ハリガネスゲ Carex capillacea  Boott カヤツリグサ科 ハリスゲ節
湿生植物
Fig.1 (兵庫県神河町・半日陰の湿地 2017.5/26)

Fig.2 (兵庫県神河町・高原の河畔 2017.5/26)

低山〜山地の向陽〜半日陰の湿地、細流脇に生育する多年草。
根茎は短く叢生する。基部の鞘は淡褐色〜褐色。葉は有花茎より短く、幅0.8〜2.3mm。
花茎は針金状、高さ20〜40cm、鈍稜があり、平滑。小穂は雄雌性で1個を頂生し、長さ5〜10mm。
雄花部は直立、長さ3〜5mmで線形。雌花部は短柱形で、長さ3〜7mm。雄鱗片と雌鱗片はともに鈍頭、褐色。
果胞は雌鱗片より長く、楕円形〜卵形、長さ2〜3mm、稜間に5〜9脈あり、平滑、嘴は短く、完熟すると開出する。
果胞表面には紫色の斑点があり、口部は切形。痩果は果胞にゆるく包まれ、3稜あり、楕円形、長さ1.5〜2mm。柱頭は3岐する。
染色体数2n=56,58,60,64,66。

【メモ】 文献(ページ最下の参考文献参照)を元に、ハリスゲ節のスゲの覚書き風の比較表を作成した。
 種名  サトヤマハリスゲ
 C. ruralis
 ハリガネスゲ
 C. capilacea
 ミチノクハリスゲ
 C. capilacea
 var. sachalinensis
 コウヤハリスゲ
 C. koyaensis
 マツバスゲ
 C. biwaensis
 根茎 短い やや伸び、ゆるく叢生 やや伸び、ゆるく叢生 長くはう 短い
 葉幅 0.4-0.8mm 1-2mm   0.8-2mm 1-1.5mm
 有花茎 不整な3-4稜形、平滑 鋭稜があり、平滑   不整な3-4稜形、平滑 平滑
 小穂長 4-6mm 5-10mm   4-6mm 10-20mm
 雄花部 きわめて短く2-3花 雌花部と同長   きわめて短く2-3花 雌花部と同長か少し長い
 雌鱗片 卵形、鈍頭、1.3-1.6mm 円頭、褐色   卵形、鈍頭、1.3-1.6mm  
 雌花数 (2)4-6(8)花 6-15花   4-6(8)花 12-25花
 果胞形状 卵形
次第に細くなり先は短い嘴状
卵形
嘴は短く、熟すと開出
  卵形〜広卵形
次第に細くなり先は短い嘴状
卵形
熟すと開出
 果胞の質 不透明 不透明 不透明 不透明 不透明
 果胞長 2.2-2.8mm 2-3mm 3-4mm 2-2.3mm 1.6-2mm
 果胞の脈 明瞭 明瞭 明瞭 不明瞭な5-7脈 明瞭な6-10脈
 痩果の包まれ方 密に包まれる ゆるく包まれる ゆるく包まれる ややゆるく包まれる ゆるく包まれる
 その他 葉縁は少し内曲 ふつう果胞に腺点がある 果胞が大きい 葉は柔らかく、曲がることが多い 小穂は長い
 種名  エゾハリスゲ
 C. uda
 ニッコウハリスゲ
 C. fulta
 ユキグニハリスゲ
 C. semihyalofructa
 ヒカゲハリスゲ
 C. onoei
 コハリスゲ
 C. hakonensis
 根茎 短い 短い 伸長し、ゆるく叢生 短い 短い
 葉幅 2-3mm 2-3mm 1.7-2.8mm 1-3mm 0.7-1.2mm
 有花茎 鋭稜があり、平滑 3稜形、著しくざらつく 3稜形、ざらつく 3稜形、ざらつく 3稜形、少しざらつく
 小穂長 7-10mm 3-7mm 5-8mm 4-6mm 3-5mm
 雄花部 雄花部小さい 雄花部きわめて小さい 雄花部小さい 雄花部きわめて短い 雄花部きわめて短い
 雌鱗片 褐色 淡緑色 褐色 褐色、鋭頭 褐色、鈍頭〜鋭頭
 雌花数          
 果胞形状 狭卵形〜披針形
長い嘴があり、熟すと反曲
卵形〜広卵形
嘴は短く、熟すと開出
卵形〜広卵形
嘴は短く、熟すと斜開
卵形〜広卵形
嘴は長く、口部2歯がやや目立つ
卵形〜広卵形
嘴は短い
 果胞の質 不透明 不透明 不透明 透明 透明
 果胞長 3.5-4mm 2-2.5mm 2.4-3.1mm 2.5-3mm 2-2.5mm
 果胞の脈 明瞭 明瞭 不明瞭 不明瞭 不明瞭な2〜5脈
 痩果の包まれ方     ゆるく包まれる 密に包まれる 密に包まれる
マツバスゲC. biwensis)はふつう小穂が10〜20mmと長く、果胞は長さ1.6〜2mmで、雌鱗片とほぼ同長な点で区別できる。
サトヤマハリスゲC. ruralis)は葉幅が0.4〜0.8mm、小穂は長さ4〜6mm、雄花部は2〜3花、雌花部は2〜6花からなり、痩果は果胞に密に包まれる。
ヒカゲハリスゲC. onoei)はブナ帯の渓流畔に生育し、茎は鋭稜で上部はざらつき、雄花部はきわめて短く、雌鱗片は果胞と同長でとがり、果胞は痩果を密に包む。
コハリスゲC. hakonensis)はシラビソ帯の樹林内に生育し、茎の稜はやや鈍く、雄花部はきわめて短く、果胞はやや扁平で、膜質、痩果が透けて見える。
近似種 : サトヤマハリスゲコウヤハリスゲニッコウハリスゲ、 ヒカゲハリスゲ、 コハリスゲマツバスゲ

