西宮の湿生・水生植物


 フィールド・メモ


このページはトップページの 「水辺から、そして緑から…」 で紹介した記事のバックナンバーに、一部画像を追加し加筆したものです。

 2009年 6月

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丹波の溜池・湿地の特徴と植生
ミズニラ群落
溜池畔のミズニラ群落
ミズニラは溜池畔の軟泥化した腐植質が堆積した場所や、表層を緩やかに流れる湧水によってもたらされた軟泥やキメ細かい砂質の泥が堆積した場所に生育していることが多い。 このような場所では、泥中に指を突っ込むと池の水温よりもはるかに土中の温度が低く、地下水位が高い場所であることがわかる。 丹波地方では画像のような状況は珍しく、ほとんどの溜池畔ではシカをはじめとした野生動物の食害を受け、食み跡から新葉がチョロチョロと出ている個体を多く見かける。 胞子嚢は線形の葉の基部にあるため食害に遭っても直接的な影響を受けず、食害によってミズニラ自体が絶えることはない。
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●湿生植物 ミズニラ類
丹波地方の水辺の植物の特徴
丹波地方の湿生・水生植物を調べるためこれまで大小を問わず70ヶ所を越える溜池を見て廻りました。 まだ丹波の溜池の半数も見ていないのですが、これからシーズンに向かう水田雑草やカヤツリグサ科の草本を除いて、大まかな傾向が掴めたように思います。 今回はメモというよりも一歩踏み込んだ地域の湿生・水生植物の解説となりそうです。
丹波地方には県南部に見られるような大きな溜池がほとんどありません。 山間の流れを堰き止めて溜池とした小規模なものが多く、流れ込み部分から土堤近くの最深部に向かってなだらかな傾斜を持つ溜池はほとんど見られません。 なだらかな斜面が広がる溜池では上部に湿地が発達し、水深にあわせた多様な植生が見られるものですが、 丹波地方にはそのような溜池が少ないため、1つの溜池での湿生・水生植物の出現種数は県南部よりもかなり少なくなります。
また、播磨や阪神間に見られるような起伏のなだらかな丘陵なども見られないため湿原は存在せず、崩壊した斜面に小湿地が見られる程度です。 この傾向は北部に向かうほど強くなり、溜池畔に湿地が見られず、管理放棄され埋没しつつある溜池や一部の砂防ダム内だけが湿地らしい様相を呈しています。
また、山地帯の標高も1000mを超え出ないため、但馬地方に見られるような高層湿原も存在しません。丹波地方は湿生・水生植物に関しては他の地域に比べ貧相であるといえます。
丹波地方では、南部では多様な湿生・水生植物が見られ、北部に行くほど植生が単純化していくようです。 その傾向は浮葉植物で最も顕著に現れ、南部では今のところ6種の浮葉植物が確認できましたが、 北部では ヒシ 1種のみしか確認できておらず大半の溜池には浮葉・沈水植物が全く見られません。
丹波地方北部を除いて溜池や湿地でよく見かける湿生・水生植物(外来種を除く)は ミズユキノシタオオハリイカサスゲシラコスゲガマショウブヘラオモダカサワオトギリネコノメソウタウコギミズニラミズハコベホソバミズヒキモイトモヒシ といったあたりで、 阪神間でよく見られるジュンサイヒツジグサフトヒルムシロ は南部に偏って見られ、中部や北部では稀産種となります。
いまのところ「これは!」というような、驚くべきものは発見できていませんが、今後河川をも含め、さらに調査箇所を増やして行きたいと考えています。

沈水状態のミズニラ
沈水状態のミズニラ
ミズニラは気中・水中ともによく適応し、水草としてペットショップで売られているのを眼にすることがある。 この溜池では数千株のミズニラが生育していた。大きく成長した個体も多く、すでに葉の基部には胞子嚢が形成されており同定が可能となっていた。 同じ池には沈水葉のミクリsp.やイトモが生育していたが、とてもミズニラの勢いには及ばない。
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●湿生植物 ミズニラ類
ミズニラ小胞子
ミズニラの小胞子
近年、ミズニラに酷似するミズニラモドキが新記載された。これによって、大胞子表面の網状隆起の様子から種を特定することは出来なくなった。 ミズニラと特定するには小胞子表面の突起の有無を確認することが必須となり、顕微鏡下での観察が欠かせなくなった。 見難い画像だが、小胞子は半球状で表面はほとんど平滑であるため、ミズニラと判断できる。ミズニラモドキの小胞子表面には針状の突起がある。  (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
●湿生植物 ミズニラ類 
ヒシとイトモ
ヒシとイトモの群落
画像奥の浮葉植物がヒシ。手前の水中にある糸状のもやもやとしたものがイトモ。丹波地方では比較的よく見る組み合わせであり、これにホソバミズヒキモが混じることも多い。 イトモは貧栄養気味の溜池に多く見られ、溜池が中栄養な状態に向かうにつれてヒシが現れるようになる。溜池の上部に棚田が連続するような場所で混生が見られる。 やや富栄養な溜池ではヒシが溜池の全面を覆うようになり、イトモやホソバミズヒキモは姿を消す。
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●浮葉植物 ヒシ  ●沈水植物 イトモ
ヒシ
ヒシの花
6月の終わりごろからヒシの開花がはじまる。近似種にオニビシ、コオニビシ、ヒメビシがあるが、どれも同じような花をつけ、種を特定するには果実を見なければならない。 これまでのところ、丹波地方ではヒシのみを見かけ、最近ふえつつあるオニビシや、激減したヒメビシは見たことがない。
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●浮葉植物 ヒシ  ●浮葉植物 オニビシ
