ホクリクタツナミソウ | Scutellaria indica L. var. satokoae Wakasugi et Naruhashi |
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丘陵・低山・林床・渓流畔の植物 | シソ科 タツナミソウ属 |
Fig.1 (兵庫県朝来市・渓流畔 2011.6/19) |
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Fig.2 (兵庫県篠山市・植林地の林床 2014.5/27) 丘陵〜低山の半日陰〜日陰の林床や林縁、渓流畔、細流脇に生育する多年草。2004年に記載された。 茎は基部がはい、高さ10〜20cm程度が多い。茎には白色の開出毛が多い。 葉は数対あってまばらにつき、卵心形〜3角状卵形、両面ともに軟毛が多く、葉先は丸みを帯び、長さ2〜2.5cm、幅1.5〜2.5cm。 葉縁の鋸歯は浅く、その先は丸く、葉身基部は浅い心形〜切形、葉裏には腺点がある。 花序は開出毛が多くやや密に花をつける。花は青紫色、長さ1.8cm内外、下唇には紫斑が薄く出ることが多いが、ないものもある。 萼の上唇は果実期に5.5〜6.5mmになる。分果は1.4〜1.7mm、円錐状で鈍頭の細突起が密にある。 【メモ】 兵庫県では今のところ、三田市以北に産地が見つかっている。 本種は内陸部に生育する花冠下唇の紫斑の薄いコバノタツナミと間違えやすい。 日当たり良く肥沃な場所に生育し、下唇に斑紋の出る集団は開花の外見はコバノタツナミとほとんど変わらず、花による区別はほとんど不可能である。 同定の要件を満たすためには、ホクリク・コバノともに標本は果実期のものを採集するべきだと考えられる。 母種のタツナミソウ(S. indica)は葉の長さ1〜2.5cm、鋸歯は5〜14対、果実期の上唇は6〜7mmとなる。 同じ変種関係にあるコバノタツナミ(var. parvifolia)は果実期の上唇が5〜5.5mmとなり、分果は1〜1.4mmとなる。 デワノタツナミソウ(S. muramatsui)も酷似するが、茎には短い曲毛があり、葉裏には脈上に軟毛がある程度。 ときに同様な環境で見られるイガタツナミ(S. kurokawae)は茎に開出毛があるが、葉裏に腺点がない。 近縁種 : コバノタツナミ、 タツナミソウ、 ヤマタツナミソウ、 ヤマジノタツナミソウ、 シソバタツナミ、 トウゴクシソバタツナミ、 ホナガタツナミソウ、 オカタツナミソウ、 イガタツナミ、 デワノタツナミソウ 関連ブログ・ページ 『Satoyama, Plants & Nature』 タツナミソウの迷宮 ■分布:本州(富山県〜島根県)の日本海側や内陸部 ■生育環境:丘陵〜低山の半日陰〜日陰の林床や林縁、渓流畔、細流脇など。 ■花期:5〜6月 |
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↑Fig.3 花序と花冠。(兵庫県丹波市・湿った植林地林床 2010.6/3) 花序は3〜5cm程度、やや密に花をつけ、花は一方向を向く。 花冠はふつう青紫色。花筒基部はほぼ直角に上向きに曲がる。下唇には薄い紫色の斑紋があるか、または無い。 兵庫県では内陸部に生育するコバノタツナミに、下唇の紫斑が少なく薄いものがあり、注意が必要である。 |
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↑Fig.4 下唇の斑紋がやや明瞭なもの。(兵庫県篠山市・植林地林床 2014.5/27) |
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↑Fig.5 開放花と閉鎖花。(兵庫県篠山市・植林地林床 2014.5/27) 薄暗い林床に生育する集団では通常の花(開放花)と閉鎖花が同時期に見られる。 画像で花序にツボミ様のものを複数つけているのは閉鎖花をつける個体で、半数以上見られる。 このような場所に生育するものは、花序が短く花数も少ないため、通常の花の開花期間は2〜4日と短い。 それ以後は秋まで閉鎖花を付け続ける。 |
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↑Fig.6 閉鎖花。(兵庫県篠山市・植林地林床 2014.6/3) |
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↑Fig.7 茎。(兵庫県篠山市・植林地林床の細流脇 2013.6/18) 花茎下部から茎上部にかけての毛は開出する。茎下方の節間の稜は多少とも丸味を帯びる。 |
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↑Fig.8 葉。(兵庫県朝来市・渓流畔 2011.6/19) 葉は対生して数組まばらにつき、両面ともに軟毛が生え、葉縁の鋸歯は丸く、基部は浅い心形〜切形。 |
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↑Fig.9 葉裏。(兵庫県篠山市・植林地林床 2013.6/4) 葉裏には全体に軟毛が生え、黄色透明の腺点がある。腺点はコバノタツナミに比べるとやや不明瞭。 毛が全て寝てしまっているのは、新聞紙に挟んで持ち帰ったため。 |
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↑Fig.10 コバノタツナミとの萼上唇の比較。(兵庫県篠山市・植林地林床 2013.6/13) ホクリクタツナミソウの上唇は5.5〜6.5mm。 これに対してコバノタツナミの果実期の上唇は5〜5.5mmとなる。 |
