ヌリトラノオ | Asplenium normale D.Don | ||
山地・岩上・着生シダ | チャセンシダ科 チャセンシダ属 |
Fig.1 (兵庫県篠山市・岩上 2011.2/8) 低山〜山地の日陰のやや湿った岩上や岩壁、表土の少ない斜面などに生育する常緑性シダ。 根茎は短く斜上し、ひげ根を束生し、葉を叢生する。 葉柄は光沢のある紫褐色の針金状で、縦溝があり、基部には小型の鱗片がつくが、上部は平滑。 葉身は長い披針形、1回(単)羽状腹葉、中軸の先端によく無性芽を生じる。 羽片は多数、開出し、互いにやや接近してつき、3角状長楕円形、膜状革質、光沢があり、円頭、やや鎌形に曲がる。 基部の前側はやや耳状に出て、無柄、縁にはあらい鋸歯がある。 胞子嚢群(ソーラス)は線形〜長楕円形、苞膜はやや三日月形の長楕円形、中脈と縁の間に並ぶ。 シモツケヌリトラノオ(A. boreale)は乾いた岩壁に生育し、無性芽を作らず、葉は直立する傾向がある。 カミガモシダ(A. oligophlebium)は羽片の前側基部が耳状に突き出し、縁は羽状に中〜深裂する。 上記2種の種間雑種であるニセヌリトラノオ(A. boreale × A. oligophlebium) は羽片の形が似るが、無性芽はつくらず、成熟個体は大きくなる。 テンリュウヌリトラノオ(A. shimurae)は葉身は無性芽をつけてもその先に伸び、数個の無性芽をつける。静岡、紀伊半島、四国、宮崎に分布。 チャセンシダ(A. trichomanes)は羽片が長楕円形で丸味が強く、ほとんど無性芽をつくらない。 イヌチャセンシダ(A. tripteropus)はチャセンシダに似て、葉柄と中軸の裏面に1枚の翼を持つものをいい、しばしば無性芽をつくる。 ホウビシダ(A. hondoense)は横走する根茎があり、2列になって葉を出し、叢生しない。 ヌリトラノオを片親とする推定種間雑種に以下のものがある。 シモダヌリトラノオ(A. normale × A. boreale) はシモツケヌリトラノオとの雑種でほとんど無性芽をつけない。 アイヌリトラノオ(A. normale × A. oligophlebium)はカミガモシダとの雑種で、両種の中間的な羽片を持ち、無性芽を生じ、ソーラスは不完全。 エンシュウヌリトラノオ(A. normale × A. shimurae)はテンリュウヌリトラノオとの雑種で、両種の中間的な形質を持ち、無性芽を生じ、ソーラスは不完全。 近縁種 : シモツケヌリトラノオ、 テンリュウヌリトラノオ カミガモシダ、 チャセンシダ、 チャセンシダ、 シモダヌリトラノオ、 ニセヌリトラノオ、 アイヌリトラノオ、 エンシュウヌリトラノオ ■分布:本州(茨城県以西)、四国、九州、沖縄 ・ 朝鮮半島、台湾、中国、東南アジア、ヒマラヤ、ポリネシア ■生育環境:低山〜山地の日陰のやや湿った岩上や岩壁など。 |
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↑Fig.2 全草標本。(兵庫県篠山市・岩壁 2010.7/18) 葉は叢生する。葉柄は短く、葉軸とともに紫褐色で光沢があり、葉柄基部以外は平滑。 |
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↑Fig.3 草体の基部付近。(兵庫県篠山市・岩壁 2010.7/18) 根茎からはひげ根が多数束生し、表土の少ない岩上表面に伸ばす。 |
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↑Fig.4 羽片。(兵庫県篠山市・岩壁 2010.7/18) 羽片は3角状長楕円形、前側の縁はやや鎌形に曲がり、あらく低い鋸歯があり、円頭。 基部の前側はやや耳状に出て、無柄。羽片の幅はカミガモシダよりも広い。 |
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↑Fig.5 羽片裏面。(兵庫県篠山市・岩壁 2010.7/18) 胞子嚢群(ソーラス)は線形〜長楕円形、中脈と縁の間に並び、耳状部にも生じる。 |
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↑Fig.6 胞子。(兵庫県篠山市・岩壁 2015.1/21) 胞子は半月状で、翼状部を除いて長さ約38μ。1目盛は1.6μ。 |
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↑Fig.7 胞子表面には翼状の突起が断続的に並ぶ。(兵庫県篠山市・岩壁 2015.1/21) |
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↑Fig.8 無性芽を生じた葉。(兵庫県篠山市・岩壁 2010.7/18) ヌリトラノオは中軸先端近くによく無性芽を生じる。 |
生育環境と生態 |
Fig.9 岩壁の隙間に生育するヌリトラノオ。(兵庫県篠山市・岩壁 2011.2/8) 日当たりよい岩壁に生育していた。このような場所に生育する個体は小型なものとなる。 |
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Fig.10 落葉の積もった岩上に群生するヌリトラノオ。(兵庫県篠山市・林下の岩上 2011.2/8) 樹木が生育する岩塊の上部の落葉の蓄積する場所に群生している。 岩塊の中部から下部にかけてはマメヅタやウチワゴケによって覆われ、上部ではヌリトラノオ、カミガモシダ、シシランが生育する。 表土の多い場所ではキジノオシダ、イワガネソウ、ジュウモンジシダ、オニカナワラビ、フモトシダ、ミヤマカタバミ、ニシノヤマクワガタ、 ミヤマキケマンなどが見られた。 |