イトモ
イトモ
イトモは丹波地方の溜池では比較的よく見かける種である。ホソバミズヒキモと混生している場所もあり、浮葉をあげていないホソバミズヒキモと酷似するため紛らわしい。 イトモには「葉幅」というものが認識できるが、ホソバミズヒキモの沈水葉は「葉幅」というものが認識できないほど細い線形で、殖芽が無くとも慣れれば簡単に区別できるようになる。
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●沈水植物 イトモ
ヒルムシロ
開花中のヒルムシロ
ヒルムシロは中栄養〜やや富栄養な溜池や水路で見かけ、水田に現れることもある浮葉植物で、播磨や阪神ではまだよく見かけるが丹波地方では稀である。 かつては水田を中心として広く分布したのだろうが、圃場整備の進んだ現在ではほとんど見られなくなってしまった。
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●浮葉植物 ヒルムシロ
ホソバミズヒキモ群落とアシカキ
ホソバミズヒキモ群落とアシカキ
画像奥の小さな浮葉を水面に無数に浮かべているのがホソバミズヒキモの群落で、右手前の水面上に線形の葉を突き出している草体がアシカキ。 ホソバミズヒキモは浮葉よりもはるかに多い沈水葉をつけるため、池の水中は長く伸びた水中茎と沈水葉が密生するような状況となっている。 アシカキは丹波地方では稀なイネ科植物で、いまのところ2ヶ所の溜池でしか確認できていない。 画像の溜池は山間につくられたやや腐植栄養質な溜池であるが、もう1ヶ所は周囲が耕作地に囲まれ、ヒシが水面の大部分を覆いマコモが生育するようなやや富栄養な溜池であり、 自生条件は栄養状態には左右されないようである。
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●浮葉植物 ホソバミズヒキモ  ●湿生〜抽水植物 アシカキ
ホソバミズヒキモ
結実したホソバミズヒキモ
ホソバミズヒキモと酷似するものにコバノヒルムシロがある。区別するためには種子の背にトサカ状の突起があるかどうか調べねばならない。 ホソバミズヒキモでは背の突起は不明瞭であるが、コバノヒルムシロには顕著なトサカ状の突起が並ぶ。 コバノヒルムシロは稀産種であるが、播磨・阪神でこのところぽつぽつと新産地が発見されているため、果実の観察が欠かせない。
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●浮葉植物 ホソバミズヒキモ
キクモとオオタニシ
成育初期のキクモとオオタニシ
キクモは丹波地方では比較的よく見かける水草で、溜池よりも水田や休耕田で生育していることが多い。溜池では比較的大きな面積を持つような溜池で見かける。 オオタニシも丹波地方の山間の水の澄んだ溜池で見かけることが多い。
話は反れるが、丹波地方では山間の溜池であるにも関わらず、アメリカザリガニが大発生している場所をよく見かける。 このような溜池では他に水生生物を見かけることがなく、また水生植物も皆無で、岸辺にカサスゲやアゼスゲの群落が見られる程度の乏しい植生となっており、 砂漠を思わせるような寒々とした状況である。  (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
●湿生〜沈水植物 キクモ
ホッスモ
ホッスモ
丹波地方で溜池中にトリゲモ類を見かけることは稀である。 トリゲモ類の区別は難しく、多くは果実期を待たないと区別できないが、ホッスモだけは葉鞘の先が耳状にとがるため果実期でなくとも特定できる。 画像右の矢印でしめした部分が耳状に突き出た部分で、ルーペがあれば確認できる。 今のところ少数の溜池でホッスモの生育を確認しているほか、葉鞘の先が耳状にとがらないものを1種見つけており、イトトリゲモを除いたいずれかの種であると思われるが、 こちらは果実期を待たないと種を特定できない。
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●沈水植物 ホッスモ
ガマ
ガマ
阪神方面ではヒメガマをもっとも普通に見かけるが、丹波地方ではヒメガマよりもガマのほうをよく見かける。 休耕田で見かけることが最も多く、一面を群生が覆い尽くしているところもあり、河川の氾濫原ではヒメガマと混生している場所が多い。 溜池ではやや富栄養な溜池の浅水域で群生している場所が多い。
画像は山際につくられた小規模な溜池だが、上部に果樹園があり、そこからの栄養塩類の流入により富栄養な溜池となっており、浅水域に群落が見られた。 後方の浮葉植物はヒシで、浮葉の合間のギャップには水中にコカナダモが密生している。  (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
●抽水植物 ガマ
ミクリsp.
成長期のミクリsp.
丹波地方では数ヶ所の貧栄養または腐植栄養な溜池で画像のような抽水状態で生育するか、浮葉状の沈水葉で生育しているミクリsp.を見ている。 ミクリ類はわりと区別が難しく、花序や果実を観察しなければ種の特定はできない。 水深の深い場所や沈水葉で生育している小規模な集団では花茎を上げないものも多く、年内に種を特定できるかどうか解らない。
画像は水がやや褐色に染まった腐植栄養な溜池に生育している小さな集団で、溜池内に沈水葉だけの個体とともに数株見られた。 一緒に写っている浮葉植物はホソバミズヒキモ。他には沈水状態で不定芽を無数に生じたオオハリイ、わずかなヒシが見られた。  (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
●抽水植物 ミクリ  ●抽水植物 ヤマトミクリ  ●抽水植物 ナガエミクリ
カンガレイsp.群落
谷戸奥の湛水した休耕田に群生するカンガレイsp.
