ケシンジュガヤ Scleria rugosa  R.Br. カヤツリグサ科 シンジュガヤ属
湿生植物  兵庫県RDB Cランク種
Fig.1 (兵庫県三田市・溜池土堤上 2013.8/23)

Fig.2 (兵庫県加東市・湿った草地 2012.9/13)

貧栄養で日当たりよく、貧栄養な被植の少ない湿地や湿原に生える1年草。
植物体は叢生し、やや小型で、高さ10〜30cm、淡緑色で、全体に白色毛がある。
有花茎は2〜3節があり、軟らかい。葉は幅約2mm、先端は短くとがる。葉鞘は翼がなく、節間より短い。
花序は2〜3個つき、やや少数の花からなり、柄は湾曲する。苞葉の葉身は葉状。
小穂は雄花と雌花に分かれている。鱗片は狭卵形〜卵形、まばらに毛を持ち、鋭頭。
痩果は広楕円形〜球形、幅1.5〜2mm、白灰色、光沢があり、不規則な格子紋がある。
痩果の下部にある基盤の裂片は鈍頭。柱頭は3岐する。

変種にマネキシンジュガヤ(var. glabrescens)があり、全体にほとんど毛がない。
よく似たものにコシンジュガヤS. parvula)があり、湿地に成育する。
葉鞘には3翼があり、小穂は3〜6個つき、下方につくものは長い柄があり垂れ下がる。痩果にはまばらに毛が生え、細かい格子紋があり、全体に光沢がある。
ミカワシンジュガヤS. mikawana)は高さ30〜70cm、葉鞘に翼はなく、葉は硬く、痩果表面は光沢がなく、基盤の裂片は急鋭頭。
大型の多年草シンジュガヤS. levis)は日当たりの良い湿った草地に生え、高さ70〜100cmとなり、葉鞘には広い翼がある。
近似種 : マネキシンジュガヤコシンジュガヤミカワシンジュガヤシンジュガヤカガシラ

■分布:本州(栃木県以南)、四国、九州、沖縄 ・ 台湾、朝鮮半島、マレーシア、インド、オーストラリア
■生育環境:湿地、湿原など。
■果実期:8〜10月
■西宮市内での分布:市内では確認できていない。
              兵庫県下では古くに成立したと思われる湿地に隔離的に分布し、変種のマネキシンジュガヤよりも自生地は限られるように思われる。

Fig.3 全草標本。(兵庫県神戸市・湿地 2011.10/16)
  草体は小型で、全体に白色毛があり、叢生する。
  標本は採集時期がやや遅く、初期の有花茎は枯れて、その痩果は脱落していた。

Fig.4 基部と地下部。(兵庫県神戸市・湿地 2011.10/16)
  基部の鞘にも白色毛が密に生える。根はあまり発達せず、赤味を帯びる。

Fig.5 葉の表面(上)と裏面(下)。(兵庫県神戸市・湿地 2011.10/16)
  葉は3脈が顕著で、脈上と葉縁に開出する白色毛が多く、中央脈は凹む。

Fig.6 葉先。(兵庫県神戸市・湿地 2011.10/16)
  葉幅はほぼ一定の広さを保ち、先端近くで急に狭くなる。葉先の部分では毛は短く、目立たない。

Fig.7 有花茎。(兵庫県神戸市・湿地 2011.10/16)
  有花茎は2〜3節があり、湾曲した柄を持った花序がつく。

Fig.8 葉鞘。(兵庫県神戸市・湿地 2011.10/16)
  葉鞘は節間よりもかなり短く、顕著な翼はない。

Fig.9 痩果。(兵庫県神戸市・湿地 2011.10/16)
  痩果は広楕円形〜球形、幅1.5〜2mm、白灰色、光沢があり、不規則な格子紋がある。
  痩果の下部にある基盤の裂片は鈍頭。

Fig.10 ケシンジュガヤ(左)とマネキシンジュガヤ(左)。(兵庫県三田市・溜池土堤 2013.8/23)
  典型的な両種の比較画像。ケシンジュガヤは全体に毛が多く、遠くから見るとやや白味を帯びているように見える。

他地域での生育環境と生態
Fig.11 ケシンジュガヤの生育環境。(兵庫県神戸市・湿地 2011.10/16)
ケシンジュガヤは兵庫県下ではマネキシンジュガヤよりも稀に見られ、やや規模の大きな地すべり地に生じた、比較的古いと思われる貧栄養な湿地に生育する。
湿地内での生育環境はマネキシンジュガヤとほぼ変わらず、地下水の滲出があり、表層にほとんど腐植質のない、ネザサや大型の草本の生育しにくい場所である。
このような場所は半裸地状の湿地となりやすく、自生地では小型のケシンジュガヤが他の草本とともに密生する。
ここではすでに最盛期を終えて枯れつつあるおびただしい数のケシンジュガヤとともに、ヒメカリマタガヤ、イトイヌノハナヒゲが背丈の低い湿生植物群落を形成していた。

Fig.12 湿原内の攪乱地に生育するケシンジュガヤ。(兵庫県神戸市・湿地 2011.10/16)
ケシンジュガヤは湿地や湿原内でも裸地的な環境を好み、湿原内に野生動物によって生じた攪乱地に時に大きな株が見られる。
画像中央に見られる枯れかかった放射状に広がった草体がケシンジュガヤで、Fig.9のような安定した場所で見られるものより2倍近くの大きさがある。
攪乱地の中心近くでは、こういった場所にいち早く生育するアオコウガイゼキショウが生育しているのが見られた。

Fig.13 溜池土堤上に群生するケシンジュガヤ。(兵庫県三田市・溜池土堤 2013.8/23)
貧栄養湿地を伴う溜池の土堤上にコシンジュガヤ、マネキシンジュガヤ、イヌノハナヒゲとともに群生していた。
ここではケシンジュガヤとは変種関係にあるマネキシンジュガヤと混生し、中には毛の生え方が中間的な紛らわしい個体も見られた。

【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑や一般書籍を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。)
大井次三郎, 1982. カヤツリグサ科シンジュガヤ属. 佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎・旦理俊次・冨成忠夫 (編)
       『日本の野生植物 草本T 単子葉類』 p.168〜169. pls.150〜151. 平凡社
小山鐡夫, 2004 カヤツリグサ科シンジュガヤ属. 北村四郎・村田源・小山鐡夫 『原色日本植物図鑑 草本編(3) 単子葉類』 p.254〜256. pl.64. 保育社
牧野富太郎, 1961 ケシンジュガヤ. 前川文夫・原寛・津山尚(補遺・編) 『牧野 新日本植物図鑑』 776. 北隆館
星野卓二・正木智美, 2003. ケシンジュガヤ. 星野卓二・正木智美・西本眞理子『岡山県カヤツリグサ科植物図譜(U)』 218,219. 山陽新聞社
小林禧樹・黒崎史平・三宅慎也. 1998. ケシンジュガヤ. 『六甲山地の植物誌』 253. (財)神戸市公園緑化協会
星野卓二・正木智美, 2011 ケシンジュガヤ. 星野卓二・正木智美・西本眞理子『日本カヤツリグサ科植物図譜』 538,539. 平凡社
村田源. 2004. ケシンジュガヤ. 『近畿地方植物誌』 167. 大阪自然史センター
黒崎史平・松岡成久・高橋晃・高野温子・山本伸子・芳澤俊之 2009. ケシンジュガヤ. 兵庫県産維管束植物11 カヤツリグサ科. 人と自然20:180.        兵庫県立・人と自然の博物館

最終更新日:27th.Sept.2013

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