西宮の湿生・水生植物


 フィールド・メモ


このページはトップページの 「水辺から、そして緑から…」 で紹介した記事のバックナンバーに、一部画像を追加し加筆したものです。

 2009年 10月

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秋の水田・休耕田と溜池 その2
刈り取り後の水田雑草
刈り取り後の水田に生育する水田雑草
自然度の高い山間の棚田では、早稲の刈り取り後に数多くの水田雑草が一気に生育する。 画像中には ミズキカシグサスズメノハコベキカシグサハリイクログワイ などが見られるが、他に シソクサミズマツバヒメミソハギ などの稀少な種や アゼトウガラシヒロハスズメノトウガラシ も見られ、多様性に富んだ植生の見られる自然度の高い水田だった。
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さらに水田雑草を


今回も前回に引き続いての水田雑草の紹介です。 今回はタイムリーにミズキカシグサという稀少な水田雑草も見つけることができて充実した内容になったと思っています。 カヤツリグサ科のものは今回は4種しか取り上げていませんが、近々ごっそりまとめて取り上げる予定です。
刈り取りの終わった水田では、しばらくすると耕起されてしまうこともしばしばで、水田雑草を観察するチャンスは今この時期をおいてほかにありません。 水田に灰分を供給する目的で、稲ワラとともに火を放つ水田もあるので、観察するなら今のうちでしょう。


