西宮の湿生・水生植物


 フィールド・メモ


このページはトップページの 「水辺から、そして緑から…」 で紹介した記事のバックナンバーに、一部画像を追加し加筆したものです。

 2010年 8月

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兵庫のコウホネ類ほか
西宮のコウホネ
Fig.1 西宮市内のコウホネ サイコクヒメコウホネ
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水生植物の最盛期に突入

夜になると、自宅の庭ではエンマコオロギが、山野ではスズムシが鳴き始めましたが、昼間はまだまだ猛暑が続いています。 暑さで頭が回らず、ハキダメギクという種名が出てこなかったり、記入するよりも汗を拭くほうが忙しかったりで調査がなかなかはかどりません。 暑さ真っ盛りですが、水生植物も多くの種で開花がはじまっています。 コウホネの仲間も今が開花最盛期で、兵庫で見られるコウホネ属3種をとりあげました。 頭になにもつかないコウホネは、以前まで兵庫県RDB Cランク種でしたが、県下に見られるもののほぼ全てが薬用または観賞用として植栽されたものとのこと。 確実に自生といえる集団があるのは、県下に2ヶ所しかないとのことで、RDB Aランク種となりました。 オグラコウホネは西宮市外でのフィールドでは馴染み深いもので、比較的自然度の高い溜池に見られ、兵庫県RDB Bランク種となっています。 サイコクヒメコウホネについては変異が多くて迷いがあり保留していたのですが、Sさんからいろいろと文献を頂いたおかげで随分と見通しが良くなりました。 この場を借りてSさんには感謝申し上げます。 サイコクヒメコウホネは西宮市内での生育も確認することができました。
水生植物の開花と同時に、ツリガネニンジンやワレモコウなどの秋の花も溜池の土堤で開花し始めました。 しかし、今年は暑いさなかに秋の花を眺めることになるのでしょうか?

丹波のコウホネ
Fig.2 丹波南部で見られたコウホネ
山間に造られた谷池で、溜池畔にはハリコウガイゼキショウなども見られるが、水面は観賞用の温帯スイレンによって広く覆われ、キショウブも生育している。 当然のことながらこのコウホネも植栽されたものだろう。温帯スイレンの勢力に押され気味で、溜池の流れ込みや縁に押しやられた格好で生育している。
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●抽水植物 コウホネ 
オグラコウホネ
Fig.3 オグラコウホネ
山間の溜池で開花最盛期を迎えていた。オグラコウホネはふつう気中葉は出さず、浮葉を水面に広げ、水中に浮葉よりも数多くの沈水葉を出す。 画像では遠景であるため水中の沈水葉がよく判らないが、近寄ってみると水底には沈水葉がわさわさと繁っている。 改修工事などで夏場に水抜きされ長期間干上がった状態では、長さ10cmに及ばない小さな不完全な気中葉を数枚つけるが、もちろん開花は見られない。  (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
●浮葉植物 オグラコウホネ
サイコクヒメコウホネ
Fig.4 サイコクヒメコウホネ
丹波南部の2段になった小さな溜池に生育しているもので、狭い池に密生していた。 サイコクヒメコウホネはコウホネ×オグラコウホネ、コウホネ×ヒメコウホネ(狭義)、あるいは3種の遺伝子が様々な段階で交わった雑種起源の1群の総称。 したがってサイコクヒメコウホネの葉には変異が多く、沈水葉もあったり無かったりする。この溜池の集団は沈水葉をほぼ欠いていた。
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●抽水植物 サイコクヒメコウホネ
サイコクヒメコウホネの花
Fig.5 最盛期を過ぎたサイコクヒメコウホネの花
Fig.4 のサイコクヒメコウホネはコウホネとオグラコウホネの中間形のもので、葯裂開後の雄蕊の花糸が外側に反り返る。 沈水葉がほとんど無いので、小さなコウホネかと思ったが、コウホネの花糸は反り返らず、倒伏することによって区別できる。  (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
イヌタヌキモ
Fig.6 開花しはじめたイヌタヌキモ群落
山間にあるジュンサイ、フトヒルムシロ、ヒツジグサからなる浮葉植物群落のよく発達した腐植栄養質な谷池でイヌタヌキモが開花していた。 西宮市内でも比較的普通に見られ、兵庫県下では普通に見られ、タヌキモはきわめて稀である。 タヌキモとは殖芽の形態で見分けるのが容易だが、花茎中心に中空となる部分が無いことによっても区別できる。
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●浮遊植物 イヌタヌキモ
カンガレイの芽生
Fig.7 倒れ込んで芽生するカンガレイ
丹波地方南部の溜池で見られたもので、倒れこんだ全ての茎の苞葉基部から芽生していた。 おびただしい数の芽生から、最初はハタベカンガレイかと思ったが、柱頭は全て3岐しておりカンガレイであった。 カンガレイには倒伏して盛んに芽生するタイプと、倒伏しても全く芽生しない2つのタイプがあるようで、芽生するタイプは比較的一定地域内にかたまって見られるようである。 画像の集団はまだ痩果が熟していなかったが、再訪して痩果の形態を含めた形質を観察・検討する必要がある。  (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
●湿生〜抽水植物 カンガレイ
コガマ・エゾアブラガヤ
Fig.8 コガマとエゾアブラガヤの群落
西宮市内で新たに見つけたコガマとエゾアブラガヤの群落で、かなり古い湿地化した休耕田に生育している。 休耕田の大部分をエゾアブラガヤ群落が占め、コガマは畦近くの表水のある部分に帯状に生育していた。 コガマは比較的自生地が限られ兵庫県RDB Bランク種となっており、西宮市では過去に武庫川河口部で記録されたが、現在では完全に護岸されて当時の面影はない。
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●湿生〜抽水植物 コガマ  ●湿生植物 エゾアブラガヤ
サワシロギク
Fig.9 開花しはじめたサワシロギク
市内の山間にある小湿地でサワシロギクの開花が始まっていた。サワシロギクの花は開花当初はその名のとおり白色であるが、開花終り近くになると淡紅色〜紅色となる。 開花初期であるため湿地で白い花がよく目立っていた。キク科シオン属の草本であるが、湿地に適応した結果葉は細くなり、花がない時期にはシオン属とは判り難い。  (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
●湿生植物 サワシロギク
サワヒヨドリ・ミズオトギリ
Fig.10 田の縁に見られたサワヒヨドリとミズオトギリ
Fig.8 の休耕田のすぐ近くにある水田の縁に見られたもので、周辺は小さな溜池が多数点在し、西宮市内でも植生が多様性に富んだ二次的自然度の高い場所である。 サワヒヨドリは湿った草地から溜池畔、湿地にまで広くふつうに見られるが、ミズオトギリは自然度の高い場所でしか見られない。 オトギリソウ科の草本の大部分が午前中に開花するのに対して、ミズオトギリはふつう午後4時頃になってから開花する。  (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
