イトスゲ Carex fernaldiana  H.Lev. et Vaniot
  山地・林床の植物 カヤツリグサ科 スゲ属 ヌカスゲ節
Fig.1 注:糸状の葉はイトスゲ、線形の葉はアリマイトスゲのもの。(西宮市・林床 2010.6/11)

Fig.2 (神戸市・渓流畔の岩場 2014.4/10)

丘陵〜山地の乾燥した疎林内に生育する多年草。
叢生し、匐枝を出す。基部の鞘は淡褐色。葉幅0.3〜1mm、有花茎と同長または長い。
有花茎は高さ15〜30cm、雌小穂は2〜3個つく。小穂の柄は短く、苞の葉身は長い。
果胞は有脈、無毛で嘴はやや長く、長さ3〜3.5mm。痩果は倒卵形、淡褐色または褐色で、長さ約2mm。

【メモ】 西日本のものは本州中部以北のものとは生育環境が異なり、葉幅は狭いため別分類群の可能性があるという。
近縁種 : ベニイトスゲ、 チャイトスゲ、 キイトスゲクジュウスゲアリマイトスゲ、 ハコネイトスゲ

■分布:北海道、本州、四国、九州 ・ 朝鮮半島、台湾
■生育環境:丘陵〜山地の乾燥した林床など。
■果実期:5〜6月

Fig.3 全草標本。(西宮市・林床 2010.6/11)
  叢生し、匐枝を出す。葉幅は狭く1mm以下、有花茎と同長または短い。画像のものは葉のほうが有花茎よりも長い。

Fig.4 基部。(西宮市・林床 2010.6/11)
  基部の鞘は淡褐色。鞘から葉は2つ折れとなって展出する。基部からは多数の匐枝が出ている。

Fig.5 有花茎。(西宮市・林床 2010.6/11)
  頂小穂は雄性、側小穂は雌性。苞の葉身はあきらかに側小穂よりも長い。
  雌小穂があまり発達していないのは、最盛期を過ぎて出たものだからだろうか?

Fig.6 雄小穂。(西宮市・林床 2010.6/11)
  線状披針形で、雄花はややまばら。雄鱗片は淡褐色を帯び、中肋は緑色。雄小穂はおおむね明瞭な柄があった。

Fig.7 雌小穂。(西宮市・林床 2010.6/11)
  雌花はまばらで、数は少ない。

Fig.8 雌鱗片と果胞。(西宮市・林床 2010.6/11)
  雌鱗片は果胞よりも短く、中肋は芒状に出る。
  果胞は長さ3〜3.5mm、やや長い嘴があり、有脈、無毛だが画像では向軸側の嘴の部分に、わずかに上向きの刺状突起が並んでいるのが見える。

Fig.9 痩果。(西宮市・林床 2010.6/11)
  3稜形で基部よりの面は凹み、熟すと褐色、長さ1.5〜2.3mm、環状の付属体は低い。

生育環境と生態
Fig.10 林下に群生するイトスゲ。(西宮市・林床 2010.6/11)
崖錘の転石の堆積した林下に群生している。転石には蘚類がはりつき、転石間には腐植土が見られるがいずれも渇き気味である。
同所的に生育しているものにツルニンジン、ヘクソカズラ、ツルアジサイ、オカタツナミソウ、ササノハスゲ、アリマイトスゲがあり、より湿った場所では、
イトスゲよりもアリマイトスゲが優勢となり、群落を形成している。
崖錘は渓流に面しており、渓流岩壁にはキヨスミギボウシ、リョウメンシダ、ジュウモンジシダなどが見られることから、空中湿度はそれなりにあるのだろう。

Fig.11 谷筋の岩上の斜面に生育するイトスゲ。(神戸市・岩上 2015.4/22)
樹木に覆われた谷筋に流紋岩質の露頭があり、その濡れた緩やかな斜面にイトスゲが群生していた。
イトスゲが群生する緩斜面では他にシラヤマギク、フジやウツギの幼木がわずかに見られる程度で、ほとんど純群落をつくっている。
イトスゲの生育できない垂直壁や急斜面では蘚苔類が覆い、ハコネシダ、イワヒバ、ベニシダ、ジュウモンジシダが着生していた。
谷筋は全体に湿度が高く、アオホラゴケ、コウヤコケシノブ、イワガネゼンマイ、サイゴクイノデ、アイアスカイノデなどシダ類が多い。



最終更新日:20th.June.2015

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