前回のファイルは以下のリンクをクリックしてください。

2009年 9月18日・秋の水田・休耕田と溜池 その1

ヒロハスズメノトウガラシ
ヒロハスズメノトウガラシ
ゴマノハグサ科の1年生水田雑草で、かつては次に紹介するエダウチスズメノトウガラシとともにスズメノトウガラシとされていたが、近年それぞれ別種であるとされた。
画像は淡路島で撮影したもので、兵庫県内では阪神・摂津・丹波では見かけたことがなかったが、 先日、丹波中部の刈り取り後の水田でエダウチスズメノトウガラシとともに生育するそれらしきものを見つけた。 ヒロハスズメノトウガラシは兵庫県南部に偏って分布し、両種が混生することはないだろうという仮説を立てていたが、あっさりと崩れてしまった。
ヒロハスズメノトウガラシを特徴付けるのは、苞葉よりも長い花柄(果柄)であるが、画像のものは開花初期のものでちょっと判りにくい。 もうしばら経って、果実をある程度つけたもののほうが明瞭に判る。撮影地には11月頃再訪する予定だが、その時に枯れていなかったら判りやすい画像を紹介できると思います。
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●湿生植物 ヒロハスズメノトウガラシ
エダウチスズメノトウガラシ
エダウチスズメノトウガラシ
前種ヒロハスズメノトウガラシと同様の水田雑草で刈り取り後の水田や休耕田で見られる。 頻度的には県下ではアゼトウガラシやキカシグサなどの次に、サワトウガラシやミズマツバなどとともに現れ、 本種が生育する水田は比較的農薬の使用も少なく良好な環境が保たれている水田であると言えるだろう。
ヒロハスズメノトウガラシとは、花冠が小さく下唇の中央裂片が細いこと、花柄(果柄)が苞葉よりも短い点で区別する。 ヒロハスズメノトウガラシは苞葉は小さく、苞葉よりも花柄のほうが明らかに長い。 ヒロハスズメノトウガラシは名前の割りに狭く長い葉を持つものがあって、葉幅には変異があるので、おおよその目安にしかならない。  (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
●湿生植物 エダウチスズメノトウガラシ
アゼトウガラシ
アゼトウガラシ
アゼトウガラシは県下では比較的普通に見られる水田雑草で、里山の棚田の水田でよく見かける。 西宮市内でも今年になって休耕された水田で、キクモを制圧して群生している場所がある。 里山でよく見かけるこの種も、都市近郊の平野部の水田では全く見かけることはなく、棚田のあるような里山的な環境を好む種のようである。
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●湿生植物 アゼトウガラシ
ヒメミソハギ
ヒメミソハギ
身近な水田では外来種のホソバヒメミソハギはよく見かけますが、在来のヒメミソハギはあまり見かけない水田雑草で各地でRDB指定種となっています。 山間の棚田ではまだまだ見かける機会も多く、キカシグサやミズマツバなどとともに刈り取り後の水田を賑わしていることがあります。
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●湿生植物 ヒメミソハギ
ヒンジガヤツリ
ヒンジガヤツリ
柄のない卵形の小穂が複数個あつまって「品」の文字のような花序をなすことからヒンジガヤツリと命名されたユニークな水田雑草で、水田の畦や休耕田で普通に見られる。 個人的にはこういった花茎を放射状に展開する小型の草体が好きで、花序の形がユーモラスなためだろう、見つけるとなぜかホッとするカヤツリグサ科植物である。 普通な種でもあるため、水田の畦を調べて本種が見つからなかった時は、どうも物足りない気になってしまう。
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●湿生植物 ヒンジガヤツリ
ヒメヒラテンツキ
ヒメヒラテンツキ
ヒメヒラテンツキはやや自然度の高い場所でヒデリコ、テンツキとともに水田の畦によく見られるカヤツリグサ科テンツキ属の植物。 条件が良いと高さ50cmほどにもなり他種との区別も容易だが、画像のもは湛水状態であったのが干上がった休耕田に見られた高さ10cmに満たない小型の個体である。 この休耕田の少し下方には溜池があり、以前池干しされた際にメアゼテンツキが出現したことから、この個体もメアゼテンツキだろうと思って標本を採取して持ち帰った。 帰って改めて小穂から痩果を取り出してルーペで見ると、メアゼテンツキの特徴である柱基の毛は見当たらず、痩果表面にはまばらに瘤粒がありヒメヒラテンツキの特徴を現していた。 草体の小ささにだまされたのだった。
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●湿生植物 ヒメヒラテンツキ
ミズガヤツリ
ミズガヤツリ
水田の畦や休耕田、河原などに出てくる、やや大型のカヤツリグサ科の多年草。 地下に多数の根茎を出し、その先に節の肥大した越冬芽を多数つけて増殖し、一旦定着すると駆除がやっかいで水田では嫌われものの雑草です。 開花期には披針形の小穂の鱗片の間から、クルリと巻いた白い柱頭が飛び出しとてもユニークです。
果実期にミズガヤツリと間違えやすいものにオニガヤツリがありますが、鱗片の先をルーペで観察することで区別できます。 オニガヤツリの鱗片の先はとがるのに対して、ミズガヤツリでは鱗片の先が鈍頭となります。
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●湿生植物 ミズガヤツリ
コケオトギリ
コケオトギリ
水田と畑地の間の常に表水のある湿潤な場所で、大きな株となったコケオトギリが鮮やかに紅葉していた。 コケオトギリは水田や休耕田、用水路脇、湿地、溜池畔などに普通に見られるオトギリソウ科の多年草で、どちらかというと水田雑草的な性格が強い。 管理休耕田でも頻繁に耕起されているにもかかわらず、コナギ、イヌホタルイ、ハリイなどとともにすぐに復活してくる。
よく似たものにヒメオトギリがあるが、コケオトギリよりもはるかに稀で、溜池畔の裸地や水田の土手の地下水や浸透水がわずかににじむ自然度の高い場所に生育する。
両種の区別点は苞葉の形で、コケオトギリでは茎につく葉と変わらない卵形だが、ヒメオトギリでは苞葉は茎につく葉とは異なった披針形となる。 萼片もそれぞれ同様の形をとる。 また、雄蕊の数も異なりコケオトギリでは5〜10個、ヒメオトギリでは10〜20個となる。
両種ともに午前中に開花し、昼には閉じかけの花しか見ることが出来ない。そういえば、今年はまだヒメオトギリの開花中の個体を見たことがない。
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●湿生植物 コケオトギリ
サワトウガラシ
紅葉開花したサワトウガラシ
