このページはトップページの 「水辺から、そして緑から…」 で紹介した記事のバックナンバーに、一部画像を追加し加筆したものです。 |
---------------------------------------------- 26th. Sep. 2010 ------------------------------------------ 秋の水辺と紛らわしいモノ達 |
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Fig.1 山間の植生豊富な溜池 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。) |
収穫の秋 時に暑さのぶり返しがあるものの、ようやく涼しくなって過ごしやすくなりました。 フィールドではすでに半数以上の水田が稲刈りを終えて水田雑草の観察も楽にできるようになりました。 9月は多忙な時期で、このフィールド・メモもなかなか更新できず、観察したことや画像が大量にたまってしまいます。 書きたいことは沢山あるが、切り詰めに切り詰めても39枚の画像が残ってしまい、記述に相当な時間を要しました。 気が付くと、生育状況を示す遠景の画像や、興味の中心となる単子葉植物が幅を利かせて、なんだか華のないトップページとなってしまい、慌てて末尾に花の画像を付け加えました。 したがって華のある画像から楽しみたい方はトップページの下の方からご覧下さい(笑)。 今月は宝塚の植物に詳しいMさんに、宝塚の溜池や湿地の核心部分を案内して頂く機会があり、数多くの稀少種を間近に観察することができました。 したがって今回は宝塚の植物が数多く登場します。 Mさんは宝塚の里山の保全活動にも積極的に参加されておられ、そのおかげで休耕田や溜池、湿地、棚田の畦などが非常に良い状態で維持されています。 観察会なども盛んにされているようです。 宝塚市は西宮市の隣にありながら、西宮市よりも面積は広く、北は三田市と猪名川町に接し、西宮市よりもはるかに豊かな植生が見られます。 このような多様性に富んだフィールドでご活躍されるMさんが羨ましくなりました。 Mさんには素晴らしい場所を案内していただき感謝いたします。 今回はこのほかに、紛らわしい草本や雑種という典型的なものから離れた、なかなか紹介されない種も掲載してみました。 カヤツリグサ科はフトイ属、ハリイ属、クロアブラガヤ属で雑種が出現することが多く、標本庫にも雑種と思われる標本が割と混じって入っており、 これらの草本はどのような種からなる雑種なのかなかなか区別が難しく、昨年からの課題となっています。 | |
Fig.2 丹波南部の水生植物の繁茂する溜池 兵庫県の丹波地方では植生の豊富な溜池は南部にかたよって分布している。 ここではジュンサイ、ヒシが浮葉植物群落を形成し、浮葉植物に水面が覆われていない場所ではイヌタヌキモが群生する。 溜池畔にはカンガレイ、ガマ、キショウブといった抽水植物が見られた。 丹波地方の南部では溜池ごとに出現する種の組み合わせが様々で、溜池めぐりをするには楽しい地域である。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。) ●浮葉植物 ジュンサイ ●浮葉植物 ヒシ ●浮葉植物 イヌタヌキモ ●抽水植物 カンガレイ ●抽水植物 ガマ ●湿生植物 キショウブ |
Fig.3 丹波北部の谷池 丹波地方では北に向うにつれて溜池の植生は貧相になっていく。 浮葉植物では比較的栄養状態の良い溜池でヒシが多産するが、自然度の高い山間の谷池などではわずかにホソバミズヒキモが生育する。 一方、沈水植物ではイトモの出現頻度が高まり、一部の溜池では水底全体がイトモに覆われている場所がある。 また沈水植物の見られない溜池ではミズユキノシタが水中に進出して、沈水植物の代償植生となっている場所が多い。 このような丹波北部の溜池では画像のように溜池畔にはイヌノヒゲ、ミズユキノシタ、ミズニラが群生することが多い。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。) ●浮葉植物 ヒシ ●浮葉植物 ホソバミズヒキモ ●沈水植物 イトモ ●湿生植物 ミズユキノシタ ●湿生植物 イヌノヒゲ ●湿生植物 ミズニラ |
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Fig.4 オグラノフサモ群落 Fig.1の溜池に生育しているもので花期が近づいて水中茎の先端から気中茎を生じ始めた集団である。付近の溜池の大半にオグラノフサモが群生している多産地域である。 このような場所を見ると兵庫県RDB Bランクに位置づけられていることが信じ難くなってくる。 同じBランクに位置付けられている近縁種のフサモでは、離れた場所で点々と見られ、一定地域にかたまって生育しているような場所は見られない。 この場所は西宮市内の小学校でビオトープを運営されているFさんに教えて頂いた。Fさんにはお礼申し上げます。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。) ●沈水植物 オグラノフサモ |
Fig.5 水路内で群生して開花中のオグラノフサモ Fig.1のあるオグラノフサモ多産地域には、堰き止められて止水となった水路にも見事な群落が見られた。 水路という場所柄、最初見たときは特定外来生物のオオフサモが連想されたが、雄花の葯が目立ちすぐにオグラノフサモだと判った。 水路周辺ではキセルアザミ、ムカゴニンジン、ヌマガヤ、キキョウ、サワヒヨドリ、ヌマトラノオなどが見られ、自然度の高い場所であった。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。) ●沈水植物 オグラノフサモ |
