イヌホタルイ Schoenoplectiella juncoides  (Roxb.) Lye カヤツリグサ科 ホソガタホタルイ属
湿生植物
Fig.1 (兵庫県篠山市・水田 2010.7/31)

Fig.2 (西宮市・休耕田 2007.8/5)

水田や農耕地周辺の湿地、休耕田、溜池畔などに生える多年草。
茎は高さ20〜70cm、幅1.5〜3mmで、不明瞭な5〜6稜がある。
花序は仮側生し、長楕円形〜狭卵形の小穂が2〜9個つく。
痩果は広倒卵形で、長さ1.5〜2.3mm。刺針状花被片は5〜6個つき、痩果と同長か短く、下向きの小刺を散生する。
柱頭はほとんどが2岐するが、3岐するものも混じることがある。この場合、3岐するもののうち、どれか1本が短いことが多い。

本種は除草剤に対する対抗性も高く、水田雑草のなかでも駆除しにくい草本として知られる。
より自然度の高い場所に生育する変種のホタルイ(var. hotarui)とは小花の雌蕊柱頭の数によって区別される。
イヌホタルイは柱頭がほとんどのものが2岐し、ホタルイではほぼ3岐する。
ときに両種が混生することもあり、ごく稀に両種の雑種であるホタルイモドキS. ×juncohotarui)が生じることがある。
雌蕊柱頭は2岐のものと3岐のものが混じり、ほとんど結実しないという。
また、カンガレイとの種間雑種イヌホタルイ x カンガレイS. juncoides ×S. triangulata)は茎がいびつな4角形または不完全な5角形で、
小穂は細長く伸びてねじれ、結実にはばらつきが多く、不完全である。
また、西日本では比較的稀なタイワンヤマイS. wallichii)は、花序の上方に伸びる苞葉が長く、6〜16cmあり、小穂は披針形で長い。
小穂は熟しても緑色を保ち、雌蕊柱頭は2岐、痩果につく刺針状花被片は、痩果の1.5〜1.7倍長。
コホタルイS. komarovii)は花序に小穂が多数つき、小穂の長さ5〜8mm。痩果は長さ1.2〜1.5mm。柱頭は2岐する。
ミヤマホタルイS. hondoensis)は匍匐根茎があり、花序の小穂は2〜4個。小穂の長さ4〜8mm。痩果の長さ1.5〜1.8mm。柱頭は3岐。
近似種 : ホタルイタイワンヤマイサンカクホタルイイヌホタルイ x カンガレイコホタルイ、 ミヤマホタルイ、 シズイヒメホタルイ
       コツブヒメホタルイカンガレイヒメカンガレイアイノコカンガレイ

■分布:北海道、本州、四国、九州、沖縄
■生育環境:水田や休耕田とその周辺の湿地など。
■果実期:7〜10月
■西宮市内での分布:市内全域で見られるが、中部以北の水田や休耕田に多い。


Fig.3 全草標本。(西宮市・用水路 2009.8/1)
  茎は高さ20〜70cm、太さは生育条件によって変異が著しく径1.5〜3mm。

Fig.4 基部。(西宮市・用水路 2009.8/1)
  根茎は短く叢生する。茎の基部には鞘が2〜3個ある。

Fig.5 茎の横断面。(西宮市・用水路 2009.8/1)
  茎には5〜6稜がある。

Fig.6 イヌホタルイの花序。(西宮市・用水路 2009.8/1)
  花序は偽側生(仮側生)する。

Fig.7 近縁2種との花序比較。(神戸市・休耕田 2013.10/22)
  タイワンヤマイとの差は明瞭であるが、生育状態のよいホタルイの花序はイヌホタルイのものと酷似する。

Fig.8 小穂。(西宮市・用水路 2009.8/1)
  花期の小穂はホタルイに似て卵形に近いが、雌蕊柱頭はほとんどのものが2岐し、ほぼ3岐するホタルイと区別できる。

Fig.9 イヌホタルイの雌蕊柱頭。(神戸市・休耕田 2013.10/22)
  雌蕊柱頭はふつう多くのものが2岐する。稀に3岐するのもが混じるが、その場合は1本が短くなることが多い。
  確実にホタルイと区別するためには、小穂1個の柱頭を全て調べることが望ましい。


