このページはトップページの 「水辺から、そして緑から…」 で紹介した記事のバックナンバーに、一部画像を追加し加筆したものです。 |
---------------------------------------------- 12th. July. 2010 ------------------------------------------ 夏のはじまり |
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棚田の畦の草花たち (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。) |
夏休み前の草花 今年の梅雨はしっかりと雨が降り、フィールドに出かけるとたいてい一定時間は雨に降られてしまいます。 曇天は草花の撮影にはよいのですがカメラの出し入れがかなり面倒で、撮影枚数はかなり減ってしまい、満足な画像が得られないことも多くなってしまいます。 またこの時期はイノシシやシカにつくダニの動きが活発で、ヤブ漕ぎするとたいてい持って帰ってしまいます。 毎回家に帰るとフロ場に直行してダニがついていないかチェックすることが欠かせません。 さて前回に引き続いて里山とその周辺の草花についてのメモです。 梅雨も後半に入って以前よりも花が多くなってきました。西宮市内の棚田では前回お伝えしたウツボグサ、スズサイコ、ホタルブクロが各所で満開となり、 ヌマトラノオ、ネジバナ、オオバノトンボソウ、モウセンゴケ、ヤブカンゾウ、ノギラン、ナツフジなどの開花がはじまりました。 良好な草地環境が維持されている場所ではコカモメヅルが小さなつぼみをつけ、カワラナデシコも花茎の先につぼみをつけています。 この時期は夏緑性のシダ類も美しく、ソーラスも形成しはじめるので同定しやすくなり、冬期とともにシダ類がとても気になる時期です。 今回は西宮市内のほか丹波と播磨の里山の草花も取り上げました。 | |
西宮市内で減少傾向の著しいササユリ ササユリは香りが強く美しい花。かつては山道の脇や疎林の林床でよく見かけたが、雑木林の管理放棄と盗掘によってめっきり見かけなくなった。 人が近づきやすく目立つ場所にあるものは完全に姿を消してしまった。 人が近づけない場所=ヤブが繁る場所であり、ササユリの生育に適さない環境である。 近い将来、市内でササユリが生き残れる唯一の場所は、人の近づけない岩上や岩壁だけになってしまうだろう。 西宮市内の百合野町はかつてササユリが群生していたことからついたと言われているが、現在では全く確認できない。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。) ●関西の花 ササユリ |
谷池の水際に生育するノハナショウブ 西宮市内では自生地が少なく、自然状態で生育していても開花にまで到っている個体はほとんど見られない。 画像のものは丹波地方の谷池の縁に生育しているもので、土堤の多湿な場所や周辺の小湿地にも点々と生育していた。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。) ●湿生植物 ノハナショウブ |
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谷津草地斜面に生育するカキラン 西宮市内ではどちらかというとカキランは初夏の花で、梅雨後期になるとほぼ開花は終了となる。今回はラン科の花が多いのでついでに掲載している。 画像のものは6月下旬に淡路島の棚田調査の際に撮影したもの。 草地斜面にはカキランのほかソクシンラン、ノギラン、モウセンゴケ、オミナエシ、オカトラノオなどが見られ良好な草原環境であった。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。) ●湿生植物 カキラン |
貧栄養湿地に生育するコバノトンボソウ 丹波地方のサギソウ、スイラン、モウセンゴケ、ミミカキグサ類が群生する湿地に生育しているもの。 西宮市内にも見られるが湿地の乾燥化により、個体数は減少傾向にある。 コバノトンボソウは貧栄養状態の湿地に生育し、良好な湿地環境が保たれている場所にしか生育していない。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。) ●湿生植物 コバノトンボソウ |
オオバノトンボソウ 西宮市内では林縁や落葉樹林下に比較的よく見かける種である。花が地味で目立たないためか盗掘にも遭わず健在である。 先のコバノトンボソウと異なり湿生植物ではないが、湿地と樹林の境界付近に生育していることも多い。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。) ●関西の花 オオバノトンボソウ |
クモキリソウ 雑木林や照葉樹林下の薄暗い腐植質の堆積した場所に生育している。 市内ではオオバノトンボソウほど普通には見られないが自生地は点在している。 他に似た環境に出てくるコクランも稀に見かけるが、降雨時で暗かったため満足な画像が撮れなかった。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。) ●関西の花 クモキリソウ |
