トガリバイヌワラビ Athyrium iseanum  Rosenst.
  var. angustisectum  Tagawa
  山地・林床のシダ イワデンダ科 メシダ属
Fig.1 (兵庫県篠山市・林縁 2016.6/2)

低地〜山地の湿った林床などに生育する中型の夏緑性シダ。
根茎は塊状で直立〜斜上し、葉を叢生し、やや2形となる。
春に出る葉はやや広がってつき、胞子をつけず、夏に出る葉は直立し、胞子嚢群をつける。
葉柄はわら色か、さまざまな程度に紫色を帯びることもあり、長さ15〜30cm、基部に鱗片がある。
鱗片は狭披針形、褐色で膜質、全縁。葉身は卵形〜長楕円形、2回羽状複生〜3回羽状全裂、鋭尖頭、やわらかい草質。
羽片は披針形、羽軸はほぼ紫色で、下面に毛がある。小羽片は狭楕円形〜狭卵形、鈍頭〜鋭頭、基部前側に耳が出て、左右非相称。
裂片の幅はホソバイヌワラビよりも細く、狭卵形〜披針形で、鋭尖頭、間に隙間が空き、鋭鋸歯がある。
胞子嚢群は小羽片のやや中軸寄りつき、苞膜は半月形か鉤形、ほぼ全縁〜波状縁。
秋になってもホソバイヌワラビのような無性芽をつくらない。

基本変種のホソバイヌワラビA. iseanum)は裂片の幅が広く、狭倒卵形、隙間はほとんど空かない。秋に葉先近くに無性芽をつくる。
ミヤコイヌワラビA. frangulum)は葉面に光沢があり、中軸は赤味を帯び、羽片が中軸に斜めにつき、小羽片が左右相称。
ヤマイヌワラビA. vidalii)は羽軸表面と小羽片中肋の軟刺毛がなく、裂片は丸味を帯びる。苞膜は不規則な歯牙縁となる。
サトメシダA. deltoidofrons)は葉柄が緑色、小羽片が左右相称、羽軸表面と小羽片中肋の軟刺毛がなく、苞膜の縁は細裂する。
雑種は基本変種ホソバイヌワラビに準ずる。
近縁種 : ホソバイヌワラビイヌワラビヤマイヌワラビヒロハイヌワラビカラクサイヌワラビ、 ミヤコイヌワラビ、 タニイヌワラビ
       サキモリイヌワラビ、 アオグキイヌワラビ、 ヘビノネゴザサトメシダ

■分布:本州、四国、九州、屋久島 ・ 台湾、中国
■生育環境:低地〜山地の湿った林床など。

Fig.2 地上部標本。(兵庫県篠山市・林縁 2016.7/11)
  葉身は卵形〜長楕円形、2回羽状複生〜3回羽状全裂、鋭尖頭、やわらかい草質。無性芽はつくらない。
  羽片は披針形、短い柄があり、先はやや尾状になることが多い。中軸や羽軸は紫色を帯びている。

Fig.3 葉柄基部の鱗片。(兵庫県篠山市・林縁 2016.7/11)
  葉柄基部の鱗片狭披針形、褐色で膜質、全縁。

Fig.4 最下羽片。(兵庫県篠山市・林縁 2016.7/11)
  下側第1小羽片はやや小さくなる。小羽片は左右非相称。

Fig.5 小羽片。(兵庫県篠山市・林縁 2016.7/11)
  羽軸表面の小羽片分岐直前に軟刺毛がある。小羽片は深裂し、裂片には鋭鋸歯がある。
  裂片の幅はホソバイヌワラビよりも細く、狭卵形〜披針形で、鋭尖頭、間に隙間が空く。

Fig.6 小羽軸表面には軟刺毛が並ぶ。(兵庫県篠山市・林縁 2016.7/11)

Fig.7 羽軸裏には微毛が生える。(兵庫県篠山市・林縁 2016.7/11)

Fig.8 ソーラス。(兵庫県篠山市・林縁 2016.7/11)
  胞子嚢群は小羽片のやや中軸寄りつき、苞膜は半月形か鉤形。

Fig.9 包膜は全縁〜波状縁。(兵庫県篠山市・林縁 2016.7/11)

生育環境と生態
Fig.10 クリ園跡の山麓林縁に生育するトガリバイヌワラビ。(兵庫県篠山市・林縁 2016.7/11)
クリ園跡のやや湿った林縁部にトガリバイヌワラビが点在していた。
シダ類の多い場所でトウゲシバが群生し、ベニシダ、オオベニシダ、トウゴクシダ、ヤブソテツ、ジュウモンジシダ、リョウメンシダ、イノデ、
イノデモドキ、イワガネゼンマイ、シシガシラ、ゼンマイ、オオバノイノモトソウ、ヒロハイヌワラビ、ヤマイヌワラビ、ホソバイヌワラビ、
タニイヌワラビ、ヤワラシダ、シケチシダの他、ミヤマフユイチゴ、ナガバモミジイチゴ、カテンソウ、ムカゴイラクサ、サンショウソウ、
ヤブニンジン、セントウソウ、ウマノミツバ、ウマノアシガタ、イヌショウマ、セリバオウレン、キンキエンゴサク、ミヤマキケマン、
アカショウマ、ドクダミ、ミヤマカタバミ、ヤマネコノメソウ、ニョイスミレ、オオタチツボスミレ、ナガバノタチツボスミレ、アオイスミレ、
ナガバノヤノネグサ、クサイチゴ、マツカゼソウ、ダイコンソウ、ヤマルリソウ、ツルカノコソウ、カキドオシ、オカタツナミソウ、ツルニガクサ、
アキノタムラソウ、アキチョウジ、キクバヤマボクチ、ヨシノアザミなどの草本が生育している。

Fig.11 高原の林縁に生育するトガリバイヌワラビ。(兵庫県香美町・林縁 2016.8/16)
高原の湿った林縁部にホソバイヌワラビ、カラクサイヌワラビ、ヒロハイヌワラビ、ハコネシケチシダとともに混生していた。
この場所ではホソバイヌワラビとトガリバイヌワラビの中間的なものが多く見られるが、いずれも秋に無性芽はつけていなかった。
このような中間的なものは兵庫県の内陸部から北部にかけてよく見られるが、まだ無性芽をつけているものは見ていない。
他にヤマソテツ、ミヤマジュズスゲ、グレーンスゲ、イタドリ、ヤマミゾソバ、ミヤマタニソバ、ヤブニンジン、ハスノハイチゴ、
ニホンカイタチツボスミレ、サンインスミレサイシン、サワオトギリ、フタリシズカ、ヤエムグラ、モミジガサが見られた。


最終更新日:10th.Mar.2017

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