ミズタネツケバナ Cardamine flexuosa  With.
  var. latifolia  Makino
アブラナ科 タネツケバナ属
湿生植物
Fig.1 (兵庫県三田市・溜池畔 2008.4/23)

用水路脇、中栄養な湿地の細流脇、溜池畔、河原などに生育する越年草。
茎は下部から分枝して高さ20〜40cm、ほとんど無毛でやや柔らかく、紫色を帯びず、大きく生長すると茎は倒れ込んで上部が斜上する。
葉は羽状裂葉で、根生葉では頂小片は少し大きく、粗い鋸歯のある腎円形〜心円形または円形。側小片は柄があり、4〜12個あって
楕円形〜広卵形で、2〜4浅裂する。根生葉は開花時には枯れて見られない。
茎中部の葉では頂小片は側小片よりも長く伸び、不規則で粗い鋸歯が1〜2個あり、最上部の1個の側小片と基部で合着する傾向が強く、
側小片には柄がなくなる。
茎上部の葉では頂小片と側小片の合着は見られず、側小片は無柄で全縁となるものが多い。
花弁は長さ約4mm、白色、タネツケバナよりも大きく、オオバタネツケバナとほぼ同じサイズ。
雌蕊1個、雄蕊はふつう6本あり、うち2本は横に広がり少し短い。
果実は長角果で果柄ともに無毛、花茎下部のものは少し内曲する。

【メモ】 ミズタネツケバナは変異の多いタネツケバナのうちの種内変異の範疇として区別されないことも多い。
母種のタネツケバナC. flexuosa )よりも大型でほとんど無毛な点から区別はつくが、
同所的に生育するオオバタネツケバナC. scutata )や ニシノオオタネツケバナC. dentipetala var. longifructus)と混同されやすい。
これら2種とは、茎の中部につく裂葉の頂小片に、最上側小片の基部と合着する傾向があるかどうか調べることによって区別できる。
近似種 : アキノタネツケバナオオバタネツケバナニシノオオタネツケバナミズタガラシタネツケバナタチタネツケバナ
オランダガラシミチタネツケバナジャニンジン

■分布:本州、四国、九州 ・ 朝鮮半島、中国
■生育環境:用水路脇、中栄養な湿地の細流脇、溜池畔、河川敷など。
■果実期:4〜5月
■西宮市内での分布:中・北部の用水路脇や溜池畔、疎林の細流脇などで見られる。

Fig.2 花序。(兵庫県三田市・溜池畔 2008.4/23)
  総状花序で、下方から順次開花しつつ上方へと伸びる。
  花弁はふつう4個、白色で長さ約4mm。雄蕊は6個で、うち2本は横に広がり少し短い。
  花のサイズはオオバタネツケバナとほぼ同大で、区別はできない。

Fig.3 花茎。(兵庫県三田市・溜池畔 2008.4/23)
  花茎基部は暗紫色を帯びず、緑色、やや柔軟で、ほとんど無毛。各葉腋からよく分枝する。

Fig.4 果実は長角果。(兵庫県三田市・溜池畔 2008.4/23)
  果柄は斜開して、長角果もやや斜めに開き、花茎から離れてつく。
  花茎の下部につく長角果は少し内曲する。

Fig.5 萼片が赤紫色を帯びたもの。(西宮市・渓流 2008.4/8)
  ミズタネツケバナの萼片はふつう緑色だが、栄養状態がよく日当たりがよいと萼片は赤紫色を帯びるようだ。
  最初はオオバタネツケバナかと思ったが、よく観察するとミズタネツケバナだった。

Fig.6 ミズタネツケバナの茎葉のバリエーション。(兵庫県三田市・溜池畔 2008.4/23)
  右下のものが茎の下部近くのもので、左上のものが茎最上部のもの。
  この時点では根生葉はもう消滅して見つけることができなかった。
  下部から中部にかけての葉では、頂小片が最上部の1個の側小片と基部で合着する傾向が見られる。
  また側小片の対生は乱れがちで、ほとんど互生するものも多い。
  茎上部の葉では側小片の対生にあまり乱れはなく、側小片は全縁となるものが多い。
  全般にわたって、頂小片は側小片よりも長く、1〜2個の粗い鋸歯があることが多い。