ネジバナ ネジバナは日当たり良く草丈の低い半裸地〜草地的環境を好む。 水分条件にはあまりこだわりがないのか、庭や公園の乾いた芝地から水田の畦、貧栄養な表水のある半裸地状の湿地にまで現われる。 自宅の芝地にも沢山生えていて、風で飛ばされた種子があちこちの鉢に飛び込んで、気がつくと約半数の鉢に定着して開花し、この時期の庭は賑やかである。 踏み付けにも大変強く、畦などでは葉がぼろぼろになりながらも、沢山の個体が開花している。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。) ●関西の花 ネジバナ |
開花しはじめたノギラン 日当たりの良い山道の湿った道端でノギランの開花がはじまっていた。 西宮市内では林縁や里山のいたるところで生育しており、根生葉の良く似たショウジョウバカマよりも個体数は多い。 小さな花をつける地味な姿だが、拡大して見る花は美しい。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。) ●湿生植物 ノギラン |
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ヒメヤブランの花 ヒメヤブランは棚田の畦や背丈の低い草地、墓地の周辺などに多い。 中にはグランドカバーや畦の補強と雑草防除のために人為的に植えられた場所もあると思う。 どちらかというと実をつけた時期のほうが目立つが、花を拡大して見ると雌蕊が上に曲がり、雄蕊が下に曲がって葯が集まっている姿が面白い。 おそらく自家受粉を避ける仕組みなのだろう。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。) ●関西の花 ヒメヤブラン |
ヤブカンゾウの花 ふるい時代に中国から持ち込まれた史前帰化植物とされ、国内にあるものは3倍体で結実しない。 雄蕊が花弁化して八重咲きとなっているが、花弁化の程度は様々な段階のものが見られ、画像のものも花糸の部分が花弁状に広がっているものが見られる。 花被片6個のよく似たノカンゾウは在来種とされ、ヤブカンゾウよりも眼にする機会は少なく西宮市内ではヤブカンゾウよりも少し開花期が遅い。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。) ●関西の花 ヤブカンゾウ |
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棚田草地斜面で開花したアカショウマ 西宮市内ではアカショウマは低地の里山には現われず、山地よりの棚田の水際や用水路脇に現われる。 よく似たもので里山にも生育するチダケサシがあるが、こちらは西宮市内での生育を確認していない。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。) ●湿生植物 アカショウマ |
ママコナ 近くに奇主があれば寄生し、なければ自ら光合成を行う半寄生植物とされる。 草体のわりに花の数が非常に多いのは奇主から栄養分を得ているためだろうか。 ネザサの近くに生えていることが多いので、奇主はネザサかもしれないが確認したわけではない。 西宮市内では良く似たシコクママコナのほうが眼にする機会が多く、ママコナの自生地は限られる。 ママコナのほうがシコクママコナよりもひと月ほど早く開花する。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。) ●関西の花 ママコナ |
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アギスミレの花後の草姿 棚田の用水路脇のオオミズゴケ群落中に花後のアギスミレが茎を立ち上げていた。 ニョイスミレの変種で、次に紹介するヒメアギスミレとは別変種の関係。ヒメアギスミレとは葉の形が微妙に異なっているのがわかる。 アギスミレの葉縁は外側にふくらまず直線的で、全体の葉姿がV字形に近くなるものが多い。 ただし、多少の変異幅もあるので、その場所の集団単位で考慮する必要がある。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。) ●湿生植物 アギスミレ |
ヒメアギスミレの花後の草体 谷池の池畔に生育しているヒメアギスミレ。 降雨時で暗く、風もあったためシャッタースピードを短くした。そのため被写界深度が浅くなり部分的にしかピントがあっていないので見苦しいかもしれない。 ヒメアギスミレの茎は立ち上がらず、葉縁は外側にふくらんで湾曲するものが多い。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。) ●湿生植物 ヒメアギスミレ |
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ヒサカキに寄生したヒノキバヤドリギ 山際のヒサカキの木にヒノキバヤドリギがついていた。 西宮市内ではヤドリギは見ないが、ヒノキバヤドリギは比較的よく見かけ、ヒサカキやヤブツバキに寄生していることが多い。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。) |
