モトマチハナワラビ | Botrychium sp. | ||
里山・山地・林床のシダ | ハナヤスリ科 ハナワラビ属 |
Fig.1 (兵庫県篠山市・社寺境内 2013.10/15) |
||
Fig.2 (兵庫県篠山市・竹林の林縁 2013.2/22) 低山〜山地の林床などに生育する常緑性シダ。 最近になって伊豆大島の元町で発見されたもので、まだ新分類群として記載されていない。 根茎は短く、直立、肉質の根を多数出す。 葉はふつう年に1枚出て、高さ5〜40cm、担葉体は短く、柔らかい細毛がある。 栄養葉の柄は長く、長さ10〜20cm、地表近くで胞子葉を分岐し、葉身ははぼ5角形、鋭頭、 3出葉的に3回羽状に深裂し、長さ幅ともに10〜30cm程、表面には強い光沢がある。 羽片は最下のものが最大で、上へ向かって急に小さくなり、大きいものは3角状広楕円形。 小羽片は広披針形、先に向かってしだいに狭くなり、鋭頭。 裂片は広披針形でオオハナワラビよりも細く、鋭頭〜鋭尖頭、縁は明瞭な鋭鋸歯があり、葉柄や羽軸に灰色で長い毛をまばらに生じる。 胞子葉は栄養葉より長く、2回羽状に分岐し、円錐花序的、軸は無毛。 胞子の表面には微細な突起が大きな網目をつくる。胞子葉は胞子散布後も残る。 ナンキハナワラビ(B.sp.)は最近見出された種。日陰の林下に生育し、常緑性。光沢がありモトマチハナワラビに似るが羽片の切れ込みはより浅く、裂片は鋭鋸歯縁。 胞子葉は胞子散布後にも残る。栄養葉の一部に胞子嚢がつくことが多い。 オオハナワラビ(B. japonicum)は林下に生育し、栄養葉の羽片の頂片は鋭頭、裂片辺縁には鋭鋸歯がほぼ等間隔で並ぶ。胞子葉は胞子散布後にも残る。 フユノハナワラビ(B. ternatum)は向陽の草地に生育し、栄養葉の羽片の頂片は円頭〜鋭頭、裂片は鈍鋸歯縁。胞子葉は胞子散布後に枯死する。 アカハナワラビ(B. nipponicum)は向陽の林下に生育し、栄養葉の羽片の頂片は鋭頭、裂片は鋭鋸歯縁。胞子葉は胞子散布後に枯死する。ふつう冬季に紅変する。 ヤマハナワラビ(B. multifidum)は本州中部以北の向陽の山地に生育し、栄養葉の羽片の頂片は鈍頭、裂片は全縁または鈍鋸歯縁。胞子葉は胞子散布後に枯死する。 エゾフユノハナワラビ(B. multifidum var. robustum)はヤマハナワラビの変種で、母種よりも大型で葉柄に微毛が多く、関西では伊吹山や大峰山などの高所に生育する。 関連ブログ・ページ 『Satoyama, Plants & Nature』 冬のハナワラビの迷宮 紅変したハナワラビ達 冬緑〜常緑性ハナワラビの種間雑種 近縁種 : オオハナワラビ、 フユノハナワラビ、 アカフユノハナワラビ、 アカハナワラビ、 ナンキハナワラビ、 アカネハナワラビ、 アイフユノハナワラビ ■分布:本州、四国、伊豆大島 ・ 国外分布は不明 ■生育環境:低山〜山地の林床、社寺の境内など。 |
||
↑Fig.3 全草標本。(兵庫県篠山市・スギ林の林床 2013.2/6) 基部から太い根を多数生じる。胞子葉は栄養葉葉柄の地表近くで分岐する。葉身はほぼ5角形。 胞子葉は越年しても枯れることなく倒伏せず、その葉身も衰弱することはなく、直立して残存する。 栄養葉はふつう年に1枚出て、昨年と傷んだ一昨年の葉が残るが、草刈りされる場所では1枚しか見られない。 |
||
↑Fig.4 葉柄。(兵庫県篠山市・落葉広葉樹林の林床 2013.2/28) 左に出ているのは昨冬の栄養葉の葉柄、中央が今冬の栄養葉の葉柄、右に分かれてでているのは胞子葉の葉柄。 葉柄や羽軸には柔らかい細毛をまばらに生じる。昨冬の葉柄の毛は脱落している。 |
||
↑Fig.5 栄養葉。(兵庫県篠山市・社寺境内 2013.11/12) 葉身ははぼ5角形、鋭頭、3出葉的に3回羽状に深裂する。 羽片は最下のものが最大で、上へ向かって急に小さくなり、大きいものは3角状広楕円形、柄がある。 |
||
↑Fig.6 小羽片とその裂片。(兵庫県篠山市・社寺境内 2013.11/12) 小羽片は広披針形、先に向かってしだいに狭くなり、鋭頭。裂片は広披針形で縁の鋸歯は先がとがる。 オオハナワラビに似るが、本種はふつう表面に光沢があり、裂片の幅は狭いことにより区別できる。 |
||