●湿生植物 サワヒヨドリ  ●湿生植物 ミズオトギリ
アゼオトギリ
Fig.11 アゼオトギリ
比較的よく出掛ける摂津地方のフィールドの水田の畦に生育していたもので、これまで午前中に訪れたことがなかったため見落としていた。 兵庫県では神戸市以西に局所的に分布が確認されており兵庫県RDB Bランクとなっている種であり、摂津地方では初めての記録となる。 山際の農道脇の水路や湿地でよく見かけるサワオトギリと似ているが、花はサワオトギリよりも大きく花弁の長さは8mm前後で、黒腺や明点があり、葉の長さに比べて幅が広い。 見つかったのはわずか5個体で、大切に見守りたいものである。
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●湿生植物 アゼオトギリ
コシンジュガヤ
Fig.12 コシンジュガヤ
溜池畔にある湧水湿地上部にヌマガヤ、ノハナショウブなどとともに生育していた。 溜池土堤下部の湿った草地にも現われ、ススキなどの大型草本と混生する場合は草丈がときに1m近くになることがある。 シンジュガヤの名は果実が球形白色であることから付いたものだが、ルーペで拡大して見ると表面には格子模様があり自然の造形の妙を感じる。 コシンジュガヤは前回紹介したマネキシンジュガヤよりもふつうに見られるが、自然度の高い場所で見られることが多い。
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●湿生植物 コシンジュガヤ
ユウスゲ
Fig.13 ユウスゲ
三田市の溜池土堤でユウスゲが開花していた。すでに開花全盛期は過ぎており、本当は群れ咲く画像を掲載したかったが花の拡大画像となり残念である。 ユウスゲは兵庫県北部では大きな群落が見られるが南部では稀となり、溜池土堤や棚田の湧水のある土手に局所的に見られる。 ノカンゾウと比べると果実を多く付けるほうであるが、生育領域はそれほど増えている傾向は見られない。
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●湿生植物 ユウスゲ
コバギボウシ
Fig.14 コバギボウシ
溜池直下の湿った草地にサワシロギクとともに生育している。 よく似た種にミズギボウシがあるが、コバギボウシは花序につく花数が多く、葉には明瞭な葉柄があり、より人為的な環境に多く生育しミズギボウシと混生している場所を見たことは無い。 ミズギボウシは自然度の高い溜池畔の湿地、溜池土堤直下で特にオオミズゴケを伴って出現することが多いが、コバギボウシは用水路脇などにサワヒヨドリ、オミナエシなどの湿性草原に現われる種とともに見られることが多い。 開花期はミズギボウシよりも2〜3週間ほど早い。
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●湿生植物 コバギボウシ
キキョウ
Fig.15 溜池土堤に群生するキキョウ
定期的に草刈りや野焼きの行われる溜池では多様性に富んだ草地環境が残され、各地で稀少種となっているキキョウの群生がみられることがある。 ここでは、ネザサや小型化したアシの間に群生している。土堤の下部ではムカゴニンジン、ヤマラッキョウ、ノハナショウブ、コシンジュガヤなどが見られ、 中部ではユウスゲ、ミヤコアザミ、ワレモコウ、イシモチソウなどが生育している。
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●関西の花 キキョウ
メガルカヤ
Fig.16 溜池土堤のメガルカヤ
兵庫県下の管理の行き届いた溜池土堤では必ず見られる種でありメガルカヤやワレモコウ、オミナエシが生えていれば、他の珍しい種の出現の期待が高まる。
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●関西の花 メガルカヤ
コガンピ
Fig.17 溜池土堤のコガンピ
コガンピは草本性の落葉低木。キキョウ、オミナエシ、ワレモコウ、カワラナデシコ、カワラマツバなどとともに出現することが多い。
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●関西の花 コガンピ
テンツキ
Fig.18 テンツキ
溜池土堤下部の湿った半裸地にイヌノハナヒゲとともに群生していた。テンツキは湿地や溜池畔、水田の畦、湿った草地まで広く見られ、適応範囲は広い。 テンツキより大型のものにクグテンツキがあり、淡路島や赤穂など県下でも温暖な地域に生育する。  (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
●湿生植物 テンツキ
キツネノカミソリ
Fig.19 キツネノカミソリ
竹林の林縁部に群生していた。向陽地よりも半日陰となる場所に多いが、溜池土堤や棚田の土手にも群生していることがある。 春から初夏にかけて根生葉を繁らせて光合成を行って地下の鱗茎に栄養分を蓄え、根生葉が枯れた後、盛夏に花茎だけを上げて開花する。 似たものにオオキツネノカミソリがあるが、こちらは山地の林下に生える。  (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
ハタガヤ
Fig.20 海浜に生育するハタガヤ
わずかな空き時間を利用して市内の香枦園浜へ向かった。 西宮市内には西から香枦園浜、御前浜、鳴尾浜(甲子園浜)が並び、そのうち香枦園浜と鳴尾浜では海浜植物群落が見られる。 ハタガヤは香枦園浜のみで見られるが個体数は非常に多い。 ハタガヤは小型の1年生のカヤツリグサ科草本であり、その大きさはマツバイや小型のハリイといった感じである。
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●関西の花 ハタガヤ
ハマゴウとクマバチ
Fig.21 ハマゴウに訪花したクマバチ
香枦園浜には20m四方に匍匐して広がったハマゴウの大株があり、毎年夏になると沢山の花をつける。花には数多くの訪花昆虫が訪れ充実した刮ハも形成される。 付近の浜辺にはこの大株が母体となった小さな株が見られ、そのような個体は鳴尾浜にも見られる。 ハマゴウはたとえわずかな個体数でも大株に生育すると、種子生産量は相当なもので、周辺に広がる能力がかなり強いようだ。
一昨年までは香枦園浜にハマナタマメが生育していたが、現在では消滅して見られなくなり残念である。  (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
●関西の花 ハマゴウ
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丹波から播磨地方へ
播磨地方の溜池
Fig.1 水生植物の豊富な播磨地方の里山の溜池
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丹波地方南部から播磨地方の溜池

現在調査中の地域である丹波中北部の溜池ではヒシ、ホソバミズヒキモ、イトモばかりが見られ、少し飽きがきていたので、丹波南部から播磨地方に足を伸ばしてみました。 事前の調査や情報も集めずの行き当たりばったりの溜池巡りでしたが、出現種数は多く、期待通り多くの水生植物を見ることができていい気分転換となりました。 これまでにもフィールド・メモで記したことですが、丹波地方では南部を除いて浮葉植物群落の出現種数は播磨地方に比べて少なく、出現頻度はヒシを除くと播磨地方が圧倒します。 播磨地方の里山の溜池では新しく造られたものや、富栄養化が進んだものを除いて、ジュンサイ、ヒツジグサ、フトヒルムシロ、ホソバミズヒキモなどの浮葉植物が単独、 あるいは混生して浮葉植物群落がよく発達しています。 こういった溜池では水中に沈水・浮遊植物も多く、小さな溜池ではイヌタヌキモ、イトモ、タチモ、ミズオオバコ、沈水状態のオオハリイなどの水草が密生している場所が見られ、 水際ではホシクサ科植物、サワトウガラシなどの1年生草本が見られ、古い溜池ではホソバヘラオモダカ、アギナシ、ヤマトミクリ、ミズトラノオなどの稀少な湿生植物も見られます。 このほか、丹波地方ではほとんど眼にすることがないトウカイコモウセンゴケ、自生地の少ないイトハナビテンツキなどが多く見られます。