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Fig.6 イトモとミズユキノシタによる沈水植物群落 Fig.3の溜池内の様子である。この溜池ではイトモとミズユキノシタがかなり大きな規模のパッチ状の群落を作っていた。 溜池畔ではイヌノヒゲ群落、タチカモメヅル、それに丹波北部では新産となるサイコクヌカボの生育が確認できた。 しかし、この地域ではシカの食害が激しく、サイコクヌカボも齧られていた。 丹波地方の溜池では多くの場所で外来種のダンドボロギクの侵入が見られ、シカの不嗜好植物であるため急激に殖えつつあり、この溜池畔でも群生していた。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。) ●沈水植物 イトモ ●湿生植物 ミズユキノシタ |
Fig.7 溜池の水域を埋め尽くしたホッスモ 丹波地方中部の溜池で見られたもので、丹波地方の溜池でこれほど大量のホッスモが生育している場所は珍しい。 このようなホッスモの群落は丹波地方では溜池上部にかつて水田があり、現在は休耕田となっているような立地に見られる。 この溜池では沈水植物はホッスモのほかにエビモがわずかに生育している程度で、溜池畔にはガマ群落目立つほか、チゴザサ、ヒメホタルイ、ミズガヤツリ、アゼガヤツリなどが見られた。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。) ●沈水植物 ホッスモ |
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Fig.8 ヒシとヒメビシ 大きな草体はヒシ。ヒシよりもはるかに小型の草体がヒメビシである。 Mさんに案内して頂いた溜池に生育しているもので、ヒシは開花の真っ最中だったが、ヒメビシの開花期はすでに終り、淡緑色の未熟な果実を水面下に付けていた。 水中にはクロモとマツモが繁茂している。ここで見られたヒメビシは画像中の個体のみであった。 かつて溜池上部が水田であった頃はヒメビシが沢山見られたが、水田が畑作に転作されたため栄養塩類がより多く流入してヒシが旺盛となり、ヒメビシは絶滅寸前の状態であるという。 非常に残念な話しであるが、ヒメビシ保全のため畑を水田に戻せと言うわけにもいかないだろう。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。) ●浮葉植物 ヒシ |
Fig.9 ヒシ(左)とヒメビシ(右)の比較 ヒメビシと同サイズの浮葉をもつヒシを並べて撮影してみた。ヒメビシは成熟して明瞭なフロートがあるが、ヒシは成長途上でフロートがほとんど形成されていない。 ヒシは変異が多く、なかなか厄介な種であり、フロートの形状も様々となる。したがってこの画像はあまり参考とはならないかもしれない。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。) ●浮葉植物 ヒメビシ |
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Fig.10 ガガブタ群落 ガガブタは播磨地方の溜池では平野部から丘陵部にかけてよく見かけるが、阪神・摂津では自生地は少なく、宝塚では山間の自然度の高い溜池に生育していた。 3ヶ所の溜池で見られたが、もっとも個体数の多い溜池では浮葉が重なり合って半ば立ち上がりかけているものも見られた。 この溜池ではフラスコモsp.、フトヒルムシロ、アシカキなどが生育し、溜池土堤にはスズサイコ、コガンピ、キキョウが生育している。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。) ●浮葉植物 ガガブタ |
Fig.11 ジュンサイとノタヌキモの群落 ここもMさんに案内していただいた溜池で、土堤は草刈りが行き届いて、灌漑用溜池としてよく管理されている場所である。 ジュンサイの群落が良く発達し、浮葉植物は他にヒシとヒツジグサが見られた。 ノタヌキモはジュンサイ群落の外周を取り巻くように生育しており、イヌタヌキモも少量混じって開花していた。 年によってノタヌキモとイヌタヌキモの個体数の割合が変化するという。何が要因となってそのようなことが起こるのか興味深い話である。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。) ●浮葉植物 ジュンサイ ●浮遊植物 ノタヌキモ |
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Fig.12 繁茂する外来種エフクレタヌキモ 変わってこちらは西宮市内にあるエフクレタヌキモの繁殖でよく知られた溜池である。食虫植物の愛好家によって人為的に持ち込まれて定着したものである。 池にはコイもいるが食害を受けていないようで、年々繁茂する領域が増えつつある。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。) ●湿生植物 エフクレタヌキモ |
