タニヘゴ Dryopteris tokyoensis  (Matsumu. ex Makino) C.Chr. オシダ科 オシダ属
湿生植物
Fig.1 (兵庫県丹波市・休耕田跡の湿地 2010.6/3)

山地寄りの湿地や溜池畔などに生える夏緑性の大型シダ。
根茎は直立し、鮮緑色で革質の葉を多数束生する。葉は直立し、ときに1mほどにもなる。
短い葉柄には淡褐色で広披針形〜楕円形全縁の大型鱗片をやや密につける。
葉身は1回羽状複葉で、羽片30〜40対あるいはそれ以上あり、浅〜深裂する。
葉身中央部より葉柄に向かって羽片がしだいに縮小し、葉身の幅が狭くなって全体が倒披針形となる。
ソーラスは大きく、中肋近くに並び、苞膜は円腎形で全縁。染色体数n=41の2倍体。

似たものに以下の3種があり、いずれも湿った林下に生える。
オオクジャクシダD. dickinsii)はソーラスはタニヘゴより小さく羽片の辺縁近くに散在する。鱗片が赤褐色〜褐色。
イワヘゴD. atrata)は羽片が20〜30対、下方の羽片は短縮しない。ソーラスは羽片の全面に散在し、鱗片は黒褐色から光沢のある黒色。
キヨズミオオクジャクD. namegatae)はイワヘゴとオオクジャクシダの中間的な特徴を持つ種で、鱗片はは黒色硬質でほぼ全縁、
ソーラスは辺縁と中間から羽軸よりにつき、葉脈上面が著しくくぼむ。稀。
ツクシイワヘゴD. commixta)は羽片の数17〜18対、鱗片には光沢なく黒褐色〜淡黒色、苞膜の発達は悪い。本州、四国では稀。
ツクシオオクジャクD. handeliana)は全体小型で、鱗片は淡い茶色、上部羽片は急に狭くなって頂羽片状の部分をつくる。
ソーラスは小さく、縁に沿って2列に並ぶ。分布は山口県、高知県、九州。

タニヘゴを片親とする推定種間雑種に以下のものがある。
タニヘゴモドキD. × kominatoensis)はミヤマベニシダとの雑種。北海道、本州中部以北。
ミチノククマワラビD. × wakui)はクマワラビとの雑種。本州、九州。
以上いずれの雑種も兵庫県からの記録はない。
近似種 : オオクジャクシダイワヘゴイヌイワヘゴ、 キヨズミオオクジャク、 ツクシイワヘゴ、 ツクシオオクジャク

■分布:北海道、本州、四国、九州 ・ 朝鮮半島、中国
■生育環境:山地よりの湿地、溜池畔など。
■西宮市内での分布:市内では分布しない。兵庫県下の中部〜北部に自生地が多い。

Fig.2 葉身。(兵庫県丹波市・休耕田跡の湿地 2010.6/3)
  1回羽状複葉。下方の羽片は縮小する。胞子嚢群は葉身の上方の羽片につく。

Fig.3 葉柄の鱗片。(兵庫県丹波市・休耕田跡の湿地 2010.6/3)
  鱗片は淡褐色、広披針形〜楕円形、縁に突起はなく全縁。

Fig.4 下方の羽片。(兵庫県丹波市・休耕田跡の湿地 2010.6/3)
  羽片は下方に向かうにつれて縮小し、最下の羽片は最も小さく、やや斜め下向きにつく。

Fig.5 羽片と中軸。(兵庫県丹波市・休耕田跡の湿地 2010.6/3)
  羽片は浅〜中裂し、裂片の脈はゆるく弓状に湾曲し、上方には鋸歯がある。
  中軸は上面に溝があり、線形の鱗片がまばらに生える。

Fig.6 葉身の下面。(兵庫県丹波市・休耕田跡の湿地 2010.6/3)
  下面は淡緑色。胞子嚢群は葉の上部にある羽片につき、やや大型で羽片の中肋近くにつく。

Fig.7 胞子嚢群(ソーラス)。(兵庫県丹波市・休耕田跡の湿地 2010.6/3)
  最下の裂片には数個の胞子嚢群がつくが、それ以外の裂片では1個ときに2個つく。

Fig.8 苞膜。(兵庫県篠山市・溜池跡の湿地 2013.6/17)
  苞膜は円腎形で、全縁。

生育環境と生態
Fig.9 棚田の土手に生育するタニヘゴ。(兵庫県丹波市・棚田の土手 2010.6/3)
棚田と水路の間の適湿な草地斜面に数株が生育している。すぐ左隣ではイワヒメワラビが密生していた。

Fig.10 休耕田に生育するタニヘゴ。(兵庫県丹波市・休耕田 2010.6/3)
休耕後10数年程度経たと思われる休耕田に点在している。ここに生育するものは野生動物による食害を受けている。
休耕田内にはアゼスゲ、ヌマトラノオが密な場所と、ミゾソバ、ドクダミ、キツネノボタンが多い浅い湛水部分があり、タニヘゴは後者に生育している。
この他にはゴウソ、タチスゲ、ニョイスミレ、ハシカグサ、サワオグルマ、チドメグサなどが見られた。

Fig.11 溜池跡の湿地に生育するタニヘゴ。(兵庫県篠山市・溜池跡の湿地 2013.6/17)
山際の小さな溜池跡の樹木が覆いかぶさった流れ込み部分に小さな群生が見られた。
周辺にはベニシダ、イノデ、イワガネソウ、サトメシダ、ミゾシダ、シケチシダ、ホソバイヌワラビなどのシダ類、ネコノメソウ、ミズタビラコなどの湿生植物、
カキドオシ、ミズヒキ、ダイコンソウ、コナスビ、ミヤマフユイチゴ、ナツフジ、イボタ幼木、イヌツゲ幼木などが見られた。

Fig.12 湿地周縁部に生育するタニヘゴ。(兵庫県香美町・湿地 2015.7/19)
高原にある湿地の周縁部にタニヘゴが点在していた。
ここでは湿地の安定している部分では各種ミズゴケが群落をつくり、ヤマドリゼンマイが群生しているが、タニヘゴは細流脇の比較的撹乱を
受けるような場所にみられ、ヤマミゾソバ、エゾシロネなどと混生していた。

【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。)
牧野富太郎, 1961 タニヘゴ. 前川文夫・原寛・津山尚(補遺・編) 『牧野 新日本植物図鑑』 32. 北隆館
光田重幸, 1986. タニヘゴ. 『しだの図鑑』 pls.95. p.97. 保育社
田中一雄. 2001. オシダ科オシダ属. 神奈川県植物誌調査会(編)『神奈川県植物誌 2001』 83〜100. 神奈川県立生命の星・地球博物館
小林禧樹・黒崎史平・三宅慎也. 1998. タニヘゴ. 『六甲山地の植物誌』 93. (財)神戸市公園緑化協会
白岩卓巳・鈴木武. 1999. タニヘゴ. 兵庫県産維管束植物1 シダ植物門. 人と自然10:97. 兵庫県立・人と自然の博物館

最終更新日:9th.Oct.2015

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