サワトウガラシは兵庫県下では比較的よく見かけるゴマノハグサ科の1年生水田雑草。水田ではややまばらに見られる傾向が強く、休耕田や溜池畔で隙間の無いほど密生していることがある。 私のフィールドでは丹波地方の南部でそういった光景をよく見かける。 画像のものもやはり丹波南部の溜池畔で撮影したもので、寒気か乾燥によって紅葉した群落が開花してた。 この溜池ではヒメホタルイと勢力を2分するような形で浅い溜池に密生していた。
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●湿生植物 サワトウガラシ
サワトウガラシ沈水形
沈水状態のサワトウガラシ
サワトウガラシは長い沈水状態でもよく適応し、屋内の水槽でも育てることができる。 画像は丹波北部のやや中栄養な溜池に見られた沈水状態で生育する群落で、このような草体は水中で閉鎖花をつけて結実し、翌年になるとまた発芽します。 サワトウガラシは水に浸かっている時は自家受粉して種を維持し、水中から出ると他花受粉して遺伝的な多様性を保つような仕組みを持っているようです。 地域によっては閉鎖花しか付けないところがあるらしいが、もし事実だとすればその地域のサワトウガラシの遺伝子はほとんど一様に保たれているはずで、 それはそれでまた興味深い話だと思う。
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マルバノサワトウガラシ
マルバノサワトウガラシ
サワトウガラシよりも見かける機会の少ない比較的稀な水田雑草で、兵庫県では北部に分布しています。 画像のものは西播の山間棚田に生育していたもので、おそらく県下では最南の記録となると思います。 マルバノサワトウガラシは毎年刈り取り後の水田や休耕田で見かけるのですが、これまで開花している個体を見たことがありません。 開花期はサワトウガラシよりも短いようで、今年もまた花を見ることができませんでした。
画像の水田ではサワトウガラシと混生しており、個体数はサワトウガラシよりも多く、うっかりすると踏みつけそうになるほど生育していました。
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●湿生植物 マルバノサワトウガラシ
スブタ
スブタ
稲刈り直前の水抜きのはじまった水田の浅水中にスブタが生育していた。
スブタは農薬の影響が少なく湧水があるような地下水位の高い湿田や休耕田にのみ生育する稀少種で、見かける機会の少ない水田雑草です。 この水田ではキカシグサ、アブノメ、ミズマツバとともに生育し、イネの間を覗き込むと水田の表面をびっしりと覆っているのが観察できました。 この水田では近似種のマルミスブタらしきものも出現しました。 マルミスブタは種子にツノのようなトゲのないもので、外見はスブタと全く区別が付きません。画像に写っているものもマルミスブタの可能性がないとは言えません。
追記:画像のものを採取して果実を調べたところ、種子の上下端にはツノ状のトゲがあり、スブタであると確認しました。
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●沈水植物 スブタ
ミズキカシグサ
稀少種ミズキカシグサ
web上でも間違った画像を掲載しているところも多く、是非実物を見たいと思っていた水田雑草です。 各府県で絶滅危惧種に指定され、いまだ兵庫県内で見たことはなく、画像のものは所用で長崎に出掛けた折、早稲を刈り取ってかなり経った水田で見つけたものです。 あまり紹介されていない種であるので、早速ミズキカシグサのページを制作しました。ご参照ください。
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●湿生植物 ミズキカシグサ
スズメノハコベ
スズメノハコベ
スズメノハコベは兵庫県ではマルバノサワトウガラシと同じく分布域が北部に偏っています。 局所的に生育することが多いですが、生育地の水田では地表を一面に覆って群生している光景を眼にすることが多いように思います。 画像のものは左に紹介したミズキカシグサの生育する早稲の水田に生えていたもので、水田の一画をカーペット状に覆っていました。 この水田はホット・スポットで、ミズキカシグサやスズメノハコベの他に、シソクサ、ミズマツバ、ヒメミソハギ、タウコギなども見られました。
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●湿生植物 スズメノハコベ
コシンジュガヤ
コシンジュガヤ
西宮市内の棚田最奥の水田の畦の素掘り水路脇にコシンジュガヤが見られた。これまでコシンジュガヤの現れる時期に訪れたことがなかったため、この場所で見たのは初めて。 コシンジュガヤはカヤツリグサ科シンジュガヤ属の1年草で、かなり自然度の高い湿った草原や湿地、棚田の土手などに生育しているのが見られる。 地味で目立たない草だが、痩果はシンジュガヤ属独特の白色または褐色の球形で、ルーペで眺めると面白い。
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●湿生植物 コシンジュガヤ
アキノウナギツカミとシラヤマギク
アキノウナギツカミとシラヤマギク
初夏にオニスゲやタニガワスゲが見られた棚田脇の小さな流れでは、シラヤマギクとともにアキノウナギツカミが満開だった。 両種とも秋の深まりを教える野草だか、湿地ではアキノウナギツカミがミゾソバやヤノネグサなど、よく似た花を咲かせる他のタデ科植物とともによく見られる。 イヌタデ属のタデ科植物は秋の湿地には必ず見られるものなので、いずれこのコーナーでまとめて紹介したいと思っている。
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●湿生植物 アキノウナギツカミ
シコクママコナ
シコクママコナ
市内の棚田から山間の溜池へと小道を向かうと、雑木林から続く斜面にシコクママコナの群落が現れました。林の中にも点々と群れ固まって生育が見られました。 近辺で見られるママコナと似ていますが苞葉には鋸歯があまり発達せず、花冠の下唇には黄色い斑紋が混ざります。 開花期もママコナは初夏ですが、シコクママコナは秋も深まった頃になります。
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●関西の花 シコクママコナ
ムカゴニンジン
ムカゴニンジン
溜池の土堤に着いた頃には日が暮れて、薄い闇の中にムカゴニンジンの白い花が浮かび上がっていました。 葉腋にはムカゴが沢山付いていて、すでに発芽しているものもかなりありました。
秋の水田雑草の紹介は今回で一旦終了し、次回からは溜池や湿地の秋の植物の様子を紹介します。
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●湿生植物 ムカゴニンジン


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