Fig.13 エフクレタヌキモ エフクレタヌキモは花茎の基部に5〜10本のフロートを持つ。これによって多少の風が吹こうが、波が起ころうが花茎は倒れることなく開花することができる。 花は大型で、結実もする。国産のタヌキモ類を見慣れた眼には、水面にひろげたフロートは異様に見える。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。) ●湿生植物 エフクレタヌキモ |
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Fig.14 苔むした倒木上で開花したサワギキョウ 西宮市内の半ば管理放棄されたような山中の溜池で見られた光景。 あまり管理されていないため倒木があちこちで倒れ込んでおり、苔むした倒木上にサワギキョウ、ヒメシロネ、モウセンゴケ、スゲ類などが生育し、キノコなども生えてちょっとした小世界が成立している。 今年は晴天日が続いたため、池の大半が干上がっており、満水の状態だとさらに美しい光景となっただろう。 画像中の苔の上の赤いものはモウセンゴケ、スゲ属植物はゴウソである。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。) ●湿生植物 サワギキョウ |
Fig.15 開花中のサワギキョウ サワギキョウの花は鮮やかな紫色で、ハチドリが飛んでいるかのような形をしており、沢山の花をつけた個体は非常に美しい。 幸いなことに西宮市の北部では多くの自生地が点在しており、この時期になると溜池を縁取るように沢山の株が開花してフィールドに出掛けるのが楽しくなる。 画像のものは溜池直下の水田脇に掘られた素掘りの排水路脇に生育しているもので、花茎に沢山の花を付けていて見事な眺めであった。 サワギキョウは雄性先熟で、画像上部は雄性期、下部の花は雌蕊が露出して雌性期を迎えている。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。) |
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Fig.16 オオミズゴケ群落中のタマコウガイゼキショウ タマコウガイゼキショウはヒロハノコウガイゼキショウの変種とされ、兵庫県内では主に阪神・摂津地方からの記録され、しかも自生地は局所的で、RDBには記載されていないが比較的稀な種である。 その生態は特異的で、一度花茎を伸ばして開花した後、花茎は地表に倒伏して各節から側芽を生じて、側芽がさらに花茎をつくるとともに、最初の花茎の花序から多数のクローン株を芽生する。 花茎が枯れると、側芽は発根して独立した株となる。倒伏した花茎は寒くなるまで、次々に側芽を生じ花茎を伸ばし、それを繰り返す。 また花序に生じたクローン株は花序に固着しており、花茎が枯れ切った後に越冬し、翌年に発根して成長する。 従って自生地では生育に適した場所である程度の面積を優占していることが多い。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。) ●湿生植物 タマコウガイゼキショウ |
Fig.17 溜池畔のヒロハノコウガイゼキショウ 先に紹介したタマコウガイゼキショウの母種であるが、その生態は全く異なり、生育環境も異なる。ヒロハノコウガイゼキショウは山間の休耕田で普通に見られる。 タマコウガイゼキショウのように匍匐的に広がってゆくことはなく、株立ちになって生育していることが多い。 稀に花序からの芽生が見られるが、タマコウガイゼキショウほど顕著ではない。 タマコウガイゼキショウは比較的自然度の高い貧栄養な場所で見られるが、ヒロハノコウガイゼキショウは休耕田、上部に水田のある溜池畔、山間の水田の畦など多少とも栄養条件のよい場所で生育している。 低地の同一環境下ではヒロハノコウガイゼキショウに代わってコウガイゼキショウがよく眼につくようになる。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。) ●湿生植物 ヒロハノコウガイゼキショウ |
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Fig.18 モウコガマ Mさんが宝塚市で見つけた個体群である。今回、ヒメビシとともに宝塚市の溜池や湿地を案内していただく機縁となった種である。 ここでは溜池畔に植物園の展示のごとくコガマとともに生育しており、両種を比較するのに最適な環境であった。 関東地方で見られるモウコガマはいずれも兵庫県に生育しているものが、他の水生植物とともに持ち込まれたため基本的にモウカガマは外来種という認識がなされている。 しかし、兵庫県下に見られるものはどこから持ち込まれたものなのであろうか。 宝塚の自然度の高い溜池で眼にしたモウコガマを見ると、にわかには外来種だと納得できないものがある。 ちなみに、この溜池ではイヌノハナヒゲ、ヌマガヤ、イヌノヒゲ類が見られ、上部にはサワギキョウ、アギナシなどが生育する湿地が連続している。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。) ●抽水植物 モウコガマ |
