コバノカナワラビ Arachniodes sporadosora  (Kunze) Nakaike
  低山・山地・林床のシダ オシダ科 カナワラビ属
Fig.1 (三重県・暖帯林の渓流畔 2015.11/16)
低山・山地のやや乾いた林床などに生育する常緑性シダ。
根茎は短く、横走または斜上し、やや硬く、褐色で線状披針形、鋭尖頭の鱗片をつける。
葉柄はわら色、基部は褐色で鱗片が多く、胞子葉では長さ50cmを越えることがある。
葉身は4回羽状深裂し、小さい葉では2〜3回羽状複生で終わることもあり、胞子葉は直立して小羽片が小さくなる傾向がある。
羽片は上部に向かってしだいに短くなり、頂羽片というべきまとまりはない。
羽片、小羽片には柄があり、裂片の鋸歯の先端は硬いトゲとなる。葉質はかたい革質。
細い鱗片が葉脈にいたるまで各軸につくが、葉面は無毛。
胞子嚢群(ソーラス)は裂片の中肋近くにつき、包膜は円腎形、全縁で無毛。染色体はn=41の2倍体。

ホソバカナワラビA. exilis)は根茎が長く横走して群生し、側羽片5〜10対のほか、葉先は頂羽片状となる。
ミヤコカナワラビA. kiotensis)は葉先が頂羽片状にまとまるが長3角状、羽片や小羽片の幅は広く、相接する羽片との間に隙間はほとんどできない。裂片は丸味を帯びる。
ハカタシダA. simplicior)は鱗片の縁に毛があり、側羽片が3〜5対、頂羽片があり、ときに羽軸にそって淡色の筋が入り、ソーラスは中間生し、円腎形で全縁または波状縁。
オニカナワラビA. simplicior var. major)はハカタシダの変種で、葉身には頂羽片がなく、先に向かってしだいに狭くなる。
ミドリカナワラビA. nipponica)は葉柄に赤褐色の鱗片を密生し、葉身が3回羽状深裂〜複生し、葉質は柔らかく、裏面脈上には圧着した毛がつく。やや稀。
ハガクレカナワラビA. yasu-inouei)はオニカナワラビに似るが、葉質はより薄く、柔らかい革質。裂片の先は芒状に約1mm伸びる。稀。紀伊半島以南。
オオカナワラビA. amabilis)は葉身が2回羽状複生。葉先は頂羽片状にまとまる。
コバノカナワラビを片親とする推定種間雑種に以下のものがある。
カワズカナワラビA. × kenzo-satakei)はリョウメンシダとの推定種間雑種。2n=82で減数分裂は不正常。
サンヨウカナワラビA. × masakii)はミドリカナワラビとの推定種間雑種。n=41,2n=82で減数分裂は不正常。
テンリュウカナワラビA. × kurosawae)はオニカナワラビとの推定種間雑種。2n=123で減数分裂は不正常。
ホソコバノカナワラビA. exilis× A. sporadosora)はコバノカナワラビとの推定種間雑種。
近縁種 : ホソバカナワラビミヤコカナワラビハカタシダオニカナワラビオオカナワラビ、 ミドリカナワラビ
ホソコバノカナワラビ

■分布:本州(関東地方以西)、四国、九州、沖縄 ・ 朝鮮半島、中国、台湾、マレーシア〜ニューギニア
■生育環境:低山・山地のやや乾いた林床など。

Fig.2 胞子葉の地上部標本。(三重県・暖帯林の渓流畔 2015.11/16)
  葉身は4回羽状深裂し、小さい葉では2〜3回羽状複生、葉質はかたい革質、暗緑色、光沢があり無毛、葉先は頂羽片状とならない。
  羽片には柄がある。葉柄は胞子葉では長さ50cmを越えることがある。

Fig.3 葉柄基部の鱗片。(三重県・暖帯林の渓流畔 2015.11/16)
  鱗片は褐色、線状披針形、鋭尖頭、縁は全縁だった。

Fig.4 最下羽片。(三重県・暖帯林の渓流畔 2015.11/16)
  最下羽片の下向きの第一小羽片は長く伸びる。

Fig.5 葉先。(三重県・暖帯林の渓流畔 2015.11/16)
  羽片は上部に向かってしだいに短くなり、頂羽片というべきまとまりはない。

Fig.6 小羽片。(三重県・暖帯林の渓流畔 2015.11/16)
  小羽片には柄があり、羽片下方につくものはよく切れ込み、裂片の鋸歯の先端は硬いトゲとなる。

Fig.7 ソーラス。(三重県・暖帯林の渓流畔 2015.11/16)
  胞子嚢群(ソーラス)は中肋近くにつく。包膜は全縁であるが、この時期のものでは観察できない。

生育環境と生態
Fig.8 暖帯林の渓流畔の斜面で生育するコバノカナワラビ。(三重県・暖帯林の渓流畔 2015.11/16)
暖帯林下の渓流畔の土崖上部にコバノカナワラビが点々と生育していた。
周辺ではトウゴクシダ、イワガネゼンマイ、イノデモドキ、ヤマイタチシダ、クジャクシダ、カンスゲsp.などが生育していた。

Fig.9 暖帯林の小滝の脇で生育するコバノカナワラビ。(京都府丹後地方・暖帯林の渓流畔 2016.11/2)
日本海側の暖帯林下の小滝脇の花崗岩質の路頭に、コバノカナワラビが1個体のみ生育していた。
急斜面がそのまま海岸に切れ落ちているような場所で、周辺の樹林下にはホソバカナワラビ群落がよく発達していた。
この付近ではマツザカシダ(青葉タイプ)やヒトモトススキが見られるほか、ナチシケシダの記録もあり、寒冷期の暖地性植物のレフュジアとなった
という説を裏づけられるような分布である。


最終更新日:27th.Feb.2017

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