播磨・阪神で普通に見られるカンガレイ類も丹波地方では比較的稀な部類に入り、まだ数ヶ所でしか確認できていない。 この仲間にはカンガレイ、ヒメカンガレイ、ハタベカンガレイ、ツクシカンガレイなど非常によく似たものが多く、根茎の節から茎を単生してゆるく叢生するツクシカンガレイを除いて、 果実期を待たないと正確な同定が難しい。この時期、丹波地方のカンガレイ類は開花期であり、どの集団も柱頭が3岐しており、ハタベカンガレイではないことは解った。 あとは果実期に痩果の様子や花被片の長さなどを確認する必要がある。
画像は山際からの湧水によって湛水状態となっている休耕田で、カンガレイsp.の群落がよく発達していた。手前の水面を覆っているのはヒシで白い花を開花中の個体が見える。 後方の柵はシカ除けの柵で、その後ろ側には小湿地があり、ゴウソ、ミズユキノシタ、キクモ、サワオグルマ、キセルアザミ、ミズオトギリ、アケボノソウ、アキノウナギツカミなどが生育している。
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●抽水植物 カンガレイ  ●抽水植物 ハタベカンガレイ
オニスゲ群落
オニスゲ群落
溜池畔の湧水が豊富に供給されている湿地で、イグサ群落中の所々にオニスゲの群生が見られた。 オニスゲも丹波地方では稀なスゲ類で、西宮市内のように棚田の水路脇に現れたりはしない。
この溜池では他にゴウソ、タチスゲ、ジュズスゲ、ミヤマシラスゲ、カサスゲ、アゼスゲ、ミヤマカンスゲなどのスゲ類が見られた。
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●湿生植物 オニスゲ
成長期のアギナシ
成長期のアギナシ
アギナシはもともと自生地の少ない種だが丹波地方では非常に稀で、これまで1ヶ所で記録されており、この自生地が2例目のものとなる。 画像の草体はまだ成長途上で草体は高さ25cm程度。株が叢生しているように見えるが、これは前年の越冬していた根茎から出芽したものと、 前年に葉柄基部に形成された球芽が発芽したものとが入り混じっており、数個体がかたまって生育しているもので1個体ではない。 オモダカはこのような状態になることはなく、自然度の高い湿地や溜池畔の裸地でこのような状態のオモダカに似た草体を見かければほぼアギナシと見てもよいと思っている。
アギナシの周囲に見られる針状の茎葉を広げている草本はエゾハリイ。芽生えて間もないように見えるイネ科の小さな草体はヒナザサのもの。 どちらの種も丹波地方での分布は局所的である。
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●湿生植物 アギナシ
コケオトギリ
コケオトギリ
コケオトギリはオトギリソウ科の植物では最も普通にみられる種で、水田、休耕田から溜池畔、湿地まで広く見られる湿生植物。 コケオトギリが出現しないような溜池畔では稀な湿生植物の出現はまず期待できない。 画像のものは山間の溜池畔で開花中の個体で、やや寒冷な場所で生育しているためか全草が赤紫色を帯びていた。 この池畔ではヒメシラスゲ、タチスゲ、シラコスゲ、ゴウソ、イグサ、コウガイゼキショウ、オオハリイ、ミズタビラコ、ニシノヤマクワガタ、ミズユキノシタ、ヤノネグサ、 ネコノメソウ、サワオトギリなど、丹波地方の山間にある溜池に特徴的は種が多数見られた。水は澄んでおり、水生植物の生育は見られなかったが、オオタニシ、スジエビ、 ヨシノボリの仲間などの水生生物が多産していた。  (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
●湿生植物 コケオトギリ
モリアオガエルの卵塊
モリアオガエルの卵塊
この時期、丹波地方の山間の溜池畔の樹木には多数のモリアオガエルの卵塊が見られる。 ホソバミズヒキモが浮かび、ミズニラが浅水域を埋める山中の溜池畔の樹木に産み付けられた沢山のモリアオガエルの卵塊は、山中の野池の静謐さと豊饒さを印象づけ心癒される光景である。
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モリアオガエル
モリアオガエル
溜池畔の枯れた倒木上で体長5cmはどのメスのモリアオガエルが休んでいた。 産卵後のメスは体力を使い果たしたためか、溜池周辺の倒木や樹木、林道脇の窪地で休んでいる姿をよく眼にする。 モリアオガエルには茶褐色の斑紋があるタイプと、全身が緑色のものとがあるがこの場所で見られるものは全て緑色のものだった。  (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
休耕田
谷戸奥の溜池直下の休耕田
谷戸奥には休耕田となっている谷津田も多い。 谷戸の最奥に溜池がつくられている場合、その直下の休耕田は溜池から浸透してきた地下水で湛水状態となり湿地化することがある。 画像の休耕田では一定期間中に耕起が行われる管理休耕田で、このような休耕田では多様な水田雑草が生育する。 ここではヘラオモダカ、イヌホタルイ、ハリイ、マツバイ、ミゾハコベ、コナギ、イグサ、コウガイゼキショウ、ヒロハノコウガイゼキショウが見られたが、 これから何が出現するのか楽しみな場所である。 似た条件の他の場所の休耕田では、オオハリイ、マシカクイ、キクモ、タウコギ、アカバナ、コケオトギリ、ハナビゼキショウ、ホソバノヨツバムグラ、 ミズハコベ、ヒロハイヌノヒゲ、アキノウナギツカミ、ミズユキノシタなどが、今のところ確認できている。
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ヌマガエルとシャジクモ
休耕田のヌマガエルとシャジクモ
シャジクモは湛水状態の休耕田や、減農薬の水田で必ず見かける淡水藻類。 ここのシャジクモは早くも輪生する小枝の節に茶褐色の卵胞子をつけており、画像からもその様子が判ります。
ヌマガエルはかつてはどこの水田にも見られたカエルですが、最近は減少傾向にあるらしい。 ツチガエルとよく似ているが、背のイボがツチガエルほど顕著ではなく、腹面が白いことによって区別できる。
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ヘラオモダカとミズユキノシタの群落
ヘラオモダカとミズユキノシタの群落
道路脇を流れる水路に山からの沢が流れ込む枡内に群生している。 ヘラオモダカとミズユキノシタはどちらも丹波地方に普通に見られる種で、このような場所にも生育している。 ミズユキノシタは丹波地方に普通に産するにも関わらず、全く標本の記録がないのは、花も草体も取り立てて目立つところがなく、地味なためだろうか。 水槽内で強光をあてて育成すると、割りと見栄えのする美しい水草となる種ではあるが。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
●湿生植物 ヘラオモダカ  ●湿生植物 ミズユキノシタ 
小湿地に成育するコバノトンボソウ
小湿地に成育するコバノトンボソウ
丹波南部の空き地の脇の山際が崩壊地となっており、そこに湧水による小湿地があり数個体が自生していた。 おそらく、ここの草地化した空き地は、以前湿地だった場所を埋め立たものだろう。他に湿生植物では次に紹介するヤマトキソウやヌマガヤ、モウセンゴケ、シカクイなどが見られた。 湧水の滞留した水路に覆いかぶさる潅木には、モリアオガエルの卵塊が数個ぶら下がっていた。 コバノトンボソウは丹波地方では稀な種である。
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●湿生植物 コバノトンボソウ
ヤマトキソウ
ヤマトキソウ
溜池畔の湧水のある緩斜面に広がるオオミズゴケ群落中に生育していた。丹波地方ではヤマトキソウを含む湿生のラン科植物の分布は局所的である。 ここではサギソウも見られるが、地元の方のお話では、未だに盗掘していく人の跡が絶えないという。 サギソウなどはホームセンターなどでも安価で球茎が購入できるので、野生個体の採取はするべきではない。