Fig.19 ヒメサルダヒコ? コシロネの母種であるが、私の中では今ひとつコシロネとのはっきりとした境界が判らない種である。 丹波地方では画像ように地表を這って広がる草体が、シカの食害をまぬかれて溜池畔や湿地で見られることが多い。 図鑑の記述では茎が盛んに分枝し、草体は小型であるとの記述があるが、分枝の程度や草体の大小の区別は非常に相対的であり、 そのような明瞭な基準のない相対的な特徴を捉えるにはそれなりの数の集団を観察して知見を積む必要があり、熟達すると草体の雰囲気で判ってしまうものなのであろうが、 私にはまだそこまでの見識はない。 今年の夏、神奈川の湘南さんにエゾシロネの生体を頂く機会があり、これを機にコシロネと認識している草体、ヒメサルダヒコと思われる草体、エゾシロネを栽培して草体を精査し、その違いをはっきりさせることができればと考えている。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。) ●湿生植物 コシロネ |
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Fig.20 カガシラ カガシラは兵庫県下でも非常に稀な草本であり、兵庫県RDBでは現状Bランク種となっているが、実質的にはAランク種とされるべき種であると考えている。 生育環境は背丈の低い湿生植物が生育する地下水位の高い湿地や半裸地で、このような環境は近年イノシシをはじめとした野生動物の採餌行動によって撹乱され、 結実前に自生地が荒らされてしまうことが多い。 昨年はここでは生育が確認できず、今年は埋土種子が発芽したものか、溜池畔の水際の撹乱を受けない場所でようやく1株が生育しているのを確認できた。 このような湿地環境は人為的な開発とともに野生動物による撹乱も無視できない状況となっており、シソクサ、マルバノサワトウガラシ、スズメノハコベといったBランク種とは 質的に全く異なった絶滅が危惧される種であり、水田の低農薬化による恩恵を受けることも無く減少してゆく種である。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。) ●湿生植物 カガシラ |
Fig.21 メアゼテンツキ カガシラの見られた溜池に隣接したやや富栄養な溜池が、このところの晴天続きで干上がりかけていた。 この溜池はこれまで干上がっているのを見たことが無く、露出した池底に小さな草が沢山生えているのが見えたので降り立ってみると、 メアゼテンツキが広い範囲にわたって群生していた。 メアゼテンツキは主に干上がった池底に現われる小型のカヤツリグサ科の草本で、兵庫県下では比較的よく見られる種である。 溜池が満水状態のときは水底で種子が休眠しており、干上がるとようやく出芽して成長する。 いつも満水状態の溜池なのに、改修工事などで水抜きされて池底が露出すると忽然と姿を現すので、かなり長期間種子で休眠することが可能なのであろう。 こういったものには他にアオテンツキ、オオシロガヤツリ、ヒメアオガヤツリなどがあり、これらの種は播磨地方の溜池でよく見られる。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。) ●湿生植物 メアゼテンツキ |
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Fig.22 溜池跡に成立した湿地 丹波南部で新たに見つけた溜池跡で、周囲は開けて日当たりのよい湿地となっていた。 付近は20年ほど前に圃場整備がなされ、それ以降溜池は灌漑用に使用されなくなり、15年程前に池の底から漏水して序々に今の姿となったという。 溜池跡は山際にあり、手前側が土堤で土堤側に向ってかつての池底が緩やかに傾斜している。傾斜の上部では湧水が湧出して斜面には表水が見られる。 湧水が見られる周辺は湧水によって表土が流されたのか基層が露出しており、表土の少ない場所でも生育できるミミカキグサ、モウセンゴケ、ヒメカリマタガヤ、 イトイヌノヒゲ、シロイヌノヒゲが密生し、多年生湿生植物の幼苗、アオコウガイゼキショウ、ハリイが点在する。 その周囲の多少とも表土が見られる場所にはヤマイ、チゴザサが密生し、土堤手前や山際の腐植土がある場所ではキセルアザミ、サワヒヨドリ、サワギキョウ、 イヌシカクイ、ヒメシダ、ヤマラッキョウ、コシンジュガヤ、イヌノハナヒゲ、ワレモコウ、アイバソウ、ノハナショウブ、ハンノキの幼木などの生育が見られた。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。) |
Fig.23 溜池跡地の小型の湿生植物群落 Fig.22画像の中央付近を近づいて撮影したもの。 密生する線形の葉を持つイネ科の草本はヒメカリマタガヤで、被植率は溜池跡地中央付近では約60%と最も高く、 以降ミミカキグサ、イトイヌノヒゲ、矮小化したシロイヌノヒゲ、モウセンゴケと続く。 画像ではキセルアザミの幼苗が見えるが、表土は非常に浅く、なかなか成長しないものと考えられる。 ヒメカリマタガヤは新しく切り開かれた湧水のある裸地の法面や、湧水のある崩壊地などで群生し、湿地の遷移の初期に現われる種であり、 この溜池が湿地化してまだそれほど年月を経ていないことを現している。 この溜池跡のすぐ近くには、もう1ヵ所樹林に囲まれた谷池が溜池跡になりつつあり、そこでは表土の少ない場所ではヒメカリマタガヤはみられず、 モウセンゴケ、イトイヌノハナヒゲ、コケオトギリ、ホザキノミミカキグサなどの生育がみられ、谷から流れ込んだ細流周辺には腐植土がよく溜まって、ムカゴニンジン、チダケサシ、ヌマトラノオ、 ゴウソ、ヤマテキリスゲ、オタルスゲ、サトヤマハリスゲ、イヌノハナヒゲ、コマツカサススキ、アイバソウ、シロイヌノヒゲ、イヌノヒゲなどの湿生植物が見られ、植生がかなり異なる。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。) ●湿生植物 ヒメカリマタガヤ ●湿生植物 ミミカキグサ ●湿生植物 イトイヌノヒゲ ●湿生植物 シロイヌノヒゲ ●湿生植物 モウセンゴケ |