サギソウ
Fig.2 溜池畔のサギソウ
溜池畔の水際でチゴザサの株が抽水状態となっているところでサギソウが開花していた。 ここではまだ開花がはじまったばかりで、開花しているのは5個体ほどで、どの花も新鮮だった。  (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
●湿生植物 サギソウ 
ミミカキグサ
Fig.3 地表に根生葉を広げたミミカキグサ
ミミカキグサは開花最盛期で多くの溜池畔で開花中だった。過湿の裸地に生育するもので、小さな根生葉をあちこちで広げているのがよくわかる。
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●湿生植物 ミミカキグサ
開花中のアブラガヤ
Fig.4 開花中のアブラガヤ
前回、エゾアブラガヤを紹介したので、今回はアブラガヤとアイバソウを。 開花中のもので少し解りにくいかもしれないが、小穂は楕円形。アイバソウとは花序枝の先に小穂がふつう3個つくことにより区別される。 兵庫県内にはごくふつうに見られ、西宮市内にも多い。
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●湿生植物 アブラガヤ
アイバソウ
Fig.5 アイバソウ
アブラガヤとは花序枝の先に小穂が単生することによって区別される。 花序枝の先に小穂が単生するため、エゾアブラガヤやアブラガヤよりも花序はスッキリした印象を与える。 アブラガヤ同様よく見られる種だが、若干山地よりの湿地に多い傾向がある。  (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
●湿生植物 アイバソウ
マネキシンジュガヤ
Fig.9 マネキシンジュガヤ
溜池畔の半裸地状の場所で群生しており、開花が始まっていた。 自然度が高く、比較的安定した湿地で、かつ裸地〜半裸地がないと見られない1年生の湿生植物であり、兵庫県RDBではCランクに位置付けられている。 花序が屈曲する様子を「招いている様」にあてて名付けられたもので、印象に残る憶えやすい命名だと思う。 マネキシンジュガヤはほぼ無毛だが、毛の多いものはケシンジュガヤとされ、マネキシンジュガヤほど多くは見られない。
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●湿生植物 マネキシンジュガヤ
マネキシンジュガヤ群落
Fig.10 マネキシンジュガヤの群落
みずみずしい淡緑色の草丈の低い密生した草本は全てマネキシンジュガヤである。これほどの群落が見られる場所は県下でも少ないのではないかと思う。 画像右下に見えるヤマイや多湿のため矮小化したネザサやススキのほか、ミミカキグサ、ホザキノミミカキグサ、コケオトギリ、陸生形のタチモ、サワトウガラシ、アリノトウグサ、モウセンゴケ、サギソウ、 イトイヌノハナヒゲ、コイヌノハナヒゲ、ツクシクロイヌノヒゲなどとともに生育している。
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コアゼガヤツリ
Fig.8 コアゼガヤツリ
コアゼガヤツリはその名の通り水田の畦にも現われるが、休耕田、溜池畔、自然度の高い湿地まで見られ、その適応範囲は広く兵庫県下ではふつうに見られる種である。 近縁にツルナシコアゼガヤツリとミズハナビ(ヒメガヤツリ)があるが、ミズハナビは兵庫県下のものはまだ見たことはなく、ツルナシコアゼガヤツリにいたっては、 そういう種もあるという認識程度で、まだ実態がよく掴めない。
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●湿生植物 コアゼガヤツリ
キガンピ
Fig.9 キガンピ
キガンピは湿地や溜池畔、谷地状となった細流脇などに見られる落葉低木で、兵庫県下ではふつうに見られる。 よく似たものにガンピがあり、崩壊地などに先駆植物として生育する。キガンピは葉を対生しほとんど無毛だが、ガンピは葉が互生し、若枝や葉に軟毛が多いことによって区別される。 崩壊地に成立した小湿地などでは両種が隣り合って生育していることもある。画像のキガンピの右に見える花序はノギランのもの。
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イヌノハナヒゲ
Fig.10 イヌノハナヒゲ
長く有花茎を伸ばしている草本がイヌノハナヒゲである。兵庫県下では低層湿原の常在種であり、貧〜中栄養な湿地環境に広く生育する。 近縁種にオオイヌノハナヒゲ、コイヌノハナヒゲ、イトイヌノハナヒゲなど生育条件によっては酷似するものがあり、正確な同定には刺針状花被片の観察が不可欠であるが、 もっとも普通に見られるものはこのイヌノハナヒゲである。画像はジュンサイ群落のよく発達した溜池畔に生育しているもので、チゴザサ、ヌマトラノオなどの溜池畔常在種とともに生育していた。
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●湿生植物 イヌノハナヒゲ
ミカヅキグサ
Fig.11 ミカヅキグサ
ミカヅキグサは先のイヌノハナヒゲと同属であるが、古くからある安定した湿地環境にのみ生育する。 そのためイヌノハナヒゲよりも眼にする頻度ははるかに少なく、兵庫県RDBではCランク種とされている。 また西日本ではヌマガヤ、ウメバチソウなどとともに氷河期の遺存種とされている。
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●湿生植物 ミカヅキグサ
ヒツジグサ群落
Fig.12 ヒツジグサ群落
ヒツジグサは私のよく出かけるフィールドでは丹波地方南部より南の自然度の高い溜池ではふつうに見られる。 画像は播磨地方の国道沿いにある大きな溜池に生育するもので、車窓からヒツジグサが楽しめる贅沢な環境である。 手前には国道沿いにあるためか外来種のハゴロモモ(フサジュンサイ、カボンバ)が繁茂しているが、池の別の場所ではヒルムシロ、フトヒルムシロ、ホソバミズヒキモ、タチモなどが見られる。  (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
●浮葉植物 ヒツジグサ
ジュンサイ、ホソバミズヒキモ
Fig.13 ジュンサイとホソバミズヒキモ
播磨地方の丘陵部住宅地区の溜池で見られたもので、Fig.10画像と同じ場所のものである。 宅地地域内でイヌノハナヒゲやジュンサイ、ホソバミズヒキモなどが見られることに驚く。同じ地区内の別の溜池にはタチモ、オオホシクサが見られた。 ジュンサイはすでに花期が終わって、水中に沈んだ花茎には果実が形成されつつあった。ホソバミズヒキモはまだ開花していない状態だった。
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●浮葉植物 ジュンサイ  ●浮葉植物 ホソバミズヒキモ
