サトヤマハリスゲ | Carex ruralis J.Oda & Nagam. | カヤツリグサ科 ハリスゲ節 |
湿生植物 兵庫県RDB 要調査種 |
Fig.1 (西宮市・湧水湿地 2007.5/5) |
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Fig.2 (兵庫県篠山市・雑木林の細流脇 2012.5/5) 低山〜山地の半日陰〜日陰の湿地、細流脇に生育する多年草。 低山では雑木林の林床の細流で見られるほか、植林された杉林の谷間のミズゴケのある場所などにも見られる。 根茎は短く叢生するが、古い根茎が残り、経年した株ゆるく叢生しているように見える。基部の鞘は淡褐色。 葉は糸状で細く0.5〜0.8mm。花茎は針金状、高さ20〜30cm、鈍稜があり、平滑、しばしばよじれる。 小穂は1個を頂生し、長さ4〜6mm、上部は2〜3個の雄花からなる雄花群が直立してつき、下部は雌花が(2〜)4〜6(〜8)個つく。 雄鱗片は狭楕円形で鈍頭、鉄さび色、脱落しやすく、長さ1.5〜1.8mm。 雌鱗片は楕円形で、鈍頭、脱落しやすく、長さ1.3〜1.6mm。最下の雌鱗片はしばしば短い芒を生じる。 果胞は長卵形で長さ2.5〜2.8mm、幅1.1〜1.3mm、表面に腺点はなく、有脈、横断面は3稜形、短い嘴があり、口部は2小歯となる。 痩果は果胞に密に包まれ、3稜あり、長卵形、長さ1.3〜1.6mmで、茶褐色。雌蕊柱頭は3岐する。 【メモ】 本ページの草本は最初「ハリガネスゲ」と紹介していたが、2008年に新記載された「サトヤマハリスゲ」の特徴と合致した。 また同時に、近畿地方のやや高標高地に生育する「コウヤハリスゲ」も新記載された。 まだ確実なことは言えないが、サトヤマハリスゲは県南部に見られ、ハリガネスゲ内陸部に見られるようである。 「兵庫県維管束植物11」に掲載されている神戸市北区産のものはサトヤマハリスゲとハリガネスゲとが標本番号が重複している。 文献(ページ最下の参考文献参照)を元に、ハリスゲ節のスゲの覚書き風の比較表を作成してみた。 |
種名 | サトヤマハリスゲ C. ruralis |
ハリガネスゲ C. capilacea |
ミチノクハリスゲ C. capilacea var. sachalinensis |
コウヤハリスゲ C. koyaensis |
マツバスゲ C. biwaensis |
根茎 | 短い | やや伸び、ゆるく叢生 | やや伸び、ゆるく叢生 | 長くはう | 短い |
葉幅 | 0.4-0.8mm | 1-2mm | 0.8-2mm | 1-1.5mm | |
有花茎 | 不整な3-4稜形、平滑 | 鋭稜があり、平滑 | 不整な3-4稜形、平滑 | 平滑 | |
小穂長 | 4-6mm | 5-10mm | 4-6mm | 10-20mm | |
雄花部 | きわめて短く2-3花 | 雌花部と同長 | きわめて短く2-3花 | 雌花部と同長か少し長い | |
雌鱗片 | 卵形、鈍頭、1.3-1.6mm | 円頭、褐色 | 卵形、鈍頭、1.3-1.6mm | ||
雌花数 | (2)4-6(8)花 | 6-15花 | 4-6(8)花 | 12-25花 | |
果胞形状 | 卵形 次第に細くなり先は短い嘴状 |
卵形 嘴は短く、熟すと開出 |
卵形〜広卵形 次第に細くなり先は短い嘴状 |
卵形 熟すと開出 |
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果胞の質 | 不透明 | 不透明 | 不透明 | 不透明 | 不透明 |
果胞長 | 2.2-2.8mm | 2-3mm | 3-4mm | 2-2.3mm | 1.6-2mm |
果胞の脈 | 明瞭 | 明瞭 | 明瞭 | 不明瞭な5-7脈 | 明瞭な6-10脈 |
痩果の包まれ方 | 密に包まれる | ゆるく包まれる | ゆるく包まれる | ややゆるく包まれる | ゆるく包まれる |
その他 | 葉縁は少し内曲 | ふつう果胞に腺点がある | 果胞が大きい | 葉は柔らかく、曲がることが多い | 小穂は長い |
種名 | エゾハリスゲ C. uda |
ニッコウハリスゲ C. fulta |
