このページはトップページの 「水辺から、そして緑から…」 で紹介した記事のバックナンバーに、一部画像を追加し加筆したものです。 |
---------------------------------------------- 18th. Sept. 2009 ------------------------------------------ 秋の水田・休耕田と溜池 その1 |
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刈り取り後の水田 稲刈りが終わると水田内を自由に動き回ることが出来て、これまで稲に隠れて見えなかった水田雑草を沢山見ることが出来ます。 市街地近くの水田では アゼナ や タケトアゼナ、 アメリカアゼナ、 ウキアゼナ、 ホソバヒメミソハギ、 イボクサ ぐらいしか見れないような場所も多く、二毛作によってすぐに畑地へと転地されるところも多いですが、 棚田や山間の水田ではまだまだ沢山の水田雑草を見ることが出来ます。 比較的普通な アゼナ、 チョウジタデ、 コナギ、 ミゾカクシ、 イヌホタルイ、 タマガヤツリ、 ヒナガヤツリ、 に加え、 オモダカ、 ウリカワ、 マツバイ、 ハリイ、 ミゾハコベ、 キクモ、 キカシグサ、 アゼトウガラシ が見つかったらその水田はかなり環境のよい場所です。 さらによく探すと エダウチスズメノトウガラシ、 ヒロハスズメノトウガラシの他、各地でRDB指定を受けている ミズマツバ、 アブノメ、 シソクサ、 マルバノサワトウガラシ、 スズメノハコベ などが見つかるかもしれません。 画像は稲刈り後の水田の様子で、 キクモ、 シソクサ、 キカシグサ、 アゼナ、 アメリカアゼナ、 ヒナガヤツリ、 チョウジタデ(幼苗)などが見えます。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。) |
秋の水田雑草と湿生植物が揃い踏み 久々の更新で撮り溜めた画像を一挙放出、と行きたいところですがHDが故障し、データを読み出すことができずかなりへこんでいました。 西宮新産種の画像や、いろいろと工夫して撮り溜めた種子や植物細部の画像などが沢山あったのですが・・・。 そんなわけで忙しさも相俟って更新する気力も起こらず長らく放置していましたが、この時期一斉に開花する元気な水田雑草になぐさめられて、久々の更新をしようという気になりました。 楽しみにされていた方には、申し訳ない限りです。 真夏日の日が減少し、里山や山間の水田の土手にツリガネニンジンが咲き、アブラススキの穂が風に揺れ、 ノダケ や タムラソウ、 サワヒヨドリ、 ムカゴニンジンの花が見られるようになると、 あちこちの水田では稲刈りが始まり、それまで稲の株元に隠れていた様々な水田雑草が姿を現します。 かなり日が短くなりましたが、水田雑草を探して夕闇迫るまで虫の声に包まれながら里山で過ごす時間は至福の時です。 広い地域に渡って灌漑する溜池の多くは水位がかなり下がって、池畔にはこれまで沈水〜抽水状態であった湿生植物が姿を現します。 干上がった状態でようやく出現するカヤツリグサ科植物も一斉に発芽して、干上がった溜池底面に緑の芝が広がっているような光景を目にすることもあります。 湿地では ミカヅキグサ や ノハナショウブ が結実し、秋に開花する キセルアザミ や サワギキョウ が花茎を上げ始めました。 今回はそのような秋の水田雑草や湿生植物の様子を数回に渡ってお伝えしようと思います。 まずは秋の湿性環境の様子から、刈り取り後の水田、休耕田、溜池の概況を紹介し、今回は様々な水田雑草とその生育環境や生育状況をお伝えしたいと思います。 なお、画像中のものは全て今年に入ってから見つけた自生地のものばかりです。 現在観察中の丹波・摂津・阪神などのフィールドでは、稀な水田雑草として知られる マルバノサワトウガラシ や スズメノハコベ は見つけることができていません。 この2種は兵庫県内ではもっと低緯度の北のほうに出掛けないと見れないようです。 | |
