アカネハナワラビ | Botrychium x elegans (Sahashi) K.Iwats. | ||
山地・林床のシダ (雑種) | ハナヤスリ科 ハナワラビ属 |
Fig.1 (兵庫県丹波地方・社寺の林床 2013.12/16) アカハナワラビとオオハナワラビの雑種で、ふつう両種の混生地に稀に生じる。冬緑性。 アカハナワラビよりも大きくなり、オオハナワラビに似て、柄には灰白色で長い軟毛を生じる。 栄養葉は3出葉的に3回羽状に深裂し、裂片には脈に沿って淡色のかすり模様があり、鋸歯は鋭頭、紅変前は灰緑色を帯びて見える。 冬季には葉表が鮮やかに紅変するが、葉裏の紅変は不完全で、うぐいす色様となる。 胞子葉は熟した後も枯死せず、翌春まで残っていることが多い。 胞子は一部が胞子嚢穂に残存し、その形状は一定せず、球形のものも見られるが捻性があるかどうかは不明。 球形の胞子の外膜はほぼ平滑に見える。 【メモ】 兵庫県ではアカハナワラビ自体が稀であるため、本雑種はほとんど見られず、1個体の生育しか確認していない。 大型で美しいハナワラビで、アカネハナワラビという標準和名にしろ、elegans という種小名にしろ、命名がぴったりで素晴らしい。 アカハナワラビ(B. nipponicum)は向陽の林下に生育し、栄養葉の羽片の頂片は鋭頭、裂片は鋭鋸歯縁。胞子葉は胞子散布後に枯死する。冬季に紅変する。 オオハナワラビ(B. japonicum)は林下に生育し、栄養葉の羽片の頂片は鋭頭、裂片辺縁には鋭鋸歯がほぼ等間隔で並ぶ。胞子葉は胞子散布後にも残る。 フユノハナワラビ(B. ternatum)は向陽の草地に生育し、栄養葉の羽片の頂片は円頭〜鋭頭、裂片は鈍鋸歯縁。 アカフユノハナワラビ(B. ternatum var. pseudoternatum)はフユノハナワラビの紅変型変種、またはアカハナワラビとの雑種を差す。 ミドリハナワラビ(B. triangularifolium)は栄養葉の柄にごくまばらに長い毛がある。栄養葉はほぼ3角形で、裂片はほとんど重なりあわない。冬季にほとんど紅変しない。伊豆大島。 ヤマハナワラビ(B. multifidum)は本州中部以北の向陽の山地に生育し、栄養葉の羽片の頂片は鈍頭、裂片は全縁または鈍鋸歯縁。胞子葉は胞子散布後に枯死する。 エゾフユノハナワラビ(B. multifidum var. robustum)はヤマハナワラビの変種で、母種よりも大型で葉柄に微毛が多く、関西では伊吹山や大峰山などの高所に生育する。 モトマチハナワラビ(B.sp.)は最近見出された種。日陰の林下に生育し、常緑性。栄養葉は光沢があり、羽片の頂片は鋭頭、裂片は細く、鋭鋸歯縁。胞子葉は胞子散布後にも残る。 ナンキハナワラビ(B.sp.)は最近見出された種。日陰の林下に生育し、常緑性。光沢がありモトマチハナワラビに似るが羽片の切れ込みはより浅く、裂片は鋭鋸歯縁。 胞子葉は胞子散布後にも残る。栄養葉の一部に胞子嚢がつくことが多い。 近縁種 : アカハナワラビ、 オオハナワラビ、 フユノハナワラビ、 アカフユノハナワラビ、 モトマチハナワラビ、 ナンキハナワラビ、 アイフユノハナワラビ 関連ブログ・ページ 『Satoyama, Plants & Nature』 冬のハナワラビの迷宮 紅変したハナワラビ達 冬緑〜常緑性ハナワラビの種間雑種 ■分布:本州、四国、九州 ・ 朝鮮半島、中国 ■生育環境:低山〜山地の疎林の林床、林縁、社寺境内などアカハナワラビとオオハナワラビの混生地。 |
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↑Fig.2 葉柄。(兵庫県丹波地方・社寺の林床 2013.12/16) 栄養葉(左)、胞子葉(右)ともに、柄には宿存性の灰白色で長い軟毛がある。 |
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↑Fig.3 紅変前の草体。(兵庫県丹波地方・社寺の林床 2013.11/12) 栄養葉の形状はオオハナワラビに酷似するが、灰白色を帯びて見える。 |
