ツヤナシイノデ Polystichum ovato-paleaceum
    (Kodama) Kurata
  丘陵・低山・林床のシダ オシダ科 イノデ属
Fig.1 (西宮市・雑木林の林床 2013.5/28)

やや暖地よりの丘陵〜低山の林床に生育する夏緑性シダ。
根茎は短く、斜上し、大きな塊状となり、鱗片をつける。葉柄下部には淡褐色で長円形の鱗片が密生する。
葉身は2回羽状複生し、長楕円状披針形、、葉質はやや厚めの草質、鮮緑色で、表面に光沢はない。
葉柄の中〜上部や中軸下面の鱗片は大きく、淡褐色、広卵形で、長さ5〜8mm、上向き〜斜め外向きにつき、縁には不整な突起があり、軸に圧着しない。
小羽片は卵状長楕円形で斜上し、鈍頭、先端はやわらかい刺状、辺縁には鋸歯があり、その先は細くやわらかい刺になる。
ソーラスは小羽片の中肋と辺縁の中間か、やや辺縁寄りにつき、包膜は全縁。染色体数はn=82の4倍体。

葉面に光沢を持たないイノデ属のものに以下のものがある。
変種のイワシロイノデ(var. coraiense)は中軸につく鱗片が卵状披針形〜披針形、ほとんど透明で淡褐色のタイプ。
サイゴクイノデP. pseudo-makinoi) 夏緑性。基部鱗片には黒褐色のものが混じる。中軸の鱗片は披針形〜線形。ソーラスは辺縁寄りで、小羽片基部前側の耳片からつく。
サカゲイノデP. retroso-paleaceum) 夏緑性。基部鱗片は淡褐色。中軸の鱗片は広卵形で下向きに圧着してつく。
トヨグチイノデP. ohmurae) 夏緑性。葉身は15〜23cmと小型。関東地方西部から中部地方の低山地に稀。

また、ツヤナシイノデと近縁種による推定種間雑種に以下のものがある。
アカメイノデP × kurokawae) カタイノデとの雑種。
テツヤマイノデP. × tetsuyamense) ナンピイノデとの雑種。九州。
オンガタイノデP. × ongataense) サイゴクイノデとの雑種。
ツヤナシイノデモドキP. × pseudo-ovato-paleaceum) イノデモドキとの雑種。
トウキョウイノデP. × ovato-paleaceum) シムライノデとの雑種。関東地方。
イカワイノデP.ohmurae × microlepis) トヨグチイノデとの雑種。静岡県。
タカオイノデP. × takaosanense) アイアスカイノデとの雑種。
ミドリイノデP. × midoriense) アスカイノデとの雑種。神奈川県。
アイツヤナシイノデP. × amboversum) サカゲイノデとの雑種。
フナコシイノデP. × inadae) サカゲイノデとイノデとの雑種とされるが、片親がツヤナシイノデの場合でも区別がつかないという。
以上の雑種のうち、アカメイノデ、オンガタイノデ、ツヤナシイノデモドキ、タカオイノデ、アイツヤナシイノデ、フナコシイノデの6種が兵庫県で記録されている。
近縁種 : イノデサイゴクイノデサカゲイノデアイアスカイノデイノデモドキネッコイノデ、 チャボイノデ、 カタイノデ、
ナメライノデ(雑種)ハリマイノデ(雑種)フナコシイノデ(雑種)ハコネイノデ(雑種)

■分布:本州、四国、九州 ・ 朝鮮半島
■生育環境:やや暖地よりの丘陵〜低山の林床など。

Fig.2 地上部標本。(西宮市・雑木林の林床 2013.5/28)
  葉身は2回羽状複生し、長楕円状披針形で、葉先はふつう急に狭くなり、鋭頭。葉質はやや厚めの草質、表面は鮮緑色、光沢はない。

Fig.3 葉柄基部の鱗片。(西宮市・雑木林の林床 2013.5/28)
  葉柄基部の大きな鱗片は長円形、先に尾状の部分があり、膜質、淡褐色。

Fig.4 中軸裏面の鱗片。(西宮市・雑木林の林床 2013.5/28)
  中軸裏の鱗片は上向き〜斜め外向きにつき、縁には不整な突起があり、広卵形、淡褐色、軸に圧着しない。

Fig.5 中軸裏鱗片の拡大。(西宮市・雑木林の林床 2013.5/28)
  中軸中部では広卵形〜楕円形で、長さ5〜8mm、縁には毛状の突起があり、先は凸出して尾状に伸びるものが多く、鋭尖頭。

Fig.6 羽片の表面。(西宮市・雑木林の林床 2013.5/28)
  小羽片は卵状長楕円形で斜上し、鈍頭、先端はやわらかい刺状、辺縁には鋸歯があり、その先は細くやわらかい刺になる。

Fig.7 葉裏。(西宮市・雑木林の林床 2013.5/28)
  ソーラスは葉身の上の羽片の先からつき始め、小羽片の先の前側から始まり、小羽片の中肋と辺縁の中間か、やや辺縁寄りにつく。包膜は全縁。

Fig.8 新葉を展開するツヤナシイノデ。(兵庫県篠山市・植林地の林縁 2013.5/9)

生育環境と生態
Fig.9 雑木林の斜面の林床に生育するツヤナシイノデ。(西宮市・雑木林の林床 2013.5/28)
北面する山腹のコナラ、アベマキ、ソヨゴ、アラカシなどからなる雑木林の、転石の堆積したかなり急な斜面に数株が生育していた。
ここではベニシダ、トウゴクシダ、ヤブソテツ、リョウメンシダ、イノデ、オオバノイノモトソウ、イノモトソウ、キジノオシダ、ハカタシダなどのシダ類が多く生育している。
草本類では同所的にジャノヒゲ、キチジョウソウ、ヒメカンスゲ、アリマイトスゲ、スイカズラなどが生育していた。


最終更新日:29th.June.2013

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