西宮の湿生・水生植物


 フィールド・メモ


このページはトップページの 「水辺から、そして緑から…」 で紹介した記事のバックナンバーに、一部画像を追加し加筆したものです。

 2010年 6月

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6月の里山
里山の風景
西宮市北部の棚田
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初夏から夏へ

このところ掲載種追加のための新ページ作成に明け暮れており、フィールド・メモがずっとお休みの状態となっております。 撮影した植物の画像がどんどん溜まってしまい、埋もれて解らなくなる前になんとかページにしておきたいという考えからですが、それでも溜まる一方。 最近気になりはじめたシダ類や木本類の画像が増えているのですが、どうやってまとめようか思案中です。 しかし、フィールド・メモのコーナーもおろそかにしたくはない・・・ということで、久々にメモしときたいと思います。
じめじめと鬱陶しい梅雨のシーズン真っ只中ですが、この時期にも様々な植物が開花しています。 ヤブ蚊が増えてくるシーズンでもありますが、雨上がりには近場の里山へと足が向かいます。 5月はどこにいってもウツギの仲間が開花して賑やかでしたが、6月に目立っている木本はヤマボウシやクマノミズキ、ヤマアジサイくらいです。 路傍では群生するドクダミの白い花がよく目立ちます。田植えの終わった水田ではオタマジャクシに混じって、カイエビの仲間やホウネンエビが泳ぐ姿が見られます。 棚田の奥の溜池ではジュンサイが開花し、池畔の樹木にはモリアオガエルの卵塊が点々と見られます。 

