ヒカゲノカズラ | Lycopodium clavatum L. | ||
里山・林縁・草地の植物 | ヒカゲノカズラ科 ヒカゲノカズラ属 |
Fig.1 (兵庫県篠山市・林道脇 2014.6/10) 丘陵〜山地の明るい林縁や林床、草地に生育する地上性の常緑草本。 茎は匍匐する主軸と、直立〜斜上する側枝とがあり、主軸は地表付近を長くはい、不規則に叉状分枝し、径2〜4mm、ところどころに根を生じる。 側枝は1〜数回分枝し、主茎と枝となり、小枝は葉を含めて径5〜10mm、葉を密生する。 葉は斜上または開出し、線形または線状披針形、先端は尖り、膜質の糸状体をつけ、全縁、緑色〜鮮緑色、長さ3.5〜7mm、幅0.5〜1mm。 胞子嚢穂の柄は直立し、長さ5〜15cm、線形の小さな葉が圧着し、先端で分枝して2〜6個の胞子嚢穂をつける。 胞子嚢穂は長さ2〜10cm、径3.5〜5mm、円柱状で直立し、短い柄がある。 胞子葉は広卵形、辺縁は膜質、波状に鋸歯がある。胞子表面には網状の模様がある。染色体数はn=34,51,68。 エゾヒカゲノカズラ(var. robustum)は胞子嚢穂の柄が長さ10cm未満、先に1〜4個の無柄の胞子嚢穂がつく。北海道、本州と四国の高所。 ナンゴクヒカゲノカズラ(var. wallichianum)は葉の質が硬く、胞子嚢穂の柄は長さ15cm以上となることがある。四国、九州。 近縁種 : エゾヒカゲノカズラ、 マンネンスギ、 ミズスギ、 アスヒカズラ、 ヤチスギラン ■分布:北海道、本州、四国、九州 ・ 北半球の温帯域〜熱帯 ■生育環境:丘陵〜山地の明るい林縁や林床、草地など。 |
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↑Fig.2 主軸と側枝。(兵庫県篠山市・林道脇 2014.6/10) 茎は匍匐する主軸と、直立〜斜上する側枝とがあり、主軸は地表付近を長くはい、不規則に叉状分枝する。 |
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↑Fig.3 主軸(左)と側枝(右)の拡大。(兵庫県篠山市・林道脇 2014.6/10) 主軸は側枝よりも細く、葉もまばらにつく。 |
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↑Fig.4 葉。(兵庫県篠山市・林道脇 2014.6/10) 葉は斜上または開出し、線形または線状披針形、先端は尖り、膜質の糸状体をつけ、全縁、緑色〜鮮緑色。 葉の先端近くにはときに微鋸歯が出ることがある。 |
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↑Fig.5 胞子嚢穂を上げ始めた集団。(兵庫県丹波市・草地斜面 2011.5/7) |
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↑Fig.6 胞子嚢穂。(兵庫県篠山市・林道脇 2014.6/10) 胞子嚢穂の柄は側枝から出て直立し、長さ5〜15cm、線形の小さな葉が圧着し、先端で分枝して2〜6個の胞子嚢穂をつける。 胞子嚢穂は長さ2〜10cm、径3.5〜5mm、円柱状で直立し、短い柄がある。 |
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↑Fig.7 熟した胞子嚢穂。(兵庫県篠山市・林道脇 2014.8/14) 胞子葉はらせん状に中軸を取り巻く。 |
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↑Fig.8 胞子葉とソーラス。(兵庫県篠山市・林道脇 2014.8/14) 胞子葉は広卵形、辺縁は膜質、波状に鋸歯がある。ソーラスは胞子葉の向軸側基部につく。 |
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↑Fig.9 胞子。(兵庫県篠山市・林道脇 2014.8/14) 胞子表面には網状の模様がある。 |
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↑Fig.10 シカの食害に遭った胞子嚢穂。(兵庫県篠山市・林道脇 2014.7/15) ヒカゲノカズラはシカの忌避植物として知られるが、胞子嚢穂は例外のようだ。 しかし、地域によっては胞子嚢穂が食害されていないことがある。 |
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↑Fig.11 晩秋に胞子嚢穂を上げた個体。(兵庫県篠山市・溜池土堤 2011.11/9) この時期に胞子嚢穂を上げるものは、草体全体が小ぢんまりとしていて、エゾヒカゲノカズラを思わせるが、胞子嚢穂には柄がある。 |
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↑Fig.12 早春の草体。(兵庫県篠山市・林縁草地 2014.3/29) 冬期には寒風を避けるように、側枝は立ち上がらずに横に広がる。 |
生育環境と生態 |
Fig.13 農道脇の裸地状の斜面を覆うヒカゲノカズラ。(兵庫県篠山市・農道脇斜面 2010.7/18) 近畿地方ではヒカゲノカズラは裸地状の粘土質斜面に生育していることが最も多く、ここもそのような場所である。 斜面はハイゴケに覆われ、シハイスミレ、タチツボスミレ、ノギランが点在する以外はほとんどヒカゲノカズラに覆われている。 |
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Fig.14 用水路脇の斜面でミズスギ(左)と混生するヒカゲノカズラ(右)。(兵庫県篠山市・用水路脇斜面 2010.7/18) やはりここでも地表がよく見えるような半裸地状の斜面に、よく似たミズスギとともに生育していた。 どちらも半裸地状の斜面を好むが、ミズスギはより水分条件のよい場所を好み、ヒカゲノカズラよりも生育条件が限定される。 胞子嚢穂が上がっていない時期には紛らわしいが、ミズスギの葉先には膜質の糸状体がないことにより区別できる。 |
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Fig.15 植林地伐採後の沼沢地上部に群生するヒカゲノカズラ。(兵庫県篠山市・伐採後の沼沢地 2010.8/2) 伐採後3〜4年経過したと思われる沼沢地の上部にヒカゲノカズラの群生が広がっていた。 沼沢地は野生動物の撹乱が見られ、一部はヌタ場になっていて、中央部はキクモが群生し、アゼナ、ヤノネグサが生育している。 沼沢地周縁部はアブラガヤやニョイスミレを交えたオオミズゴケ群落が発達し、そこに重なる形で上部に向かってヒカゲノカズラが広い範囲にわたって群生していた。 ヒカゲノカズラの群生地内では伐採地の先駆種であるコジキイチゴやビロードイチゴ、ジャケツイバラなどが見られ、クロモジなどの幼木が見られる。 やがて遷移が進むと、ヒカゲノカズラの生育範囲もしだいに狭まっていくのだろう。 |