カンガレイ Schoenoplectiella triangulata  (Roxb.) J.D.Jung et H.K.Choi カヤツリグサ科 ホソガタホタルイ属
湿生〜抽水植物

Fig.1 (愛知県・溜池畔 2005.10/13)

Fig.2 (兵庫県篠山市・溜池畔 2012.7/28)

日当たりのよい湿地や溜池、河川敷などに生育する大型の多年草。抽水状態で生育していることが多い。
根茎は短く密に叢生して大株となり、密生した群落をつくることがある。
茎は高さ50〜120cmなり、直立または斜上し、横断面は鋭3稜形、稜には微小な下向きの突起があり、ややざらつく。
一辺の幅は5〜10mm。辺面は平滑で、濃緑色。
花序は仮側生し、無柄の4〜20個の小穂が、放射状に1つの基部に密着してつく。苞葉の葉身は茎に続き、長さ3〜10cm。
小穂は長卵形で、長さ1〜2cm、鋭頭で淡緑色。鱗片は密に圧着し、卵形、長さ4〜5mmで、上縁はざらつく。
葯は線形で長さ約2.5mm。雌蕊柱頭は3岐する。
痩果は広倒卵形で、長さ2〜2.5mm、ほとんど平滑で、横断面は扁3稜形。
刺針状花被片は5〜6個つき、長さは痩果の1.5〜2倍、下向きの小刺がある。

カンガレイと酷似するものに、以下の種がある。
 ・ホソイリカンガレイ(subsp. robustus)…カンガレイの亜種で、サンカクイのような花序枝を持つ。
 ・ハタベカンガレイS. gemmifera)…流水中では線形の沈水葉を生じる。陸生形の場合、小穂とともに気中形のクローン株を芽生し、
                        苞葉まで沈水すると、沈水形を芽生する。茎の稜上には小突起はなく、雌蕊柱頭のほとんどが2岐する。痩果の横断面は両凸形。
                        刺針状花被片は6〜7個あり、痩果と同長または短い集団と、痩果の1.5〜1.8倍長の集団とがある。
 ・ツクシカンガレイS. multiseta)…地下に横走根茎を持ち、節から1本づつ茎を立ち上げ、節間の長さ1.5〜4cm。
                        苞葉の長さ0.6〜3cm。刺針状花被片は3〜10個で、痩果と同長または少し短いか稀に長い。痩果の横断面は扁3稜形〜レンズ形。
 ・ヒメカンガレイS. mucronata)…カンガレイより小型で、小穂は卵形、長さ6〜10mm。痩果は倒卵形で長さ1.5〜1.8mm、横断面3稜形。
                       刺針状花被片はふつう6個、痩果とほぼ同長か短く、下向きの小刺がある。山地性。
    - ヒメカンガレイには以下の様々な変種がある。 -
   ・イヌヒメカンガレイ(var. antrorsispinulosus)…刺針状花被片の小刺は上向き。採集記録は岡山県内のみ。
   ・タタラカンガレイ(var. tataranus)…茎の稜に明瞭な翼を持つ。
                          刺針状花被片は痩果よりも長く、下向きの小刺がある。攪乱された環境に生じる。
                          刺針状花被片が平滑で、痩果の1/2以下のものは変種内品種チョビヒゲタタラカンガレイ
                           (f. brevisetaceus)とされる。
   ・ロッカクイ(var. ishizawae)…タタラカンガレイに似るが、翼が大きく、窪みが少ない為、茎に6つの稜があるように見える。
                      刺針状花被片は痩果よりもやや短いか同長。新潟、福井、兵庫、福岡、熊本、鹿児島で記録。自然度の高い湿地に生育。
イヌホタルイとの種間雑種にイヌホタルイ x カンガレイS. triangulata ×S. juncoides)があり、両種の混生地に生じる。
イヌホタルイのような姿で、茎はいびつな4稜形。小穂は長くねじれ、痩果には大小があり、結実は不完全である。
ホタルイとの種間雑種はサンカクホタルイS. hotarui×triangulata)とされ、茎の高さ70cm以内、径1〜5mm。
小穂はやや鋭頭で細く、3〜5個つき、痩果の長さ約2.3mm。ホタルイのように密に叢生する。シカクホタルイはサンカクホタルイのシノニムである。
ヒメホタルイとの種間雑種はアイノコカンガレイS. ×uzenensis)とされ、茎の高さ50cm以内、径3mm以下で、短い根茎がある。
小穂は1〜2個つき、披針形、褐色で鋭頭。
また、タイワンヤマイとの種間雑種にオグライ(オグラカンガレイ)S. ×oguraensis)があり、小穂は赤褐色で、茎は太く3稜形となる。
ツクシカンガレイとの種間雑種にチクホウカンガレイ(筒井仮称)があり、根茎の節間は詰まり、苞葉の長さ1.3〜4.0cmでツクシカンガレイより長く、
痩果の結実率は悪く不完全で、結実果の刺針状花被片の長さは痩果の約1.5倍長。