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Fig.24 溜池畔のシロイヌノヒゲ群落 西宮市内北部の溜池畔ではシロイヌノヒゲ群落の発達する場所が多い。今年は夏場に降雨が少なかったため、多くの溜池で減水しており、露出した池底にホシクサ科植物、 サワトウガラシ、ミミカキグサの生育がよく観察できる。 シロイヌノヒゲは溜池畔で生育するものは大型化することが多く、草丈40cm程度に生育しているものも多い。 この溜池畔ではシロイヌノヒゲのほか、ツクシクロイヌノヒゲ、イヌノヒゲ、そして次に紹介する不明種の生育も見られる。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。) ●湿生植物 シロイヌノヒゲ |
Fig.25 イヌノヒゲsp. 頭花は黒藍色を帯びるが、総苞片は頭花よりも長く、頭花の大きさはツクシクロイヌノヒゲよりも小型の草本である。 葉幅はツクシクロイヌノヒゲ程度なので、葉幅のより狭いヤマトホシクサではない。 3数性。花床には毛がない。仏炎苞状となった雄花の萼は黒藍色を帯び、先は浅3裂し、先端に白色棍棒状の毛が生える。 雄花弁は下部が筒状に合着し、上部で3裂、先端内側には黒腺がある。葯は黒色円形。 雌花の萼は多少褐色を帯びた白色薄膜質、内側に長白毛が生える。雌花の花弁は白色海綿質で、先端内側には黒腺があり、花弁内側には長白毛が生える。 このほか種子を調べる必要があるが、まだ未熟でもうしばらく待たねばならない。 ツクシクロイヌノヒゲの変異個体にしては頭花が小さく、雄萼裂片に白色棍棒状毛があり、雌花弁内側に長白毛が見られることから、 ツクシクロイヌノヒゲとイヌノヒゲとの種間雑種と思われるがどうであろうか。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。) ●湿生植物 ツクシクロイヌノヒゲ ●湿生植物 イヌノヒゲ |
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Fig.26 干上がりはじめた溜池畔のシズイほか Fig.24のシロイヌノヒゲ群落のある干上がりつつある溜池畔の様子である。この溜池では兵庫県RDB Bランクとされるシズイが抽水状態で群落をつくっている。 ここのシズイは池が干上がって陸生状態となると、つぎつぎに花序を出し始めてくる。 抽水状態でも花序を出すものも見られるが、陸生となったものと較べると非常に少ない。 ここではシズイとともにハリコウガイゼキショウが抽水状態で生育する。シロイヌノヒゲが生育するような場所ではヌマガヤやホタルイが見られ、ホタルイは苞葉基部から芽生するものが多い。 さらに陸地側では満水時に水際となる部分にオオミズゴケ群落が池の縁を取り巻くように発達し、群落中にサワギキョウ、ヒメゴウソ、ヤチカワズスゲ、イヌノハナヒゲ、ミズギボウシなどが生育している。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。) ●抽水植物 シズイ |
Fig.27 タイワンヤマイ Fig.24〜26の溜池直下の水田がイノシシに荒らされて一時的に休耕田となっており、そこにタイワンヤマイが生育していた。 タイワンヤマイは丹波地方の水田や休耕田でよく見かける種であるが、これまで西宮市内では眼にしたことはなく、市内新産種である。 ここの集団はよく見かける長楕円状披針形の小穂ではなく、やや狭卵形に近いのでイヌホタルイを疑ったが、苞葉は長く、茎には肋が発達し、刺針状花被片は痩果よりも長いためタイワンヤマイと断定した。 タイワンヤマイは東北地方では水田の強害草となっているが、西日本では比較的自生地の少ない種である。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。) ●湿生植物 タイワンヤマイ |
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Fig.28 クロアブラガヤ属種間雑種その1 これと全く同一の特徴を持ったラベルに種名が明記されていない標本を以前に見たことがあり、小穂は不稔のようでありクロアブラガヤ属の種間雑種であるということは判ったが、いったいどの種の組み合わせだろうかと非常に気になっていた。 今回、Mさんに案内していただき、宝塚の休耕田でようやく自生状態で生育しているものを見ることができた。 気になる両親は付近を調べたところ、コマツカサススキとアブラガヤがあり、両種の推定雑種とすることができた。 コマツカサススキとアブラガヤの雑種はコマツカサアブラガヤとして名称だけが独り歩きしており、その実態をようやく掴むことができた。 Mさん、ありがとう! (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。) ●湿生植物 コマツカサススキ ●湿生植物 アブラガヤ |