溜池横にある休耕田 休耕してあまり年月の経っていない湿田です。すぐ隣りには水位が一定に保たれている溜池があり、溜池水面と休耕田の地表面との差がほとんど無いため 地下水位が高く、高茎の草本がほとんど侵入しておらず、湿生植物には良い環境が保たれているようです。 この休耕田の山際の斜面下部からは湧水が微量に染み出しているようで、オオミズゴケ群落が発達し、 ヌマトラノオ、 ケキツネノボタン、 オオバタネツケバナ、 アキノウナギツカミ が生育し、 中央部では サワトウガラシ群落が発達し、 アブノメ、 イヌノヒゲ、 アゼトウガラシ、 アゼナ、 イヌビエ、 オオハリイ、 マツバイ、 タマガヤツリ、 イボクサ、 ヒロハノコウガイゼキショウ、 セリ、 ヤノネグサ などが混じります。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。) |
渇水した溜池 下方に広く灌漑地域を持つ溜池では、雨の少ない晩夏から秋にかけて次第に干上がり多くの溜池では池畔に裸地状の泥地や砂地が姿を現します。 しかし、画像の溜池はちょっと事情が異なります。この溜池は丹波地方の山間部にあり、この池の少し下流部にダムが建設される予定で、 そうなるとこの池もダム湖に沈むかあるいはダム湖上方の調整池として整備されるような様子です。 池は水抜きされ、流入部にあった ハンノキ群落は伐採され、林床にあった ミズユキノシタ、 タカネマスクサ、 ツルニガクサ などの湿性植物群落は重機によって蹂躙されほとんど跡形もありません。 溜池内には丹波地方随一と思われる数千株の ミズニラ群落 があり、 イトモ と フラスコモ類 の群落がよく発達し、決して花茎を上げることのない沈水形の ミクリsp. が少量生育する溜池でした。 画像中の緑濃い部分はミズニラ群落で、群落内には ヒメホタルイ が少量混じっています。砂地のように見える白い部分は実際は砂地ではなく、泥の上に イトモ と フラスコモ類 が枯れて白化してものが泥上を覆っているものです。 ミズニラ、 ヒメホタルイ、 陸生形となったミクリsp.のいずれも水抜きされたことによってシカの食害を受け、地上部が損傷しています。 ミズニラ、 イトモ、 ミクリ類、 さらには池畔の樹冠に産卵するモリアオガエルなど県RDBに記載されているものが多く生育する場所であるのに、移植の形跡もなく放置されており 環境アセスメントが為されているかはなはだ疑問を感じる場所であると思います。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。) |
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シソクサ シソクサは ゴマノハグサ科 の水田雑草で、分布域は広いのですがどこでも見られるというものではなく、 私の観察フィールドでは町村内などの1地域の水田のうち2、3枚の水田にのみに限って生育するような傾向があります。 未知の場所で発見するには、「このあたりの田んぼは怪しい」と感じる経験と感受性、運、そしてあたり一帯の水田を1枚1枚覗いて回る根気が必要です。 そうやって見つけた場所では、シソクサが発見されるのを待っていたかのように花冠を上に向けてあちこちに咲いています。 しかし、こんなふうに書きながらも、勘が当たるは5回に1回ぐらいでなかなか見つけにくい水田雑草です。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。) ●湿生植物 シソクサ |
アブノメ アブノメも ゴマノハグサ科 の水田雑草で、シソクサ同様なかなか簡単には見つからない水田雑草です。 刈り取り後の水田ではコンバインに押し潰されて這いつくばっているような姿を見かけますが、 水田内の稲を植えていない減反地や休耕田では茎を高く立ち上げて沢山の花をつけた元気な草体が見られます。 花には正常花(開放花)と閉鎖花があり、淡紫色の正常花をつけるのは茎を元気よく立ち上げたのもです。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。) ●湿生植物 アブノメ |
