アカハナワラビ Botrychium nipponicum  Makino
  山地・林床のシダ  兵庫県RDB Aランク種 ハナヤスリ科 ハナワラビ属
Fig.1 (兵庫県丹波地方・社寺の林床 2013.11/12)

Fig.2 (兵庫県丹波地方・社寺の林床 2013.10/15)

Fig.2 (兵庫県丹波地方・社寺の林床 2014.1/14)

低山〜山地の疎林の林床、林縁、社寺境内などに生育する冬緑性シダ。西日本では稀。
根茎は短く、直立し、肉質の根を出し、年に1枚に葉を出す。葉は高さ20〜50cm、担葉体は短く、長さ1.5〜6cm、無毛。
栄養葉の柄は長さ3〜13cm、はじめまばらに毛があるが早落性でのちに脱落する。
栄養葉の葉身は3出葉的に3回羽状に分岐し、長さ、幅ともに約10cm、草質。
葉表には脈に沿うように白味を帯びたカスリ模様が入り、紅変前には全体が緑白色に見える。
羽片は下部のもので広卵形、長柄があり、上部は急に狭くなる。
裂片は長楕円形から披針形、辺縁は重鋸歯状となる部分があり、鋸歯は多くが鋭頭で少し内曲する。
胞子葉は栄養葉よりもはるかに長く、胞子飛散後には枯死する。ふつう冬季には草体が著しく紅変する。
胞子の外膜は微細なうね状突起が網目をつくるほかほぼ平滑。染色体数はn=45の2倍体。

フユノハナワラビB. ternatum)は向陽の草地に生育し、栄養葉の羽片の頂片は円頭〜鋭頭、裂片は鈍鋸歯縁。
ミドリハナワラビB. triangularifolium)は栄養葉の柄にごくまばらに長い毛がある。栄養葉はほぼ3角形で、裂片はほとんど重なりあわない。冬季にほとんど紅変しない。伊豆大島。
オオハナワラビB. japonicum)は林下に生育し、栄養葉の羽片の頂片は鋭頭、裂片辺縁には鋭鋸歯がほぼ等間隔で並ぶ。胞子葉は胞子散布後にも残る。
ヤマハナワラビB. multifidum)は本州中部以北の向陽の山地に生育し、栄養葉の羽片の頂片は鈍頭、裂片は全縁または鈍鋸歯縁。胞子葉は胞子散布後に枯死する。
エゾフユノハナワラビB. multifidum var. robustum)はヤマハナワラビの変種で、母種よりも大型で葉柄に微毛が多く、関西では伊吹山や大峰山などの高所に生育する。
モトマチハナワラビB.sp.)は最近見出された種。日陰の林下に生育し、常緑性。栄養葉は光沢があり、羽片の頂片は鋭頭、裂片は細く、鋭鋸歯縁。胞子葉は胞子散布後にも残る。
ナンキハナワラビB.sp.)は最近見出された種。日陰の林下に生育し、常緑性。光沢がありモトマチハナワラビに似るが羽片の切れ込みはより浅く、裂片は鋭鋸歯縁。
胞子葉は胞子散布後にも残る。栄養葉の一部に胞子嚢がつくことが多い。
アカネハナワラビB. × elegans)はオオハナワラビとの雑種。
アカフユノハナワラビB. × pseudoternatum)はフユノハナワラビとの雑種を差す。
近縁種 : アカフユノハナワラビフユノハナワラビオオハナワラビモトマチハナワラビ、 ナンキハナワラビ、 アカネハナワラビアイフユノハナワラビ
関連ブログ・ページ 『Satoyama, Plants & Nature』 冬のハナワラビの迷宮   紅変したハナワラビ達   冬緑〜常緑性ハナワラビの種間雑種

■分布:本州、四国、九州 ・ 朝鮮半島、中国
■生育環境:低山〜山地の疎林の林床、林縁、社寺境内など。

Fig.4 全草標本。(兵庫県丹波地方・社寺の林床 2013.11/12)
  基部から太い根を多数生じる。胞子葉は栄養葉葉柄の地表近くで分岐する。葉身は3角形からやや5角形状。
  胞子葉はふつう栄養葉が紅変する前に成熟して胞子を飛散する。画像は飛散最中のもの。

Fig.5 葉柄。(兵庫県丹波地方・社寺の林床 2013.11/12)
  上は胞子葉の、下は栄養葉の葉柄。栄養葉の葉柄にははじめ軟毛がまばらにあるが、紅変する頃には大半が落ちている。
  画像のものは胞子葉が熟した頃であるが、まだ軟毛が少し残っていた。

Fig.6 紅変前の栄養葉。(兵庫県丹波地方・社寺の林床 2013.10/15)
  栄養葉の葉身は3出葉的に3回羽状に分岐し、長さ、幅ともに約10cm、草質。
  葉表には脈に沿うように白味を帯びたカスリ模様が入り、紅変前には全体が緑白色に見える。
  羽片は下部のもので広卵形、長柄があり、上部は急に狭くなる。

Fig.7 羽片の拡大。(兵庫県丹波地方・社寺の林床 2013.10/28)
  紅変前のもので、脈に沿うように白味を帯びたカスリ模様が入っているのが見られる。
  裂片の辺縁には重鋸歯状となる部分があり、鋸歯は多くが鋭頭で少し内曲する。

