コウヤハリスゲ Carex koyaensis  J.Oda et Nagam. カヤツリグサ科 ハリスゲ節
湿生植物  兵庫県RDB Aランク種
Fig.1 (滋賀県湖北地方・林道脇の小湿地 2017.6/10)

山地の向陽〜半日陰の湿地、細流脇に生育する多年草。
匍匐根茎がある。基部の鞘は淡褐色。葉は有花茎より短く、幅0.8〜2mm、鮮緑色、やわらかく、外側の葉は横断面がV字形になることがある。
花茎は針金状、高さ10〜25cm、鈍稜があり、平滑。小穂は雄雌性で1個を頂生し、長さ3〜6mm、幅3〜4mm。
雄鱗片と雌鱗片はともに鈍頭、淡褐色。
果胞は雌鱗片より長く、楕円形〜卵形、長さ2〜2.3mm、幅1.1〜1.3mm、平滑、嘴は短く、口部は凹形、完熟すると開出する。
痩果は果胞にややゆるく包まれ、3稜あり、楕円形、長さ1.2〜1.5mm。柱頭は3岐する。

【メモ】 コウヤハリスゲは2008年に新記載された。文献(ページ最下の参考文献参照)を元に、ハリスゲ節のスゲの覚書き風の比較表を作成した。
 種名  サトヤマハリスゲ
 C. ruralis
 ハリガネスゲ
 C. capilacea
 ミチノクハリスゲ
 C. capilacea
 var. sachalinensis
 コウヤハリスゲ
 C. koyaensis
 マツバスゲ
 C. biwaensis
 根茎 短い やや伸び、ゆるく叢生 やや伸び、ゆるく叢生 長くはう 短い
 葉幅 0.4-0.8mm 1-2mm   0.8-2mm 1-1.5mm
 有花茎 不整な3-4稜形、平滑 鋭稜があり、平滑   不整な3-4稜形、平滑 平滑
 小穂長 4-6mm 5-10mm   4-6mm 10-20mm
 雄花部 きわめて短く2-3花 雌花部と同長   きわめて短く2-3花 雌花部と同長か少し長い
 雌鱗片 卵形、鈍頭、1.3-1.6mm 円頭、褐色   卵形、鈍頭、1.3-1.6mm  
 雌花数 (2)4-6(8)花 6-15花   4-6(8)花 12-25花
 果胞形状 卵形
次第に細くなり先は短い嘴状
卵形
嘴は短く、熟すと開出
  卵形〜広卵形
次第に細くなり先は短い嘴状
卵形
熟すと開出
 果胞の質 不透明 不透明 不透明 不透明 不透明
 果胞長 2.2-2.8mm 2-3mm 3-4mm 2-2.3mm 1.6-2mm
 果胞の脈 明瞭 明瞭 明瞭 不明瞭な5-7脈 明瞭な6-10脈
 痩果の包まれ方 密に包まれる ゆるく包まれる ゆるく包まれる ややゆるく包まれる ゆるく包まれる
 その他 葉縁は少し内曲 ふつう果胞に腺点がある 果胞が大きい 葉は柔らかく、曲がることが多い 小穂は長い
 種名  エゾハリスゲ
 C. uda
 ニッコウハリスゲ
 C. fulta
 ユキグニハリスゲ
 C. semihyalofructa
 ヒカゲハリスゲ
 C. onoei
 コハリスゲ
 C. hakonensis
 根茎 短い 短い 伸長し、ゆるく叢生 短い 短い
 葉幅 2-3mm 2-3mm 1.7-2.8mm 1-3mm 0.7-1.2mm
 有花茎 鋭稜があり、平滑 3稜形、著しくざらつく 3稜形、ざらつく 3稜形、ざらつく 3稜形、少しざらつく
 小穂長 7-10mm 3-7mm 5-8mm 4-6mm 3-5mm
 雄花部 雄花部小さい 雄花部きわめて小さい 雄花部小さい 雄花部きわめて短い 雄花部きわめて短い
 雌鱗片 褐色 淡緑色 褐色 褐色、鋭頭 褐色、鈍頭〜鋭頭
 雌花数          
 果胞形状 狭卵形〜披針形
長い嘴があり、熟すと反曲
卵形〜広卵形
嘴は短く、熟すと開出
卵形〜広卵形
嘴は短く、熟すと斜開
卵形〜広卵形
嘴は長く、口部2歯がやや目立つ
卵形〜広卵形
嘴は短い
 果胞の質 不透明 不透明 不透明 透明 透明
 果胞長 3.5-4mm 2-2.5mm 2.4-3.1mm 2.5-3mm 2-2.5mm
 果胞の脈 明瞭 明瞭 不明瞭 不明瞭 不明瞭な2〜5脈
 痩果の包まれ方     ゆるく包まれる 密に包まれる 密に包まれる
サトヤマハリスゲC. ruralis)は葉幅が0.4〜0.8mm、小穂は長さ4〜6mm、雄花部は2〜3花、雌花部は2〜6花からなり、痩果は果胞に密に包まれる。
ヒカゲハリスゲC. onoei)はブナ帯の渓流畔に生育し、茎は鋭稜で上部はざらつき、雄花部はきわめて短く、雌鱗片は果胞と同長でとがり、果胞は痩果を密に包む。
コハリスゲC. hakonensis)はシラビソ帯の樹林内に生育し、茎の稜はやや鈍く、雄花部はきわめて短く、果胞はやや扁平で、膜質、痩果が透けて見える。
近似種 : サトヤマハリスゲハリガネスゲニッコウハリスゲ、 ヒカゲハリスゲ、 コハリスゲマツバスゲ