余談だが、野生植物を調査する場合、地元の方に自生地の変遷の様子や、自生か植栽かの確認、溜池名と成立時期についてのインタビューは極力行うべきで、 それにより後に生じるかもしれない手間が大幅に省かれることになる。
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カキラン
湿地に成育するカキラン
カキランは県南部の湿地で比較的よく見かける種であるが、丹波地方では湿地自体が少ないため稀な種となる。 丹波地方の中〜北部では稀に溜池畔で見られるのみである。画像のものは比較的大きな溜池畔の上部に広がる湿地に点在している個体である。 付近は矮小化したネザサ、イヌノハナヒゲ、ミカヅキグサ、ヌマガヤなどからなる群落が見られる。
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●湿生植物 カキラン
湿地のネジバナ
ネジバナ、ミミカキグサ、ホザキノミミカキグサなど
ネジバナは丹波地方のみならず、どこに行っても普通に見かけるラン科の植物である。草地や芝地、水田の畦から休耕田や湿地にまで現れる。 ここでは、比較的成立の古い溜池畔の湿地に、ミミカキグサやホザキノミミカキグサとともに開花していた。 一面に見える広線形の立ち上がった葉はスイランのもので、ここではスイランの群落がよく発達している。
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●湿生植物 ミミカキグサ  ●湿生植物 ホザキノミミカキグサ
ノハナショウブ群落
ノハナショウブ群落
県南部ではカキランの生育するような里山でノハナショウブを見かけることが多いが、丹波地方では稀である。 この種も花が美しいため盗掘の対象にされることが多く、丹波地方では数ヶ所の溜池畔でわずかに生き残っているにすぎない。 圃場整備が行われる以前には、里山の水路脇にも生育していたようで、稀に棚田の用水路脇にわずかに残存した個体を見かけることがある。
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●湿生植物 ノハナショウブ
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ウメガサソウの開花、丹波南部の湿生・水生植物
ウメガサソウ
開花中のウメガサソウ
ウメガサソウはイチヤクソウ属で、菌類と共生して生育することが知られています。 市内で確認できている2株のうちの1株が開花中でした。花弁は虫に齧られ、開花も終わり近くといったかんじです。 花が可憐なため盗掘に遭いやすいですが、菌類と共生するため持ち帰って庭や鉢に植えても、やがては枯れてしまいます。 以前あった群生地は盗掘で根こそぎやられましたが、いずれ新たな群生地が発見できるだろうと思っています。
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西宮市内のウメガサソウと丹波南部の溜池と湿地
入梅してしばらくたったので、市内のウメガサソウが開花している頃と思い、様子を見てきました。 群生していた場所が盗掘に遭い、現在市内ではわずかに2株のみ確認していますが、岩陰にあるものが開花していました。 市内のものはまだ標本がなく、確実な記録が残っていないため標本を採りたいのですが、この状況ではどうしようもありません。 ウメガサソウの他にはシソバタツナミが林床や林縁で沢山開花しています。砂防ダムの湿地では アズマナルコ も健在で、株数も少しづづ増えています。
午後からは丹波南部の溜池の植生を調べに行きました。溜池に向かう途中の林道には開花したイチヤクソウが多く見られ、 丹波南部ではあまり見かけないコヒロハハナヤスリが群生しているところにも出会いました。 伐採された広葉樹の材が積まれた場所で、小さな甲虫類が忙しく動き回っているので観察すると、5/24のフィールド・メモで紹介したチャイロホソヒラタカミキリのほか エグリトラカミキリキスジトラカミキリが交尾と産卵にやって来ていました。またカミキリ類の幼虫類を狙ってオナガバチの仲間も飛来しています。 地図上で溜池が数個集中している場所を廻ってみましたが、うち2個は埋め立てられて住宅が建ち、その上部の溜池が管理放棄されて湿地化が進行中でいい感じになっています。 さっそく湿地に降り立つと大株の ヤマテキリスゲ が群生していて目立っています。かつての溜池だったであろう場所は3/4ほどが土砂や腐植質に埋まり、周辺部はウメモドキイヌツゲノイバラカラスザンショウイボタノキが生育して遷移が進みつつある部分もあります。 湿地内で最も多く見られた種は ヌマトラノオムカゴニンジンチダケサシアリノトウグサイグサゴウソヤマテキリスゲアブラガヤsp.で、 浅くなった湛水部分は大部分を フトヒルムシロ が占め、少数の ヒツジグサ が見られました。日当たりのよい湧水がにじむ裸地では モウセンゴケ が赤い絨毯のように群生して足の踏み場もないくらいです。 他には ヒメシダヒメコヌカグサヤマヌカボヤチカワズスゲタチスゲハリガネスゲクサスゲアゼスゲイヌノハナヒゲsp.ハリイコウガイゼキショウアオコウガイゼキショウイボクサショウジョウバカマホシクサ科イヌノヒゲsp.ヤマキツネノボタンコケオトギリオトギリソウ属sp.サワシロギクキガンピ など豊富な植生が見られました。
別の谷筋に広がる田園地帯の山すそにある溜池を廻ると、 ヒツジグサ の群落が発達しタナゴらしきものが泳ぐ溜池や、沈水状態のミクリsp.フトヒルムシロヒツジグサホソバミズヒキモ が生育する透明度の高い溜池がありました。 日が沈む間際に訪れた溜池群では ヒルムシロヒツジグサホソバミズヒキモジュンサイ からなる浮葉植物群落が発達したやや中栄養な溜池や、 ミズニラアギナシオニスゲエゾハリイタチモ などが生育するやや貧栄養で自然度の非常に高い溜池がありましたが、 暗くて良い画像も撮影できず、後日時間をかけて再調査することにしました。

このところ、標本の処理や調査結果の整理などで、トップページの更新が思うようにできていません。 今後もこの傾向が当分続きそうで、トップページの更新が10日〜2週間に1回とかのペースになりそうですが、ご了承ください。
湿生・水生植物図鑑の各種のページはこれまでのペースで少しずつ追加、更新してゆく予定です。

シソバタツナミ
シソバタツナミ
シソバタツナミは市内では最もよく見かけるタツナミソウの仲間です、ここでは葉脈に沿って赤紫色の斑が入るものと入らないものとが生育していて、 一見すると別種のように見えますが細部を観察するとどちらもシソバタツナミであることが判ります。  (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
●関西の花 シソバタツナミ
アズマナルコ
アズマナルコ
西宮市内では今のところ1ヶ所だけで確認しています。テキリスゲやアゼナルコに良く似ていますが、基部が太く緑色〜淡色で糸網を生じない点で容易に区別できます。  (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
●湿生植物 アズマナルコ 
イチヤクソウの花
イチヤクソウの花
ここからは丹波南部の画像です。
イチヤクソウも先に紹介したウメガサソウと同じく雑木林内で菌類と共生しています。 ウメガサソウとくらべると自生地・個体数ともにはるかに多く、市内でもよく見かける草本です。 今回は花を接写してみました。10個の雄蕊の先には長い葯が2個あるように見え、葯は先が外曲して先端に穴があるようです。 雌蕊の花柱はまるで象の鼻のように伸びて、柱頭は少し赤味を帯びてふくらみ、浅く5裂しています。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
●関西の花 イチヤクソウ
コヒロハハナヤスリ
コヒロハハナヤスリ
丹波南部ではあまり見かけないシダ植物です。よく見かけるフユノハナワラビに近い種です。よく「湿地に生える」と紹介されていますが、今まで湿地で生育しているものは見たことが無く、 渇き気味の砂利道の脇や草地の裸地部分で見かける機会が多いです。地域により生育環境が異なるのでしょうか?
