タネツケバナ Cardamine flexuosa  With. アブラナ科 タネツケバナ属
湿生植物
Fig.1 (西宮市山口町・畦 2008.4/6)

水田の畦や湿地などから、道端まで普通に生える越年草。
茎は下部から分枝して高さ10〜30cm、下部はふつう暗紫色を帯びて短毛が生える。
葉は羽状裂葉で、頂小片は少し大きく、側小片は3〜13個あって狭長楕円形〜倒卵形で、粗い鋸歯がある。
花弁は長さ3〜4mm、白色。雌蕊1個、雄蕊はふつう6本あり、うち2本は横に広がる。
果実は長角果で無毛、長さ2cm内外。果実の柄には短毛が生えることがある。
タネツケバナは「種漬花」であり、苗代をつくる直前の、稲の種籾を水に漬からせておく時期に盛んに開花することからきた。
葉の形態や毛などに変異が多く、また近縁種や外来種も多いため、同定にはときに混乱をまねく。

変種にミズタネツケバナ(var. latifolia )がある。
水辺に生え葉裂片は幅広く、茎は軟弱で毛はほとんどなく紫色を帯びない。
亜種にタチタネツケバナ(subsp. fallax)があり、やや山地よりの水辺や草地に生える。
茎は有毛、タネツケバナより直立する傾向があり、花期にも根生葉は残り、裂葉中軸の小片基部付近に托葉状の付属物がつく。
近似種 :  アキノタネツケバナミズタネツケバナオオバタネツケバナニシノオオタネツケバナミズタガラシタチタネツケバナ
ミチタネツケバナ

■分布:日本全土 ・ 台湾、朝鮮半島、樺太、中国、モンゴル、ヒマラヤ、ヨーロッパ、北アメリカ
■生育環境:水田の畦、休耕田、溜池畔、湿地、道端などいたるところ。
■果実期:ふつう4〜6月
■西宮市内での分布:市内全域に普通。

Fig.2 花序。(西宮市塩瀬町名塩・水田の畦 2008.4/6)
  総状花序で、下方から順次開花しつつ上方へと伸びる。
  花弁はふつう4個、白色で長さ3〜4mm。雄蕊は6個で、うち2本は横に広がる。

Fig.3 花茎。(三田市・溜池畔 2008.4/23)
  花茎には毛が散生し、下方は暗紫色を帯びる。

Fig.4 果実は長角果。(西宮市鷲林寺町・休耕田 2008.4/25)
  果柄は斜開して、長角果もやや斜めに開き、花茎から離れてつく。

Fig.5 茎につく葉。(西宮市鷲林寺町・休耕田 2007.11/9)
  羽状裂葉で頂小片は側小片よりも少し大きい。全体に短毛が生え、ルーペで確認できる。
  側小片は3〜13個あって狭長楕円形〜倒卵形で、粗い鋸歯がある。
  茎下部では側小片は中軸をはさんで対になってつくが、中部付近では画像のように対にならずに乱れることが多い。

Fig.6 茎につく葉のバリエーション。(西宮市鷲林寺町・休耕田 2008.4/25)
  左が最上部についた葉で、右に向かうほど下部の葉となる。
  茎中部では側小片の対生は乱れる。上部へ向かうほど側小片の粗い鋸歯はなくなり、披針形全縁に近づく。

Fig.7 冬期はロゼット状に根生葉を広げて越冬する。(西宮市・湿地 2008.2/7)
  越年草であり、1年目の個体は冬期にロゼットを形成して越冬することが多い。
  根生葉の数は近縁種と比較すると多いが、生育状況により少数の葉しかつけないものもある。

Fig.8 比較的少数の根生葉を広げたもの。(西宮市・休耕田 2008.12/15)
  ロゼット葉は側小片が対生して並び、端整な姿をしている。

Fig.9 渓流畔の砂礫地に見られる越冬ロゼット。(西宮市・渓流畔 2009.1/4)
  平坦な河畔の砂地や砂礫地では、きれいな円形のロゼットを形成する。。

Fig.10 生長をはじめたロゼット。(西宮市・砂防ダム内 2007.3/8)
  早春に生長をはじめ、花茎がではじめると、ロゼットは形をくずしはじめる。
  ロゼットが形をくずしはじめると、葉の側小片の対生も序々に乱れはじめる。

