文一統合出版
堀内洋. 2001. カヤツリグサ科ホタルイ属(狭義). 神奈川県植物誌調査会(編)『神奈川県植物誌 2001』 435〜439. 神奈川県立生命の星・地球博物館
星野卓二・正木智美, 2003. ホタルイ属. 星野卓二・正木智美・西本眞理子『岡山県カヤツリグサ科植物図譜(2)』 120〜137. 山陽新聞社
谷城勝弘, 2007. フトイ属. 『カヤツリグサ科入門図鑑』 152〜164. 全国農村教育協会
村田源. 2004. タイワンヤマイ. 『近畿地方植物誌』 167. 大阪自然史センター
黒崎史平・松岡成久・高橋晃・高野温子・山本伸子・芳澤俊之 2009. タイワンヤマイ. 兵庫県産維管束植物11 カヤツリグサ科. 人と自然20:178.
       兵庫県立・人と自然の博物館

最終更新日:25th.May.2014

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