アツギノヌカイタチシダマガイ Dryopteris simasakii  (H. Ito) Kurata
  var. paleacea  (H. Ito) Kurata
  山地・岩壁・林床のシダ 

  兵庫県RDB Aランク種
オシダ科 オシダ属
Fig.1 (兵庫県丹波市・岩壁 2013.4/15)

Fig.2 (兵庫県丹波市・岩壁 2013.12/3)

低山〜山地の岩壁や林床などに生育する常緑性シダ。
根茎は斜上して塊状となり、葉柄や中軸には赤褐色〜褐色の鱗片を密に生じる。葉柄基部や葉柄の鱗片基部辺縁の突起ははとんどない。
葉身は2回羽状複生し、表面に光沢があり、やわらかい革質。各羽片は中軸に対して、直交してつき、ほとんど無柄。
羽軸裏には袋状の鱗片がまばらにつく。小羽片は基部が耳状になり、羽軸に直交してつき、少なくとも最下羽片の小羽片は浅〜深裂する。
ソーラスは中肋と辺縁の中間からやや辺縁寄りにつき、苞膜は全縁。染色体数は'n'=123の3倍体で、無融合生殖。

【メモ】 全国的に稀産種で、兵庫県ではシカの食害により林床ではみられず、岩壁に残存するものが稀に見られる。
サイゴクベニシダD. championii)は羽片に柄があり、中軸鱗片には突起がある。ソーラスはやや辺縁寄りか、中肋と辺縁の中間近くにつく。
ヌカイタチシダマガイD. simasakii)は葉に光沢がなく、紙質で、葉柄基部の鱗片は褐色〜淡褐色で軸に圧着気味につく。
ヌカイタシダモドキD. simasakii)は葉に光沢があり、葉柄基部の鱗片は線形〜線状披針形で、黒色〜黒褐色。
ヌカイタシダD. gymnosora)は葉が薄い草質で、ソーラスに苞膜はなく、葉柄基部の鱗片は線形〜線状披針形で、黒褐色。
ギフベニシダD. kinkiensis)は葉に光沢があり、羽軸裏には基部が扁平の鱗片がつく。
トウゴクシダD. nipponensis)やオオベニシダD. hondoensis)は羽軸が中軸と直交せず斜めにつき、羽片には明瞭な柄がある。
近縁種 : ヌカイタチシダマガイ、 ヌカイタチシダモドキ、 ギフベニシダサイゴクベニシダトウゴクシダオオベニシダマルバベニシダ
オオマルバベニシダ、 ベニシダ、 ハチジョウベニシダタカサゴシダ

■分布:本州(東海地方以西)、四国、九州
■生育環境:低山〜山地の岩壁や林床など。

Fig.3 地上部標本。(兵庫県丹波市・岩壁 2013.4/15)
  葉身は広卵状長三角形〜卵状三角形、2回羽状複葉で、表面には光沢があり、やわらかい革質。
  羽片は中軸に対して直交してつく。
  画像の標本はシカの食害からかろうじて逃れていた1枚で、裏面のソーラスの発達がやや悪かった。さく葉2日目の標本。
  サイゴクベニシダは羽片が中軸に対して斜めにつくので、区別できる。

Fig.4 葉柄下部の鱗片。(兵庫県丹波市・岩壁 2013.4/15)
  葉柄基部の鱗片は広披針形〜長卵形、赤褐色〜褐色、圧着する鱗片はほとんど見られない。

Fig.5 葉柄下部鱗片の拡大。(兵庫県丹波市・岩壁 2013.4/15)
  基部の辺縁には突起がほとんど見られない。

Fig.6 中軸鱗片の拡大。(兵庫県丹波市・岩壁 2013.4/15)
  中軸鱗片基部の辺縁にも突起がほとんど見られない。

Fig.7 最下羽片基部。(兵庫県丹波市・岩壁 2013.4/15)
  羽片にはほとんど柄がない。最下羽片下側第1小羽片は小さい。小羽片基部は耳状となり、最下羽片の小羽片は浅〜中裂する。
  小羽片はほとんど柄がなく、羽軸に対して直交してつく。

Fig.8 大きな葉の小羽片。(兵庫県丹波市・岩壁 2013.12/3)
  生育状態のよい大きな葉の中部〜下部の小羽片は中〜深裂する。

Fig.9 羽軸裏の鱗片。(兵庫県丹波市・岩壁 2013.4/15)
  羽軸裏には基部が袋状となる鱗片がつく。

Fig.10 羽片裏面。(兵庫県丹波市・岩壁 2013.4/15)
  ソーラスは中肋と辺縁の中間かやや辺縁寄りにつく。

Fig.11 伸び始めたフィドルヘッド。(兵庫県丹波市・岩壁 2013.4/23)
 フィドルヘッドはサイゴクベニシダ同様、白地に褐色の鱗片がある。

Fig.12 新葉。(兵庫県丹波市・岩壁 2013.5/31)

生育環境と生態
Fig.11 半日陰の岩壁に生育するアツギノヌカイタチシダマガイ。(兵庫県丹波市・岩壁 2013.4/23)
北向きのチャート露頭の湿った岩壁中部〜下方に、カミガモシダ、ニセヌリトラノオ、ヌカイタチシダマガイ、シノブカグマ、トウゴクシダとともに点々と生育していた。
岩壁中部のものは小型の個体がほとんどで、下方の個体はほとんどがシカの食害を受け、まともな葉が残っていない。
シカの食害を防ぐ何らかの対策が必要であろう。岩壁の上部にはシモツケヌリトラノオ、ヒトツバ、セッコクが着生している。

Fig.12 半日陰の岩壁に生育するアツギノヌカイタチシダマガイ。(兵庫県丹波市・岩壁 2013.12/3)
チャートの巨大な岩壁の下部、樹林がまばらに陰を落とす半日陰の壁面に群生している。
ここではシカの食害は少なく、100個体程度の良好な集団が生育しており、日当たりよい場所にも進出していた。
周辺にはオオフジシダ、トウゴクシダ、コウヤコケシノブ、ホソバコケシノブ、カミガモシダ、ヌリトラノオ、キジノオシダなどが生育している。


最終更新日:16th.Feb.2014

<<<戻る TOPページ