サイゴクベニシダ Dryopteris championii
  (Benth.) C. Chr. ex Ching
  里山・林下・斜面のシダ オシダ科 オシダ属
Fig.1 (西宮市・疎林の林床 2013.1/15)

Fig.2 (兵庫県姫路市・林道の切り通し 2012.12/11)

丘陵〜低山地、里山の林床、乾いた斜面などに生育する常緑性シダ。
根茎はやや小さい塊状、葉を叢生し、鱗片をつける。葉柄は長さ20〜50cm、鱗片をつける。
鱗片は赤褐色〜濃褐色と色に変異があるが、やや光沢があって美しく、膜質、3角状披針形〜線形、長さ0.8〜2cm、
先端に向け毛状に伸び、全縁、基部には不斉な歯牙がある。
葉柄基部の鱗片は長さ2cmになるが、中部のものは1〜1.5cmで、一部圧着、一部開出し、宿存性である。
葉身は2回羽状複生、卵形〜卵状長楕円形、鋭尖頭、長さ30〜60cm、幅20〜30cm、中軸には葉柄の鱗片に似てやや小型で
濃色の鱗片が密につく。葉質はやや厚く、やわらかい革質、深緑色。羽片は線状披針形、大きいのもには短い柄がある。
小羽片は卵形〜卵状長楕円形、円頭〜鈍頭、基部はやや耳状に広がり、浅い心形、短い柄がつくか無柄、全縁または浅裂するが、
大きいものの下半部では深裂のものもある。羽軸や小羽軸の裏面に扁平な鱗片と、袋状の鱗片とがつく。
胞子嚢群(ソーラス)は小羽片のやや辺縁寄りか、中肋と辺縁の中間近くにつき、苞膜はほぼ全縁。
葉軸に濃色の鱗片が多く目立つ点、小羽片の基部が耳状に広がるのが本種を見分ける上でのよい特徴となる。

ギフベニシダD. kinkiensis)は中軸の鱗片はより少なく、圧着気味につき、羽軸の鱗片は袋状とならない。
オオマルバベニシダD. medioxima)は中軸の鱗片は少なく、ソーラスは小羽片の中軸寄りにつく。
マルバベニシダD. fuscipes)は小羽片基部は耳状にならず長楕円形、ソーラスは小羽片の中軸寄りにつく。
ヌカイタチシダモドキD. indusiata)は羽片・小羽片ともにほぼ無柄、羽軸と中軸はほぼ直交し、小羽片は中裂、基部鱗片は黒〜黒褐色。
ヌカイタチシダマガイD. simasakii)はヌカイタチシダモドキに似て、表面に光沢がなく、基部鱗片は広披針形〜長卵形、褐色〜淡褐色。
アツギノヌカイタチシダマガイD. simasakii var. paleacea)は中軸に褐色の鱗片が密生し、羽軸と中軸はほぼ直交し、小羽片は中裂し、
鱗片の突起は顕著でない。
近縁種 :  ギフベニシダマルバベニシダアツギノヌカイタチシダマガイアツギノヌカイタチシダマガイ(?)ヌカイタチシダマガイ
ヌカイタチシダモドキ、 オオマルバベニシダ、 ベニシダ、 オオベニシダトウゴクシダハチジョウベニシダ

■分布:本州(宮城県以西)、四国、九州
■生育環境:丘陵〜低山地、里山の林床、乾いた斜面など。

Fig.3 地上部標本。(西宮市・棚田脇の崖地 2011.12/19)
  葉身は2回羽状複生、卵形〜卵状長楕円形、鋭尖頭。葉質はやや厚く、やわらかい革質、深緑色。
  最下羽片は最も長く、先は鎌状に曲がる。中軸には葉柄の鱗片に似てやや小型で濃色の鱗片が密につく。

Fig.4 葉柄基部の鱗片。(西宮市・棚田脇の崖地 2011.12/19)
  鱗片は赤褐色〜濃褐色、やや光沢があり、膜質、3角状披針形〜線形、先端は毛状に伸び、全縁。

Fig.5 葉柄中部の鱗片。(西宮市・棚田脇の崖地 2011.12/19)
  葉柄基部の鱗片は全縁だが、下部〜上部の鱗片の基部付近の辺縁には不斉な歯牙が多い。

Fig.6 中軸と最下羽片の柄。(西宮市・棚田脇の崖地 2011.12/19)
  中軸には葉柄の鱗片に似てやや小型で濃色の鱗片が密につく。
  下方の羽片には明瞭な柄があり、羽片下部の小羽片も有柄。

Fig.7 小羽片。(西宮市・棚田脇の崖地 2011.12/19)
  小羽片は多くは斜めにつき、卵形〜卵状長楕円形、円頭〜鈍頭、基部はやや耳状に広がり、浅い心形、短い柄がつくか無柄。
  多くの小羽片は全縁または浅裂するが、大きいものの下半部では深裂のものもある。

Fig.8 羽片裏面。(西宮市・棚田脇の崖地 2011.12/19)
  羽軸裏面には袋状鱗片がつく。胞子嚢群(ソーラス)は小羽片のやや辺縁寄りか、中肋と辺縁の中間近くにつく。

Fig.9 包膜。(西宮市・棚田脇の崖地 2013.6/17)
  包膜は白色、ほぼ全縁。

Fig.10 フィドルヘッド。(兵庫県篠山市・岩壁 2013.4/25)
  白地に褐色の鱗片がつく。

Fig.11 展葉初期。(兵庫県篠山市・岩壁 2013.4/25)
  褐色を帯びているもの。

Fig.12 展葉初期。(兵庫県篠山市・岩壁 2013.5/13)
  黄緑色を帯びているもの。

生育環境と生態
Fig.13 棚田脇の土崖の斜面に生育するサイゴクベニシダ。(西宮市・棚田脇の崖地 2011.12/19)
棚田の細流脇の土崖にベニシダ、ヒメイタチシダ、トラノオシダなどとともに数個体が点在していた。
土崖の上にはギンランが生育するアベマキの大木の多い雑木林となっている。

Fig.14 日当たり良い岩壁に生育するサイゴクベニシダ。(兵庫県篠山市・岩壁 2013.4/25)
チャート露頭の岩の隙間に根を下ろしていた。
周辺にはカミガモシダ、オオベニシダ、シノブ、イワギボウシが同様な場所に見られ、岩肌にはイワタケが付着していた。
チャートの岩壁ではサイゴクベニシダか非常に良く似たアツギノヌカイタチシダマガイが出現するが、混生しているのは見たことがない。
サイゴクベニシダに比べて、アツギノヌカイタチシダマガイの出現頻度はきわめて少ない。


最終更新日:15th.Feb.2014

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