タニイヌワラビ | Athyrium otophorum (Miq.) Koidz. | ||
山地・里山・林縁のシダ | イワデンダ科 メシダ属 |
Fig.1 (兵庫県篠山市・湿った林床 2013.2/26) 山地、里山の湿った林床などに生育する常緑性シダ。 根茎は斜上〜ほぼ直立し、葉を叢生し、鱗片がある。 鱗片は線状披針形〜披針形、長さ8〜10mm、幅約1mm、黒色〜黒褐色、光沢があり全縁。 葉柄は長さ20〜45cm、葉身より短く、わら色で紅紫色を帯び、基部は暗褐色で密に鱗片をつける。 葉身は3角状卵形〜卵状長楕円形、上端はやや急に狭まり、長さ30〜50cm、幅20〜30cm、2回羽状に複生する。 葉質は硬い紙質からやや革質で平滑、無毛。 羽片はほとんど無柄、披針形で幅2〜4cm、先端は細長く伸びる。 小羽片は無柄、基部前側が耳状に突出し、鋭頭〜鈍頭、短く尖ってやや刺状となり、ほぼ全縁〜鋸歯縁。 羽軸と小羽軸の分岐点表面に顕著な刺がある。 ソーラスは小羽片は中肋に接して付き、苞膜は三日月形、背中合わせや鉤形のものも混じり、ほぼ全縁。 染色体数n=80の4倍体。 メモ : 本種は湿った場所を好むためか、冬期に乾燥しがちな兵庫県南部からの記録はほとんどなく、西播・但馬からの記録が多い。 西宮市内では2ヶ所に生育していたが、うち1ヶ所は大雨の際に土砂に埋まって消失した。 ヤマグチタニイヌワラビ(var. okanum)は羽片に2〜3mmの柄があり、ソーラスを付けない小羽片基部が羽軸に沿着することがある。 ミドリタニイヌワラビ(var. viridescens)は葉柄や中軸が紅紫色を帯びず、緑色でみずみずしいもの。 サキモリイヌワラビ(A. oblitescens)は葉身がやや草質で柔らかく、厚みがあり、羽片には長さ2〜3mmの柄がある。 雑種に以下のものがある。 アキイヌワラビ(A. × akiense) タニイヌワラビとヘイケイヌワラビの雑種。 イズイヌワラビ(A. × amagi-pedis) タニイヌワラビとヒロハイヌワラビの雑種。 ハツキイヌワラビ(A. × pusedo-iseanum) タニイヌワラビとホソバイヌワラビの雑種。 カラタニイヌワラビ(A. × purpuripes) タニイヌワラビとカラクサイヌワラビの雑種。 ヤマタニイヌワラビ(A. × quaesiyum) タニイヌワラビとヤマイヌワラビの雑種。 タニサキモリイヌワラビ(A. × awatae) タニイヌワラビとサキモリイヌワラビの雑種。 ナンゴクイヌワラビ(A. × austro-japonense) タニイヌワラビとアリサンイヌワラビの雑種。 ツルタニイヌワラビ(A. × tsurutanum) タニイヌワラビとシビイヌワラビの雑種。 ナンキイヌワラビ(A. × minakuchi) タニイヌワラビとヘビノネゴザの雑種。 以上の雑種のうちタニサキモリ、ナンゴク、ツルタニ、ナンキ以外のもの、5種は兵庫県からの記録がある。 近縁種 : サキモリイヌワラビ、 カラクサイヌワラビ、 ヒロハイヌワラビ、 ヤマイヌワラビ、 ホソバイヌワラビ、 イヌワラビ、 ヘビノネゴザ、 サトメシダ、 タニサキモリイヌワラビ(雑種) ■分布:本州(山形県、千葉県以西)、四国、九州 ・ 朝鮮半島、中国 ■生育環境:山地、里山の湿った林床など。 |
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↑Fig.2 全草標本。(兵庫県篠山市・湿った林床 2013.2/26) 中軸、羽軸ともに紅紫色を帯び、葉は硬い紙質からやや革質。葉身は3角状卵形〜卵状長楕円形、2回羽状に複生する。 葉先は急に狭くなって尾状に伸び、羽片の先も尾状に伸びる。 サキモリイヌワラビに似るが、小羽片があまり詰まって付かず、葉質は硬く、小羽片は鋭角的で、よりスマートな印象を受ける。 |
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↑Fig.3 葉柄基部の鱗片。(兵庫県篠山市・湿った林床 2013.2/26) 鱗片は線状披針形〜披針形、黒色〜黒褐色、光沢があり全縁。 拡大すると辺縁がわずかに淡色となっていた。 |
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↑Fig.4 葉身中部。(兵庫県篠山市・湿った林床 2013.2/26) 葉身中部の小羽片は、羽軸に下先(下側第一小羽片が先)に付く。 |
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↑Fig.5 羽軸と小羽軸の分岐点表面に顕著な刺がある。(兵庫県篠山市・湿った林床 2013.2/26) |
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↑Fig.6 羽片と小羽片。(兵庫県篠山市・湿った林床 2013.2/26) 羽片はほとんど無柄、あったとしても2mmに達しない。 小羽片は無柄、基部前側が耳状に突出し、鋭頭〜鈍頭、短く尖ってやや刺状となり、ほぼ全縁〜鋸歯縁。 |
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↑Fig.7 裏面(下面)のソーラス。(兵庫県篠山市・湿った林床 2013.2/26) ソーラスは小羽片は中肋に接して付き、苞膜は三日月形、背中合わせや鉤形のものも混じる。 画像の個体はソーラスがやや未発達で、鉤状となるものは見られなかった。 |
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↑Fig.8 ソーラスの拡大。(兵庫県篠山市・湿った林床 2013.2/26) 包膜は全縁。時期的に当たり前のことだが、胞子は放出された後だった。 |
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↑Fig.9 新葉。(京都府綾部市・林床の細流脇 2013.5/2) 赤味を帯びた、特徴的な新葉を展開する。雑種がどのような新葉を展開するのか興味深い。 |
生育環境と生態 |
Fig.10 湿った植林地の林床に生育するタニイヌワラビ。(兵庫県篠山市・湿った林床 2013.2/26) 日陰で被植の少ない湿った植林地の林床に、数株のタニイヌワラビが点在していた。 林床にはネズミモチ、アオキの幼木が若干見られる程度で、ミヤマフユイチゴやナキリスゲがまばらに生育している。 周辺にはイノデ、ヤブソテツ、オニカナワラビ、ベニシダ、トウゴクシダ、マルバベニシダ、オクマワラビ、トウゲシバが点在していた。 |
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Fig.11 山麓の疎水路脇に生育するタニイヌワラビ。(西宮市・疎水脇 2013.6/10) 乾燥地の多い県南では稀なほうだが、疎水脇という多湿な環境で残存しているものだろう。 この年は春期のマイマイガの幼虫による食害が激しく、多くのシダ類も食害を受け、タニイヌワラビも食害を免れなかったようだ。 同所的にミゾシダ、リョウメンシダ、ゲジゲジシダ、ヒロハイヌワラビ、キジノオシダ、フモトシダ、ベニシダ、イノデ、ヤブソテツ、 オオバノイノモトソウ、イワガネソウなどのシダ類、ツルアリドオシ、テイカカズラ、ミツバアケビ、チヂミザサ、ヤマトウバナ、 トウゴクシソバタツナミ、ヤブランなどが生育していた。(この場所のものは2014年の降雨で土砂に埋まって消失した。) |