Fig.10,11 痩果。(神戸市・休耕田 2013.10/22)
  痩果は広倒卵形で、長さ1.5〜2.3mm。刺針状花被片は5〜6個つき、痩果と同長か短く、下向きの小刺を散生する。
  痩果の横断面は片側(背軸側)が緩やかに盛り上がった凸レンズ形で、ホタルイのような中央稜の突出はない。
  ホタルイとの痩果比較はホタルイのページを参照。

西宮市内での生育環境と生態
Fig.12 棚田の休耕田で生育するイヌホタルイ。(西宮市・休耕田 2006.9/21)
人為的な二次的自然度が高い棚田の休耕田に生育しているイヌホタルイで、同じ休耕田の湛水箇所ではヤナギスブタやヒツジグサ、
クログワイなどが見られる。
休耕田は全体にチゴザサとヤノネグサ、セリ、イボクサの群落が発達し、その間にイヌホタルイ、ウシクグ、ヒメクグ、ヒデリコ、テンツキ、
コアゼガヤツリ、コゴメガヤツリなどのカヤツリグサ科植物のほかサワヒヨドリ、タウコギ、アキノウナギツカミ、オオチドメ、ハイヌメリ、
ヌメリグサ、コブナグサ、ヒメアブラススキなどの典型的な休耕田の植生が見られる。

Fig.13 休耕田のチゴザサ群落中に生育するイヌホタルイ。(西宮市・休耕田 2007.8/30)
管理放棄された山間の棚田にある休耕田で、チゴザサ、シカクイ、コブナグサの群落が発達する。
イヌホタルイはコウガイゼキショウ、ヒロハノコウガイゼキショウ、イグサ、ヒメヒラテンツキ、ヒデリコ、ウシクグ、ハイヌメリグサなどとともに点在する。

他地域での生育環境と生態
Fig.14 溜池の浅瀬で抽水状態で生育するイヌホタルイ。(兵庫県神戸市・溜池 2011.9/25)
周辺には休耕田が多く、溜池はやや富栄養であり、ヒメガマ、カンガレイ、イボクサ、アゼナ、ヘラオモダカなどが見られ、カンガレイとイヌホタルイの
種間雑種である、シカクホタルイも見られた。

【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。)
大滝末男, 1980 ホタルイ. 大滝末男・石戸忠 『日本水生植物図鑑』 158〜159. 北隆館
大井次三郎, 1982 カヤツリグサ科ホタルイ属. 佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎・旦理俊次・冨成忠夫 (編)
       『日本の野生植物 草本1 単子葉類』 pp.176〜179. pls.160〜163. 平凡社
小山鐡夫, 2004 カヤツリグサ科ホタルイ属. 北村四郎・村田源・小山鐡夫 『原色日本植物図鑑 草本編(3) 単子葉類』 pp.212〜217. pls.54〜55. 保育社
角野康郎, 1994 カヤツリグサ科ホタルイ属. 『日本水草図鑑』 96〜100. 文一統合出版
堀内洋. 2001. カヤツリグサ科ホタルイ属(狭義). 神奈川県植物誌調査会(編)『神奈川県植物誌 2001』 435〜439. 神奈川県立生命の星・地球博物館
星野卓二・正木智美, 2003 ホタルイ属. 星野卓二・正木智美・西本眞理子『岡山県カヤツリグサ科植物図譜(U)』 108〜137. 山陽新聞社
谷城勝弘, 2007 フトイ属. 『カヤツリグサ科入門図鑑』 152〜164. 全国農村教育協会
小林禧樹・黒崎史平・三宅慎也. 1998. イヌホタルイ. 『六甲山地の植物誌』 252. (財)神戸市公園緑化協会
黒崎史平・松岡成久・高橋晃・高野温子・山本伸子・芳澤俊之 2009. イヌホタルイ. 兵庫県産維管束植物11 カヤツリグサ科. 人と自然20:176.
       兵庫県立・人と自然の博物館

最終更新日:30th.July.2014

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