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ウリカワの雌花と雄花 オモダカ科の水田雑草。左が雌花。花柄はなく花茎の下部に1〜2個じかに付いて、多数の心皮が離性し、花柱は立ちます。 右は雄花。雄花には花柄があって花茎上部に2〜6個輪生し、12個以上の多数の黄〜黄橙色の葯のある雄蕊があります。 ウリカワは時として農薬に耐性のあるものが現れて、水田内で大発生しているのを見かけることがあります。 画像のものは休耕田に生育しているもので、農薬の撒かれないこういった場所では、他の水田雑草とともに混生して調和のとれた光景が見られ、10月下旬頃になっても開花していることがあります。 同じオモダカ科のオモダカは休耕初年度は沢山現れますが、2年目からはかなり減少する傾向が見られます。 それに対して、ウリカワのほうはかなりの年数を経た休耕田でも見かけます。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。) ●抽水植物 ウリカワ |
キクモ 水田雑草を探して夕暮れ迫るなだらかな低山に囲まれた谷津を歩いていると、キクモのお花畑のような休耕田を見つけました。 休耕田のおよそ60%がキクモに覆われ、多くの茎頂付近の葉腋に花が付いていました。 淡紅紫色の花はとても小さなものですが、深く切れ込んだ葉にも独特の造形美があり、普通な種でありながらも群生すると美しいものです。 キクモは休耕田の マツバイ の絨毯の中に、パッチ状の群落を作る時、最もその種が持つ美しさが引き立つと思います。 画像のキクモの花は夕刻に撮影したため、閉じている状態です。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。) ●湿生植物 キクモ |
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ミズワラビ 在来の水生シダ植物の中では比較的よく見られる種です。私が観察しているフィールドでは丹波北部地域によく見られ、他の地域では稀な水田雑草です。 ミズワラビは水田の他、中栄養〜やや富栄養な溜池でも見られ、そのような場所で生育しているものは大型で、時に水面に浮遊して生育するものも見られます。 水槽内で沈水状態で育成すると、胞子葉を出すことなく、栄養葉の裂葉の葉縁に沢山の無性芽を生じて発根します。 画像のものは丹波北部の刈り取り後の水田に生育していたもので、ミズワラビの脇にはシソクサの若い株が見られるほか、ミゾハコベ、チョウジタデ、キクモ、キカシグサなどの若い草体が見えています。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。) ●湿生植物 ミズワラビ |
ミズマツバ 比較的自然度の高い水田内に生育する ミソハギ科 の水田雑草です。 次に紹介するキカシグサよりも自生地は少なく、各地でRDB指定種とされる、かなり二次的自然度の高い田園地域の指標種となると思われる水田雑草です。 コナギ−キカシグサ、キクモ−アゼトウガラシの次に出現頻度の多いエダウチスズメノトウガラシ、ヒロハスズメノトウガラシ、サワトウガラシ、ホシクサなどとともに 除草剤の影響が少なく、地下水位が高い水田に生育する種というような位置付けができるかと思われます。 稲刈り後の多少とも乾いた水田では茎は地表を這うが、湛水状態の湿田や休耕田では茎を立ち上げることもあり、こんもりとしたバッチ状の群落を形成するのを目にしたことがあります。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。) ●湿生植物 ミズマツバ |
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キカシグサ キカシグサは先に紹介したミズマツバ同様 ミソハギ科植物で、かなり二次的自然度の高い水田や休耕田で見られます。 茎は赤味を帯び、葉腋に小さな目立たない花をつけます。花弁は萼裂片よりも短いですが淡紅色で、ルーペでよく見るとユニークでかわいいものです。 キカシグサやアゼトウガラシが現れると、比較的稀なスズメノトウガラシ類やサワトウガラシ、ミズマツバの出現が期待できます。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。) ●湿生植物 キカシグサ |
