ニシノオオタネツケバナ Cardamine dentipetala  Matsum.
var. longifructus  (Ohwi) Hiyama
アブラナ科 タネツケバナ属
湿生植物
Fig.1 (西宮市・細流畔 2007.4/29)
Fig.2 (兵庫県三田市・渓流脇の林内 2008.4/21)

山地寄りの湿地や渓流畔、雑木林の細流脇などに見られる多年草。
東日本に分布するオオケタネツケバナC. dentipetala)の変種で、全体に毛がほとんどなく、分布の中心域は西日本。
茎の下部は多少とも地を這い、節から発根し、上部は斜上または直立し、高さ20〜50cm。
葉は奇数羽状裂葉で、根生葉の頂小片は側小片よりもかなり大きく、腎形〜心形ときに円形で粗い鋸歯があり、長さ1.5〜2cm、幅2〜2.5cm。
側小片は2〜8対、ごく粗い鋸歯がある。頂小片、側小片ともに、葉縁にはほぼ一定間隔に並ぶ短毛が生える。
花茎はふつう最初のうちは斜上するが、後に直立し、花茎の葉腋からも花序を分枝する。(Fig.1 は開花初期。)
ただし、雑木林などの林内の日陰に生育するものは、1本の茎を直立させるものが多い。(Fig.2 は暗い林内のもの、草高30cm、裂葉は16cmと大きい。)
花弁は白色、長さ5〜7mm。雄蕊6個、うち4個は長い。長角果の長さはふつう2.5〜3.5cm。

同属のオオバタネツケバナC. scutata)と非常によく似るが、ニシノオオタネツケバナよりも茎は細く、草体や花もやや小さい。
また、花茎につく葉の側小片はほぼ全縁で、鋸歯はほとんど見られない点で区別できる。花弁の長さ3〜4mm。長角果の長さ1.5〜2.5cm。
生育環境は水に濡れるような渓流畔や、用水路内などで、ニシノオオタネツケバナよりも湿った場所を好む。
その他の山地性タネツケバナ属の近似種についてはオオバタネツケバナの項を参照。
近似種 : オオバタネツケバナオランダガラシ(クレソン)ミズタネツケバナタネツケバナミズタガラシオオマルバコンロンソウ
マルバコンロンソウジャニンジン

■分布:本州(近畿以西)、四国、九州
■生育環境:山地の湿地や渓流畔、雑木林の細流脇など。
■花期:4〜6月
■西宮市内での分布:六甲山系の山麓部周辺に見られる。市内ではオオバタネツケバナよりも見かける機会が多い。

Fig.3 花序の拡大。(西宮市・細流畔 2007.4/29)
  花弁は白色、長さ5〜7mm、先端は凹まない。雄蕊6個、うち4個は長い。萼は赤紫色を帯びない。

Fig.4 長角果。(西宮市・渓流畔 2009.5/21)
  早く結実した花茎下部のものは果柄と長角果との間の節手前の果柄が内に少し折れ曲がる。
  長角果は無毛。


Fig.5,6 弾けた長角果に残存した内壁(上)と弾け出た種子(下)。(西宮市・渓流畔 2009.5/21)
  長角果は長さふつう2.5〜3.5cm。種子は長さ1.6mm前後で楕円形、表面に細粒があり、縁にはごく浅い溝がある。

Fig.7 茎とその基部付近。(西宮市・細流畔 2007.4/29)
  茎は太くても柔らかく折れやすい。表面にはごくまばらに短毛があり、葉柄の直下に稜がある。
  分枝した基部からは不定根が発根している。

Fig.8 茎の上部と葉身。(西宮市・細流畔 2007.4/29)
  茎につく葉には頂小片、側小片ともに明瞭な鋸歯があり、頂小片は側小片よりも明らかに大きい。
  葉身や葉柄は無毛で、葉柄と中軸は暗紫色を帯びることが多く、中軸上面は凹む。
  葉の質はよく似たオオバタネツケバナよりも薄く、繊細な印象をうける。

Fig.9 ニシノオオタネツケバナの葉のバリエーション。(兵庫県三田市・湿った林道脇 2008.4/21)
  右に向かうほど茎の基部に近づく。最も右側の1枚は越冬したロゼットのもの。
  側小片が全縁となることはない。葉縁にはほぼ一定の間隔を開けて短毛が並ぶ。
  頂小片は茎の上部へ向かうほど外縁が下に垂れる傾向がある。

Fig.10 ニシノオオタネツケバナの越冬態。(西宮市・棚田の斜面 2007.12/15)
  冬期のロゼットはタネツケバナやミズタガラシほど完全ではなく、多少崩れた形になる。
  冬期には、根生葉の頂小片は腎形〜心形であることがよくわかる。
  また、頂小片はオオバタネツケバナのように、3脈が目立つようなことはなく、数脈あって葉縁近くで脈を分けるものも多い。
  側小片も同様に数脈が明瞭。
  新しく抽出した未成熟な葉の頂小片は円形に近い。

Fig.11 低山の渓流畔で越冬する個体。(兵庫県三田市・渓流畔 2009.1/7)
  葉数は少なく、大きな3枚の葉は前年の晩秋に形成されたもので、側小片が0〜2対つくのが特徴。

Fig.12 渓流で抽水状態の越冬ロゼット。(兵庫県三田市・渓流畔 2009.1/7)
  強く紫紅色を帯びてミズタガラシの越冬ロゼットにも似るが、ミズタガラシよりも質は薄い。
  また、ミズタガラシは湧水のある沖積地に多く、ニシノオオタネツケバナはやや山地よりに生育し、両種は生育環境が異なる。

Fig.13 抽水状態で越冬するニシノオオタネツケバナ。(兵庫県三田市・用水路内 2008.2/18)
  ニシノオオタネツケバナは抽水状態を好まず、このような例はきわめて稀である。
  タネツケバナ属の抽水状態のロゼットは、一部のものを除いて非常によく似ており、見分け方の詳細は今後の課題となる。

Fig.14 夏期に見られたロゼット。(兵庫県丹波市・溜池畔 2010.8/25)
  この時期のロゼットはオオバタネツケバナとの区別が難しい。
  この個体は夏期にもかかわらず、かなり成長していたので、頂小片の形からニシノオオタネツケバナとすることができた。

西宮市内での生育環境と生態
Fig.15 山間の雑木林中のニシノオオタネツケバナ。(西宮市・雑木林 2007.5/5)
雑木林内にある湧水が流れる細流脇に生育しているもの。
周辺にはテキリスゲ、ヤブヘビイチゴ、ミツバ、ミズタネツケバナ、イワギボウシなどの山間の湿った場所をこのむ草本が生育していた。

【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。)
小林禧樹・黒崎史平・三宅慎也. 1998. ニシノオオタネツケバナ. 『六甲山地の植物誌』 129. (財)神戸市公園緑化協会
村田源. 2004.ニシノオオタネツケバナ. 『近畿地方植物誌』 102. 大阪自然史センター
黒崎史平. 1994. 兵庫県産のタネツケバナ属(アブラナ科). 兵庫の植物 4:43〜52. 兵庫県植物誌研究会
黒崎史平 2001. ニシノオオタネツケバナ. 兵庫県産維管束植物3 アブラナ科. 人と自然12:156. 兵庫県立・人と自然の博物館

最終更新日:18th.Jun.2011