■分布:本州(北陸、近畿、中国地方)。
■生育環境:山地の向陽〜半日陰の湿地、細流脇など。
■果実期:5〜6月
■西宮市内での分布:市内では見られず、兵庫県内ではやや高標高地の湿地に稀。

Fig.2 全草標本。(滋賀県湖北地方・林道脇の小湿地 2017.6/10)
  匍匐根茎がある。花茎は針金状、高さ10〜25cm。葉は有花茎よりも短い。

Fig.3 半日陰の湿地のもの。(滋賀県湖北地方・林道脇の小湿地 2017.6/10)
  日当たりよい場所のものよりも草丈が高くなる。

Fig.4 基部。(滋賀県湖北地方・林道脇の小湿地 2017.6/10)
  地下に匍匐根茎がある。基部の鞘は淡褐色。

Fig.5 葉。1目盛=0.1mm。(滋賀県湖北地方・林道脇の小湿地 2017.6/10)
  葉は有花茎より短く、幅0.8〜2mm、鮮緑色、やわらかく、ほぼ平滑、中央は凹み、外側の葉は横断面がV字形になることがある。

Fig.6 有花茎。(滋賀県湖北地方・林道脇の小湿地 2017.6/10)
  有花茎は鈍稜があり、平滑。

Fig.7 小穂。1目盛=0.5mm。(滋賀県湖北地方・林道脇の小湿地 2017.6/10)
  小穂は雄雌性で1個を頂生し、長さ3〜6mm、幅3〜4mm。雄花部はきわめて短く2〜3花。雌花部は4〜6(8)花からなり、熟した果胞は開出する。

Fig.8 雌鱗片・果胞。1目盛=0.1mm。(滋賀県湖北地方・林道脇の小湿地 2017.6/10)
  雌鱗片は鈍頭、淡褐色。果胞は雌鱗片より長く、楕円形〜卵形、長さ2〜2.3mm、幅1.1〜1.3mm、平滑、嘴は短く、口部は凹形。
  果胞は不透明で、稜間には不明瞭な5-7脈がある。

Fig.9 痩果。1目盛=0.1mm。(滋賀県湖北地方・林道脇の小湿地 2017.6/10)
  痩果は果胞にややゆるく包まれ、3稜あり、楕円形、長さ1.2〜1.5mm。

Fig.10 小穂の拡大。(滋賀県湖北地方・林道脇の小湿地 2017.6/10)
  コウヤハリスゲは地下の匍匐根茎が確認できれば、よく似たコハリスゲやサトヤマハリスゲとの区別は容易だ。
  それができない場合、コハリスゲとは果胞が半透明とならない点、サトヤマハリスゲとは果胞の稜間に太い脈がないことにより区別できる。

他地域での生育環境と生態
Fig.11 林道脇の多湿な斜面で生育するコウヤハリスゲ。(滋賀県湖北地方・林道脇斜面 2017.6/10)
ブナ帯の林道脇の崩壊気味な斜面から湧水がしみだしており、そこに他の湿生スゲ類とともに生育していた。
コウヤハリスゲは崩壊斜面の泥濘気味で、比較的他種の被植の少ない場所で多く見られ、所によってはマット状に群生していた。
同所的にイグサ、コウガイゼキショウ、クサスゲ、ヤマテキリスゲ、ゴウソ、オタルスゲ、アカショウマ、ナガバモミジイチゴ、ヘビイチゴ、フキ、
ハリガネワラビ、ミゾシダ、ゼンマイ、シシガシラなどが生育している。

Fig.12 林道脇の小湿地に生育するコウヤハリスゲ。(滋賀県湖北地方・林道脇の小湿地 2017.6/10)
林道脇の湧水が滞水気味の時に踏みつけにあうような場所に、草丈の低いコウヤハリスゲのマット状の群生が見られた。
ここではオタルスゲよりも林道中央寄りの湿った場所に帯状に生育している。

【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。)
勝山輝男. 2001. スゲ属ハリスゲ節. 神奈川県植物誌調査会(編)『神奈川県植物誌 2001』 445〜447. 神奈川県立生命の星・地球博物館
勝山輝男, 2005. ハリスゲ節. 『日本のスゲ』 32〜41. 文一総合出版
星野卓二・正木智美, 2011 スゲ属ハリスゲ節. 星野卓二・正木智美・西本眞理子『日本カヤツリグサ科植物図譜』 66〜79. 平凡社
Oda, J. and Nagamatsu, H. 2008. Two New Species of Carex sect. Capitellatae(Cyperaceae) from Japan. Acta Phytotax. Geobot. 59:55-66.
黒崎史平・松岡成久・高橋晃・高野温子・山本伸子・芳澤俊之 2009. コウヤハリスゲ. 兵庫県産維管束植物11 カヤツリグサ科. 人と自然20:150.
       兵庫県立・人と自然の博物館

最終更新日:21st.June.2017

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