溜池の水中
Fig.14 Fig.1溜池の水際水中
播磨地方の里山には水生植物の豊富な溜池が多い。この溜池は谷津奥にあるわずか150u程度の小さなものだが、フトヒルムシロとヒツジグサが水面を覆い、 ミズオオバコ、イトモ、イヌタヌキモが水中に繁茂し、溜池畔にはホソバヘラオモダカが生育し、花期間近のタチコウガイゼキショウと思われるものも見られた。
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●浮葉植物 フトヒルムシロ  ●沈水植物 ミズオオバコ  ●沈水植物 イトモ
●浮遊植物 イヌタヌキモ
ホソバヘラオモダカ
Fig.15 ホソバヘラオモダカ
Fig.14の溜池直下の用水路脇で生育していたもの。 ホソバヘラオモダカは兵庫県播磨地方の特産種で、環境省絶滅危惧TA類(CR)、兵庫県RDB Aランク種に指定されている。 この谷間には比較的多くの個体が見られたが、播磨地方でも分布は局所的である。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
●抽水植物 ホソバヘラオモダカ
ヤマトミクリ
Fig.16 ヤマトミクリ
山間の溜池畔にヤマトミクリの群生が見られた。比較的規模の大きな群落で、岸辺に抽水状態で生育するものから深い場所で沈水状態で生育するものまでみらた。 当然のことながら花茎をあげているのは抽水状態のものだけである。水底では沈水植物は沈水形となったハリイsp.だけが密生し、水面上にはヒツジグサが見られた。 また池畔にはホソバヘラオモダカ、アギナシ、コマツカサススキ、ミソハギ、ヌマトラノオ、ヒロハノコウガイゼキショウが生育していた。
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●抽水植物 ヤマトミクリ
ミソハギ
Fig.17 ミソハギ
この時期の用水路脇や溜池畔を飾るお馴染み草本である。ミソハギのない水際は兵庫県内の里山にはないと言い切れるほどポピュラーな種で、里山の盛夏を特徴付ける種である。 古くから墓前に供える「盆花」として親しまれ、オミナエシやキキョウなどとともに畑の隅に植えられていることもある。 休耕田や中栄養〜やや富栄養な溜池畔の湿地では大きな群落をつくり、優占種となることもある。
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●湿生植物 ミソハギ
オミナエシ
Fig.18 オミナエシ
前回紹介したカワラナデシコ、次に紹介するキキョウとともに「秋の七草」の1つとされる。草原性植物であるが湿性草原を好み、湿地周辺にもよく出現する。 草原環境の減少とともに、少しずつ姿を消しつつある植物である。画像のものはかつては湿地だったであろう別荘地の草地に点在しているもので、イヌノハナヒゲ、 テンツキ、アリノトウグサなどとともに見られた。
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●湿生植物 オミナエシ
キキョウ
Fig.19 キキョウ
茅場などの草原環境の管理放棄などにより極端に減少した種であり、環境省絶滅危惧U類(VU)に指定され兵庫、岡山、福島の3県を除いての都道府県で絶滅危惧種となっている。 兵庫県では播磨地方を中心とした溜池の土堤や棚田の土手草地に見られるため、以前はRDB Bランク種となっていたが、指定解除となった種である。 西宮市内ではすでに絶滅したと思われ、全く姿を見ない。
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●関西の花 キキョウ
開花しはじめたホシクサ類
Fig.20 開花しはじめたホシクサ類
播磨地方の低地〜丘陵部の溜池畔ではホシクサ類の開花が始まった。 ホシクサ類の開花がが始まったということは湿生・水生植物の全盛シーズンということであり、年内にどれだけ調査予定地を廻れるのかと気が焦りはじめる。 この溜池ではホシクサ、オオホシクサ、ツクシクロイヌノヒゲが開花しはじめていた。池内にはノタヌキモが生育しているが、こちらの開花はまだまだ先のようであり、 花芽も見つからなかった。  (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
●湿生植物 ホシクサ  ●湿生植物 オオホシクサ
●湿生植物 ツクシクロイヌノヒゲ
サワトウガラシ
Fig.21 サワトウガラシ
ゴマノハグサ科の水田雑草の中ではアゼナ類に次いで開花の早い種で、同時期にアゼトウガラシも開花しはじめる。 Fig.20のホシクサ類が開花していた溜池畔に生育しているもので、オオハリイ、ホシクサ類、ノテンツキ、イヌノハナヒゲ類、タチモなどと混生している。 丹波地方や播磨地方に見られるものは紫色の強い花を咲かせるものが多い。
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●湿生植物 サワトウガラシ
イトハナビテンツキ
Fig.22 イトハナビテンツキ
播磨地方丘陵部の農道脇の湿った芝地に生育していた。 イトハナビテンツキは丹波南部から播磨にかけて比較的よく眼にする種であるが、地味で小型なカヤツリグサ科草本であるため見過ごされやすいようだ。 小穂も非常に小さく、開花しているのか熟しているのか、ルーペで見ないと解らないほどだ。西宮市内では稀な種である。  (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
●湿生植物 イトハナビテンツキ
コウヤワラビ
Fig.23 用水路脇のコウヤワラビ
コウヤワラビは兵庫県では高標高地の湿地か棚田の土手、用水路脇などで見られる種で、南部での自生地は少ない。 棚田の土手や用水路脇に生育するものは頻繁な刈り込みに遭い、胞子葉の新芽が光合成の必要から急遽栄養葉となった異形葉が見られることがある。 画像右下に異形葉を出したものが見られ、裏面には胞子嚢が入っていない不完全なソーラスが見られた。
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●湿生植物 コウヤワラビ
オオハキリバチ
Fig.24 ナツフジを訪花するオオハキリバチ
ナツフジの果実を撮影していたところ、オオハキリバチが訪花し、あちこちの花穂で忙しく吸蜜と花粉集めをしはじめた。カメラを向け、連写すると偶然によい訪花画像が撮れた。 住宅街にもふつうに見られるようで、これまで自宅の庭のカエデの葉を丸くきれいに切り取って持ち去っていくのを何度か見かけている。
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●関西の花 ナツフジ
スズメバチの仲間の巣
Fig.25 スズメバチの仲間の巣
溜池土堤に切られた排水溝に掛かるコンクリートの橋の下に大きなスズメバチの中の巣が掛かっていた。用心して近づくとハチの姿は全く見えず、すでに放棄されてしまった巣だった。 直径は60cmを超え、かなり大きなもので恐らくキイロスズメバチのものではないかと思う。紙状の外壁の模様は墨を流したかのように美しい。 溜池に向かう際にはハチの巣が掛かった橋の上を通っており、もしハチが今も巣を使っていたらと考えるとゾッとした。
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夏の溜池とその周辺
雨後の溜池
Fig.1 夕立後の靄が立ち昇る山間の溜池
水面の浮葉植物はヒシ。  (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