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●湿生植物 コヒロハハナヤスリ
エグリトラカミキリ
エグリトラカミキリ
広葉樹の伐採木上やノリウツギ、ツルアジサイ、イワガラミ、ミズキなどの花上でよく見かける種です。多数の個体がペアを探してあちこちを忙しく走り回っていました。  (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
キスジトラカミキリ
キスジトラカミキリ
こちらも伐採木上でよく見かける種ですが、小型種の多いトラカミキリの仲間のうちでは大型で、ハチを擬態したとされる模様が美しい種で、見つけるとついカメラを向けてしまいます。 この日は伐採木に産卵するメスが数匹見られました。
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オナガバチ
オナガバチの仲間
オナガバチ類の幼虫はカミキリムシ類の幼虫に寄生して成長します。 親バチはカミキリムシの産卵痕を眼によって見分けているのか、産卵後の何かの匂いや物質を嗅ぎ分けているのかは解らないようです。
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溜池跡
湿地化が進行しつつある管理放棄された溜池
小規模な溜池ながら湿地面積はかなり広がっており、開けた日射の強い場所や、樹木が覆う日陰〜半日陰となる場所もあり、それぞれの微環境に適した多様な植生が見られました。
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モウセンゴケ群落
モウセンゴケ群落
日当たりの良い湧水がにじみ出す裸地状の緩斜面にはモウセンゴケが足の踏み場もないほどの群落をつくっていました。 すぐ近くの溜池土堤では開花しているモウセンゴケが見られましたが、ここでは多数の花茎を上げてはいるものの開花しているものはありませんでした。  (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
●湿生植物 モウセンゴケ
ヤマテキリスゲ
群生するヤマテキリスゲ
この溜池跡では大きな株が群生し最も目立った種でした。もともと溜池畔に生育していたものがたまたま生育条件が合致してこのような群落をつくったのでしょう。 特殊は例であると思われますが、さらに近隣地域の湿地や溜池を調べた上で結論を出したいと考えています。
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●湿生植物 ヤマテキリスゲ
フトヒルムシロとトノサマガエル
フトヒルムシロとトノサマガエル
埋没しつつある溜池の浅い湛水部分にはフトヒルムシロが密生しています。湿地となった場所には陸生形の気中葉を広げたフトヒルムシロも多数見られました。 溜池であった頃には、池の水面の大部分を覆っていたことでしょう。溜池跡には沢山のトノサマガエルが居て、フトヒルムシロの葉上で休んでいる光景も見られました。  (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
●浮葉植物 フトヒルムシロ
イヌノヒゲsp.
成長期のイヌノヒゲsp.
湿地化が進む水際や浅水域では成長途上のイヌノヒゲ類が目立っていました。 秋になって頭花を確認しないと確かなことは言えませんが生育環境や他種との組み合わせなどからニッポンイヌノヒゲ、イヌノヒゲ、シロイヌノヒゲのいずれかだと思います。  (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
ヒツジグサ
ヒツジグサ
ヒツジグサは溜池跡の浅水域や水路内でもよく開花しているのを見かけます。西宮市内では棚田脇の浅い水路でも開花している光景をよく見かけます。 ヒツジグサの開花の有無は水深よりも、日射量によって左右されるようです。 稀に溜池畔で陸生状態で生育している個体もありますが、この場合は花茎を上げるものは見たことがなく、少なくとも浮葉が生じるような多少の湛水は必要のようです。
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●浮葉植物 ヒツジグサ
ウメモドキ
開花中のウメモドキの雄株
県内の低湿地や溜池畔にはイヌツゲやノイバラなどとともに必ず出現する低木です。ちょうど開花期で沢山の雄花が開花していました。 雌雄異株で、ここでは雄株しか生育していませんでした。花弁はふつう4〜5個ありますが、3〜6個あるものが見られ変異が多いようです。 雌株は秋になると沢山の赤い実を付け、湿原では青い秋空との対比が美しく、見ごたえがある姿となります。
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●湿生植物 ウメモドキ
ヒツジグサ群落
ヒツジグサ群落
この時期、自然度の高い溜池を訪れると必ずヒツジグサが生育しているのが見られますが、この溜池ではヒツジグサの純群落が発達していました。 ブラックバスやブルーギルのような肉食性外来魚も見られず、放流されたと見られる数匹のコイ以外は在来の淡水魚が数多く見られました。 池畔近くの礫表面の藻類をついばむタナゴ類の稚魚らしき群れも見られ、久しぶりに淡水生物を調べて見たいと思わせるような場所でした。
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●浮葉植物 ヒツジグサ
ノアザミ(白花品)
開花し始めたシロバナノアザミ
ノアザミの白花品で普通のノアザミに混じって稀に見られます。花色は遺伝的に固定されているようで同じ株からは白花しか咲きません。 ヒツジグサ純群落のある溜池の土堤に見られました。 この溜池土堤には水際にはコジュズスゲ、マツバスゲ、ゴウソ、タチスゲが多く見られ、土堤上ではアマドコロの仲間が見られます。  (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
●湿生植物 ノアザミ
ルリシジミ
ルリシジミ
シロバナノアザミと同じヒツジグサ純群落のある溜池の流れ込みの小川に数匹のルリシジミ♂が吸水していました。 ルリシジミ♂の吸水行動は取り立て珍しいものではありませんが、水際に落花したイボタノキの花冠に集まっているのが観察されたので掲載してみました。 イボタノキの花冠に若干でも残っている蜜が水際に落ちることによって、薄い蜜味の水を求めて同じ場所に集まり固まって吸水しているように見えました。 真相はどうなのでしょうか?
