サカゲイノデ | Polystichum retroso-paleaceum (Kodama) Kurata |
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低山・山地・林床のシダ | オシダ科 イノデ属 |
Fig.1 (兵庫県朝来市・植林地林道脇 2011.6/19) |
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Fig.2 (兵庫県朝来市・植林地林道脇 2011.6/19) 低山〜山地の温帯性の森林の林床に生育し、ときに群生する夏緑性シダ。 根茎は短く、直立〜斜上し、鱗片をつける。葉柄は長さ20〜40cm、密に鱗片をつける。 葉柄基部の大きな鱗片は卵形〜披針形、長さ約1.5cmでその先に5mmほどの尾状の部分があり、膜質、褐色。 葉身は2回羽状複生し、長楕円状披針形、長さは1mを超えることもある。葉質はやや厚めの草質、鮮緑色。 中軸裏の鱗片は広卵形、淡褐色、膜質、長さ3〜6mmで、下向きに軸に圧着してつき、辺縁に毛がある。 小羽片は卵状長楕円形で斜上し、鈍頭、先端はやわらかい刺状、辺縁には鋸歯があり、その先は細くやわらかい刺になる。 ソーラスは小羽片の中肋と辺縁の中間か、やや中肋寄りにつき、包膜は全縁。染色体数はn=41の2倍体。 葉面に光沢を持たないイノデ属のものに以下のものがある。 サイゴクイノデ(P. pseudo-makinoi) 夏緑性。基部鱗片には黒褐色のものが混じる。中軸の鱗片は披針形〜線形。ソーラスは辺縁寄りで、小羽片基部前側の耳片からつく。 ツヤナシイノデ(P. ovato-paleaceum) 夏緑性。基部鱗片は淡褐色、長卵形。中軸の鱗片は圧着せず、ソーラスは中間〜辺縁寄りで、小羽片の前側からつく。 トヨグチイノデ(P. ohmurae) 夏緑性。葉身は15〜23cmと小型。関東地方西部から中部地方の低山地に稀。 また、サカゲイノデと近縁種による推定種間雑種に以下のものがある。 オクキヌイノデ(P. braunii× retroso-paleaceum) ホソイノデとの雑種。 ハリマイノデ(P. × utsumii) サイゴクイノデとの雑種。 ナメライノデ(P. × okanum) イノデモドキとの雑種。 ホクリクイノデ(P. × hokurikuense) アイアスカイノデとの雑種。 ゴサクイノデ(P. × gosakui) アスカイノデとの雑種。 サカゲカタイノデ(P. × microlepis) カタイノデとの雑種。 サカゲイワシロイノデ(P. ovato-paleaceum var. coraiense × retroso-paleaceum) イワシロイノデとの雑種。東北地方。 アイツヤナシイノデ(P. × amboversum) ツヤナシイノデとの雑種。 フナコシイノデ(P. × inadae) イノデとの雑種とされるが、片親がツヤナシイノデの場合でも区別がつかないという。 以上の雑種のうち、ハリマイノデ、ナメライノデ、ホクリクイノデ、サカゲカタイノデ、アイツヤナシイノデ、フナコシイノデの6種が兵庫県で記録されている。 近縁種 : イノデ、 サイゴクイノデ、 ツヤナシイノデ、 アイアスカイノデ、 アスカイノデ、 イノデモドキ、 ネッコイノデ、 チャボイノデ、 カタイノデ フナコシイノデ(雑種)、 ハコネイノデ(雑種)、 ハリマイノデ(雑種)、 ナメライノデ(雑種) ■分布:北海道、本州、四国 ■生育環境:低山〜山地の林床など。温帯性。 |
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↑Fig.3 地上部標本。(兵庫県篠山市・植林地林床 2013.6/13) 葉身は2回羽状複生し、長楕円状披針形で、葉先はふつう急に狭くなり、鋭頭。葉質はやや厚めの草質、表面は鮮緑色、光沢はない。 |
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↑Fig.4 葉柄基部の鱗片。(兵庫県篠山市・植林地林床 2013.6/13) 葉柄基部の大きな鱗片は卵形〜披針形、先に尾状の部分があり、膜質、褐色。 基部の鱗片はまだ上向きである。 |
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↑Fig.5 中軸裏面の鱗片。(兵庫県篠山市・植林地林床 2013.6/13) 中軸裏にはサカゲイノデの名の由来となった、下向きの幅の広い鱗片が密に圧着してつく。画像左側が上方向、右が下方向。 |
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↑Fig.6 中軸下部で変わる鱗片の向き。(兵庫県篠山市・植林地林床 2013.6/13) 画像左側が上方向。鱗片の向きは中軸の下部〜葉柄上部のあたりで変わる。 この葉は中軸の第2羽片付近(矢印)を境にして上側が下向き、下側が上向きとなっていた。 |
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↑Fig.7 中軸裏鱗片の拡大。(兵庫県篠山市・植林地林床 2013.6/13) 中軸中部では卵形、広卵形、楕円形で、淡褐色、縁には毛状の突起があり、先は凸出して尾状に伸びるものが多く、鋭尖頭。 |
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↑Fig.8 葉裏。(兵庫県篠山市・植林地林床 2013.6/13) 画像のものはソーラスの発達が悪い。 ソーラスは葉身の上の羽片の先からつき始め、小羽片の前側から始まり、小羽片の中肋と辺縁の中間か、やや中肋寄りにつく。包膜は全縁。 画像には中軸寄りの小羽片が羽状に切れ込んでいるものがあるが、これはサカゲイノデによく現れる特徴である。 |
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↑Fig.9 葉表。(兵庫県篠山市・植林地林床 2013.6/13) 表面は鮮緑色、光沢はない。 小羽片は鈍頭、先端はやわらかい刺状、辺縁には鋸歯があり、その先は細くやわらかい刺になる。 |
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↑Fig.10 フィドルヘッド。(兵庫県宍粟市・渓流畔 2013.5/8) |
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↑Fig.11 解けはじめたフィドルヘッド。(兵庫県宍粟市・渓流畔 2013.5/8) 葉軸が一度外側に反り返って、巻いた部分が解けていく。 |
生育環境と生態 |
Fig.12 植林地の林床に生育するサカゲイノデ。(神戸市・渓流畔の林床斜面 2013.6/28) 低山の渓流に面した林床の斜面にサカゲイノデの大きな株が生育していた。 西日本ではサカゲイノデは比較的標高の高い場所で見られるが、ここでは標高170mという低標高地に生育していた。 周辺にはベニシダ、トウゴクシダ、オオベニシダ、ヤマヤブソテツ、ジュウモンジシダ、リョウメンシダ、ナンゴクナライシダ、アイアスカイノデ、 ヤマイタチシダ、イワガネソウ、オオバノイノモトソウ、ホソバイヌワラビ、ヤマイヌワラビ、ミゾシダ、シケチシダなどのシダ類が多く生育している。 |