丹波地方の溜池と土堤周辺の植物達

今年は梅雨に連日しっかりと雨が降ったためどこの溜池もほぼ満水状態で岸辺でゆっくり観察ができない。 猛暑だからといって尻込みしているわけもいかず、ウェーダーを履いての炎天下の調査はなかなか大変なものがあります。 調査に集中するあまり、知らず知らずのうちに熱射病寸前なんてことにもなりかねないので注意したいものです。
今回は丹波地方の溜池やその周辺の植物、特に草刈りによって草原環境が保たれている溜池土堤の植物を多く取り上げました。 全国一の溜池数を誇る兵庫県では幸いにも棚田周辺のほかに草刈りや野焼きなどで維持管理された溜池土堤に草原環境が残されており、 放置していれば遷移によって数年で簡単に消滅してしまう草原環境に依存する種が、人的な営為によって生存し続けている例が数多く見られます。 以前に紹介したサイコクイカリソウやスズサイコ、ツチグリなどがそれらの例で、全国的に減少しすでに国内での自生地が限られている種もあります。 これら草地環境に依存して減少傾向が強い草原性植物については、いずれまとめて紹介するページを作成したいと考えています。
紹介した画像はほとんど7月下旬に撮影したもので、今回は時系列に配列せず溜池→溜池畔→溜池土堤→休耕田→水田→用水路や河川→棚田草地→その他の生物という生育環境を重視した順序で並べました。

アシカキとヒシ
Fig.2 アシカキとヒシ
釣師がへらぶな釣りをのんびりと楽しんでいる溜池に生育しているもの。 アシカキは丹波地方では記録の少ないイネ科植物だったが、昨年からの調査でそれほど多くはないものの、各地の溜池で生育していることが解ってきた。 栄養塩類の多い溜池では大きな群落をつくっていることが多いようだ。 ヒシは丹波地方の溜池ではほぼ常在種に近い浮葉植物。近縁のオニビシ、コオニビシや稀少なヒメビシは現在のところ確認できていない。
この溜池では他にマコモ、ミズユキノシタ、外来種のホソバツルノゲイトウが生育し、釣師が釣り糸を垂れる傍らの草地ではカワラナデシコが満開だった。 この池ではドブガイの殻もころがっていた。
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●湿生植物 アシカキ  ●浮葉植物 ヒシ
イトモ
Fig.3 池畔の浅瀬に打ち寄せられた結実したイトモ
山間の水の澄んだ谷池に生育していたもので、すでに開花期は終り花茎には数個の果実をつけていた。 イトモは水生植物のなかでも最も早く開花・結実する種であり、イトモの開花が水生植物のシーズンを知らせる。 丹波地方では山間の流れを堰き止めて造られた谷池を中心に比較的貧栄養な水質の溜池に見られることが多い。  (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
●沈水植物 イトモ
成長期のサイコクヌカボ
Fig.4 成長期のサイコクヌカボ
Fig.3のイトモが生育していた溜池の浅水域に抽水状態で10数個体が生育していた。 丹波地方の溜池では初めて眼にするものであり、過去に採集された記録もない。 県内でこれまで記録があるのは播磨、西神戸、淡路島など積雪量の少ない県南部であり、比較的多雪な丹波地方の1ヵ所の溜池に隔離的に出現したのは興味深いところである。
この池では先のイトモのほか、ミズユキノシタ、ヌマトラノオ、キツネノボタン、ヒメサルダヒコ、コシロネ、ミゾカクシ、ネコノメソウ、ミズタマソウ、ケチヂミザサ、 ハナタデ、ボントクタデ、ミゾソバ、ニョイスミレ、ヤブヘビイチゴ、ドクダミ、シケシダ、ゲジゲジシダなど丹波地方の水辺でよく見られる草本が生育し、 水域ではイトモのほか、若干のヒシとフトヒルムシロが見られた。
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●湿生植物 サイコクヌカボ
ハナヤスリsp.
Fig.5 沈水状態で見られたハナヤスリsp.
ハナヤスリの仲間がこのような沈水状態で生育しているのははじめて眼にした。 最初見つけた時はコヒロハハナヤスリだろうと安易に考えていたが、帰宅後あらためて標本を精査すると、栄養葉の基部には明瞭な葉柄はなく、 胞子葉の柄を抱く形になっており、乾燥後にも葉脈が透けて見えるようなことはなく、ヒロハハナヤスリである可能性も出てきた。 ただ、長期間沈水状態で生育していて葉が水中に適応した形となっている可能性も考えられ、どちらの種であるのか今のところ結論できない。 溜池の土堤には草刈り直後ということもあってか生育が確認できず水中のみに見られ、沈水状態のイヌノヒゲsp.、ハリイの生育箇所よりも深い水深60cmの場所にまで進出している。 春先に減水した溜池で胞子葉を出したのち、水没してそのまま生長が休止していると見ることもできるが、沈水状態に対してかなりの耐久性があることは間違いないだろう。 なお水底にみられる淡水巻貝はマルタニシである。  (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
溜池畔の湿原
Fig.6 水際に湿原の広がる溜池
丹波地方の南部には池畔に湿原が広がる場所がいくつかある。ここはゆるやかな棚田の間にある溜池で、池畔にチゴザサ、ミソハギが優占する湿原が広がっており、 湿原内には軟泥が溜まりミソハギ、ヤノネグサ、ヌマトラノオ、アゼスゲ、ショウブなどが生育するやや中栄養な場所と、 基層が半ば露出して湧水がにじみ出しイヌノハナヒゲ、ノハナショウブ、ヌマガヤなどが生育するやや貧栄養な場所が見られ、 中間部分はさまざまな種が入り混じり興味深い植生となっている。 水際ではガマとカンガレイの群落がよく発達し、水域ではヒシが多く、イヌタヌキモも見られた。  (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
エゾアブラガヤ
Fig.7 湿原に見られたエゾアブラガヤ
Fig.6の湿原上部のネザサとの境界や侵入したアカメヤナギやハンノキの際に生育しており、草丈は2mに及びアブラガヤとははっきりと区別できる。 これまで丹波地方で見かけたことはなく、標本も採られていないが、他の場所で見つかっても不思議ではないと思われる。 兵庫県下では自生地が点在するが、アブラガヤやアイバソウ、後出のコマツカサススキと比較すると自生地は限られる。 南部や低地のものは大型化し草丈が2m近くまでになるが、標高1000m近くの湿地や撹乱地に生育するものはアブラガヤと草丈がほとんど変わらず紛らわしいかもしれない。  (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
●湿生植物 エゾアブラガヤ
コマツカサススキ
Fig.8 開花しはじめたコマツカサススキ
コマツカサススキは比較的安定した湿地や溜池畔に出現することが多い。 コマツカサススキが出現する場所では同属のアブラガヤやアイバソウも見られることが多く、ときに両種の雑種らしき小穂が細く不稔の個体が見られることがある。 これらクロアブラガヤ属の中で、シデアブラガヤというもう1つ実態のはっきりしない種があり、小穂が細長いことが特徴とされているが、 もしかしたら両種の雑種がそれにあたるものではないかと最近考えるようになった。 これについてはさらに調べていく必要があるだろう。
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●湿生植物 コマツカサススキ
湿原内の湧水溜まり
Fig.9 池畔湿原内に生じた湧水溜まり