近似種 : ハタベカンガレイツクシカンガレイヒメカンガレイロッカクイ、 タタラカンガレイ、 イヌヒメカンガレイ、
        シズイサンカクイイヌホタルイホタルイタイワンヤマイフトイオオフトイ
        サンカクホタルイイヌホタルイ x カンガレイアイノコカンガレイ、 オグライ、チクホウカンガレイ

■分布:日本全土、朝鮮半島、中国、インドシナ
■生育環境:溜池、湖沼、湿地、河川、休耕田など。
■花期:8〜10月
■西宮市内での分布:北部の2ヶ所の溜池と休耕田で確認。市内では稀だが、うち1ヶ所では大群生が見られる。
              兵庫県内では普通。

Fig.3 全草標本。(兵庫県香美町・溜池畔 2009.10/10)
  根茎は短く密に叢生する。茎は高さ50〜120cm。

Fig.4 花序は茎に仮側生する。(西宮市・池畔の湿地 2007.8/19)
  花序は多数の小穂からなり、小穂は1点から放射状につく。
  茎の稜上には、下向きの小突起が見える。

Fig.5 小穂。(西宮市・池畔の湿地 2007.8/19)
  小穂は長卵形で、長さ1〜2cm。鱗片の上縁はざらつく。
  3岐する雌蕊柱頭が、鱗片の端から出ている。

Fig.6 痩果。(西宮市・池畔の湿地 2007.8/19)
  痩果は広倒卵形で、長さ2〜2.5mm。
  刺針状花被片は5〜6個つき、長さは痩果の1.5〜2倍。

Fig.7 痩果の拡大。(兵庫県篠山市・溜池畔 2014.10/7)
  刺針状花被片には明瞭な下向きの小刺がある。
  痩果表面には横皺はなく、縦の細かい条線がある。

Fig.8 カンガレイの葯。(西宮市・休耕田 2009.11/10)
  カンガレイの葯の長さはおよそ2.5mm(1.7〜3.8mm)で近似種よりも有意に長く、同定のキーとなりうる。
  ヒメカンガレイはおよそ1.2mm(0.8〜1.7mm)、ハタベカンガレイはおよそ1.5mm(1.4〜1.7mm)、ツクシカンガレイは1.5〜2.3mm。

Fig.9 鱗片の上端部拡大。(西宮市・溜池畔 2008.2/14)
  鱗片は卵形で、長さ4〜5mm、鋭頭で、非常に短い芒がある。
  上縁部には細かい歯牙状の突起が並び、ざらつく。

Fig.10 茎の横断面。(西宮市・池畔の湿原 2007.10/21)
  横断面は鋭3稜形で、表皮はハタベカンガレイやサンカクイに比べて厚い。

Fig.11 茎の縦断面。(西宮市・池畔の湿原 2007.10/21)
  横の隔壁は不連続的だが、所々で連続する箇所があり、密に存在する。
  空隙内には綿糸状の組織があまり見られない。

Fig.12 茎の稜上にある小突起。(西宮市・池畔の湿原 2007.10/21)
  画像向かって右側が基部の方向。小突起は下向きについている。この突起は生体ではルーペでよく判るが、標本では判りにくくなる。

Fig.13 基部。(兵庫県三田市・溜池畔 2007.9/16)
  基部は2〜3個の葉身のない鞘に包まれる。根茎は非常に短く、密に叢生する。

Fig.14 岸辺に打ち上げられたカンガレイのクローン株。(兵庫県姫路市・溜池畔 2008.1/17)
  流れ込み付近にかなりのカンガレイの群生がある池畔に、無数のクローン株が打ち上げられていた。
  親株はすでに地上部は枯れていたが、不定芽はまだ緑色を保っていて、茎は小さいながらも全て3稜あった。
  クローン株の多くが地上に根を下ろしており、非常に小さな小穂をつけていた痕跡のある個体も見られた。
  親株に残存していた小穂と痩果を調べてみたが、ハタベカンガレイではなく、明らかにカンガレイだった。
  多くの自生地を訪ねたが、カンガレイのクローン株がこれほど多く見られる例は珍しいと思う。
  また、クローン株が明らかに繁殖と生育領域の拡大に役立っていることが解った。
  クローン株は全て基部に1個の鞘のある3稜の茎を生じていることから、不定芽がつくられたのは水中ではなく、気中であるように思われる。
  このような気中でクローン株を生じる例はホタルイでも見られる。(参照→ホタルイ
  秋口にもう一度訪れて、クローン株がどのように親株上で形成されているのか確認してみたい。