画像には1匹しか写っていませんが、近寄ると5,6匹が飛び立ち、すぐに戻ってきたのはこの1匹でした。
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イシガメ
路上を横断中のイシガメ
注意していないと轢き殺すところです。 入梅したこの時期、イシガメの轢死体を路上でよく見かけるので、隣接して河川や用水路がある路上では低速運転して警戒していたところでした。 ここは小さな河川と溜池の間を通る舗装道路で、このイシガメは河川から雑木林内にある溜池を目指して移動中とおぼしき手の平大の若い個体でした。 若い個体なので甲羅の赤味が強く精悍な印象を受けます。 山間の交通量の少ない道路ですが、後続する車に轢かれないように捕え、ヒツジグサ、フトヒルムシロ、ホソバミスヒキモが生育する目指していたと思われる小さな溜池に放ちました。 いつまでも、この美しい在来爬虫類が健在であることを願いたいです。  (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
ミクリsp.
浮葉状の葉を水面になびかせるミクリsp.
透明度の比較的高い腐植質の溜池の一画で見られました。 このように沈水状態で浮葉状の葉を水面にあげる集団は花茎を上げることは稀で、種を特定するにはどうすれば最も早いか検討中です。 溜池でこのような状態で生育するのはナガエミクリであることが多いのですが、ヒメミクリやヤマトミクリでも同様な状況が見られます。 このような沈水状態で生育する種不明なミクリ類は県内各所で眼にします。ここではフトヒルムシロ、ヒツジグサ、ホソバミズヒキモなどの浮葉植物とともに生育しています。  (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
●抽水植物 ミクリ  ●抽水植物 ナガエミクリ  ●抽水植物 ヤマトミクリ
浮葉植物の多い溜池
浮葉植物群落の発達した溜池
やや中栄養な溜池で、ヒルムシロ、ヒツジグサ、ホソバミズヒキモ、ジュンサイを主体とする浮葉植物群落が発達しています。ヒシも少数ながら確認しました。 ホソバミズヒキモは開花個体が多数見られました。沈水植物ではホッスモと沈水形のミズユキノシタが見られますが、後日さらに詳しく調べる必要があります。 池畔や浅水域にはカンガレイsp.、クログワイ、オオハリイ、カサスゲ、ヒメガマなどが生育し、非常に多様性に富んだ植生が見られる溜池です。
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---------------------------------------------- 11th. Jun. 2009 ------------------------------------------

滋賀県にて
バイカモ
水路内で開花中のバイカモ
藻刈りのされていない水路では開花真っ盛りでした。6月から秋の終わりまで継続的に開花しますが、もっとも花の多い時期は6月中下旬頃です。
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●沈水植物 バイカモ
沈水植物の生育が活発に
そろそろ バイカモ の開花も始まった頃かと思い、滋賀県に出掛けてみました。他に琵琶湖畔の ヤガミスゲ がどういった環境に生育しているのかという課題もありました。
バイカモは滋賀県では琵琶湖周辺の山域からの伏流水が湧水となって湧出する地域に見られる水草です。 時折新聞などでも報じられる場所を訪れましたが、地元の方の話をお伺いすると、初夏の藻刈りを済ませたばかりで、沢山の開花が見れるような場所はないとのことでした。 しかし、集落内をうろうろとするうち、開花した集団が目立つ場所や、様々な種による水生植物群落が生育する水路も見つけることができました。 このような湧水が混入する水路内ではバイカモをはじめとして、 ササバモセンニンモナガエミクリミズハコベウキゴケ(カヅノゴケ)の生育が顕著です。 琵琶湖に流入する河川や排水路内に見られる ホザキノフサモオヒルムシロオオササエビモコウホネ などは全く見られません。 これらの種は流速によって分布域が制限される可能性がありそうです。 琵琶湖に多産するヒロハノエビモは琵琶湖内には見られますが、流入する排水路内では見かけることは少なく、 淡水藻類のオトメフラスコモなどのシャジクモフラスコモ類も流速のある排水路や河川内では見られません。 また淡水藻類に関しては流速のある小河川内ではカワモズク類を眼にします。
今回はヤガミスゲの生育環境に関心をもっていたこともあり、湖岸の後背湿地などの原野的環境の植生についてもおおよその傾向を掴むことができました。

このところ、標本の処理や調査結果の整理などで、トップページの更新が思うようにできていません。 今後もこの傾向が当分続きそうで、トップページの更新が10日〜2週間に1回とかのペースになりそうですが、ご了承ください。
湿生・水生植物図鑑の各種のページはこれまでのペースで少しずつ追加、更新してゆく予定です。

ササバモ
新鮮な葉をたなびかせるササバモ
流れの速い水路内で底面を一面に覆って生育しています。
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●沈水〜浮葉植物 ササバモ
センニンモ
側溝に生育するセンニンモ
湧水がしみ出して水が涸れることがないのでしょうか、道端の小さな溝にも水草が見られます。湛水していなくとも、湿り気のある溝にはミズハコベやミズワラビなども見られます。
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●沈水植物 センニンモ 
ナガエミクリ
結実したナガエミクリ
何があったのか、側溝内で抽水状態のナガエミクリが早くも結実していた。この日、結実していたナガエミクリは後にも先にも、この1個体だけだった。
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●抽水植物 ナガエミクリ
ウキゴケ
ウキゴケ(カヅノゴケ)
水路内の止水域に浮かんでいます。関西地区では滋賀県以外の場所でお眼にかかったことがないのですが、滋賀県の生育環境と他地域の生育環境とでは違ったものがあるのでしょうか?