ホシクサ ホシクサの仲間は、水田で見かけることがめっきり少なくなった水田雑草の一群です。 平野部の水田では今ではほとんど見かけることがなく、溜池畔などで残存している集団が見られます。 中山間地の水田や棚田では少なくなったものの、時折見かけることがあり、湛水状態の休耕田では群生していることもあります。 農薬さえ使用されなければ、どんどん殖える水田雑草です。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。) ●湿生植物 ホシクサ |
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イヌノヒゲ イヌノヒゲは ホシクサ科 の1年性草本で、溜池畔や湿地に生える印象が強いのですが、丹波地方の休耕田では次に紹介するヒロハイヌノヒゲの代役のようにイヌノヒゲが現れてきます。 丹波地方でも、休耕田に定着する以前には溜池畔や湿地に生育していたのだと思いますが、 丹波地方にも古い時代にあったはずの山間の湿地は水田として開発され、溜池畔の軟弱な1年性草本は近年のシカやアメリカザリガニの食害によって絶えていったと思われます。 画像のものはディアー・ライン(シカ除けの柵)の内側にある休耕田に生育しているもので、サワトウガラシ群落中に多数の個体が点在しています。 ディアー・ラインがなければ、サワトウガラシも含めイヌノヒゲや同所的に見られたアブノメ、アゼトウガラシも生き残ってはいなかったでしょう。 丹波地方では村落・耕作地の外側に高いディアー・ラインを設ける地区と、耕作地の外周に電気柵やネットを設けて野生動物の食害や蹂躙から逃れようとする地区がありますが、 村落・耕作地の外側に延々とディアー・ラインを張り巡らせた地域のほうが畦や土手、水田などに里山の植生が比較的よく保存されていると感じます。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。) ●湿生植物 イヌノヒゲ |
ヒロハイヌノヒゲ ヒロハイヌノヒゲも ホシクサ科 の1年草です。兵庫県下ではホシクサ同様、姿を消しつつある種です。 西宮市内ではホシクサは見られませんが、ヒロハイヌノヒゲはわずかに生き残っています。 画像のものは丹波地方の山間部の休耕田に生育していたものです。 夏頃には野生動物によってかなりの食害を受けていましたが、近隣の田畑にも多くの被害が出て、 付近の動物が潜めそうな藪が刈られてネットが張り巡らされたおかげで、開花期には食害が見られませんでした。 兵庫県内ではみかけることがありませんが、関東地方などでは黒花型のクロヒロハイヌノヒゲがあるようで、一度実物を見てみたいものです。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。) ●湿生植物 ヒロハイヌノヒゲ 今回の水田雑草の記事はここまでです。 次回は エダウチスズメノトウガラシ、 ヒロハスズメノトウガラシ、 アゼトウガラシ、 サワトウガラシ などの ゴマノハグサ科 の水田雑草や、 カヤツリグサ科 のものを紹介する予定です。 |
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アキアカネ 秋の風物詩のアキアカネです。夏は高地で過ごし、秋に低地に返ってくる習性が良く知られています。 水田が広がる谷津の奥に溜池があるような場所で沢山群れ飛んでいるのが見られます。 溜池土堤のワレモコウの花穂ひとつひとつのほとんど全てにアキアカネが止まっているのを眼にしたことがあります。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。) |
クロゲンゴロウ 水田の水が落とされたこの時期、大中型魚類やアメリカザリガニなどの天敵のいない貧栄養な溜池、 水の絶えない湧水が溜まるような止水に近い素掘りの用水路、 湛水状態の休耕田で泳いでいるのを良く見かけます。 いるところにはまとまって生息していて、4,5匹ほどが物陰から物陰へと泳いでいたり、近くの雑草の先から飛び立ったりしている様子が観察できます。 画像のものは泳いでいる個体を手づかみして、タッパーに入れて撮影したもので、オールのような脚が破損していますが、 もとの休耕田の水溜りに返すと元気にシャジクモの密林の中に泳ぎ去っていきました。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。) |