Fig.29 クロアブラガヤ属種間雑種その2 こちらは丹波地方の溜池跡の湿地で見られたもので、昨年見つけていたが、時期が早く、不稔かどうかの確認ができなかった。 今年の9月半ばに入ってから現地で確認したところ、小穂は長く伸びて、いずれも不稔であった。 ここではコマツカサススキとアイバソウが混生しており、両種の推定雑種とすることができる。 コマツカサススキとアイバソウの種間雑種はまだ記載されておらず、和名もつけられていない。 憶えやすい名称としてアイアイバソウを仮称しておきたい。 同様な草体を神戸市の湿地でも見つけており、これも近々確認しに行く予定である。 確認事例を増やして、早く両種の種間雑種と確定したい。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。) ●湿生植物 コマツカサススキ ●湿生植物 アイバソウ |
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Fig.29 シデアブラガヤ Fig.28のコマツカサアブラガヤの出現によって、クロアブラガヤ属の種間雑種を探すクセがついてしまった。 その過程でアブラガヤとアイバソウが混生する三田市の湿地に、種間雑種と思われる小穂の細い個体をみつけた。 持ち帰った標本を精査すると、不稔ではなく痩果は正常に結実しているものだった。 これまで、シデアブラガヤなるものは存在せず、クロアブラガヤ属の種間雑種のうちのどれかであろうと思っていたが、予想は外れた。 アブラガヤよりも小穂はかなり細く、花序枝の先にはふつう1〜2個の小穂を付ける。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。) ●湿生植物 シデアブラガヤ |
Fig.30 休耕田に密生するサンカクイ 丹波中部の溜池直下の休耕田で、溜池寄りの場所で広範囲にわたって密な群落を形成していた。 密生しているためか、河川敷や溜池畔で見かけるものよりも背丈は小さく、高さ50cm程度であった。 そもそも休耕田で群生しているのに出会うのもはじめてである。 サンカクイ群落は溜池から遠く離れるほど密度は薄くなり、チゴザサ、ヌメリグサ、イグサ、ヤマイに取って代わられ、そこではオニガヤツリの大きな株が点在していた。 HP「日本の水生植物」の利助@半夏堂さんによると茨城県で確認したサンカクイの茎は鋭3稜形となり、面は窪むという。 こちらのものは茎が鈍3稜形で、面は膨らみ、茨城と兵庫とでは形態的特徴が異なるようである。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。) ●湿生植物 サンカクイ |
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Fig.31 ミズワラビ群落 丹波地方の溜池の脇にある休耕田で群生していた。ミズワラビは兵庫県RDB Cランクに位置付けられているが、丹波地方の特に氷上低地と呼ばれる地域では、 水田、休耕田、素掘りの水路内などで普通に見られ、ごくありふれた種である。 しかし、南下して丹波山地を越えて摂津・阪神地方に入ると極端に自生地が少なくなり、西宮市内では数年前にあった自生地が宅地化されて絶滅してしまった。 RDBに指定されている種でも、このように地域的に多産する種も多く、丹波地方に多いイトモ、タウコギ、コカモメヅルなどもそのような例である。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。) ●湿生植物 ミズワラビ |
Fig.32 休耕田の水田雑草 Fig.32の休耕田と同じ場所である。画像ではキクモ、トキンソウ、ミゾハコベ、ヒデリコといった一般的な水田雑草のほかニシノオオアカウキクサが見られる。 溜池の水面で生育するニシノオオアカウキクサはこの時期には枯れ切ってしまい姿が見られないことが多いが、地表に生育するものはこの時期でも見ることができる。 当然のことながらまだ草体は紅葉していない。草体が斜上分枝するのが特徴である。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。) |
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Fig.33 シソクサ Mさんに案内していただいた宝塚の休耕田で生育しているもの。 この休耕田はMさんのグループが管理されており、丁寧な除草作業によって遷移が食い止められており、1年生水田雑草が豊富に見られた。 ここではシソクサとともにサワトウガラシ、アゼトウガラシ、キカシグサ、エダウチスズメノトウガラシ、トキンソウ、ヒデリコ、ヒメヒラテンツキ、コナギなどの水田雑草が 一通り見ることができる。 シソクサは西宮市内では宅地化によって絶えて久しく、エダウチスズメノトウガラシの生育は確認できていない。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。) ●湿生植物 シソクサ |
Fig.34 休耕田のミズオオバコ Fig.33と同じ休耕田の湛水部分で生育しているもの。湛水部分のあちらこちらに点在しており、風情ある光景となっていた。 水中にはトリゲモ類が生育しており、持ち帰って調べてみると、葉鞘口部には耳状の突起はなく、種子表面には正方形に近い隆起する格子紋があり、ヒロハトリゲモであった。 ヒロハトリゲモは生育環境の減少から兵庫県RDB CランクからBランクへと格上げされた稀少種である。 ミズオオバコとヒロハトリゲモについては西宮市内でも自生している場所が数ヶ所ある。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。) ●湿生植物 ミズオオバコ ●湿生植物 ヒロハトリゲモ |