Fig.8 成熟直前の胞子嚢を付けた胞子葉。(兵庫県丹波地方・社寺の林床 2013.10/28
  栄養葉が紅変する前に、栄養葉よりもはるかに長い胞子葉を上げて展葉する。
  この個体の栄養葉は、葉縁が少し紅を差した程度だった。

Fig.9 胞子。(兵庫県阪神地方・林縁 2014.12/8)
  胞子は球状の4面体で、1頂点のみが明瞭で、他は丸い。胞子外膜はうね状突起が網目をつくるほかほぼ平滑。
  オオハナワラビやモトマチハナワラビは胞子外膜に小突起が並ぶことにより区別できる。

Fig.10 胞子の大きさ。(兵庫県阪神地方・林縁 2014.12/8)
  1目盛は1.6μ。18〜20目盛内に納まり、直径28〜32μだった。

Fig.11 紅変した栄養葉。(兵庫県播磨地方・社寺境内の林縁 2013.4/4)
  冬季はふつう著しく紅変する。紅変してもカスリ模様が認められる。
  兵庫県南部ではときに冬季になっても全く紅変しないものもあり、検討を要する。

Fig.12 紅変した栄養葉の羽片拡大。(兵庫県丹波地方・社寺の林床 2014.1/14)

Fig.13 紅変した栄養葉の裏面。(兵庫県播磨地方・社寺境内の林縁 2013.4/4)
  冬季に充分の紅変したものは、葉裏も紅変する。葉裏は平滑で光沢がある。
  葉柄の早落性の軟毛は全く見られなくなっている。

Fig.14 初夏になって緑化した栄養葉。(兵庫県丹波地方・社寺の林床 2013.6/13)
  冬季に紅変した葉も、春を過ぎると緑葉に戻る。葉表は傷みが多く、カスリ模様はやや不明瞭である。

Fig.15 夏になって黄化し枯れつつある栄養葉。(兵庫県丹波地方・社寺の林床 2014.7/15)
  日向に生育するものは春遅くにスス病のように黒くなって溶けて消えるが、日陰に生育するものは夏まで栄養葉が残っている。

Fig.16 群生する若い個体。(兵庫県丹波地方・社寺の林床 2013.11/12)
  紅変しつつある小型の個体。栄養葉は小さいが、この頃のものにも葉表にカスリ模様が見られる。

Fig.17 展葉しはじめたアカハナワラビ。(兵庫県丹波地方・社寺の林床 2013.9/8)
  栄養葉の葉柄には早落性の軟毛がまばらに見られ、2本の葉柄は下方が赤褐色を帯びている。

Fig.18 オオハナワラビとの雑種(アカネハナワラビ)と推定される個体。(兵庫県丹波地方・社寺林 2013.11/12)
  紅変前の個体で葉はオオハナワラビ並みに大きい。アカハナワラビとオオハナワラビの中間的な形質が見られ、紅変前の栄養葉は青白く見える。

Fig.19 アカネハナワラビの紅変前の羽片拡大。(兵庫県丹波地方・社寺林 2013.11/12)
  葉面には薄いカスリ模様があり、辺縁の鋸歯は重鋸歯状の部分があるが、鋸歯の切れ込みは深く、内曲するものが混じる。
  周辺ではオオハナワラビの生育は確認できたが、暗い林床でアカハナワラビの生育は確認できなかった。

生育環境と生態
Fig.20 社寺境内にまばらに生育するアカハナワラビ。(兵庫県丹波地方・社寺の林床 2013.10/15)
初夏に草刈りの行われる、社寺境内の落葉広葉樹下に20個体程度がまばらに生育していた。
適湿な環境で表面はハイゴケ、コツボゴケ、タチゴケ、ムチゴケなどの蘚苔類やクラマゴケに覆われ、同所的にミゾシダ、ホソバシケシダ、ヤマイヌワラビ、
ヒロハイヌワラビ、ホソバイヌワラビ、アキチョウジ、ヤマジノホトトギス、シャガが生育するが、草刈りによって繁茂が抑制されている。
このためミヤマチドメ、コナスビ、タチツボスミレ、アオイスミレ、サワハコベ、ヨツバムグラ、トウゴクシソバタツナミなどの小型の草本も多い。

Fig.21 寺院跡の急傾斜に点在する小型個体。(京都府南丹地方・林縁斜面 2013.3/30)
シカの食害の激しい地域に生育しているもので、大きな個体は全て食べられてしまっているのだろう。
小型のものばかり20個体ほどが、伐採されたかなり日当たり良い斜面に生育している。胞子葉を上げたものは1個体しか見られなかった。

Fig.22 スギ植林地の林床に単独で生育する個体。(兵庫県丹波地方・スギ植林地 2013.2/21)
アカハナワラビはときにスギ植林地内のオオハナワラビやモトマチハナワラビの混生地で、1個体が単独で生育していることがある。
このような場所を3ヶ所ほど知っているが、いずれのものも日陰のためか草体にあまり勢いがなく、胞子葉を上げているものを見たことがない。

Fig.23 小河川の土手でオオハナワラビと混生するアカハナワラビ。(兵庫県丹波地方・林縁土手 2014.3/4)
小河川と植林地の間の土手に群生しており、シカの食害の激しい場所であるが、胞子葉をのぞいてはほとんど食害を受けていなかった。
このようなオオハナワラビとの混生地では両種の雑種であるアカネハナワラビが出現することがある。
ここでは大小あわせて80個体ほどが生育しており、丹波地方ではかなりの多産地である。


最終更新日:15th.Jan.2015

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