ミヤコオトギリ Hypericum kinashianum  Koidz.
  山地・林縁・渓流畔の植物 オトギリソウ科 オトギリソウ属
Fig.1 (神戸市・林縁 2015.7/13)
山地のやや湿った林縁や渓流畔などに生育する多年草。
茎は高さ30〜40cmになり、無毛、上部で分枝する。
葉は長楕円形〜線形、濃緑色で、長さ2〜4cm、基部はなかば茎を抱き、縁に黒点が並ぶ。葉裏は多数の黒点がある。
茎の先と枝の先は集散状の花序になり、多くの花が集まる。
萼片は長楕円形〜長卵状披針形、鈍頭または鋭頭、黒線が入り、縁には黒点が多い。
花冠は径約15mm。花弁の長さ3.5〜7mmで、裏に黒点と黒線が入り、縁には黒点がある。
花柱は子房よりも長い。刮ハは長楕円状卵形、長さ4〜6mm。

オトギリソウH. erectum)は花弁が大きく長さ9〜10mm。葉はふつう広披針形で、葉先に向かって長三角状に狭くなる。千島〜沖縄。
サワオトギリH. pseudopetiolatum)は花柱が子房より短く、花弁の長さ3.8〜6mm、葉に明点、萼片と花弁に明線が入る。北海道〜九州。
アゼオトギリH. origanthum)は花弁の長さ7〜8mm、萼片と花弁に明腺と黒腺が混じる。刮ハは丸みが強く長さ6.5mm、幅5.5mm。本州〜九州。
近縁種 : オトギリソウサワオトギリアゼオトギリヒメオトギリコケオトギリ

■分布:本州(関東以西)、四国、九州
■生育環境:山地のやや湿った林縁や渓流畔など。
■花期:7〜9月

Fig.2 葉。(神戸市・林縁 2015.7/13)
  葉は長楕円形〜線形、濃緑色で、長さ2〜4cm、基部はなかば茎を抱く。
  葉は全体的に細く、同じ葉幅が長く続き、オトギリソウのような強壮さはなく、繊細に見える。

Fig.3 葉縁には黒点が並ぶ。(神戸市・林縁 2015.7/13)
  葉裏にはオトギリソウと同様な黒点があるが、オトギリソウほど密にはない。

Fig.4 茎の先と枝の先は集散状の花序になる。(神戸市・林縁 2015.7/13)

Fig.5 つぼみ。(神戸市・林縁 2015.7/13)
  萼片は長楕円形〜長卵状披針形、鈍頭または鋭頭、黒線が入り、縁には黒点が多い。
  花弁の裏面には黒点と黒線が入り、縁には黒点がある。苞はごく小さな葉状で、三角状卵形。

Fig.6 花。(神戸市・林縁 2015.7/13)
  花はオトギリソウより小型で、花冠は径約15mm。花弁の長さ3.5〜7mm。花は午前中に開き、午後にはしぼむ。

Fig.7 横から見た花。(神戸市・林縁 2015.7/13)
  花柱は3個、子房よりも長い。雄蕊は多数あり、3束からなる。

Fig.8 花弁には稀に黒点が出る。(神戸市・林縁 2015.7/13)

Fig.9 刮ハは長楕円状卵形。(神戸市・渓流畔 2015.10/27)

Fig.10 熟した刮ハ。(神戸市・渓流畔 2015.10/27)
  刮ハは熟すと、先が3裂し、長さ4〜6mm。

Fig.11 種子。(神戸市・渓流畔 2015.10/27)
  種子は長楕円形で、長さ0.6〜0.8mm、褐色〜暗褐色。

Fig.12 種子の拡大。(神戸市・渓流畔 2015.10/27)
  種子表面には稜の低い方形の格子模様が縦に並ぶ。

生育環境と生態
Fig.13 林縁の小崩壊地で生育するミヤコオトギリ。(神戸市・林縁 2015.7/13)
六甲山地の渓流に面した登山道脇のやや湿った小崩壊地に、数多くのパイオニア植物とともにミヤコオトギリが生育していた。
ミヤコオトギリは渓流畔の小崩落地や、他の種の生育しにくい崖地などで見かけることが多く、風化しやすい花崗岩主体の六甲山地ではよく見かける。
ここでは同所的に、周辺部に生育し林縁部で発芽したウラジロマタタビ、ウリカエデ、マルバアオダモ、ヤマアジサイ、ヌルデなどの樹木類の幼苗の他、
シラネセンキュウ、ヤマジノホトトギス、ナガバノタチツボスミレ、パイオニア植物であるヒメヤシャブシ、クマイチゴ、ナガバモミジイチゴ、サケバヒヨドリ、
タラノキ、ウドなどが生育している。翌年の2016年夏にはミヤコオトギリは各種パイオニア植物に覆われて消滅し、クマイチゴ、ナガバモミジイチゴ、
ウラジロマタタビ、タラノキ、ウドが目立つようになり、ヤマジノホトトギスも後退している。
六甲山地のさらに高所で急峻な沢沿いの崩壊地になると、ミヤコオトギリは稀となり、フクオウソウやウスゲタマブキ、ミヤマコウモリソウのような、
種子が広範囲に飛散する仕組みのある種が取って替わる。


最終更新日:24th.Jul.2016

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