オトコゼリ | Ranunculus tachiroei Franch. et Savat. | キンポウゲ科 キンポウゲ属 キンポウゲ亜属 |
湿生植物 兵庫県RDB Bランク種 |
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Fig.1 (西宮市・休耕田 2007.7/19) |
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Fig.2 (兵庫県篠山市・溜池土堤下部 2010.7/24) 里山や山間のやや中栄養な湿地、溜池畔、用水路、休耕田に生育する、やや大型の多年草。 茎は直立して多数分枝し40〜80cmを超え、先端部にキツネノボタンに似た黄色い花を咲かせ、典型的な集散花序をつくる。 根生葉や茎の下部の葉は2回3出状に深裂し、裂片は細く1cm前後で、両面に伏せ毛があり、オトコゼリの名のとおり葉の形状はセリに似ている。 茎葉ともに開出毛が見られるが、基部ほど粗い毛が密生し、先端に向かうにつれて毛は短く少なくなり、花弁付近では毛はほとんど見られない。 花は径10〜15mm、萼片は長さ4〜5mmで外側に毛が多い。集合果は径約1cm。痩果は扁平で3.5〜4mm、周囲に縁取りがあり、先はわずかに曲がる。 ケキツネノボタン(R. cantoniensis)に似るが、オトコゼリは草体が大きく直立する点と、葉の裂片が細く、根生葉が2回3出状に裂けることによって容易に区別がつく。 コキツネノボタン(R. chinensis)にも似るが、より小型で根生葉が1回3出状に裂ける点や、集合果が縦に長い楕円形である点などから区別できる。 オトコゼリは各地で減少あるいは絶滅する傾向にあり、RDB指定される例が多い。 減少の原因としては湿地帯や池沼の開発や埋め立て、溜池の改修、休耕田などでは帰化種との競合などがあげられている。 【メモ】 兵庫県レッドデータブック2010 で新たにBランク種とされた。県内では休耕田で見られることが多く、遷移や開発による減少が危惧される。 近似種 : ケキツネノボタン、 キツネノボタン、 トゲミノキツネノボタン、 ウマノアシガタ、 タガラシ ■分布:本州(福島県以南) ・ 朝鮮半島 ■生育環境:日当たりよい中栄養な湿地、用水路、溝、溜池畔、休耕田など。 ■花期:7〜8月 ■西宮市内での分布:市内では北部山間の1箇所の休耕田で自生を確認しているだけできわめて稀。 休耕田や管理放棄された水田などは、遷移が進んだり開発の対象にもなりやすく、市内での絶滅が懸念される。 |
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↑Fig.3 開花したオトコゼリ。(西宮市・休耕田 2007.7/19) 分枝した花茎の先端に、1個の花をつける。 花弁は5枚で強い光沢がある。雄蕊、雌蕊はともに多数つく。 |
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↑Fig.4 花茎は葉腋で数回分枝し、典型的な集散花序をつくる。(西宮市・休耕田 2007.7/19) |
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↑Fig.5 果実は多数の痩果が集まった集合果で球形。(西宮市・休耕田 2007.8/30) |
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↑Fig.6 オトコゼリの痩果。最下の画像は痩果の横断面。(西宮市・休耕田 2007.11/18) 長さ3.5〜4mm。痩果の先端部はキツネノボタンのように強くカギ状に曲がらない。 痩果の縁には不明瞭な稜線があって、形態はケキツネノボタンに非常に良く似ている。 |
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↑Fig.7 根生葉は2回3出複葉で深裂する。(兵庫県三田市・用水路 2007.6/16) 葉柄を含む葉身の長さ25cm、幅17cm。 *注:裂片に見られる茶色い部分は、微小なハエまたはガによる食害の痕で、「ハモグリ(エカキムシ)」と総称される。 |
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↑Fig.8 茎の基部には粗い開出毛があり、紫味を帯びる。(西宮市・休耕田 2007.6/27) |
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↑Fig.9 茎の上部では開出毛が短く繊細になり、葉には葉柄がなく、茎から直接裂片を生じる。(西宮市・休耕田 2007.7/19) |