スズサイコ
スズサイコ
草原環境の減少から、環境省の準絶滅危惧種(NT)に指定され、各地のレッドリストに掲載されているが、兵庫県内では比較的よく見られるためRDBから除外された種である。 西宮市内では北部の棚田を中心に自生地が点在し、個体数も比較的多く、毎年6月下旬頃から不思議な形の花を細い花茎に沢山つけて開花する。 夜間に開花することで有名で、この日も夜の7時前頃に開花がはじまった。
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●関西の花・夏の花 スズサイコ
スズサイコ生育環境
スズサイコの生育環境
スズサイコは年に数回草刈りの行われる棚田の斜面や溜池の堤体によく見られる。 中でも斜面下部で水がしみ出している草地斜面の中ほどのところに生育していることが多い。 ここもそのような場所で、斜面にはススキ、ワラビ、アキカラマツ、ホタルブクロ、ナンテンハギ、コマツナギ、ヤマハッカ、タツナミソウ、ミヤコグサ、ナツフジ、エビヅルといった草原環境を好む種と、 ワレモコウ、ノアザミ、ウマノアシガタ、キツネノボタン、アキノタムラソウ、クルマバナ、ヤブマメ、ゼンマイ、ハナビゼキショウ、チドメグサ、マツバスゲなどの湿性草原を好む種が生育している。  (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
イガタツナミ群落
タツナミソウ群落 イガタツナミ群落
環境が良好な棚田に現われる種で兵庫県RDB Cランク。画像のものは宅地予定地である上ヶ原山田町の棚田斜面の群落。非常に良好な草地斜面で失われてしまうのが惜しい。 種子採取し、関係している学校ビオトープに播種予定である。
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●関西の花・初夏の花 イガタツナミ
イガタツナミ
踏み付けに遭ったタツナミソウ イガタツナミ
先の画像とは別の地域のもの。林縁に生育しているが草刈りと踏み付けに遭ったため丈は低く、別種のようにも見える。 すぐそばの林床にはシソバタツナミが生育しており、背丈がちょうど同じくらいで紛らわしい。
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カワラマツバ
カワラマツバ
用水路脇で見られたが、その名のとおり小河川の堤防で群生していることが多い。  (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
ミヤコグサ
ミヤコグサ
西宮市内では草地的環境に広く見られる。棚田では常在種で、道端から畦まで美しく飾る。  (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
ナンテンハギ
群生するナンテンハギ
兵庫県では北の方に多い。西宮市内では北部の一部の棚田に見られるのみだが、自生地では群生し、個体数も多い。花期は長く、初夏から秋まで開花し続ける。  (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
●関西の花・初夏〜夏の花 ナンテンハギ
ホタルブクロ
ホタルブクロ
竹林の林縁で群生していた。地下の横走根茎で栄養繁殖するため、群生する傾向が強い。 ホタルの飛び始める時期と開花期が一致する。名の由来には諸説あるが、花筒にホタルを入れて運んだことがあるという話を実際に体験談として聞いたことはない。  (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
シロバナケショウアザミ
シロバナケショウアザミ
毎年同じ場所で咲くため、遺伝的に固定されていることがわかる。西宮市内ではケショウアザミが多いが、白花品が生育する場所は今のところ1ヵ所のみ確認している。  (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
●湿生植物 ノアザミ
ルリシジミ
クララのつぼみに産卵するルリシジミ
用水路脇の土手の草地にクララが点々と生育しており、最盛期を迎えていた。 クララは稀少種オオルリシジミの食草として有名だが、その仲間の普通種ルリシジミももちろん食べる。 マメ科のほとんどの種の他、バラ科のものも食べるらしいが、いずれも幼虫は花のつぼみを好んで食べる。 画像にも1個のつぼみに2個の卵が産み付けられているのが見える。
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クサボケ
クサボケ
クサボケは兵庫県内では少なく、RDB Cランクとされている。過去に西宮市内からの記録があるが、そこに今も自生しているかどうか確認していない。 花が美しいので植栽されることもあるが、農道脇で頻繁に草刈りされる場所であり、他にも植栽されているようなものは見当たらないため昔から自生しているものだろう。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
ウツボグサ
ウツボグサの群生
農地の道路脇の草地斜面に広く群生していた。実際に見る光景は画像で見るものとは比較にならぬほど美しく、いつも歯がゆい思いをする。 紫色系の花はとくに再現するのが難しい。ウツボグサは市内の丘陵に広がる田園地帯のやや湿った草原環境に広く生育している。 この場所ではもう一段上の斜面で多数のスズサイコが生育していた。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
ケアクシバ
ケアクシバ
棚田最上部の急な林縁の斜面に這うようにケアクシバが生育し、面白い形の花を沢山つけていた。 兵庫県では北部にアクシバが、中〜南部にはケアクシバが生育し、やや乾いた半日陰の林床で見られる。 ケアクシバは若い枝や花柄に腺毛が出るが、アクシバには腺毛がない。
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ナツハゼ
ナツハゼ
草刈りの行き届いた斜面に切り残されたナツハゼが果実形成期を迎えていた。 ナツハゼはどちらかというと5月の花。 西宮市内ではコツクバネウツギの開花期と丁度重なり、枝先に小さな花を鈴なりに着ける。 画像では枝先にシーズン最後の1花が開花し、他はどれも花後の果実形成期に入っている。
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テリハノイバラ
テリハノイバラ
テリハノイバラはノイバラとともによく見かけるが、ノイバラよりも若干数少なく、より湿った場所を好む傾向があり、溜池畔や湿地によく現われる。 溜池畔の裸地に長い茎を横走しているバラの仲間はたいてい本種である。 画像のものは溜池畔を通る、ほとんど車の立ち入らない農道上に茎を這わせて開花しているもの。 花はノイバラよりも大きく、托葉の縁はノイバラのような櫛歯状の鋸歯とならず、腺毛が生える。  (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
コマツナギ
コマツナギ
用水路脇で草刈りの難を逃れたコマツナギの開花がはじまっていた。 どちらかといえば、夏開花の印象が強い棚田の土手の常在種だ。 最近、法面緑化に使われる大型化して繁殖力旺盛なタイワンコマツナギの逸出が問題となっており条例で使用禁止とする地域もある。 逸出繁殖の報告は南の方ほど多く、今のところ西宮市内での逸出繁殖は確認していない。