Fig.7 越冬中のミズタネツケバナのロゼット。(西宮市・渓流 2008.2/7)
  比較的端整なロゼットを形成する。
  頂小片は腎円形で大きく、側小片は腎形〜扁円形で4〜8対あり、縁は波状縁となり、主脈に対生してつく。

Fig.8 沈水状態で越冬するミズタネツケバナのロゼット。(西宮市・用水路 2008.2/25)
  沈水状態のタネツケバナ属のロゼットはどの種も非常によく似ている。同種でも流水中と止水中では微妙な差が見られるようであり、
  沈水状態のロゼットの同定は今後の課題である。

Fig.9 ミズタネツケバナ? (兵庫県篠山市・林道脇の溝 2009.4/27)
  タネツケバナ属は変異が多く、同定のやっかいな個体も多い。
  この個体は質感や全体から受ける印象は明らかにミズタネツケバナであるが、裂葉はタチタネツケバナを思わせる付属物がついている。
  また、裂片には切れ込みが多くミトン状となっており、その様子はまだ実態の良く解らないアキノタネツケバナを思わせる。
  全体に無毛で、ミズタネツケバナではないかと思うが、現段階では同定保留としている。

Fig.10 付属物をつけた葉 (西宮市・用水路 2015.3/22)
  Fig.9でも触れたが、ときに側小片の基部に托葉状の付属物をつけることがある。

Fig.11 ミズタネツケバナ(左)とタネツケバナ(右)。 (西宮市・用水路 2015.3/25)
  ミズタネツケバナはタネツケバナがかなり咲き進んでからようやく開花する。
  草体や葉、長角果などの大きさはミズタネツケバナのほうがはるかに大きく、花弁も少し大きい。
  ミズタネツケバナはどちらかというと、タネツケバナよりもオオバタネツケバナと間違えやすいものだろう。

西宮市内での生育環境と生態
Fig.12 水辺湿地林の細流脇に生育するミズタネツケバナ。(西宮市・湿地細流脇 2007.4/13)
ハンノキを主体とする水辺湿地林の、細流により運ばれた砂質の土壌に生育していた。
周辺では同属のタネツケバナ、ニシノオオタネツケバナの他、ヘラオモダカ、ケキツネノボタン、イヌゴマ、ミソハギ、イグサ、ホタルイ、
コシロネ、タチスゲ、アゼスゲなどの湿生植物が生育している。

Fig.13 用水路内で開花したミズタネツケバナ。(西宮市・用水路 2008.4/6)
Fig.6の群落と同じ用水路内のもの。
倒れ込んで花茎をあげ、すでに根生葉は消失していた。

Fig.14 渓流畔の砂地で群生するミズタネツケバナ。(西宮市・渓流 2008.4/8)
腐植質の供給が良好な渓流畔の砂地に群生したもの。
この河原ではオオバタネツケバナ、タネツケバナ、オランダガラシ、セリなどの湿生植物が、広がった河原の水際にパッチ状に群落をつくっている。

他地域での生育環境と生態
Fig.15 溜池畔のミズタネツケバナ群落。(兵庫県三田市・溜池畔 2009.4/12)
春先の干上がった溜池畔で群生が見られた。この溜池では水際に近いところから順にタチモ群落、ミズユキノシタ群落、ミズタネツケバナ群落が見られた。
画像手前あたりには、まだ越冬態のミズユキノシタが点在している。

【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。)
北村四郎・村田源, 2004. アブラナ科タネツケバナ属. 『原色日本植物図鑑 草本編(2) 離弁花類』 p.173〜176. pls.41. 保育社
牧野富太郎, 1961 タネツケバナ. 前川文夫・原寛・津山尚(補遺・編) 『牧野 新日本植物図鑑』 211. 北隆館
吉田多美枝・城川四郎. 2001. タネツケバナ属. 神奈川県植物誌調査会(編)『神奈川県植物誌 2001』 770〜773. 神奈川県立生命の星・地球博物館
大滝末男, 1980. ミズタガラシ. 大滝末男・石戸忠 『日本水生植物図鑑』 78〜79. 北隆館
長田武正・長田喜美子, 1984. アブラナ科タネツケバナ属. 『野草図鑑 8 はこべの巻』 19〜29. 保育社
村田源. 2004. タネツケバナ. 『近畿地方植物誌』 102. 大阪自然史センター

最終更新日:10th.May.2015

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