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↑Fig.11 分果。(兵庫県篠山市・植林地林床 2013.6/13) 分果は楕円形で、1.4〜1.7mm、円錐状で鈍頭の細突起が密にある。 |
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↑Fig.12 分果の拡大。(兵庫県篠山市・植林地林床 2014.7/30) 背軸側から撮影したもの。表面には微細な粒状の突起を密布する。 |
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↑Fig.13 日照が充分で肥沃な場所に育ったもの。(兵庫県篠山市・植林地林縁 2014.5/20) 日当たり良い肥沃な場所のものは花序が伸び、画像のような下唇に斑紋の出る集団は、花の時期にはコバノタツナミと全く区別がつかない。 また日照の良い場所に生育するものは、葉面の脈間が盛り上がって、茎も赤紫色を帯びるため更に区別を難しくしている。 このような場所のものは萼上唇と種子の大きさを必ず調べる必要がある。 |
生育環境と生態 |
Fig.14 植林地内の流れの脇に生育するホクリクタツナミソウ。(兵庫県篠山市・植林地細流脇 2013.6/17) 植林後30年ほど経過したと思われる植林地の流れの脇にかなり広範囲にわたって生育していた。 林床は湿っておりシダ類が多く、リョウメンシダ、ジュウモンジシダ、ベニシダ、トウゴクシダ、ホソバナライシダ、イノデ、イワガネゼンマイ、ヤマイヌワラビ、 ホソバイヌワラビ、シケシダ、ミゾシダ、ハリガネワラビ、ゲジゲジシダなどが多く生育する。 他にミヤマフユイチゴ、ジャノヒゲ、ドクダミ、ハエドクソウ、ニガクサ、ミヤマカンスゲ、ニシノホンモンジスゲなどが多く見られた。 |
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Fig.15 植林地の林床に群生するホクリクタツナミソウ。(兵庫県篠山市・植林地林床 2014.5/27) 兵庫県の丹波地方では半日陰〜日陰の適湿な林床に比較的ふつうに見られる。 よく見られるのは山際の沢沿いの土砂が溜まって平坦になった部分にある植林地で、林床にパッチ状の群落をつくっているところが多い。 ここでは砂質の林床に多くの個体がパッチ状に生育しており、同所的にベニシダ、ヒロハイヌワラビ、ホソバイヌワラビ、キジノオシダ、ミゾシダ、 フモトシダ、ナンゴクナライシダ、ドクダミ、チダケサシ、ミヤマフユイチゴ、ミカエリソウ、ナンテン、コガクウツギ、ヤブハギ、ナガバノハエドクソウ、 タニギキョウ、マルバノホロシ、ヤマジノホトトギス、コチヂミザサなどが見られた。 薄暗い林床に生育しているためか、開花期でも半数以上が閉鎖花をつけている。 |
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Fig.16 林縁部で群生するホクリクタツナミソウ。(兵庫県篠山市・植林地林縁 2014.5/27) 山から流れ出た谷が、盆地の平坦部へと合流する手前の、肥沃で日当たり良い湿った植林地林縁周辺に大きな群落が見られた。 この集団は生育状態が非常に良く、閉鎖花を付ける個体はほとんど見られず、まるでコバノタツナミを思わせる(Fig.11を参照)。 林床はハイゴケほかの蘚類に覆われ、土壌はチャートの風化した赤色土に細かく破砕された緑色岩と腐植土が混じったものだった。 林縁で肥沃、かつ日照状態も良いため比較的植生豊富だが、シカによる食害も多く、高茎草本は見られない。 同所的に生育しているシダ・草本はワラビ、イワヒメワラビ、ヒロハイヌワラビ、ベニシダ、ハリガネワラビ、ミゾシダ、ヒメシダ、シシガシラ、 アカハナワラビ、クラマゴケ、ホソバトウゲシバ、メアオスゲ、アオスゲ、ニシノホンモンジスゲ、ミヤマカンスゲ、ヒメシラスゲ、ネザサ、 トボシガラ、ミゾイチゴツナギ、チヂミザサ、イグサ、ホソイ、ヌカボシソウ、セリバオウレン、ナガバノタチツボスミレ、タチツボスミレ、 オオタチツボスミレ、シハイスミレ、ミヤマチドメ、オオバタネツケバナ、ウマノアシガタ、ミヤコアオイ、ヤマジノホトトギス、タニギキョウなどだった。 |
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Fig.17 日当たりよい場所に生育するホクリクタツナミソウ。(兵庫県丹波市・溜池畔 2010.6/3) ホクリクタツナミソウは半日陰〜日陰を好むが、稀に日向に生育するものがあり、葉の様子がコバノタツナミソウと紛らわしい。 このような場所に生育するものは、同定のポイントが多い果実期の個体を採集するべきだろう。 ここでは山間谷池の流れ込み部の土砂の堆積した場所に生育しており、流入する細流の上流にあるホクリクタツナミソウの自生地から種子が流れてきたものだろう。 同所的にビロードイチゴ、クマイチゴ、セイタカアワダチソウ、イヌコウジュ、チチコグサなどの先駆的な植物、タケニグサ、マツカゼソウ、ジャケツイバラといった シカの忌避植物、オオタチツボスミレ、ミヤマチドメ、ヤマサギゴケ、コナスビ、ヌマトラノオ、トウバナ、コブナグサなどの小型な草本が生育している。 |
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Fig.18 細流脇に群生するホクリクタツナミソウ。(兵庫県三田市・細流脇 2014.6/12) 2014年の調査で、兵庫県東部では三田市まで分布域が広がっていることが確認できた。 同所的にヤマトウバナ、コナスビ、ナガバノタチツボスミレ、チヂミザサなどが生育している。 |