Fig.15 倒伏して水面上で芽生するカンガレイ。(兵庫県篠山市・溜池 2010.8/19)
  これまで出会った3例目となるカンガレイの芽生する集団である。
  芽生は気中形ばかりで3稜あり、やはりハタベカンガレイのようなテープ状の沈水葉を形成しているクローンは見られなかった。
  さらにカンガレイの芽生例を集めたい。

Fig.16 芽生したクローン株。(兵庫県篠山市・溜池 2010.8/19)
  気中形で茎は3稜形。基部からはすでに長い根を生じていた。

Fig.17 冬期の立ち枯れたカンガレイ。(西宮市・溜池畔 2008.2/14)
  カンガレイは冬期には地上部が完全に枯れて、根茎で越冬する。
  ハタベカンガレイのように半常緑となることはない。

Fig.18 カンガレイの基部に隠れていたネクイハムシの仲間。(兵庫県香美町・溜池畔 2009.10/10)
  Fig.3 を採集し、帰宅後に標本を手入れしていたところ、基部の根際から現れたもの。越冬前のためだろうか、動きは鈍かった。
  ネクイハムシの仲間は湿生・水生植物の豊富な比較的自然度の高い溜池や湿地に生育する。
  こういった良好な湿地環境の減少により、ネクイハムシの仲間も減少しつつある。

  【参考サイト】Web版ネクイハムシ図鑑

Fig.19 カンガレイにつくられたカヤネズミの巣。(兵庫県三木市・溜池 2013.8/7)
  イネ科の湿生草本に巣作りしているのはよく見かけるが、カンガレイに営巣しているのは稀だ。

西宮市内での生育環境と生態
Fig.20 溜池畔で群生するカンガレイ。(西宮市・池畔の湿地 2007.8/19)
画像にはヒメガマも写っているが、同じ抽水性の植物でも、ヒメガマはやや深い場所でも生育できるが、
カンガレイは少し岸寄りの水深の浅い箇所を好む。
この群落ではカンガレイの勢力が強く、ヒメガマは沖のほうに押され気味だった。

他地域での生育環境と生態
Fig.21 溜池で抽水状態で群生するカンガレイ。(兵庫県三木市・池畔 2013.8/7)
池畔から池の中央に向かって順にチゴザサ-アゼスゲ群落、カンガレイ群落、ガマ群落が発達する様子。
チゴザサ-アゼスゲ群落中にはタヌキマメ、ツルマメ、サワヒヨドリ、ボントクタデなどが生育し、カンガレイ群落とガマ群落に重なる形でフトイが生育。
カンガレイやガマの間にはジュンサイ、スイレン(移入)、イヌタヌキモ、アイノコイトモなどが見られた。

Fig.22 休耕田で生育するカンガレイ。(滋賀県・休耕田 2014.8/31)
地下水位が高い琵琶湖畔近くの休耕田に多数のカンガレイが生育していた。
ナガバノウナギツカミとチゴザサが広範囲に占有し、イヌホタルイ、アブラガヤ、コマツカサススキ、シカクイ、ハリイ、ケイヌビエ、ヘラオモダカ、
コナギ、ヤノネグサ、セリ、コケオトギリ、コバノカモメヅル、ゴキヅル、サワオグルマ、アメリカセンダグサ、タウコギなどと混生していた。

【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。)
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大井次三郎. 1982. カヤツリグサ科ホタルイ属. 佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎・旦理俊次・冨成忠夫 (編)
       『日本の野生植物 草本T 単子葉類』 p.176〜179. pls.160〜163. 平凡社
小山鐡夫. 2004. カヤツリグサ科ホタルイ属. 北村四郎・村田源・小山鐡夫 『原色日本植物図鑑 草本編(3) 単子葉類』 p.212〜217. pls.54〜55. 保育社
角野康郎. 1994. カヤツリグサ科ホタルイ属. 『日本水草図鑑』 96〜100. 文一統合出版
堀内洋. 2001. ホタルイ属. 神奈川県植物誌調査会(編)『神奈川県植物誌 2001』 435〜439. 神奈川県立生命の星・地球博物館
星野卓二・正木智美, 2003.ホタルイ属. 星野卓二・正木智美・西本眞理子『岡山県カヤツリグサ科植物図譜(U)』 108〜137. 山陽新聞社
谷城勝弘. 2007. フトイ属. 『カヤツリグサ科入門図鑑』 152〜164. 全国農村教育協会
小林禧樹・黒崎史平・三宅慎也. 1998. カンガレイ. 『六甲山地の植物誌』 253. (財)神戸市公園緑化協会
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最終更新日:9th.Nov.2014

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