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Fig.35 刈り取り後の水田に見られたスズメノハコベ 丹波地方で新たに発見した、規模の大きな自生地に生育しているもの。刈り取り後の約300uの水田のほぼ全面にわたってキクモ、ミゾカクシ、ヒナガヤツリとともに密生している。 ほとんどの個体は撒き敷かれた稲ワラの下で徒長して生育しており、多くの個体が開花・結実していた。 画像のものは稲ワラの被っていない水田の縁に見られたもので、よく分枝して地表を這って広がっているもので、まだ開花するまでに到っていない個体である。 この水田ではスズメノハコベの他、ミズマツバ、シソクサ、ホシクサ、ミズワラビなど稀少種とされる水田雑草が生育していた。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。) ●湿生植物 スズメノハコベ |
Fig.36 エダウチスズメノトウガラシの紛らわしい個体 丹波地方のエダウチスズメノトウガラシの生育する水田で稀に見られる、茎は直立して、基部で分枝せず、葉幅が広く大型となるエダウチスズメノトウガラシの変異個体である。 葉は長さ3cm前後となり、形だけみればヒロハスズメノトウガラシを思わせる。 画像のものは日没近くに見つけたもので、花はしおれかけて左右に広がった雄蕊が飛び出しヒロハスズメノトウガラシのように見えた。 しかし、花柄(果柄)よりも短い苞葉は見当たらず、どちらかといえばエダウチスズメノトウガラシであろうと思っている。 このような変異個体は現在のところ丹波地方の2ヶ所の水田で確認している。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。) ●湿生植物 エダウチスズメノトウガラシ ●湿生植物 ヒロハスズメノトウガラシ |
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Fig.37 群生するアイナエ Mさんに見せていただいたアイナエの群生地。なんと、ここでは乾いた墓地に群生していた。 アイナエのクローズアップの画像はweb上に多いが、ものが小さいだけに全体的な生育状況をとらえた画像は少ない。 そこで、アイナエがなんとか解る程度に引いた位置から撮影してみた。 画像中の赤く色づいた小さな草体全てがアイナエで何千株あるのか見当もつかないほど半裸地に群生している。 アイナエといえば湿地というより、湿地や溜池周辺の半裸地に生えているという印象があるが、ここには周囲に湿地の「し」の字もない。 立地としては台地状の低い尾根を切り開いて平坦地にしたようなところである。 群生に圧倒され、どんな土壌に生えているのか確認するのを忘れてしまったが、恐らく粘土状の土質なのではないかと思う。 アイナエが生育するような場所ではちょっと変わった植物が出てくることが多い。 播磨で見た自生地ではコモウセンゴケ、イヌセンブリ、イトハナビテンツキ、ミカワシンジュガヤなどが現われたが、ここでは次に紹介するウシクサが出てきた。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。) ●湿生植物 アイナエ |
Fig.38 ウシクサ ウシクサは比較的珍しいイネ科ウシクサ属の草本で、国内では1属1種しかなく同定で苦しむようなことはない。 比較的近い種では外来種で各所にはびこっているメリケンカルカヤがある。 過去に西宮市内で記録があるので、イガクサとともに市内のあちこちを調べた。 両種は良く似た環境に生育するのではないかと考えたからだが、イガクサは見つかったもののウシクサは結局発見できなかった。 この場所のように乾いた場所に生育しているのであれば、全く見当違いの場所を探していたことになる。 図鑑にはアイナエもウシクサも湿地に生育するとなっており、両種が群生するこの墓地はとても不思議な場所で、こんな場所で出会えるとは思ってもみなかった。 Mさんも、宝塚市では初記録であると仰っていた。 ここでは他にスミレ、チチコグサ、ハハコグサ、コニシキソウ、カタバミ、ヒメジョオン、メヒシバなど路傍によく生育する種が見られた。 画像の個体はまだ花序が出始めたばかりのもの。ウシクサは秋の終り近くには美しく紅葉するようなので、紅葉の時期にもう一度訪れたい。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。) ●湿生植物 ウシクサ |
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Fig.39 里山の野草のお花畑 宝塚の里山の畦の脇に広がる野草のお花畑。ミソハギ、サワヒヨドリ、サワシロギク、ヌマトラノオ、アキノタムラソウ、ノギランなど里山でよく見かける花々であるが、 地主の方が選択的に草刈りして草地をこのような状態に維持しているのだという。 付近はもともと二次的自然度の高い場所であるが、こういった管理が為されることにより里山の稀少な植物が数多く残っている。 画像中に右から倒れこんでいるのはノハナショウブで、果実を形成しつつあった。 画像下端の草に覆われた素掘り水路内にはウキゴケと水田型イヌタヌキモが生育している。 近くの溜池の土堤も程よく管理され、カキラン、オケラ、オミナエシ、コガンピ、キキョウ、スズサイコ、ミズギボウシ、アイナエ、モウセンゴケなどが生育していた。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。) ●湿生植物 ミソハギ ●湿生植物 サワヒヨドリ ●湿生植物 サワシロギク ●湿生植物 ヌマトラノオ ●湿生植物 ノギラン ●関西の花 アキノタムラソウ |