ユキグニハリスゲ C. semihyalofructa |
ヒカゲハリスゲ C. onoei |
コハリスゲ C. hakonensis |
根茎 | 短い | 短い | 伸長し、ゆるく叢生 | 短い | 短い |
葉幅 | 2-3mm | 2-3mm | 1.7-2.8mm | 1-3mm | 0.7-1.2mm |
有花茎 | 鋭稜があり、平滑 | 3稜形、著しくざらつく | 3稜形、ざらつく | 3稜形、ざらつく | 3稜形、少しざらつく |
小穂長 | 7-10mm | 3-7mm | 5-8mm | 4-6mm | 3-5mm |
雄花部 | 雄花部小さい | 雄花部きわめて小さい | 雄花部小さい | 雄花部きわめて短い | 雄花部きわめて短い |
雌鱗片 | 褐色 | 淡緑色 | 褐色 | 褐色、鋭頭 | 褐色、鈍頭〜鋭頭 |
雌花数 | |||||
果胞形状 | 狭卵形〜披針形 長い嘴があり、熟すと反曲 |
卵形〜広卵形 嘴は短く、熟すと開出 |
卵形〜広卵形 嘴は短く、熟すと斜開 |
卵形〜広卵形 嘴は長く、口部2歯がやや目立つ |
卵形〜広卵形 嘴は短い |
果胞の質 | 不透明 | 不透明 | 不透明 | 透明 | 透明 |
果胞長 | 3.5-4mm | 2-2.5mm | 2.4-3.1mm | 2.5-3mm | 2-2.5mm |
果胞の脈 | 明瞭 | 明瞭 | 不明瞭 | 不明瞭 | 不明瞭な2〜5脈 |
痩果の包まれ方 | ゆるく包まれる | 密に包まれる | 密に包まれる |
ハリガネスゲ(C. capillacea)は葉幅0.8〜2.3mm、雌花群は6〜15個の雌花からなり、果胞は長さ2〜3mmで、表面に腺点がある。 シラビソ帯やブナ帯ではサトヤマハリスゲに似た以下の2種がある。 ヒカゲハリスゲ(C. onoei)はブナ帯の渓流畔に生育し、茎は鋭稜で上部はざらつき、雄花部はきわめて短く、雌鱗片は果胞と同長でとがり、果胞は痩果を密に包む。 コハリスゲ(C. hakonensis)はシラビソ帯の樹林内に生育し、茎の稜はやや鈍く、雄花部はきわめて短く、果胞はやや扁平で、膜質、痩果が透けて見える。 近似種 : ハリガネスゲ、、 コウヤハリスゲ、 ニッコウハリスゲ、 ヒカゲハリスゲ、 コハリスゲ、 マツバスゲ ■分布:愛知、岐阜、三重、滋賀、京都、大阪、兵庫の各府県。 ■生育環境:低山地の半日陰〜日陰の湿地など。 ■果実期:5〜7月 ■西宮市内での分布:市内では中・北部の低山域にやや普通。市内のものは雌花が2〜4花のものが多い。 |
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↑Fig.3 花茎を多数あげたサトヤマハリスゲ。(兵庫県篠山市・溜池跡湿地 2009.6/14) 目立たない草本であるが、見つけると先ず小穂の果胞の少なさが目につく。 |
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↑Fig.4 全草標本。(兵庫県篠山市・溜池跡湿地 2009.6/14) 花期〜果実期に生じる葉は短く、葉幅は0.5〜0.8mmと細い。 |
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↑Fig.5 基部。(兵庫県篠山市・溜池跡湿地 2009.6/14) 複数の分けつした個体の集まり。基部の鞘は淡褐色または淡色。 |
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↑Fig.6 葉。(西宮市・細流脇 2010.5/16) 葉幅はこの仲間のうちでは最も細く、0.4〜0.8mm、表面は少しくぼむ。 |
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↑Fig.7 小穂は雄雌性。(西宮市町・細流脇 2007.4/30) 最頂部には雄花が1個直立してつく。雄花部は2〜3個の雄花からなる。 下部は雌花部で、雌花は熟すと平開する。雌花は(2〜)4〜6(〜8)個つく。 雌鱗片は果胞より短く、鈍頭。最下の雌鱗片はしばしば短い芒を生じる。 |