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●湿生植物 ウキゴケ複合種
シマドジョウ?
シマドジョウ? スジシマドジョウ?
バイカモやミズハコベが生育する溝の泥底から顔だけ出していました。滋賀県には両種ともに生息していますが、捕えてヒレなどを確認しないと区別できません。  (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
ニゴイ
遡上中のニゴイ
ちょうどニゴイの産卵期にあたっており、河川を遡上するニゴイの姿が沢山見られました。 バイカモやナガエミクリに囲まれて清流を泳ぐ様子はじつに涼しげです。  (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
ノウルシ
紅葉したノウルシ
湧水地帯から湖岸の後背湿地へ向かいました。後背湿地ではノウルシが結実期を向かえて紅葉していました。 黄色く色づく個体が多く、ここまで赤く染まった個体はあまり見かけません。
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ヒメシダとノウルシの群落
ノウルシ群落の様子
ノウルシは後背湿地陸地側の際外縁の背丈の低いヨシ群落中にヒメシダとともに群落を形成していました。地表はチドメグサに覆われており、表水はありません。 ヨシの背丈の高い場所では、ヒメシダにかわってコウヤワラビが出現し、ノウルシの個体数も減っていきます。
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ウキヤガラ
ウキヤガラ
後背湿地のヨシがややまばらになり表水のあるような場所に群生しています。この時期、後背湿地や湖岸でもっとも目立つ植物です。
●抽水植物 ウキヤガラ
サデクサ、イヌゴマなど
ウキヤガラ群落中の地表近くに亜群落をつくる湿生植物
ウキヤガラは根茎の節からまばらに茎を立ち上げるため、地表には空間が沢山できます。そこでは、遠くからでは見えない様々な湿生植物が生育しています。 ここではサデクサ、イヌゴマ、ミズタガラシ、コケオトギリが混生しています。地表を覆っているのはミズタガラシの匍匐枝で、ヒメナミキもわずかながら見られました。  (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
ウキヤガラ群落
後背湿地の湖岸側のウキヤガラ群落
ウキヤガラは陸地側にも見られますが、湖岸側の水際にも生育しています。水辺林によって日射が遮られない場所でクサヨシ、アゼナルコ、ドクゼリなどとともに見られます。  (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
ドクゼリ
開花中のドクゼリ
琵琶湖の湖岸ではあちこちに雑草のように生えていますが、兵庫県ではまず見かけない種です。後背湿地ではシロネなどとともに抽水状態で生育しているのをよく見かけます。 画像中にもシロネが写り込んでいます。
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●湿生植物 ドクゼリ
ホソバノヨツバムグラ
ホソバノヨツバムグラ
後背湿地から流れ出す細流の脇にはホソバノヨツバムグラが群生して、開花真っ盛りでした。   (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
●湿生植物 ホソバノヨツバムグラ
コウヤワラビ
コウヤワラビ群落
コウヤワラビは後背湿地内よりも、後背湿地の周辺部や水辺湿地林の林床の表水のない場所で群落がよく発達しているようでした。 画像は刈り込みに遭った場所から、新たに新葉を展開してきた集団です。
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●湿生植物 コウヤワラビ
ヤガミスゲ
ヤガミスゲ
湖岸をさんざん探した挙句、陽が沈む頃にようやく発見できました。背丈の低いヨシ群落の縁に他の草に埋もれるように生育し、大株は見られませんでした。 小さな個体が多く、個体数もあまり多くありません。排水路が湖岸に流入する砂質の土壌の、かなり水際から離れた場所で、アゼナルコとともに生育していました。  (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
●湿生植物 ヤガミスゲ
外周道路の外来種
湖岸道路土手の外来雑草群
後背湿地と陸地を区切るように走る護岸道路の土手は外来雑草が幅をきかせていました。 この時期に目立っていたのはヒメジョオン、コバンソウ、ヒメコバンソウ、ナギナタガヤ、セイヨウヒキヨモギなどでした。 在来のものはクズとメドハギ、ノアザミが混じる程度です。
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ショウブ
ショウブ
内湖の水際ではショウブが肉穂花序を出して開花していました。大半の花が開花後のようで、開花後期のようです。 ショウブはいろいろな場所で見かけますが、花序をあげていない集団も多く、新産地であっても標本にできるような個体がなかなか得られません。
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●湿生〜抽水植物 ショウブ
コウホネ
開花しはじめたコウホネ群落
開花し始めたコウホネ群落がありましたが、陸地から遠い上、水上から手持ちで撮影したため、良い画像が撮れませんでした。いちおう記録として。
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●抽水植物 コウホネ
ミズタガラシ
浮葉のように浮かぶミズタガラシ
匍匐枝を短く引いた小さなロゼットが、浮き草のように水面に浮かんでいました。すでに発根が見られ、どこかの水際に接地するとそこで定着するのでしょう。
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●湿生植物 ミズタガラシ
フサタヌキモ
フサタヌキモ
よく見ると未成熟の閉鎖花が葉腋についており、正常花を開花する花茎らしき茎も葉腋から伸びています。 この場所のものは、開花することの少ないフサタヌキモの中でも、比較的開花が見られやすい集団なのかもしれません。
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●抽水植物 フサタヌキモ
---------------------------------------------- 4th. Jun. 2009 ------------------------------------------

イシモチソウが開花
イシモチソウ
溜池畔で開花の始まったイシモチソウ
この日は朝方に降雨があり、天候は曇天でしたが開花していました。開花は始まったばかりで、どの花も新鮮でした。
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●湿生植物 イシモチソウ
湿生・水生植物の開花ラッシュに突入!
