西宮の湿生・水生植物


 フィールド・メモ


このページはトップページの 「水辺から、そして緑から…」 で紹介した記事のバックナンバーに、一部画像を追加し加筆したものです。

 2009年 7月

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淡路島にて
ハマビシ
開花したハマビシ
早くも開花が始まっていました。50年程前までは各地の海岸で見られ、鋭いトゲを持つ種子が毛嫌いされて、除草の対象となっていたようです。 種子のトゲは鋭く、事実刺さると大変痛いです。現在ではすでに絶滅した地域が多く、自生地は全国でも限られ環境省の絶滅危惧TB類(EN)に指定されています。 減少の主原因は海浜の埋め立て、海岸の改変によるものです。
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ハマビシと淡路島の溜池
先ずはお詫び・・・というか言い訳を。トップページの更新が大幅に遅れ、はや8月になろうかというのにようやく7月の初旬のメモをアップすることができました。 このところいろいろと多忙でなかなか更新作業に手をつけられません。今後もスローペースが続くかと思いますが何卒ご了承の程を。
以前、淡路島で保全されているハマビシのことを書きましたが、その後の様子をTK・NN両先生とともに見に行って来ました。 発芽個体数は先ず先ずでしたが、今年の雨不足が影響して土壌が乾いているためか、勢いの良い個体は給水ホース周りのものばかりでした。 一部を下水処理場の外部に試験的に蒔いたものでは、盛り土斜面最下の水溜りの脇でのみ生育が見られました。 ハマビシの自生地は一見乾いたように見える場所が多いですが、地中は適湿な状態にあるのかもしれません。
その後、NN先生お目当てのヒメカジイチゴの自生地に向かい生育状況を観察、付近では林縁にナガバハエドクソウやヤマトウバナ、花後のヒトリシズカ、 クロモがひしめき合う溜池、土堤に無数に生育する成長期のコシオガマなどが見られました。
淡路島は兵庫県南部同様、瀬戸内気候で降雨が少ないために非常に溜池の多いところで、山際の谷間には必ずといってよいほど流れを堰き止めて作った灌漑用の溜池が見られます。 今回もいくつもの溜池が見られましたが、谷間の最上部につくられ管理放棄されてヤブ漕ぎが強いられるような場所にある溜池で豊富な植生が見られました。 池畔にはサイコクヌカボのほぼ純群落に近い大規模な集団が見られましたが、このように大きな群落を目にするのは初めてで、 しかも水中にはそこここに沈水形で生育しているものが見られ大感激です。今は丹波の湿生・水生植物を調べている最中ですが、それが終われば淡路島行脚が始まるかもしれません。

ハマビシの生育状況
ハマビシの生育状況
黒いのは散水ホースで、小さな穴が等間隔に空いておりタイマーで定期的に散水しています。 今年は発芽期に降雨量がごく少なかったため、散水ホースから遠い個体ほど小さな個体となり、水枯れのストレスによって葉が黄変しているものも見られました。
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ナガバハエドクソウ
ナガバハエドクソウ
林縁にナガバハエドクソウが開花していました。丹波付近では7月中旬に開花が始まりますが、淡路島あたりではやはり早く開花するようです。 ナガバハエドクソウはハエドクソウの1品種ですが、特に分けないこともあるようです。 ハエドクソウはハエ取り紙の原料となったもので、根の絞り汁を煮詰めたものを使っていたとのこと。 シカの多い丹波地方の山林ではシカが食べないため、マツカゼソウとともに増えつつある草本です。
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●関西の花 ナガバハエドクソウ
山間の溜池
管理放棄された山間の溜池
谷間の高茎雑草が繁る急な土堤を登りつめると穏やかな風情を見せる溜池が現れました。水はかなり干上がって、流れ込み付近の緩斜面は露出しています。 画像奥の流れ込みの砂地の色の濃い部分は表土が湿っており、純群落に近いサイコクヌカボが群生しています。 サイコクヌカボ群落中には少量ながらホソバノウナギツカミ、オオイヌタデなども混じっていました。 池の左側の干上がった部分ではアオガヤツリ、メアゼテンツキが生育しています。 水中ではイトトリゲモ、トリゲモsp.、イトモ、シャジクモが多く、抽水状態のヒメガマらしきものがわずかに見られ、サイコクヌカボの沈水形が多数見られました。
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イトトリゲモ
イトトリゲモ
トリゲモ類の中では比較的小型で、その名のとおり葉は糸のように細く、葉腋につねに2個の果実をつけることで他種と区別されます。 ほとんどのトリゲモ類は減少傾向にあり、その中でもイトトリゲモは他のトリゲモ類と比較すると稀なほうで、 近畿地方ではホッスモやヒロハトリゲモ(サガミトリゲモ)、オオトリゲモのように簡単に見つけることはできません。 画像のものは果実が未熟であったため、まだイトトリゲモのページは作っていませんが、もう少し観察事例を増やしてからページを立ち上げたいと思っています。
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●沈水植物 イトトリゲモ
サイコクヌカボ群落
サイコクヌカボ群落
サイコクヌカボは比較的稀なタデ科の植物で環境省の絶滅危惧U類(VU)に指定されていますが、兵庫県では播磨地方でよく見られるようで、絶滅危惧種には指定されていません。 画像は干上がった流れ込みの砂地の湿った場所に密に生育しているもので、これほどの群落を見たことはありません。 TK先生によると、県下には他にも大きな群落のある溜池が播磨に1ヶ所あるようで、次回はそちらで開花期に取材してページを立ち上げる予定です。
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●湿生植物 サイコクヌカボ
サイコクヌカボ沈水形
沈水形のサイコクヌカボ
サイコクヌカボはイボクサやミズユキノシタのように水没すると沈水形となります。葉は陸生形よりも薄く細い線状披針形となり、葉裏は強く赤味を帯びていました。 池中には沢山の沈水形のサイコクヌカボが見られ、このような光景を眼にするのもはじめてです。
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