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↑Fig.8 小穂の雌花数は少ない。(西宮市・細流脇 2010.5/16) |
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↑Fig.9 果胞(左)と痩果(右)。(西宮市・湧水湿地 2007.5/5) 果胞は長卵形で長さ2.5〜2.8mm、幅1.1〜1.3mm。数脈あり、表面にはハリガネスゲに見られるような腺点は無い。 痩果は狭長卵で長さ約1.6mmで、茶褐色。3稜ある。 |
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↑Fig.10 秋季の草体の様子。(西宮市・日陰の湿地 2006.9/18) 秋には糸状の葉が30cm近く延びて、地表に倒伏気味に広がる。 |
西宮市内での生育環境と生態 |
Fig.11 雑木林の林床中にある日陰のミズゴケ湿地の周辺に生育していたサトヤマハリスゲ。(西宮市・日陰の湿地 2006.9/18) 市内低山域の林床にミズゴケの見られるような場所では、必ずといっていいほどサトヤマハリスゲを見かける。 画像にも見えるように、ヒメアギスミレを伴うことが多い。 |
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Fig.12 樹林内の湧水地に生育するサトヤマハリスゲ。(西宮市・湧水湿地 2007.5/5) 清水の湧き出す場所にオタルスゲとともに成育していた。 周辺にはコアジサイの小低木が多く、ショウジョウバカマ、トウゲシバ、ゼンマイ、シソバタツナミなどが見られた。 |
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Fig.13 山腹の小湿地に生育するサトヤマハリスゲ。(西宮市・湿地 2010.6/11) 日当たり良い山腹の小規模地すべり地に形成された湿地に多数の個体が生育していた。 サトヤマハリスゲは日向〜半日陰に生育が見られ、オタルスゲ、ゴウソ、ミヤマシラスゲ、コウガイゼキショウ、コケオトギリ、モウセンゴケ、 アリノトウグサなどとともに生育している。 |
他地域での生育環境と生態 |
Fig.14 溜池跡の湿地で生育するサトヤマハリスゲ。(兵庫県篠山市・溜池跡湿地 2009.6/14) この溜池跡地は兵庫県内にあってはゴウソとともにヤマテキリスゲが優占する点で特異的な群落であるといえる。 画像中央や右手に見える黄緑色針状の草体がサトヤマハリスゲ。それ以外の線形の叢生する鮮緑色の草体は全てヤマテキリスゲ。 他にはヌマトラノオとムカゴニンジンの群落が顕著に発達していた。 |
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Fig.15 細流脇で生育するサトヤマハリスゲ。(兵庫県篠山市・雑木林の細流脇 2012.5/5) 明るい雑木林の細流脇でクサスゲ、ササノハスゲとともに生育していた。 周辺にはシハイスミレ、ナガバノタチツボスミレ、トウゴクシソバタツナミ、アケボノソウ、ニガナ、シシガシラ、シケシダなどが見られた。 |
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【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。) 勝山輝男. 2001. スゲ属ハリスゲ節. 神奈川県植物誌調査会(編)『神奈川県植物誌 2001』 445〜447. 神奈川県立生命の星・地球博物館 勝山輝男, 2005. ハリスゲ節. 『日本のスゲ』 32〜41. 文一総合出版 Oda, J. and Nagamatsu, H. 2008. Two New Species of Carex sect. Capitellatae(Cyperaceae) from Japan. Acta Phytotax. Geobot. 59:55-66. 黒崎史平・松岡成久・高橋晃・高野温子・山本伸子・芳澤俊之 2009. サトヤマハリスゲ. 兵庫県産維管束植物11 カヤツリグサ科. 人と自然20:159. 兵庫県立・人と自然の博物館 最終更新日:5th.Apr.2013 |