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↑Fig.4 紅変前のオオハナワラビ(右)との栄養葉の比較。(兵庫県丹波地方・社寺の林床 2013.11/12) アカネハナワラビの裂片には脈に沿って淡色のカスリ模様がある。 |
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↑Fig.5 裂片。(兵庫県丹波地方・社寺の林床 2013.11/12) 脈に沿うように淡色のカスリ模様が入り、辺縁近くの脈に沿ってかすかに凹凸が出るのはアカハナワラビの特徴。 辺縁の鋸歯が鋭く、少し内側へと向くのはオオハナワラビの特徴。 |
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↑Fig.6 成熟した胞子葉。(兵庫県丹波地方・社寺の林床 2013.12/16 栄養葉が紅変する前に、栄養葉よりもはるかに長い胞子葉を上げて展葉する。 この個体は栄養葉が紅変するとほぼ同時に胞子葉が熟していた。 |
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↑Fig.7 胞子。(兵庫県丹波地方・社寺の林床 2014.1/20) 胞子の形状は不定で、球形の正常に見えるものも混じるが、今のところ捻性があるかどうかは不明。 |
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↑Fig.8 球形の胞子表面は平滑に見える。(兵庫県丹波地方・社寺の林床 2014.1/20) |
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↑Fig.9 冬期に紅変した栄養葉。(兵庫県丹波地方・社寺の林床 2014.1/20) 雪中から掘り出したもので、雪の重みで葉が少ししなだれている。冬前に少し食害を受けたようで、裂片の所々が欠損していた。 裂片の一部に緑色部分が残っているが、裂片が重なり合った際に下側にあった部分である。 このような緑色部が残る紅変は、向陽地に生育するオオハナワラビにも見られる。 |
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↑Fig.10 紅変した栄養葉裂片。(兵庫県丹波地方・社寺の林床 2014.1/20) 紅変しても薄いカスリ模様が認められる。 |
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↑Fig.11 春に緑色に戻った栄養葉。(兵庫県丹波地方・社寺の林床 2013.4/26) 4月になり気温が上がりはじめると、アカハナワラビ同様、栄養葉は緑色に戻る。胞子葉はすでに倒伏していた。 |
生育環境と生態 |
Fig.12 社寺境内に生育するアカネハナワラビ。(兵庫県丹波地方・社寺の林床 2013.12/16) 70年生程度の社寺境内にある間伐の行き届いたスギ林の林床の平坦部に1個体のみが生育している。近隣地区にはアカハナワラビ群生地がある。 現在、林内には両親種のうちオオハナワラビしか見られないが、林床が明るかった頃にはアカハナワラビも生育していたのだろう。 林床は通年日陰でやや湿った環境となっており、ミヤマフユイチゴが優占し、キヨタキシダ、ジャノヒゲ、シャガ、ヤブミョウガ、トチバニンジン などが所々でパッチ状の群落を形成し、ヤマイヌワラビ、ヒロハイヌワラビ、ホソバイヌワラビ、ホソバナライシダ、ベニシダ、イワガネソウ、 タマツリスゲ、ミヤマカンスゲ、ジュズスゲ、エナシヒゴクサ、ムロウテンナンショウ、カントウマムシグサ、ヌカボシソウ、ホウチャクソウ、 オモト、タチシオデ、ハナタデ、ムカゴイラクサ、ニリンソウ、セリバオウレン、ミヤマカタバミ、ドクダミ、ヤブコウジ、チャノキ、テイカカズラ、 ハグロソウ、ナガバハエドクソウ、アキチョウジなどが生育している。 |