Fig1の溜池畔に広がる湿原内に見られたもので、満水時には溜池と水域がつながっている。 この湿原ではミソハギ、キツネノボタン、ミゾソバが大部分を占め、植生は先のFig.7のものよりかなり単調である。 溜まりの中ではミズユキノシタが沈水状態で生育するほか、セリ、イボクサ、ムツオレグサなどの水田雑草が見られる。 またツボゴケやカワゴケらしき蘚苔類が水中で繁茂している。 この溜池の水際ではアゼスゲ、ヤマアゼスゲ、ヒメガマの群落がよく発達している。
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溜池土堤
Fig.10 夏の溜池土堤
溜池の土堤は棚田の土手と並んで草原性植物の重要な生育場所となっている。 圃場整備によって稲作の水源確保は大きく改善されたが、山間の水田や一部の水田では未だに欠かせない水源となっており、土堤の管理は農家にとっては重要なものとなる。 管理上の利便性から年1〜数回の草刈りは欠かせず、ところによっては春先に野焼きも行われ、これによって樹木、高茎草本やクズなど生育が抑えられ、草原性植物の生育が可能となっている。 土堤は溜池に接しているため、その高さの位置によって水分条件が異なり、上部では乾燥に強い植物が生育し、外側の下部では浸透水の湧出によって含有水量が多くなり 湿生植物が生育する。 画像では土堤上部では乾燥地に強いワラビが目立ち、中ほどから下にかけては湿った草地や湿地を好むヒメシダが群生している。
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オオミズゴケ群落
Fig.11 土堤外側下部に出現したオオミズゴケ群落
長らく改修が行われていない土堤の浸透水がしみ出す最下では時にオオミズゴケ群落が出現し、そこに草原性植物とともに多くの湿生植物が生育する。 画像はFig.10の最下に帯状に見られたオオミズゴケ群落。土堤最下は排水路をはさんで水田の畦と接するため畦畔植物の生育も見られる。 画像に見られるもののうちノアズキは草原性、シロツメクサ、ヤハズソウは畦畔植物、ホソバノヨツバムグラ、ハシカグサ、サワヒヨドリ、タチカモメヅルは湿生植物である。 このほか湿生植物ではヒメシダ群落が発達し、ヌマトラノオ、ミズオトギリ、コケオトギリ、サワオトギリ、シカクイ、オオハリイ、ノテンツキなどが見られた。
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●湿生植物 オオミズゴケ
コカモメヅル
Fig.12 コカモメヅル
コカモメヅルは丹波地方では溜池土堤のほか林縁草地や果樹園の草地、棚田の土手などに出現する草原性植物で、いずれの場所でも草刈りがなされ良好な草原環境が保たれている場所で見られる。 良好な草原環境が維持されている指標となる種であり、兵庫県RDB Cランクに位置付けられている。 画像のものはFig.10の土堤中部から下部にかけて点々と見られヤマノイモやナツフジなどのつる性植物と絡み合って生育し、乾いた草原よりもやや湿った草地を好む傾向がある。 次に紹介するタチカモメヅルほど水分条件は限定されないと考えられる。
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●関西の花 コカモメヅル
タチカモメヅル
Fig.13 タチカモメヅル
タチカモメヅルはコカモメヅルよりも生育環境は限定され、丹波地方では自生地も限られている。 コカモメヅルよりも湿った草地や湿地、溜池畔に出現するが、草刈りは為されても土壌の撹乱は起きない安定した場所に生育する。 Fig.10画像の土堤ではコカモメヅルの見られない土堤最下のオオミズゴケ群落中のみに見られたが、まだ開花にはいたっておらず、 画像の個体は100m程離れた棚田の土手の下部に生育していたものである。 花は葉腋に単生し、コカモメヅルよりもはるかに大きい。  (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
●湿生植物 タチカモメヅル
カワラナデシコ
Fig.14 カワラナデシコ
カワラナデシコは里山の草地環境に生育し、溜池の土堤にも頻出する植物である。 都市近郊の里山では休耕化による草地の管理放棄と花が美しいための盗掘によってすっかり姿を消してしまい、西宮市内でもごく少数の集団しか残っていない。 丹波地方では棚田の土手、農道脇、溜池土堤などで比較的よく眼にすることができる。 画像のものは激しい夕立の後に撮影したもので、花が少々くたびれているが、溜池土堤の各所でカワラマツバとともに開花しており、見事な眺めであった。  (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
●関西の花 カワラナデシコ
オニユリ
Fig.15 オニユリ
カワラナデシコ同様、里山の草地環境に出現する種で、前回のフィールド・メモで紹介したヤブカンゾウ同様、史前帰化植物とする説があり、ヤブカンゾウと同じく果実は形成せず、 地下の鱗茎と葉腋にできるムカゴによって繁殖する。 本種も都市近郊では減少し、西宮市内ではあまり見られないが、丹波地方ではよく見かける種である。 ヤブカンゾウに対する在来種のノカンゾウがあるように、オニユリに対してはコオニユリがあり、こちらは葉腋にムカゴをつくらず結実し、オニユリよりもはるかに稀である。
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●関西の花 オニユリ
土堤のチドメグサ類
Fig.16 溜池土堤のチドメグサ類
山間の谷池の土堤外側の中ほどにミヤマチドメとオオバチドメが混生していた。 画像上の葉の大きなものがオオバチドメ、画像下の葉の小さなものがミヤマチドメである。 生育していたのは大きな溜池の土堤で、下部の多湿の場所ではチドメグサとノチドメが生育していた。 チドメグサ類はチドメグサ、ノチドメ、オオチドメ、オオバチドメは一応明瞭に分かれるが、ミヤマチドメとヒメチドメについてははっきりとした境界はなく、 どちらか一方をとると、もう一方は実態のよく解らない種となってしまう。 ここでは「兵庫県産維管束植物」に従ってミヤマチドメとしたが、将来的にはミヤマチドメ、ヒメチドメ、どちらにころんでもおかしくはない種である。
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オトコゼリ
Fig.17 オトコゼリ
オトコゼリは減少傾向の著しい種として兵庫県版RDB2010で新たにBランクに位置付けられた。 溜池畔、やや富栄養な湿地、休耕田、用水路脇などで見られるが、いずれの自生地でも個体数は少なくBランクは妥当な線であると思う。 これまで眼にした自生地では休耕田のものが生育規模が大きく、中でも西宮市と三田市の休耕田のものが群を抜いていた。 これらの休耕田は遷移が進むといずれは消滅することが考えられ、西宮市の休耕田は売地となっており、開発されると即消滅してしまうと思われる。 画像のものは丹波地方のFig.6の溜池土堤下部にカキランなどとともに生育しているもので、大株であったが確認できたのは3株のみであった。 この日は他の溜池土堤でも生育を確認したが個体数は少なく、丹波地方南部での総個体数は、同じく兵庫県RDB Bランクに位置付けられるキキョウを下回ると思われる。
追記:その後、キキョウは兵庫県RDB 2010でランク外となっており、オトコゼリのほうがはるかに危惧度は高いと見做されているのを知った。
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●湿生植物 オトコゼリ
用水路枡に生育するカワモヅクsp.