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↑Fig.10 花茎上部の分枝点では、披針形で不規則な粗い鋸歯のある、葉柄のない3枚の葉を付ける。(西宮市・休耕田 2007.7/19) |
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↑Fig.11 休耕田の裸地で出芽したもの。(西宮市・休耕田 2008.6/24) 中央のものはやや成長したもの。右下のものは出芽したばかりのもの。 この時期のものはキツネノボタンやケキツネノボタンと区別できない。 |
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↑Fig.12 晩秋に紫色に色づいた葉。(兵庫県加東市・休耕田 2013.11/22) |
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↑Fig.13 春先に見られるロゼット。(兵庫県三田市・休耕田 2009.3/19) オトコゼリは夏緑性であり、冬期には地上部が枯れるが、春の比較的早い時期に出芽してロゼットを形成する。 春先のロゼット葉は3出複葉で、同時期にロゼットを形成するキツネノボタン類と区別しにくいが、各小葉におおむね柄が見られることにより区別できる。 キツネノボタン早春のロゼット |
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↑Fig.14 セリと似た時期の草体。(兵庫県三田市・用水路 2008.5/4) セリと生育環境も似ており、5月頃の草体はセリと誤食を起こしやすいかもしれない。 キンポウゲ属のものはバイカモ亜属をのぞいて、いずれも毒草であるので注意が必要である。 |
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↑Fig.15 成長期の草体。(西宮市・休耕田 2007.6/27) 根生葉や茎の下部につく葉は2回3出複葉。葉柄の基部は茎を抱く。 |
西宮市内での生育環境と生態 |
Fig.16 管理放棄された休耕田中に点々と生育するオトコゼリ。(西宮市 2007.7/19) 周辺はコブナグサやイヌシカクイなどが群落をつくる半裸地で、他にアゼスゲ、コウガイゼキショウ、イヌホタルイなどが見られる。 背後にひろがっているイネ科の草本はトダシバで、かなり大きな群落をつくっている。 遷移が進むにつれ、オトコゼリの生育領域も狭まり、自生地での絶滅が予想される。 |
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Fig.17 イノシシの攪乱とオトコゼリ。(西宮市・休耕田 2007.6/27) 画像中心に成長期のオトコゼリが2個体見える。右上方の土壌が剥き出しになっているところは、イノシシによる攪乱の跡。 オトコゼリのすぐ際まで掘られているが、オトコゼリは被害に遭っていない。 土がえぐれた場所には、もとはミソハギの群落があった。画像右端にミソハギが少し見えている。 このような野生動物による攪乱は、大型の多年生の湿生植物には遷移を妨げる要因として、多少は役立っているものと思われる。 |
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【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。) 田村道夫・清水建美, 1982. キンポウゲ科キンポウゲ属キンポウゲ亜属. 佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎・旦理俊次・冨成忠夫 (編) 『日本の野生植物 草本2 離弁花類』 p.77〜79. pl.75〜79. 平凡社 北村四郎・村田源, 2004 キンポウゲ属. 『原色日本植物図鑑 草本編(2) 離弁花類』 p.240〜248. pl.55. 保育社 牧野富太郎, 1961 オトコゼリ. 前川文夫・原寛・津山尚(補遺・編) 『牧野 新日本植物図鑑』 182. 北隆館 長田武正・長田喜美子, 1984 オトコゼリ. 『野草図鑑 8 はこべの巻』 148〜149. 保育社 城川四郎. 2001. キンポウゲ科キンポウゲ属. 神奈川県植物誌調査会(編)『神奈川県植物誌 2001』 701〜704. 神奈川県立生命の星・地球博物館 小林禧樹・黒崎史平・三宅慎也. 1998. オトコゼリ. 『六甲山地の植物誌』 121. (財)神戸市公園緑化協会 村田源. 2004. オトコゼリ. 『近畿地方植物誌』 111. 大阪自然史センター 松岡成久. 2009. 篠山市のオトコゼリの自生地. 兵庫県植物誌研究会・会報 81:4 小菅桂子・黒崎史平・高野温子 2001. オトコゼリ. 兵庫県産維管束植物3 キンポウゲ科. 人と自然12:139. 兵庫県立・人と自然の博物館 最終更新日:3rd.Aug.2014 |