湿生の中型スゲ類の果胞が膨らむ頃、カヤツリグサ科以外にも沢山の種の開花が始まります。
三田市の溜池の様子を見に行くと、池畔の湿地で イシモチソウ の群落の開花が始まっていました。 イシモチソウが開花する時期には、条件の良い湿地では トキソウ の開花も見ることができます。 湿地脇にある水路では ホソバノヨツバムグラ の群落が白い星をちりばめたように小さな花を開花させていました。 ノハナショウブ は花茎を立ち上げ、 カキラン の茎も伸び、先にはまだ青い蕾がついています。これらの花も今月半ばには開花し始めるでしょう。 湿地には沢山の サギソウ の新葉が出ていたり、土手では多数のキキョウの茎も見られましたが、これらの草本の開花はまだずっと先です。
移動の途中に ミズタガラシ の自生地に立ち寄りました。すでに花期は終わり近くで、花茎は高く伸びて先に数個の花をつけていました。 花後の子房の様子を観察しましたが、小さなのものばかりで、膨らんでいるものを見かけません。走出枝で繁殖する道をえらび、結実することを止めてしまったのでしょうか。 それとも、比較的短期間で結実するタネツケバナ属中でもミズタガラシだけは、子房が充実するまでにまだまだ長い時間がかかるのでしょうか。 また数週間後あたりに様子を見に行きたいと思っています。他にミズタガラシが生育する河原の湧水の泉では ナガエミクリ がみずみずしい新葉を立ち上げていました。 また河原や土手では キツネアザミ が点々と見られました。
午後からは丹波市内の渓流へ。以前、誤同定したタカネマスクサの群生地です。渓流沿いの林縁ではヤマイバラが全盛期で、あちこちで満開の株が見られました。 前回見た シラコスゲオクノカンスゲの他、日陰の渓流の岩上にツクバスゲが見られました。

イシモチソウの花
イシモチソウの花
多くの図鑑では花柱が3個とされていますが、ここのものは5個あるものが多く見られます。他にも柱頭は指状に4裂するとありますが、ここのものは6裂しているものが最も多く見られました。 花の拡大画像はイシモチソウのページにあります。  (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
トキソウ
トキソウ
池畔の湿地は野生動物による撹乱が見られ、そのような撹乱の害を受けない大株の ヌマガヤ の間に多数の花茎を上げていました。
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●湿生植物 トキソウ 
ノテンツキ
開花中のノテンツキ
湿生のテンツキ類では最も早い時期に開花する種です。 ノテンツキは雌性先熟で、花序枝が伸び始めてしばらくすると白く毛の多い花柱を出し(雌性期)、その間も花茎と花序枝が伸び、続いて鱗片の間から黄色い雄蕊の葯を出します(雄性期)。 画像の株の中央付近の花茎の短いものは雌性期、外側のやや長い花茎のものは雄性期に入りつつあります。画像右側には別の個体から伸びた雄性期の花序が見えています。  (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
●湿生植物 ノテンツキ
ナンテンハギ
ナンテンハギ
西宮北部の棚田周辺でもよく見かけるマメ科の植物です。花期は長く、夏になってもまだ開花しているものを良く眼にします。 晴れた日であれば、沢山のハナバチ類の訪花が観察できるのですが、曇天であまり気温も上がらず、訪花している昆虫を見ることはできませんでした。
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●関西の花 ナンテンハギ
ミズタガラシ
花期終わりに近いミズタガラシ
湧水のある小河川の河原に生育しています。高く花茎を上げたものは野生動物の食害に遭っているものが多いようでした。 画像中央の茎も齧られていますが、茎の葉腋からは走出枝が横に広がって伸びています。
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●湿生植物 ミズタガラシ
タカネマスクサ
タカネマスクサ
谷の入り口にある溜池畔、湧水のにじむ林道脇、湿った草地などに大きく叢生した個体が群生しています。小穂は マスクサヤブスゲよりも幅の広い卵形で雌雄性。  (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
●湿生植物 タカネマスクサ
ヤマイバラ
満開のヤマイバラ
西宮では六甲山系にわずかに見られる程度ですが、ここでは林縁の樹木を覆うようにして広がった大きな株が沢山開花していました。 画像の見た目ではノイバラとあまり変わらないように見えますが、花径はノイバラよりひとまわり大きく4〜5cmあり、非常に目立ちます。 開花するのは大きくなった個体だけのようで、人の背丈程度の個体では開花は見られませんでした。
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●関西の花 ヤマイバラ
ヤマウコギ
ヤマウコギ
その名の通り主に山地に生えるウコギの仲間です。雌雄異株で画像のものは5個の雄蕊が見えるので雄株ということになります。 雄株に較べて雌株を眼にする機会は少なく、雌花は2個の花柱が半曲してつきます。似たものでは丘陵部に鋸歯が粗く明瞭なオカウコギが生育します。 また、ブナ帯近くの深山では、葉裏に短毛を密生し、白〜赤紫色の花をつけるケヤマウコギがあります。
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ハナビゼキショウ
花を閉じ始めたハナビゼキショウ
林道脇の湧水がしみだす場所でハナビゼキショウが見られました。ハナビゼキショウは午前中花です。画像は午後1時半頃のもので、花が閉じつつある状況です。 よく似た コウガイゼキショウヒロハノコウガイゼキショウ では雄蕊が3個あり、ハナビゼキショウでは6個の雄蕊があります。開花時での区別は容易です。
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●湿生植物 ハナビゼキショウ
ヒメアシナガコガネ
ヒメアシナガコガネ
初夏に花上に普通に見られる小さな黄色のコガネムシで、前翅の黒班には様々な変異があり、黒班の全くない個体も見られます。 初夏、花上のハナカミキリムシ類採集のために花をすくうと、網に沢山入っていて、邪魔者扱いを受ける種です。 気温が上がらないためか、切れたイグサの茎の先でじっとしていました。
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ナルコスゲ
ツクバスゲ ナルコスゲ
照葉樹の陰となった渓流の岩上に生育していました。 渓流の岩上に点々と見られましたが、果胞が残っているのはこの個体だけでした。 *当初はツクバスゲとしていましたが、標本を再検討すると生育の良くないナルコスゲのようでした。
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●関西のスゲ ナルコスゲ
ホソバコケシノブ
岩壁に着生するホソバコケシノブ
渓畔に付けられた林道から別れ、流れの踏み跡をたどると岩壁にコウヤコケシノブとともにホソバコケシノブが着生していました。 同じ岩壁上にはカタヒバも着生していましたが、ホソバコケシノブと混生している所はありませんでした。生育条件に微妙な差があるのでしょうか? 丹波地方には良く似たヒメコケシノブも見かけます。ヒメコケシノブは苞膜が裂葉先端の裂片につきますが、ホソバコケシノブには苞膜が脇から出た裂葉につきます。 画像にはその様子がよく表れています。  (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
●関西のシダ ホソバコケシノブ


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