Fig.18 溜池直下の用水枡に生育するカワモヅクsp.
溜池土堤の直下には用水枡が設けられていることがあり、そこに湧水の流入がある場合は画像のようにカワモヅクの仲間が見られることがある。 ただし、発生時期は晩秋から晩春までで、夏の間には見られず、画像を撮影したのも5月始め頃である。 この仲間は種類が多いうえ、区別が難しく、検鏡しなければ判断できない。 特殊な環境に生育し、開発などによって全国的に減少傾向にあり、多くの種が絶滅危惧種に指定されている。
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植栽されたヒメイワダレソウ
Fig.19 土堤内側の斜面に植栽されたヒメイワダレソウ
地図上で隣接する2つの溜池に調査に行くと、一方は埋め立てられて更地となり、もう一方は改修されて面積が広げられていた。 広げられた溜池の土堤内側の一画にグランドカバーとして使われるヒメイワダレソウが植栽されていた。 水田の畦で雑草対策に植栽されているのを見たことがあるが、溜池の土堤に植栽されているのは初めて見た。 確かに成長速度は速くグランドカバーにはある程度有効だろうが、果たしてワラビやイワヒメワラビ、セイタカアワダチソウなどの繁殖力旺盛な高茎草本の侵入を防げるかどうかは疑問だ。 それはさておき、事業者はなんと兵庫県であり、生物多様性への配慮を欠いたこのような事業を行っていてよいものなのかと。  (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
谷池の土堤から俯瞰する休耕田
Fig.20 谷池の土堤から俯瞰する谷津の休耕田
谷津の際奥に谷池がある場合、その直下の水田が休耕されると、その水田は湛水状態の休耕田となることが多く、そこでは数多くの湿生・水生植物が生育する。 画像はかなり規模の大きい谷池の土堤上から谷津を俯瞰したものだが、数枚の休耕田が連なっていて、その色合いからそれぞれの田が微妙に植生が異なっていることが伺える。 最上段ではチゴザサとセリ、ヤノネグサに覆われて水面は見えず、2段目にはコナギやイヌホタルイなどの水田雑草が多く、水面にはヒシが現われる。 3段目ではさらに水面が広がりヒシのほかガマが現われ、水中にはホッスモやヤナギスブタが出現する。 このような田毎の個性が現われる要因は一体何なのだろうか。
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谷津の休耕田
Fig.21 谷津の休耕田
Fig.20画像中の上から3段目の休耕田の様子。水面にはヒシが浮かびガマの群落があって、沼地の様相となっている。 この谷津の休耕田の中では最も出現種数の多い休耕田で付近の水田中には見られないイヌノヒゲ、アカバナなども生育することから休耕してかなりの年月を経ているものと考えられる。 ひとつ下の休耕田ではアカバナ、セリ、ホソバノヨツバムグラが密生し、全く様相が異なる。
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休耕田のホッスモ
Fig.22 休耕田に生育するホッスモ
Fig.1の溜池近くの休耕田に生育していたもの。まだ果実はつけていなかったが、葉鞘の口部が耳状に突出するため、近似種と容易に区別できる。 ホッスモは兵庫県内では溜池や水田、休耕田などで比較的普通に見ることができる。 丹波地方でも見かけるが、その割に標本が少ないのは、これまで水田雑草にあまり関心が持たれなかったためだろう。
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●沈水植物 ホッスモ
シソクサ幼苗
Fig.23 水田中で発芽したシソクサの幼苗
矢印で示したものがシソクサの幼苗。 水田に生育するゴマノハグサ科植物でもシソクサは発芽時期が遅いほうで、丹波地方ではアゼナが沢山開花する7月頃にようやく幼苗が見られるようになる。 この時期にはアゼトウガラシもかなり成長しているが、まだ花は付けていない。 シソクサの水中での幼苗は成熟した個体とは全く様相が異なるが、特徴的な姿をしているため見間違うことはない。
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●湿生植物 シソクサ
用水路内に群生するハンゲショウ
Fig.24 用水路内に群生するハンゲショウ
沖積盆地の田園地帯を通る古い用水路内にハンゲショウが群生していた。これまで、丹波地方にハンゲショウの記録はない。 しかし、素直には喜べない。なぜならハンゲショウは古くから茶花として使われ栽培もされるからだ。 用水路内でマコモやサクラタデ、ミゾソバ、キツネノボタンなどと生育し、いかにも自生のように見えるが、周辺に同様に生育している場所がないか調べて慎重に判断する必要がある。  (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
●湿生植物 ハンゲショウ
水路内に群生するヒルムシロ
Fig.25 水路内に群生するヒルムシロ
かなり流速のきつい水路内を一面にヒルムシロが生育していた。流れが速いため浮葉は本来の機能を果たせず、みな水中で流れに翻弄されていた。 ところどころに淡緑色の部分が見えるが、これは沈水状態のアゼナのもの。沈水状態では茎は太く、軟らかくなり、葉も一回り大きくなっていた。 この水路には湧水の流入もあるようで、水路の壁面にはウキゴケが張り付いて生育していた。
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●浮葉植物 ヒルムシロ
ウキゴケ
Fig.26 水路内の壁面に生育するウキゴケ
Fig.25の水路壁面に生育していたウキゴケ。ウキゴケは単純に1種であると扱われているが、実はそうではない可能性があるという。 水田などの土上で生育して胞子を形成し冬期に褐色に枯れるものと、湧水中や溜池に生育し胞子を形成せず常緑のものは分けられる可能性がある。 しかし、両タイプは生育環境によって形態を変化させる可塑性があって、外部形態だけから別のものと判断することは出来ないという。 画像のものは湧水が流入すると思われる水路内に見られるため恐らく後者のタイプだろうが、ここではウキゴケとしている。
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●湿生植物 ウキゴケ複合種
河川内のホソバミズヒキモ
Fig.27 河川に生育するホソバミズヒキモ