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ノテンツキ
ノテンツキ
水田の畦にノテンツキが生育していた。ノテンツキが見られるような畦は堅牢で土は締まっており、旧くに造られたもの。 その証拠にノテンツキが群生する畦には多年草であるノアザミ、ナンテンハギ、カワラマツバなどが刈り込みに遭って草丈が低いながらも多数生育している。 また、春期にはアマナも開花しているのが見られる。秋になるとノテンツキに代わってクロテンツキが見られ、リンドウが畦を飾る。  (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
●湿生植物 ノテンツキ
オオジシバリ
畦を埋めるオオジシバリ
先のノテンツキは堅牢な畦に生育するが、こちらはやや軟質の泥中の地表近くに匐枝をはわせて栄養繁殖し畦を被う。 似た性質を持つものに、あまり認識されていないハイニガナがあり開花期には花の大きさで明瞭に区別できるが、それ以外の時期には難しくなる。 ハイニガナはどちらかというと安定した湿地環境に生育し、オオジシバリは人為的撹乱の多い水田などの湿地環境に生育するが、 オオジシバリが経年した休耕田で生育していることもあるので注意が必要となる。  (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
●湿生植物 オオジシバリ  ●湿生植物 ハイニガナ
ガマの開花
休耕田で開花しはじめたガマ
ガマの開花は非常に地味である。 開花中のガマの花序は緑色の雌花群の上に、数個の苞葉を持った淡黄緑色の雄花群がつく。 花の色は葉の色とあまり変わるところが無く、花序は葉よりも高く抜き出ることがなく、葉とほぼ同長なため普通の人は気付かない。 雄花群の苞葉は開花中でも脱落しやすく、雄花群も花粉の放出が終わると早い時期にしおれて脱落する。 ガマの穂として馴染み深い姿となるのは、それ以降のこととなる。
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●抽水植物 ガマ
谷戸奥の休耕田
谷戸奥の湿地化しつつある休耕田
丹波地方の里山で見られたもので、谷戸上部が連続した休耕田となっており、一部の休耕田では湿地化がかなり進行してよい感じになっていた。 地下水位がかなり高く、全面に浅い表水が見られミズハコベが群生し、一部でアゾラsp.(外来か在来かは不明)が繁殖し、ミズハコベと覇を競っている。 生育する種としては休耕初期に見られるイグサ、アゼスゲ、ヒロハノコウガイゼキショウ、オオハリイ、キツネノボタン、ミゾカクシ、イヌノヒゲsp.(おそらくヒロハイヌノヒゲ)が多い。 画像にはある程度の年数を経て生育しているハンノキが多数見られるが、生育している草本類を見ると、毎年耕起されている可能性もある。 ハンノキの樹下にはタニヘゴが生育していた。  (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
タニヘゴ
タニヘゴ
タニヘゴは山間の開けた日当たり良い湿地に生育する種で兵庫県では北部では比較的自生地が多いが、中〜南部では自生地は限られる。 画像のものは先の休耕田内に生育するもの。 丹波地方での自生地も少なく、これまで他には溜池畔の湿地で1ヶ所確認したのみである。 「兵庫県産維管束植物1」では県中南部での記録は局所的で丹波地方の記録は見られず、生育要因が気になるところである。  (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
●湿生植物 タニヘゴ
ミゾホオズキ
ミゾホオズキ
丹波地方の溜池の縁を流れる水路脇の斜面に群生していた。丹波地方では普通に見られる種であり、渓流畔、林道脇の湿地、溜池畔などに生育する。 ここでは日当たり良い場所ではシラコスゲ、タカネマスクサなどとともに見られ、半日陰ではミズタビラコ、コジュズスゲ、ネコノメソウなどと、 日陰ではヤマサギゴケ、ヤブタビラコなどとともに見られた。
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●湿生植物 ミゾホオズキ
赤いミズユキノシタ
真っ赤なミズユキノシタ
よく見ると緑色の色素が見られない個体である。ふつうのユキノシタに混じって溜池畔に見られた。 緑色と赤色の色素があるのなら、両色素の混じった褐色や茶褐色の部分が草体中に見られるはずであるが、そのような部分は全くない。 緑色の素となる葉緑体に突然変異でも起こった個体だろうか。 生体を採取して様々な条件下で育ててみたいと思うが撮影時にはそこまで考えが及ばず、採取しなかったことを後悔している。
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●湿生植物 ミズユキノシタ
溜池直下の休耕田
山際の溜池直下の休耕田
先に紹介したタニヘゴが生育する休耕田とは500m程度離れた場所にある休耕田で、山際にある溜池直下に2枚ある休耕田の上方のものである。 周囲は樹林に囲まれて植生は先の休耕田とは全く異なる。 休耕してからかなり年数を経ており、休耕当初は全面にスギが植林されたはずだが、残っているのは畦付近の生育の悪いものだけで、大半の部分は地下水位が高く湿地化している。 ここでは半日陰部分では裸地が多くネコノメソウとサワオグルマが生育し、日当たり良い場所にはキセルアザミ、ハイニガナ、サワオグルマ、ミズユキノシタ、ゴウソ、タチスゲ、オニスゲ、 ミゾソバ、アキノウナギツカミ、ショウブ、イヌノヒゲsp.が見られた。  (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
モリアオガエルの卵塊
モリアオガエルの卵塊
この時期になると各所の谷戸奥の溜池の縁に産みつけられているのを見かける。今年は三田市の道路上に張り出した樹木にモリアオガエルの卵塊を見つけて驚いた。 路上はアスファルトで、樹下に水溜りがあるわけでもなく、そこに産み付けられた理由が全くわからない。
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ヒメオトギリ
早くも開花したヒメオトギリ
ヒメオトギリといえば夏もかなり深まってから開花するものだが、早くもこの季節に開花している個体があった。 シカの食害の激しい溜池畔でいつまで無事に開花しているか心配である。
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●湿生植物 ヒメオトギリ
トノサマガエル
トノサマガエル
曇天の里山の農道を歩いていると、ノダケやオカトラノオが生える草薮から突然飛び出してきた。 非常に大きな個体だったので慎重に近寄って撮影。梅雨時はカエルが元気だ。  (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
カジカガエル
カジカガエル
こちらは渓流で美しい鳴き声を聞かせるカジカガエル。雄は渓流の水面上に出た石の上にテリトリーを張って鳴く。トノサマガエルのついでに載せてみた。 西宮市内の渓流には多い。  (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)


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