ヤナギタデ Persicaria hydropiper  (L.) Spach タデ科 イヌタデ属
湿生植物
Fig.1 (西宮市・河川敷 2009.12/8)

休耕田、用水路脇、溜池畔、湿地、河川敷などに生育する1年草。
茎は直立し、枝を分け、無毛、高さ30〜80cm。
葉柄は短く、葉身は披針形〜長卵形、両端は細まり、毛が無いか、または中央脈と縁に短毛が生え、両面には透明な小腺点が見られる。
葉身の長さは3〜10cm、幅0.7〜2cm、後を引く強い辛味がある。托葉鞘は筒状膜質で、口部には短い縁毛がある。
総状花序は頂生または腋生して、細長く、ややまばらに花をつけ、上部は下垂し、長さ4〜10cm、花被は4〜5裂し、白色または淡黄緑色、
つぼみや果実期では先が赤味を帯び、腺点が密にあり、長さ2.5〜4mm。雄蕊は6個。柱頭はふつう2岐。
痩果はふつうレンズ状で、卵形または卵円形、細かい縮緬状の隆起があり、光沢はなく、暗褐色、長さ2.5〜3.5mm。

食用とするヤナギタデは変・品種のムラサキタデ、ヒロハムラサキタデ、アイタデ(染料を取るアイタデとは異なる)、サツマタデ、アザブタデ、イトタデなど。
このうち赤紫色のものはムラサキタデ、ヒロハムラサキタデ、サツマタデで、緑色のものはアザブタデ、アイタデ、イトタデで用途により使い分けられている。
よく似たものにボントクタデp. pubescens)がある。
花序はヤナギタデよりまばらで、葉や茎に短い伏毛があるものが多く、托葉鞘の基部には明瞭な伏毛がある。
痩果は長さ2〜2.5mm、ふつう3稜形。葉には辛味はない。
近似種 : ボントクタデサイコクヌカボハルタデサナエタデイヌタデ

■分布:日本全土 ・ 北半球に広く分布
■生育環境:休耕田、用水路脇、溜池畔、湿地、河畔など。
■花期:7〜12月
■西宮市内での分布:山地帯を除いた市内全域に普通。

Fig.2 地上部標本。(西宮市・河川敷 2009.12/8)
  茎は各節からよく分枝する。冬期に採集しているので、茎が赤く色づいている。

Fig.3 葉の表面(上)と裏面(下)。(西宮市・河川敷 2009.12/8)
  葉柄は短く、葉身は披針形〜長卵形、両端は細まり、両面共に毛がない。

Fig.4 葉表面の一部拡大。(西宮市・河川敷 2009.12/8)
  両面ともに非常に微小な腺点がある。葉縁には上向きの短毛が見られる。

Fig.5 托葉鞘。(西宮市・河川敷 2009.12/8)
  膜質で円筒形。筒部の上方には脈上に伏せ毛が見られるものもあるが、基部は無毛。筒部脈間には腺点がある。
  口部の縁には筒部よりも短い毛がある。

Fig.6 開花しはじめた花序。(岡山県真庭市・用水路 2007.9/23)
  開花しはじめの花序にはごくまばらに花がついている。

Fig.7 花序の拡大。(西宮市・河川敷 2009.12/8)
  花被(萼)は4〜5裂(花被片)し、白色または淡黄緑色、中部は淡紅色で、基部は淡緑色。
  花被表面には腺点があり、開花しはじめや開花中の花被片の腺点は透明。つぼみや果実期のものは腺点が黒く見える。
  花序の小苞からは約3個の花が次々と順に現れて開花する。

Fig.8 花。(西宮市・河川敷 2009.12/8)
  雄蕊は6個。柱頭はふつう2岐。柱頭が3岐する花は3稜形の種子をつくると予想される。

Fig.9 冬期の花序。(西宮市・河川敷 2009.12/8)
  ヤナギタデは花期が長く、かなり寒くなっても開花している個体や集団を見る。
  冬期の花序では間も無く寒さによって枯れてしまう危機感からか、花序の小苞から複数の花を間を置かずに出すため
  花序は密に花を付けているように見える。

Fig.10 痩果。(西宮市・河川敷 2009.12/8)
  痩果はふつうレンズ状で、卵形または卵円形、暗褐色、長さ2.5〜3.5mm。
  表面には細かい縮緬状の隆起があるため、肉眼では光沢がないように見える。