果実をつけたイタビカズラ イタビカズラが市内で結実しているのを見かけるのは稀である。 棚田の畦に植えられたカキの木にかなりの年数を経たイタビカズラが巻きついてはい登っていた。 良く見るとあちこちに沢山の果実をつけている。ようやく市内産のまともな標本を採集することができた。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。) ●関西の花 イタビカズラ |
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用水路の石垣に生育するゲジゲジシダ 里山の林縁、石垣、用水路脇などでよく見られるシダ。中軸にははっきりとした翼があり、その名とともに憶えやすい種である。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。) ●関西の花 ゲジゲジシダ |
墓地の石垣に群生するイヌシダ こちらも里山でよく見られ、社寺や墓地の石垣や崖地についている。葉は根茎からふつう単生し、全体に毛が多くソーラスはコップ状で葉縁につく。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。) ●関西の花 イヌシダ |
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参道脇に生育するコヒロハハナヤスリ 市内の社寺境内の参道脇でコヒロハハナヤスリを見つけた。社寺や墓地などに現われることが多い。直立する胞子葉をヤスリに見立ててその名がついた。 冬場によく見かけるフユノハナワラビに近い仲間。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。) ●湿生植物 コヒロハハナヤスリ |
マルバマンネングサ 林道の路上の隅に帯状に群生している。少し不自然な生育のしかたなので、林道敷設の際に土砂などとともに持ち込まれた可能性がある。 西宮市の六甲山系東部は早くから開発の手が入っているので、自生か移入かの判断に困るものも多い。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。) ●関西の花 マルバマンネングサ |
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アオヒメタデ ヒメタデの産地情報を頼りに調査したところ、見つかったのは花被の白いアオヒメタデだった。 県内のもう1ヵ所のヒメタデの自生地では生育が確認できず、絶滅した可能性がある。 アオヒメタデは県内からの報告はなく、新しい種が増えたことになる。 アオヒメタデには複数の系統があるようだが、まだ研究途上のようであり今後の研究成果の発表が待たれる。 ここの集団はコムギ畑内の素掘りの水路内やその周辺に見られ、コムギ刈り取りの際に基部近くで寸断されたものが脇芽をだし、そこに花序をつけている。 また刈り取り後に新たに発芽して10〜20cmの小型のまま開花した個体が多数見られた。 このような生育状況を観察すると、ここのヒメアオタデは麦栽培由来の史前帰化植物?と思ってしまったりもする。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。) ●湿生植物 アオヒメタデ |
ツチグリ ヒメタデ調査の副産物として発見された新たな集団。野焼きと草刈り管理された溜池の土堤に100〜200個体程度の群落を形成している。 ヒメタデ調査地域とした区域には多数の溜池が点在していたので、あまり見る機会のない水草に出会えるかと期待したが、 出現したのはヒシ、アシカキ、シロバナサクラタデ程度だった。しかし、溜池土堤は良好な草原環境が保たれておりツチグリのほかカワラナデシコ、 クララ、コカモメヅル、ウマノスズクサなどが生育していた。 このツチグリの自生地ではワルナスビの侵入が目立っていたが、野焼きによってある程度繁殖を抑えることは可能だろう。 溜池土堤ではツチグリに混じってシロバナノアザミも見られた。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。) ●関西の花 ツチグリ |
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ウマノスズクサ 調査地付近の畦や草地をジャコウアゲハがゆるやかに飛翔していたので、水田の土手を注意して見ているとやはりジャコウアゲハの食草であるウマノスズクサが見つかった。 既に開花期は終わっているだろうと思ったが、まだ沢山のつぼみをつけ、花もポツポツと咲いていた。 調査した播磨地方では珍しくないが、西宮市内ではアリマウマノスズクサしか見かけないため物珍しく感じられ強風にへこたれず連写した。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。) |
ジャコウアゲハとその幼虫 ジャコウアゲハはつる性のウマノスズクサ科植物の発見の目安となる。 体内に毒性物質を持つため鳥類に襲われることもなく、優雅に飛翔していることが多い。 西宮市内のアリマウマノスズクサが多産する墓地では、いつも5匹以上のジャコウアゲハが林縁を縫うように飛翔していたり、ノアザミで吸蜜している姿を眼にする。 幼虫の画像はアリマウマノスズクサを食害しているもの。成虫と幼虫の色味や質感はよく似ている。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。) ●関西の花 アリマウマノスズクサ |