テンリュウヌリトラノオ Asplenium shimurae  (H.Ito) Nakaike
  山地・岩上・着生シダ 

  環境省絶滅危惧U類(VU)・兵庫県RDB 要調査種
チャセンシダ科 チャセンシダ属
Fig.1 (兵庫県丹波地方・岩壁 2015.1/21)

低山〜山地の多湿の岩上や岩壁などに生育する小型の常緑性シダ。
兵庫県では2014年に新たに発見された。よく似たヌリトラノオやシモツケヌリトラノオに較べて草体は小型である。
根茎は短く斜上し、ひげ根を束生し、葉を叢生する。
葉身は細長い披針形、1回(単)羽状腹葉、中軸に無性芽が複数できるが、先端まで長く伸びる。
羽片は多数、開出し、やや接近してつき、ヌリトラノオよりも幅が狭く、長楕円形、膜状革質、光沢があり、円頭〜鈍頭。
基部の前側はやや耳状に出て、無柄、縁にはあらい鋸歯がある。
胞子嚢群(ソーラス)は小さく少数(1〜4個程度)がつき、線形〜長楕円形、苞膜はやや三日月形の長楕円形、全縁、中脈と縁の間に並ぶ。

ヌリトラノオ(A. normale)は葉身の先端近くの中軸に盛んに無性芽をつくり、葉身はその先から正常に伸びないことが多い。
シモツケヌリトラノオ(A. boreale)は無性芽をつけず、葉身の先は正常に伸びる。本州、四国、九州にやや稀。
テンリュウヌリトラノオを片親とする推定種間雑種に以下のものがある。
エンシュウヌリトラノオ(A. normale × A. shimurae) はヌリトラノオとの雑種でテンリュウヌリトラノオよりも大きくなり、胞子不稔。
カミガモシダ、シモツケヌリトラノオとの雑種はまだ報告されていない。
近縁種 : ヌリトラノオシモツケヌリトラノオカミガモシダチャセンシダエンシュウヌリトラノオシモダヌリトラノオニセヌリトラノオアイヌリトラノオ

■分布:本州南部、四国、九州 ・ 中国?
■生育環境:山地の多湿の岩上や岩壁など。

Fig.2 全草標本。(兵庫県丹波地方・岩壁 2015.1/21)
  草体はヌリトラノオやシモツケヌリトラノオよりも小型で、葉身は細長い披針形。

Fig.3 無性芽と葉先。(兵庫県丹波地方・岩壁 2015.1/21)
  葉先付近には無性芽がつくが、葉軸はそこで終わらずに先に長く伸びる。無性芽はふつう複数つく。

Fig.4 羽片。(兵庫県丹波地方・岩壁 2015.1/21)
  羽片は多数、開出し、やや接近してつき、ヌリトラノオよりも幅が狭く、長楕円形、膜状革質、光沢があり、円頭〜鈍頭。
  基部の前側はやや耳状に出て、無柄、縁にはあらい鋸歯がある。

Fig.5 羽片裏面。(兵庫県丹波地方・岩壁 2015.1/21)
  胞子嚢群(ソーラス)は小さく少数がつき、線形〜長楕円形、中脈と縁の間に並ぶ。

Fig.6 ソーラスと包膜。(兵庫県丹波地方・岩壁 2015.1/21)
  ソーラスは弾けている。包膜は全縁。

Fig.7 胞子。(兵庫県丹波地方・岩壁 2015.1/21)
  胞子は半球状。長さは半透明な翼部分を除いて約35μ(1目盛は1.6μ)。

Fig.8 胞子表面には翼状の断続的な突起がある。(兵庫県丹波地方・岩壁 2015.1/21)

Fig.9 種間雑種エンシュウヌリトラノオとの羽片比較。(兵庫県丹波地方・岩壁 2015.1/21)
  左からテンリュウヌリトラノオ、エンシュウヌリトラノオ、ヌリトラノオ。
  エンシュウヌリトラノオは、テンリュウヌリトラノオとヌリトラノオの混生地に現れ、両種の中間的な形質を持つ。
  テンリュウヌリトラノオの羽片は他の2種と較べて、羽片が細い傾向があり、ソーラスの数は少ない。

生育環境と生態
Fig.10 岩壁下部に群生するテンリュウヌリトラノオ。(兵庫県丹波地方・岩壁 2015.1/21)
谷筋にある大きな岩壁の下部の表面が濡れた多湿の場所に密に群生していた。
テンリュウヌリトラノオはヌリトラノオよりも湿った場所を好むようで、ヌリトラノオは岩壁のより上部に生育している。
テンリュウヌリトラノオの群生箇所の上部では種間雑種のエンシュウヌリトラノオが見られる。

Fig.11 オオフジシダと混生するテンリュウヌリトラノオ。(兵庫県丹波地方・岩壁 2015.1/21)
多湿な岩場を好むオオフジシダとともに生育している。画像左上のやや大きな個体はエンシュウヌリトラノオ。
周辺では他にシシラン、フジシダ、コウヤコケシノブなどが生育している。


最終更新日:2nd.Feb.2015

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