Fig.11 一斉発芽した幼植物。(西宮市・ 2012.4/24)
  楕円形で円頭の双葉のほか、本葉が1〜2枚出ている。タデ酢や刺身のつまなど食用に利用されるのは、本葉が出る直前のもの。
  一部に食害があるが、タデが好きな昆虫もいるのだろう。

Fig.12 河原で出芽した集団。(西宮市・渓流畔 2007.4/20)
  花期が長いヤナギタデは種子生産量も半端なものではないのだろう。
  前年にヤナギタデが見られた場所では、このように集団で発芽しているのを見ることができる。

Fig.13 流水域で生育するヤナギタデ。(兵庫県篠山市・小河川 2007.10/7)

Fig.14 湧水河川で生育するヤナギタデ。(滋賀県・水路 2011.9/27)
  湧水起源で水温が低いためか、草体は美しく紅葉していた。

Fig.15 ヤナギタデの葉を後食するサルゾウムシの仲間。(兵庫県三田市・溜池畔 2007.8/23)
  葉の表と裏に1匹づつ(雌雄のペアか?)止まって、葉を後食していた。
  撮影している間は葉に止まっていてくれたが、撮影を終えて採集しようとするとすぐに葉上からポロリと落ちて姿をくらましてしまった。
  画像を「人と自然の博物館」のSさんに見て頂いたところ、サルゾウムシの仲間だろうとのことだった。
  サルゾウムシの仲間にはタデ科を食草とする種が数種いるようである。
  お忙しい中、画像を見て頂いたSさんには感謝いたします。

西宮市内での生育環境と生態
Fig.16 河川低水敷で生育するヤナギタデ。(西宮市・河川敷 2009.12/8)
同じ河川内でも、中洲となっている場所で生育していたヤナギタデの集団はすっかり枯れてしまっていたが、
高水敷に接した湧水が浸出していると思われる水溜りの脇では、いまだに満開の状態だった。
画像右奥はヨシ。他にはアゼナルコ、ヒメガマ、メリケンガヤツリ、ミズヒマワリ、オオオナモミが点在していた。
水溜りの中では、ミナミヌマエビが多数生育して活発に動いていた。

他地域での生育環境と生態
Fig.17 小河川で沈水状態で生育するヤナギタデ。(滋賀県・小河川 2009.12/8)
湧水が流入する河川内ではよくヤナギタデが沈水状態で生育しているのを見かける。
琵琶湖岸に流入する排水路内ではクロモ、ホザキノフサモ、エビモ、ナガエミクリなどとこのような状態で生育しているのが見られる。

【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。)
北村四郎・村田源, 2004 タデ科タデ属. 『原色日本植物図鑑 草本編(U) 離弁花類』 299〜316 保育社
北川政夫, 1982. タデ科イヌタデ属. 佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎・旦理俊次・冨成忠夫 (編)
       『日本の野生植物 草本2 離弁花類』 p.19〜24. pl.16〜23. 平凡社
牧野富太郎, 1961 ヤナギタデ. 前川文夫・原寛・津山尚(補遺・編) 『牧野 新日本植物図鑑』 115. 北隆館
長田武正・長田喜美子, 1984 ヤナギタデほか. 『野草図鑑 8 はこべの巻』 139〜145 保育社
林辰雄. 2001. イヌタデ属. 神奈川県植物誌調査会(編)『神奈川県植物誌 2001』 600〜616. 神奈川県立生命の星・地球博物館
村田源. 2004. ヤナギタデ. 『近畿地方植物誌』 118. 大阪自然史センター
小林禧樹・黒崎史平・三宅慎也. 1998. ヤナギタデ. 『六甲山地の植物誌』 110. (財)神戸市公園緑化協会
黒崎史平・高野温子・土屋和三 2001. ヤナギタデ. 兵庫県産維管束植物3 タデ科. 人と自然12:107. 兵庫県立・人と自然の博物館
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森本桂, 1984. サルゾウムシ亜科.林匡夫・森本桂・木元新作(編) 『原色日本甲虫図鑑(W)』 p.311〜312. pl.61. 保育社


最終更新日:7th.May.2013

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