サキモリイヌワラビ | Athyrium oblitescens Sa.Kurata | ||
山地・里山・林縁のシダ | イワデンダ科 メシダ属 |
Fig.1 (京都府綾部市・社寺林 2015.6/29) 山地、里山の林床などに生育する常緑性シダ。タニイヌワラビに似る。 葉柄はわら色で紅紫色を帯び、基部の鱗片は披針形、茶褐色〜黒褐色。 葉身は3角状卵形〜卵状長楕円形、2回羽状に複生する。葉質はやや厚味があり、柔らかい草質で平滑、無毛。 中軸や羽軸は紅紫色を帯び、羽軸裏は無毛。羽片には長さ2〜3mmの柄がある。 小羽片は中〜浅裂し、基部前側が耳状に突出してときに羽軸と重なり、鈍頭。裂片は鈍頭。 羽軸と小羽軸の分岐点表面に顕著な刺がある。 ソーラスは小羽片は中肋に接して付き、苞膜は三日月形、ほぼ全縁。 メモ : タニイヌワラビとヒロハイヌワラビの雑種イズイヌワラビと酷似するので、注意が必要である。 タニイヌワラビ(A. otophorum)は小羽片が鋭頭〜鈍頭、小羽片前側は羽軸に重ならない。葉質はかたい紙質〜やや革質。 カラクサイヌワラビ(A. clivicola)は羽片の柄が長く、小羽片は円頭〜鈍頭。葉質は草質。 ヒロハイヌワラビ(A. wardii)は羽片の柄が長く、小羽片前側は耳状とならず、羽軸に重ならない。 雑種に以下のものがある。 ニセハツキイヌワラビ(A. × inabaense) サキモリイヌワラビとホソバイヌワラビの雑種。中部地方以西の本州。 タニサキモリイヌワラビ(A. × awatae) サキモリイヌワラビとタニイヌワラビの雑種。本州、四国。 アツバセフリイヌワラビ(A. × calochromum) サキモリイヌワラビとツクシイヌワラビの雑種。福岡県 サキモリヒロハイヌワラビ(A. oblitescens× wardii) サキモリイヌワラビとヒロハイヌワラビの雑種。本州。 以上の雑種のうちサキモリヒロハイヌワラビ1種のみが兵庫県で知られている。 近縁種 : タニイヌワラビ、 カラクサイヌワラビ、 ヒロハイヌワラビ、 ヤマイヌワラビ、 ホソバイヌワラビ、 イヌワラビ、 ヘビノネゴザ、 サトメシダ、 タニサキモリイヌワラビ(雑種) ■分布:本州(新潟県以西)、四国、九州北部。 日本固有種で主に日本海側に分布する。 ■生育環境:山地、里山の林床など。 |
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↑Fig.2 地上部標本。(京都府綾部市・社寺林 2015.6/29) 中軸、羽軸ともに紅紫色を帯び、葉はやや厚味があり、柔らかい草質。葉身は3角状卵形〜卵状長楕円形、2回羽状に複生する。 |
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↑Fig.3 葉柄基部の鱗片。(京都府綾部市・社寺林 2015.6/29) 鱗片は線状披針形〜披針形、茶褐色〜黒褐色、光沢があり全縁。辺縁がわずかに淡色となっていた。 |
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↑Fig.4 葉身最下部。(京都府綾部市・社寺林 2015.6/29) 羽片の柄は短く、長さ2〜3mm。最下羽片下側第一小羽片は小さい。 |
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↑Fig.5 葉身中部の第一小羽片は下先につく。(京都府綾部市・社寺林 2015.6/29) |
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↑Fig.6 羽軸裏や中軸裏は無毛。(京都府綾部市・社寺林 2015.6/29) |
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↑Fig.7 羽軸と小羽軸の分岐点表面に顕著な刺がある。(京都府綾部市・社寺林 2015.6/29) |
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↑Fig.8 羽片裏面。(京都府綾部市・社寺林 2015.6/29) 小羽片は中〜浅裂し、基部前側が耳状に突出してときに羽軸と重なる。小羽片の先は鈍頭。 |
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↑Fig.9 裏面(下面)のソーラス。(京都府綾部市・社寺林 2015.6/29) ソーラスは小羽片は中肋に接して付き、苞膜は三日月形 |
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↑Fig.10 ソーラスの拡大。(京都府綾部市・社寺林 2015.6/29) 包膜ははほぼ全縁で、辺縁に突起や毛は生じない。 |
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↑Fig.11 新葉。(京都府綾部市・社寺林 2013.5/2) 葉面は白味が強く、中軸や羽軸は赤紫色となる。 |
生育環境と生態 |
Fig.12 社寺の石段に生育するサキモリイヌワラビ。(京都府綾部市・社寺林 2015.6/29) 照葉樹林の残る社寺林の斜面のマメヅタの着生した石段周辺にサキモリイヌワラビが点在していた。 半日陰の西向き斜面で、ミヤマフユイチゴ、チヂミザサ、ドクダミなどが見られる適湿な環境で、ヒロハイヌワラビ、コバノイシカグマ、 ミゾシダ、ミヤマノコギリシダ、ジュウモンジシダ、イワガネソウ、ベニシダ、オオバノイノモトソウ、カミガモシダなどのシダ類が生育している。 おなじ社寺境内にはタニイヌワラビも見られ、雑種であるタニサキモリイヌワラビも見出された。 |
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Fig.13 林床に生育するサキモリイヌワラビ。(兵庫県養父市・林床 2015.7/19) 植林地と竹林の境界付近の適湿な林床に多くの個体が生育していた。 周辺にはベニシダ、イノデ、サカゲイノデ、ジュウモンジシダ、リョウメンシダ、オオバノイノモトソウ、ヘラシダ、コバノイシカグマ、ミゾシダ、 ヤマイヌワラビ、ヒロハイヌワラビ、タニイヌワラビ、ホソバイヌワラビなどが生育していた。 |