Fig.10 伸びはじめの茎と葉。(西宮市山口町・砂防ダム内 2007.3/8)
  伸びはじめの若い個体の茎は、暗紫色を強く帯びて開出毛が目立つ。
  裂葉の中軸は基部に向かうにつれて毛が多くなる。

Fig.11 厳冬期に開花したタネツケバナ。(西宮市鷲林寺町・水田 2008.2/7)
  水田や休耕田などでは1〜2月あたりから早々と開花しているものを見る。
  寒気にあたった草体は暗紫色を強く帯びている。

西宮市内での生育環境と生態
Fig.12 水田の畦の用水路脇で群生するタネツケバナ。(西宮市塩瀬町名塩・用水路脇 2008.4/6)
タネツケバナが最も普通に見られる場所は水田である。
場所によっては、田植え前の水の入っていない水田を一面埋め尽くして開花していることも珍しくない。

Fig.13 湿地の水溜りに抽水状態で開花したタネツケバナ。(西宮市・湿地 2008.4/8)
タネツケバナは貧栄養な湿地にはやや稀で、クサヨシやアカバナ、ヘラオモダカ、ミゾソバ、ヤナギタデなどが現われるような、
中栄養〜やや富栄養な湿地に多い。

Fig.14 渓流中に生育するタネツケバナ。(西宮市・渓流 2008.4/22)
渓流中のものは、葉の頂小片の形状が陸生のものとは多少異なる。
ふつう渓流などではオオバタネツケバナを見かけることが多いが、タネツケバナも生育していることがある。
また、休日に人の多い渓流畔ではタネツケバナ属の他の種と混生することもある。
西宮市内では低山の渓流でタネツケバナ、ミズタネツケバナ、ニシノオオタネツケバナ、ミチタネツケバナ、オランダガラシが混生する場所がある。

Fig.15 住宅街の溝に群生するタネツケバナ。(西宮市・住宅街 2009.3/24)
最近は住宅地周辺ではミチタネツケバナを見かける機会のほうが多くなっているが、タネツケバナもまだまだ健在である。
同じ溝の中にはオランダミミナグサ、チドメグサ、キュウリグサが見られた。

【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。)
清水建美, 1982. アブラナ科タネツケバナ属. 佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎・旦理俊次・冨成忠夫 (編)
       『日本の野生植物 草本2 離弁花類』 p.130〜132. pls.126〜128. 平凡社
北村四郎・村田源, 2004. アブラナ科タネツケバナ属. 『原色日本植物図鑑 草本編(2) 離弁花類』 p.173〜176. pls.41. 保育社
牧野富太郎, 1961 タネツケバナ. 前川文夫・原寛・津山尚(補遺・編) 『牧野 新日本植物図鑑』 211. 北隆館
長田武正・長田喜美子, 1984. アブラナ科タネツケバナ属. 『野草図鑑 8 はこべの巻』 19〜29. 保育社
吉田多美枝・城川四郎. 2001. タネツケバナ属. 神奈川県植物誌調査会(編)『神奈川県植物誌 2001』 770〜773. 神奈川県立生命の星・地球博物館
大滝末男, 1980. ミズタガラシ. 大滝末男・石戸忠 『日本水生植物図鑑』 78〜79. 北隆館
小林禧樹・黒崎史平・三宅慎也. 1998. タネツケバナ. 『六甲山地の植物誌』 129. (財)神戸市公園緑化協会
村田源. 2004. タネツケバナ. 『近畿地方植物誌』 102. 大阪自然史センター
黒崎史平 2001. タネツケバナ. 兵庫県産維管束植物3 アブラナ科. 人と自然12:156. 兵庫県立・人と自然の博物館

最終更新日:24th.Mar.2009

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