Fig.40 宝塚市新産ハタベカンガレイ Mさんに溜池や湿地などの貴重な場所を朝から沢山案内して頂いたが、最後にまだ時間が余っていたので、オマケとして連れて行って頂いた雑木林の奥にある小さな溜池に生育していたもの。 よく見ると水中や水面に沈水葉が見えている。非常に怪しい。早速小穂を手にとってルーペで見てみると柱頭はやはり2岐しており、Mさんにハタベカンガレイであると告げた。 改めて周囲をじっくり観察すると、倒れこんだ茎からは盛んに芽生しているのが確認できた。 以前から宝塚市には自生地があるはずだと予測していたが、最後の最後で出現するとは思いもよらなかった。 この発見にはMさんも喜ばれ、朝から案内して頂いたことに対する、多少の御恩返しができたかと思う。 これ以降、Mさんはさらに数ヶ所のハタベカンガレイの自生地を発見され、近く植物誌研究会の会報に報告されるはずである。 この溜池の水深は渇水期にあって減水しており、三田市でハタベカンガレイが見られる減水しない溜池とは様相が異なっていた。 池内にはフトヒルムシロのほか、イトモが見られ、Mさんによると昨年はヤナギスブタも生育していたという。 ハタベカンガレイとイトモ、ヤナギスブタはこれまでに見られなかった組み合わせである。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。) ●抽水植物 ハタベカンガレイ |
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Fig.41 タムラソウの花 今年もフィールドでタムラソウの花が咲き始めた。兵庫県下では中北部に多く見られ、西宮市内には生育しないが、この花を見ると秋が来たという気分になる。 タムラソウは県下では比較的自然度の高い棚田の土手や草地に生育し、適度に湿った草原環境が比較的よく保たれている場所に見られる。 草地が管理放棄されて遷移が進むと他の草原性植物とともに消滅してしまう。 タムラソウが生育する場所では草原性植物とともに湿生植物も現われる。 三田市の自生地ではタムラソウとともにオトコゼリ、カキラン、ノハナショウブ、イガタツナミ、ワレモコウ、リンドウ、ショウジョウバカマ、マツバスゲなどが見られ、 丹波地方ではムカゴニンジン、オミナエシ、ウシノシッペイ、コシンジュガヤ、ヤマジノホトトギス、リンドウ、サワオトギリ、ツリフネソウ、ノダケなどが見られる。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。) ●湿生植物 タムラソウ |
Fig.42 ツルリンドウが開花 西宮市内の溜池畔でツルリンドウが開花していた。 当地では秋に開花するリンドウの仲間のうちで最も早く開花する種で、雑木林の林床から林縁、山間の草地、溜池畔、湿地などどこにでも現われる。 湿地や溜池畔ではオオミズゴケ群落中につる状の茎を半ば埋没させながら這うように生育していることが多い。 花は白味が強いが、中には青紫色がよく出る個体もある。画像のものは中間あたりといったところか。 雄性先熟で開花している2個の花のうち、右側の花は花柱が割れて柱頭が反り返りはじめており、雄性期から雌性期の途上のものである。 左側の花は恐らく受粉が完了した花で、花糸は完全に脱落して見えない。 果実は楕円形で赤紫色となり、晩秋の山野でよく目立つ。果実が熟しても花冠は枯れて残っていることが多い。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。) ●関西の花 ツルリンドウ |
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Fig.43 カラスノゴマの花 丹波地方の山間棚田の農道脇にカラスノゴマが開花していた。 一昨年はこの場所には見られず、昨年から見られ、今年は周囲に個体が増えていた。 『神奈川県植物誌 2001』には「道ばた、空地などに生え、生育地は移動している」とあり、ナス科の一部の植物のように、 長期間生育していると「いや地」を生じて生育できなくなるのかもしれない。 そうであるなら自生地は一定しないため、探しにいっても出会えるものではなく、偶然の出会いに期待する種ということになる。 花はうつむき加減で、雌蕊よりも長い仮雄蕊が5本あり、その外側に5〜15本の雄蕊がある。 仮雄蕊は毛状の突起が多く、雄蕊の葯から放出された花粉を保持するものと推測されている。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。) ●関西の花 カラスノゴマ |
Fig.44 ネナシカズラの花 溜池畔のフジやクロモジに絡み付いてネナシカズラが開花していた。アメリカネナシカズラを見慣れた眼には新鮮で、妖艶に映る。 植物体は葉が退化して葉緑体がほとんどなく白色で、茎に紫褐色の斑点があるのみで、全ての栄養分を奇主に依存している。 夏から秋にかけて茎から穂状花序を生じて白い小さな花を沢山つけるが、拡大してみるとなかなか美しいものである。 そういえば植物画家のAさんがアメリカネナシカズラを見つけて、「ネナシカズラ」という言葉が咄嗟には出てこなかったのか、「アメリカラーメン」と言ったのを想い出した。 ネナシカズラが他物に巻き付く様子はまさに縮れ麺のようで、最初は爆笑だったが、後からその例えに関心したものだった。 (画像をクリックすると拡大画像がご覧頂けます。) |