小河川の流れの緩やかな場所に水中に浮葉が沈んでいるホソバミズヒキモが見られた。河川内に降りてみると水中には開花中の花も見られる。 ホソバミズヒキモはフラスコモsp.とともに生育し、他の場所では外来種のオオカナダモが目立っていた。 川の上流部にはホソバミズヒキモが自生する溜池があり、そこからフラスコモsp.ともども流されてきて定着したものだろう。 オオカナダモの花も全て水没している。 すぐ下流には可動堰があるため最近になって堰を止めたために増水して、浮葉と花が水没したことが考えられる。
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●浮葉植物 ホソバミズヒキモ
ミズスギ
Fig.28 用水路脇に見られたミズスギ
ミズスギは里山の半裸地斜面に見られる南方系のヒカゲノカズラの仲間である。 多雪地帯ではあまり見られないものだが、今回の調査ではこれまで記録のなかった篠山市の里山の2ヶ所で見出された。 いずれの場所も用水路の脇の斜面の基層が露出し、表面が風化してわずかに土が溜まり、地下水により適湿となっている場所に根を下ろしている。 画像の場所ではヒカゲノカズラと混生しており、ヒカゲノカズラは斜面全体にわたって広範囲に生育しているが、 ミズスギは用水路の水面に近い斜面下部に帯状に群落をつくっていた。 画像では右隅にヒカゲノカズラが写っている。  (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
●湿生植物 ミズスギ
チダケサシ
Fig.29 草地に群生するチダケサシ
濃度脇の多湿の草地にチダケサシが群生し、花穂を風になびかせていた。 アカショウマと良く似ているが、花序の枝は分枝せず、小葉の先はアカショウマのように尾状に伸びない。 しかしながら、両種とも小葉の変異幅は広く、また葉面の光沢についてもあてにはならないので、花期に判断するのが確実である。 チダケサシとアカショウマが混生している場所はこれまでのところ見たことがない。 両種ともに生育環境は似ているが、どちらかというとチダケサシのほうがやや人里に近い場所に生育し、アカショウマのほうは山地の渓流に出現する傾向が強いように思う。 丹波地方では溜池畔ではヌマトラノオ、オトギリソウと出現することが多く、棚田の斜面や湿った草地ではノダケとともに見られることが多い。
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●湿生植物 チダケサシ  ●湿生植物 アカショウマ
ツリガネニンジン
Fig.30 開花しはじめたツリガネニンジン
8月に入ると各所でツリガネニンジンの開花が始まる。画像のものは少しフライング気味に7月下旬に開花していたもの。 ツリガネニンジンは秋の花という印象が強いが、この時期に開花が始まり、秋遅くまで開花が続く。 近縁のキキョウもこの時期に開花するが、開花期間は短く、秋ぐちには開花し終わっている。 ツリガネニンジンは葉や毛深さに変異が多く、画像のものは非常に毛が多く、茎や葉が白く見える個体だった。  (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
●関西の花 ツリガネニンジン
シデシャジン
Fig.31 シデシャジン
溜池に調査に向かう途上の農道脇の日当たりよい林縁でシデシャジンに出会った。 兵庫県RDBではAランクに位置付けら、県内に3ヶ所程しか自生地が知られていない種で、めったやたらと見れる種ではない。 ツリガネニンジンと近縁なだけに、その佇まいは良く似ているが、葉は互生し、花弁は細く裂けてその様子が神事に使われる紙垂(しで)を思わせるところからその名がついたとされる。 猛暑にあえぎながら調査を続けているのを気の毒に思い、山の神がご褒美を授けてくれたのであろう。  (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
●関西の花 シデシャジン
ナルコビエ
Fig.32 ナルコビエ
ナルコビエは農耕地周辺の草刈りが行き届いた草地や半裸地、畦などに生育するイネ科の植物で、花序の枝が1方向に向き、小穂の柄が多毛となり比較的判り易い種である。 神戸周辺や播磨地方の標本は多いが、丹波地方の標本は少なく、丹波では今年に入って初めて出会った。篠山市内では初めての記録となる。 これまで見かけた場所は、どこも草刈りの行き届いた溜池土堤や棚田の草地斜面ばかりで、先に紹介したコカモメヅルやカワラナデシコのように人為的に維持された草地環境に依存して生育する種であろう。
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●関西の花 ナルコビエ
アサマイチモンジ
Fig.33 アサマイチモンジ
山間の谷池のネザサのしげった土堤でアサマイチモンジが見られた。スイカズラを食草とし、西宮市内でも渓流畔の林縁でよく見かける種である。 良く似た種にイチモンジチョウがいるが、最近はフィールドではアサマイチモンジばかり見る機会があり、イチモンジチョウは見かけなくなってしまった。 ただ単に私が行くような場所はイチモンジチョウが好む環境ではないのかもしれないが、少し気になるところだ。  (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
ドロノキハムシ
Fig.34 ヤマナラシを食害するドロノキハムシ
溜池土堤ではしっかり草刈りされているような場所では、先駆植物であるヤマナラシの幼木が生育していることが度々ある。 このヤマナラシの新葉を食害する甲虫にドロノキハムシがおり、比較的普通に見かける。 ハムシのなかでは大きい部類に入り、長さは1cm程度で赤褐色の後翅がよく目立つ。 ドロノキは西日本の太平洋側には分布しないため、ドロノキハムシはごく近縁のヤマナラシを食樹としている。  (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)
タイコウチ
Fig.35 溜池で見られたタイコウチ
丹波地方では溜池や用水路内でミズカマキリとともによく見かける水生昆虫である。丹波地方では比較的水生昆虫は多いという印象がある。 谷池ではブラックバスやブルーギルなどの肉食外来魚が放流されていない場所であれば先ず間違いなく生育している。 ところで、最近はミズスマシの仲間をめっきり見かけなくなってしまった。西宮市内でもわずかに2ヶ所で生育しているのを確認したにすぎない。  (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。)


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