アゼテンツキ Fimbristylis squarrosa  Vahl カヤツリグサ科 テンツキ属
湿生植物
Fig.1 (滋賀県・旧畑作地 2012.10/1)

水田の畦、溜池畔、湿った畑地、休耕田などに生育する小型の1年草。
茎は細く、高さ10〜20cm。葉は柔らかく、糸状、幅約0.5mm、花序より短い。基部の鞘は有毛。
花序は散形で1〜3回分岐する。小穂はやや多数つき、披針形、長さ4〜6mm、茶褐色を帯びる。
鱗片は狭卵形、長さ約1.5mm、長い芒があって反る。痩果は倒卵形、長さ約0.7mm、平滑、横断面はレンズ形、淡褐色。
花柱は全体に毛が生え、基部はやや膨れ、痩果の上半にかかる下向きの長毛は花柱基部の側面と下端に生える。雌蕊柱頭は2岐。

メアゼテンツキコアゼテンツキに似る。
メアゼテンツキ(F. velata)は小穂の鱗片が短く外に曲がる。花柱の毛はアゼテンツキと同様である。
コアゼテンツキ(F. aestivalis)は小穂が卵形で、鱗片の芒は短く、花柱の柱基には長毛が生えない。
近似種 :  ノテンツキテンツキノテンツキクロテンツキヒメヒラテンツキ、 コアゼテンツキ、 イトハナビテンツキ

■分布:北海道、本州 ・ 朝鮮半島南部、中国、インド、ヨーロッパ南部、アフリカ
■生育環境:水田の畦、溜池畔、湿った畑地、休耕田など。
■果実期:8〜10月
■西宮市内での分布:市内では今のところ確認できていない。
           兵庫県下での採集記録は少なく、国内では東日本に多いもののようである。

Fig.2 全草標本。(滋賀県・旧畑作地 2012.10/1)
  草体は小型で、葉は花序よりもかなり短く細い。

Fig.3 花序。(滋賀県・旧畑作地 2012.10/1)
  花序は1〜3回分枝する。最下苞葉は2〜3個つき、花序よりも短い。

Fig.4 小穂。(滋賀県・旧畑作地 2012.10/1)
  披針形で鋭頭。鱗片は茶褐色、中肋は竜骨となり、先は長い芒となり、外反する。


Fig.5,6 痩果。(滋賀県・旧畑作地 2012.10/1)
  淡褐色で平滑、長さ約0.7mm、倒卵形。柱基は少し膨らみ、側面と下端から下向きの長毛が生える。雌蕊柱頭は2岐。

Fig.7 基部。(滋賀県・旧畑作地 2012.10/1)
  基部の鞘は淡色〜褐色。開出毛がある。画像のものは毛が濡れて水分を含んでいるので多少わかり難い。

生育環境と生態
Fig.8 湿った休耕中の畑地に生育するアゼテンツキ。(滋賀県・旧畑作地 2012.10/1)
棚田の中ほどにある、湧水の滲出が見られる多湿な休耕中の畑地の比較的裸地部分の多い箇所に生育していた。
畑地は多湿であるため、周囲には素彫りの排水路が掘られ、そこではコナギやヒメミズワラビ、アゼナ、セリ、アイオオアカウキクサなどが生育している。
アゼテンツキはアオガヤツリ、カヤツリグサ、カワラスガナ、ヒンジガヤツリ、ヒメクグ、ヒデリコ、ヒメヒラテンツキ、トキンソウ、イボクサ、
ノミノフスマ、タカサブロウなどとともに生育していた。

【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。)
大井次三郎, 1982. カヤツリグサ科テンツキ属. 佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎・旦理俊次・冨成忠夫 (編)
       『日本の野生植物 草本1 単子葉類』 pp.173〜175. pls.156〜158. 平凡社
小山鐡夫, 2004 カヤツリグサ科テンツキ属. 北村四郎・村田源・小山鐡夫 『原色日本植物図鑑 草本編(3) 単子葉類』 pp.231〜237. pls.58〜59. 保育社
星野卓二・正木智美, 2003. テンツキ属. 星野卓二・正木智美・西本眞理子『岡山県カヤツリグサ科植物図譜(2)』 138〜159. 山陽新聞社
星野卓二・正木智美, 2011. テンツキ属. 星野卓二・正木智美・西本眞理子『日本カヤツリグサ科植物図譜』 572〜601. 平凡社
谷城勝弘, 2007. テンツキ属. 『カヤツリグサ科入門図鑑』 124〜138. 全国農村教育協会
勝山輝夫・堀内洋. 2001. テンツキ属. 神奈川県植物誌調査会(編)『神奈川県植物誌 2001』 415〜421. 神奈川県立生命の星・地球博物館
小林禧樹・黒崎史平・三宅慎也. 1998. メアゼテンツキ. 『六甲山地の植物誌』 251. (財)神戸市公園緑化協会
村田源. 2004. アゼテンツキ. 『近畿地方植物誌』 165. 大阪自然史センター
村田源, 1993. アゼテンツキ、メアゼテンツキとコアゼテンツキ. 植物分類地理 44:208〜209.

最終更新日:23rd.Oct.2012

<<<戻る TOPページ