↑Fig.7 モトマチハナワラビ(左)とオオハナワラビ(右)の栄養葉。(兵庫県丹波市・スギ林の林床 2013.4/15) モトマチハナワラビは小羽片の裂片が狭く、隙間ができるため、オオハナワラビの葉よりも繊細に見える。 |
||
↑Fig.8 大型個体の栄養葉。(兵庫県丹波市・草地土手 2013.4/23) 葉幅が30cmと大きく、オオハナワラビとの雑種を疑ったが胞子は正常だった。 大型の栄養葉は通常見かける20cm未満のものとは少し受ける印象が異なる。 もしかしたら浸透交雑の結果かもしれない。 |
||
↑Fig.9 成熟近い胞子葉。(兵庫県篠山市・社寺境内 2013.11/12) 胞子葉は栄養葉より高く突き出て、2回羽状に分岐し、円錐花序的、軸は無毛。 胞子葉は胞子散布後も残る。 |
||
↑Fig.10 胞子。(兵庫県丹波市・社寺境内 2014.12/5) 胞子の表面にはオオハナワラビの胞子と同様な微細な突起がある。 |
||
↑Fig.11 胞子の拡大。(兵庫県丹波市・社寺境内 2014.12/5) 微細な突起は網目をつくる。形状は球状の4面体。4つの頂点のうち、1つのみが明瞭で、他の3点と稜は丸く不明瞭。 |
||
↑Fig.12 胞子の大きさ。(神戸市・社寺境内 2014.12/15) 1目盛は1.6μ。17〜19目盛内に納まり、直径は27〜30μだった。 |
||
↑Fig.13 幼個体。(兵庫県篠山市・スギ林の林床 2013.2/21) オオハナワラビの幼個体に比べて、裂片の幅は狭く、鋸歯も明瞭である。 |
||
↑Fig.14 林床に生育する若い個体。(兵庫県篠山市・ヒノキ林の林床 2013.2/21) 若い個体がオオハナワラビとともに、ヒノキの植林地の林床で生育していた。 鮮緑色で羽片の幅の狭いものがモトマチハナワラビの若い個体である。 |
||
↑Fig.15 黄褐色に染まった栄養葉。(兵庫県篠山市・社寺境内 2013.2/7) 日当たりよい場所に生育するものは、低温期になると葉表が黄褐色に変色する。 |
||
↑Fig.16 黄褐色に染まった栄養葉の裏面。(兵庫県篠山市・社寺境内 2013.2/7) 表面は黄変しても、裏面は緑色を保つ。 |
||
↑Fig.17 向陽地で見られた個体。(兵庫県丹波市・社寺境内の草地 2013.3/12) 終日直射日光に当たるものは、表面の光沢が著しく強くなり、葉縁が多少とも下面に巻く。 |
||
↑Fig.18 1ヶ所にかたまって生育するモトマチハナワラビ。(兵庫県篠山市・社寺境内 2013.10/15) モトマチハナワラビでは、このように1ヶ所でかたまって生育しているものをよく見かける。 |
生育環境と生態 |
Fig.19 竹林の林縁に生育するモトマチハナワラビ。(兵庫県篠山市・竹林の林縁 2013.2/22) 半ば放置されたスギ林に侵入した形で竹林があり、その林縁部に多くの個体が生育している。 もとはスギ林の林床に生育していたものが、竹林に押されて林縁部に残っているように思われる。 まだタケの侵入を受けていないスギ林の林床では胞子葉を出していないモトマチハナワラビとオオハナワラビが見られた。 同所的にはアオキやチャノキの低木、トウゲシバ、トウゴクシダ、リョウメンシダ、ヤブソテツ、オクマワラビなどのシダ類、フユイチゴ、 ツルアリドオシ、ヤブラン、ナキリスゲなどが生育している。 |
||
Fig.20 植林地の林床に生育するモトマチハナワラビ。(兵庫県篠山市・スギ林の林床 2013.2/28) 山麓の植林地下部のかなり湿った平坦地にオオハナワラビとともに生育している。 丹波地方ではモトマチハナワラビはオオハナワラビとともに出現することが多いが、混生地ではモトマチハナワラビの個体数が多い傾向がある。 林床には被植がごく少なく、アオキが群生し、かなり暗い場所である。 このような陰地に生育するものは、冬期になっても黄変することはない。 |
||
Fig.21 オオハナワラビと混生するモトマチハナワラビ。(兵庫県丹波市・社寺境内 2013.3/12) ネザサが刈り込まれたシキミやツバキなどの樹木の脇に小さな群落をつくっている。 午前中から昼にかけて日射があるためか、葉が色づいている。 周辺にはモトマチハナワラビかオオハナワラビか区別に迷う個体も多く見られ、胞子を観察する必要がある。 |