■分布:北海道、本州、四国、九州、沖縄 ・ 朝鮮半島、台湾、中国、マレーシア、ヒマラヤ、オーストラリア。
■生育環境:低山〜山地の向陽〜半日陰の湿地、細流脇など。
■果実期:5〜6月
■西宮市内での分布:市内では見られず、兵庫県内では高原地帯の湿地に多く見られる。

Fig.3 全草標本。(兵庫県神河町・半日陰の湿地 2017.5/26)
  根茎は短く叢生する。花茎は針金状、高さ20〜40cm。葉は有花茎よりも短い。
  淡褐色の枯れた葉は前年のもので、結実後にかなり長く伸び、ときに30cmを越すことがある。

Fig.4 基部。(兵庫県神河町・半日陰の湿地 2017.5/26)
  根茎は短く叢生する。基部の鞘は淡褐色〜褐色。

Fig.5 葉。1目盛=0.1mm。(兵庫県神河町・半日陰の湿地 2017.5/26)
  葉は有花茎より短く、幅0.8〜2.3mm、表面は少しくぼみ、縁はややざらつく。

Fig.6 有花茎。(兵庫県神河町・半日陰の湿地 2017.5/26)
  有花茎は鈍稜があり、平滑。

Fig.7 小穂。1目盛=0.5mm。(兵庫県神河町・半日陰の湿地 2017.5/26)
  小穂は1個が頂生し、雄雌性で全長5〜10mm。最頂部には雄花部が直立してつく。雄花部は長さ3〜5mmで線形。
  下部は雌花部で、短柱形、長さ3〜7mm、熟した果胞は開出する。

Fig.8 雌鱗片・果胞・痩果。1目盛=0.1mm。(兵庫県神河町・半日陰の湿地 2017.5/26)
  雌鱗片は鈍頭、褐色。果胞は楕円形〜卵形、長さ2〜3mm、稜間に5〜9脈あり、平滑、嘴は短い。
  痩果は果胞にゆるく包まれ、3稜あり、楕円形、長さ1.5〜2mm。柱頭は3岐する。

Fig.9 雌鱗片は果胞よりも短い。(兵庫県神河町・半日陰の湿地 2017.5/26)
  よく似たマツバスゲでは雌鱗片と果胞はほぼ同長となり、区別する上での重要な特徴となる。

他地域での生育環境と生態
Fig.10 半日陰の湿地に生育するハリガネスゲ。(兵庫県神河町・半日陰の湿地 2017.5/26)
植林地の開けた林床に細流によるオオミズゴケ主体の半日陰の湿地が成立し、そこに多数のハリガネスゲが生育していた。
似た環境でサトヤマハリスゲも生育するが、兵庫県では南部の低山に分布しており、高原地帯には見られない。
同所的にイグサ、コウガイゼキショウ、クサスゲ、ヤマミゾソバ、ニョイスミレ、サワオトギリ、クリンソウ、フキなどが生育している。

Fig.11 遊歩道脇の小湿地に生育するハリガネスゲ。(兵庫県神河町・高原の小湿地 2017.5/26)
野焼きが行われる日当たりよいススキ草原の登山道脇の小湿地に群生していた。
日当たりよい湿地に生育するものは半日陰地に生育するものより、草丈が低くなる傾向がみられる。
ここでは日当たりを好むゴウソ、オタルスゲ、ジュズスゲ、イグサ、コケオトギリ、ヘビイチゴなどと生育している。

【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。)
勝山輝男. 2001. スゲ属ハリスゲ節. 神奈川県植物誌調査会(編)『神奈川県植物誌 2001』 445〜447. 神奈川県立生命の星・地球博物館
勝山輝男, 2005. ハリスゲ節. 『日本のスゲ』 32〜41. 文一総合出版
星野卓二・正木智美, 2011 スゲ属ハリスゲ節. 星野卓二・正木智美・西本眞理子『日本カヤツリグサ科植物図譜』 66〜79. 平凡社
Oda, J. and Nagamatsu, H. 2008. Two New Species of Carex sect. Capitellatae(Cyperaceae) from Japan. Acta Phytotax. Geobot. 59:55-66.
黒崎史平・松岡成久・高橋晃・高野温子・山本伸子・芳澤俊之 2009. ハリガネスゲ. 兵庫県産維管束植物11 カヤツリグサ科. 人と自然20:142.
       兵庫県立・人と自然の博物館

最終更新日:20th.June.2017

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